拉致被害者奪還作戦の夢幻…半島有事で絶望する国家

有事勃発で大混乱に陥る朝鮮半島から、拉致被害者を救出できるのか…作戦行動の前に立ちはだかる憲法の巨壁。奪還が叶わなかった時、我が国はもう一つの敗戦国となる。
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DMZを越えて南侵した北鮮軍をソウルの北で迎え撃つ。米軍基地から発進した戦闘機が制空権を確保した後、北の前線施設などを一斉空爆。東西両岸で大規模上陸作戦を決行し、平壌を制圧する。

米南連合軍による対北「作戦計画5027」のアウトラインは、このようなものだ。細部では多様な状況変化を見越しているのだろうが、破竹の進撃を前提にしたイケイケの内容には、戸惑うしかない。
▽ 「作戦計画5027」の進軍ルート
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4月3日、この「作戦計画5027」がハッキングで流出したことが明らかになった。同計画は2年毎に改定されるとは言え、ベースは70年代の作成。「最高機密の流出」と大騒ぎする事態なのか、微妙である。

「5027」は90年代の第1次核クライシスで注目を浴びた。親北勢力は、米国による“北侵略政策”と色めき立ったが、米軍が平時から準備している作戦シミュレーションの一つでしかなかった。
▽北揚陸想定の米南合同訓練4月2日(共同)
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寧辺の核施設をピンポイント爆撃する「作戦計画5026」に、北幹部の資金源を絶つなど謀略工作中心の「5030」。更に北ミサイル群に先制打撃を加え、全面戦争を想定した「5015」も存在する。

「作戦計画5015」には南鮮軍による事前のミサイル破壊「キルチェーン」も含まれるとされた。だが、南鮮国防部が4月14日に発表した中期国防計画は、ある意味ショッキングな内容だった。
▽「5027」と「5015」比較(ハンギョレ)
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北の核・ミサイル施設を粉砕するシステムの完成を「2020年序盤」に前倒しすると言うのだ。つまり「キルチェーン」は掛け声だけで、偵察衛星を利用したシステムの構築も来年以降…

本来なら核搭載弾道ミサイルの発射は、南鮮にとって危急存亡の非常事態。米国に頼らず、南鮮軍が準備し、率先する軍事行動だ。しかし、先制打撃を行う準備も装備も怠っていた。
▽米軍シーホークで遊ぶ南鮮軍幹部’16年(レコードチャイナ)
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金正恩への牽制を繰り返す中、トランプ大統領が南との連携に触れないことには理由があったのだ。米国の「単独行動」宣言よりも、南鮮軍の能天気ぶりに驚く。

今年のGW期間中もその後も、世界で最もリスキーな都市は平壌ではなく、ソウルだ。

【絶体絶命都市ソウルの命運】

「朝鮮半島で在留邦人の保護や退避が必要になった場合を想定し、常日頃から必要な準備、検討を行い、いかなる事態にも対応できるよう万全な態勢を取っている」

菅官房長官は4月12日の定例会見で、そう語った。前日に外務省が発表した注意喚起のスポット情報に絡んだ発言だが、日本政府は4月上旬にも異例の“警告”を発していた。

「邦人保護に万全を期するとの観点を踏まえたものであります」
▽大使帰任発表する岸田外相4月3日(産経)
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駐南大使らの帰任発表で、岸田外相は、理由の一つに邦人保護を挙げた。腐れ像撤去で1ミリも進展がない中、体裁を取り繕う為の言い訳に聞こえるが、半島有事を視野に入れた外相発言は重要である。

呆れたのは、この大使帰任のタイミングに南鮮側が無頓着なことだ。一部のネットメディアが、理由の一つに「日本人救出」があったと指摘したのは、岸田発言の1週間後だった。
▽ソウルに到着した長嶺大使4月4日(時事)
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参照:WoW Korea4月10日『日本大使の韓国帰任は「有事の際、日本人救出が目的」と報道』

鈍感なのか、無知なのか…半島有事の可能性が94年以降で最も高まる中でも、ソウルで緊急退避訓練は行われず、市民が疎開する動きもない。逆に南鮮政府とメディアは「危機説」の払拭に躍起だ。

第1次核クライシスの際、ビル・クリントンは「作戦計画5026」の発動を直前に止めた。北の反撃でソウルを中心に民間人100万人規模の犠牲者が出るとのリポートを受け、怯んだとされる。

「戦争になれば、ソウルは火の海になる」
▽射程200㎞の新型大口径放射砲(聯合)
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94年3月の南北実務者協議で北側は、そう警告していた。寧辺空爆直後のソウル報復攻撃は避けられない。 DMZの北に集中配備される長射程の砲門が一斉に火を噴く。

それから23年が経ち、北の短距離ミサイルも進化したが、南鮮は有効な防衛装備を整えていない。危険回避の遷都論も立ち消え、首都機能は休戦ラインから僅か50㎞の距離に置かれたままだ。
▽軍事パレード観閲する3代目4月15日(KCNA)
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金正恩が民間人を狙うハズがないとでも信じているのか…未だ親北政治家が大統領レースで優勢な国である。北の脅威を軽視するナゾの信仰は、高級官僚からの辺境の国民にまで広がっている。

有事の際、ソウル周辺の在留邦人や旅行者に被害が発生することは確実で、日本政府の危機感は妥当だ。だが、国家を挙げて守るべき自国民とは、この期に及んで南鮮ツアーを楽しむ旅行者達なのか?

【拉致被害者の「竹林はるか遠く」】

「有事の際には拉致被害者の救出及び安全確保にあらゆる手立てを尽くして貰いたい」

埼玉県の上田清司知事が会長を務める「拉致被害者を救出する知事の会」は4月14日、加藤勝信拉致問題担当相と対面。切迫した半島情勢を受けて取りまとめた緊急要請を提出した。
▽要請文提出する上田知事4月14日(JNN)
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「もし有事となれば、拉致被害者に危険が及ぶかも知れない」

拉致被害者家族は、危機感を募らせる。米軍によるサージカル・ストライクの直後、北朝鮮全域が狂騒状態に陥る可能性が高い。監視機構の軛から脱した北住民は無秩序に動き出す。

大規模な国外退避が顕在化する前に、住民は生活物資の確保に走り、まず食料庫を狙う。北朝鮮兵に混乱を収拾する能力もなく、住民と共に争奪戦に参加。暴動が各地で発生するのだ。
▽支那国境地帯の北監視兵団4月17日(ロイター)
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拉致被害者にとって生命の危機が差し迫る状況である。拉致被害者の多くは、工作機関の日本語教師や翻訳員など北政府の庇護を受けて暮らす。特権階級として叛乱住民の襲撃対象となる危険性も高い。

その中で拉致被害者の安全をどう確保し、奪還するのか…急務にして最大級の課題だ。安倍首相は4月12
日、自民党・拉致問題対策本部の山谷えり子議員と面会した際、こう述べたという。

「様々な事態が起こった際には、拉致被害者の救出に向けて米国側の協力を要請している」
▽山谷議員と面会する安倍首相4月12日(産経)
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血の気がひくような発言だ。やり取りの詳細は不明だが、拉致被害者救出を米軍にオーダーすることが現実にあるのか。陸自CRF特殊作戦群の荒谷卓初代群長は3年前のシンポジウムで、こう明言していた。

「米国が日本人の拉致被害者を救出するという技術的な行為を取ることは、根本的に有り得ない。議論することさえ笑い話になる」
▽見解を示す荒谷元群長H26年12月(ch桜)
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自国民の救出は国家の責務で、他国に丸投げすることは許されない。自衛隊による在外邦人の保護・移送は一昨年に成立した平和安全法で強化された。だが、拉致被害者救出のハードルは高い。

現状での自衛隊機派遣は、受け入れ側となる北朝鮮政府か暫定統治機構の同意が必要。加えて、救出ポイントが戦闘地域に該当しないことなどが条件となる。
▽法改正後の在外邦人保護(防衛白書)
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安倍首相が示した「米に協力要請」は、唯一とも言える現実的な選択肢だったのだ。遺憾である。「ついに自主憲法制定は間に合わなかった」と嘆くしかないのか…

【奪還失敗なら敗戦国の汚名】

「自衛隊による拉致被害者の救出は、陸海の特殊部隊を使えば可能。虎の子の部隊を出せば、簡単な部類に入る」

予備役ブルーリボンの会幹事長で、海自特殊部隊=SBU元隊長の伊藤祐靖氏は、そう断言する。最精鋭部隊を投入すれば、拉致被害者の奪還作戦は決して難しくないという。

机上の空論ではない。予備役ブルーリボンの会は一昨年、自衛隊単独での拉致被害者救出について、現行憲法下・憲法改正前提の2パターンに分けて、作戦概要を発表した。
▽拉致被害者救出作戦の想定図
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救出を待つ拉致被害者の生存を確認した後の作戦行動だ。いずも型空母とイージス艦2隻を沿岸に展開。陸自特殊作戦群1個小隊と海自SBU2個小隊が施設に突入し、救出に当たる。

この作戦は、北朝鮮政府が瓦解し、内乱状態にあると想定。UN安保理決議を受け、米国を中心にした多国籍軍による平和構築活動が続く中、自衛隊の精鋭部隊が参加し、任務を遂行する。
□拉致被害者奪還2作戦の解説


駆け付け警護どころではない。武装した敵を排除しつつ、施設内に突撃するのだ。PKO5原則の遥か域外。憲法を改正しない限り、特措法で対処することも出来ない。更に厄介な問題もある。

作戦シミュレーションの舞台は、北朝鮮東部沿岸の清津(チョンジン)。ここは多くの拉致被害者が最初に収容された連絡所が存在する他、松本京子さんの目撃証言が複数得られている場所だ。
▽S52年に拉致された松本京子さん(家族会提供)
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金正恩を屠ったあと、米軍を中心にしたPKF部隊が清津周辺に展開するか、疑問がある。冒頭に紹介した「作戦計画5027」には、寧辺の北に妙なラインが引かれている。ミステリアスな北緯40度線だ。
▽「5027」に記された北緯40度線
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“怒涛の快進撃”を続ける米軍地上部隊は、このラインで足をピタリと止めるらしい。誰も明言しないが、北緯40度線の北側は越境した中共軍が暫定管理するエリアと考えられる。

清津を始め、北部の主要都市が米南軍の管轄外となれば、拉致被害者の全員奪還は困難になる。習近平に頭を下げ、避難民のスクリーニングの際、そこに含まれる日本人の保護をお願いするのか…
▽現状では北揚陸不可の海自SBU(時事file)
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半島情勢が緊迫する今になっても、拉致被害者・特定失踪者の救出が国家的なテーマになることもない。彼ら彼女たちは、不法上陸した戦闘工作員に拉致され、30年以上も拘禁状態に置かれているのだ。

例え、金正恩が木っ端微塵になり、北の核とミサイルが処理されても、拉致被害者を奪還できなけば、我が国は朝鮮有事で大敗を喫したに等しい。



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参考文献:
『朝鮮有事!』H15年バジリコ刊

参考映像:
□YouTubeチャンネル桜H26年9月2日『【予備役ブルーリボンの会】緊急シンポジウム「拉致被害者救出と自衛隊」』
□YouTubeチャンネル桜H26年12月16日『【RBRA】予備役ブルーリボンの会シンポジウム「拉致被害者救出と自衛隊-2」』

参考記事:
□産経新聞4月14日『「有事に手立て尽くして」 拉致被害者救出へ知事会が緊急要請』
□産経新聞4月16日『「有事、秒読み段階では」 拉致家族、危機的状況を懸念』
□産経新聞3月12日『自衛隊は拉致被害者を救出できないのか? ドイツの事例を参考に元自衛官らが訴える「奪還シナリオ」の必要性』
□<産経新聞4月12日『拉致被害者救出で「イラク方式」を検討 政府、米に協力を要請』/a>
□iRONNA『自衛隊特殊部隊の元リーダーが語る拉致の解決策(『月刊正論』 2015年2月号)

□産経新聞4月17日“反日”病の韓国は「北東アジアの患者」…ソウル60km先に北朝鮮、情勢緊迫も薄い危機感』
□時事通信4月11日『外務省、韓国渡航で注意喚起=北朝鮮情勢踏まえ』
□東亜日報’10年6月14日『北朝鮮、16年ぶりに「ソウル火の海」と警告』
□産経新聞4月4日『米韓軍の最高機密軍事作戦が流出か 北がハッキング…過去最悪の被害 韓国メディア報道』
□ZAKZAK平成25年4月5日『平壌を完全制圧する軍事作戦「5027」の全容 海空から一斉攻撃』
□ハンギョレ新聞’15年8月28日『朝鮮半島有事「作戦計画5015」で北朝鮮の核・ミサイルを先制打撃』
□聯合ニュース4月14日『対北朝鮮反撃・防衛システムの構築前倒し 韓国国防中期計画』

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