北京ジェノサイド五輪の冷酷…血と氷の惨劇から25年

「スポーツと侵略」を結び付ける史上最も野蛮な政治イベントが始まった。競技初日はウイグル人にとって悲劇の祈念日。“血と氷の祭典”に虐げられる民族の涙が滲む。
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その女性がウイグル人の家を訪れてから間もなく、地元の公安と中共軍将兵が押し入って来た。この家の2人の息子は数日前に殺害され、娘は行方不明。両親は悲しみに暮れていた。

「抵抗するな。叫んだりしたら撃ち殺す」

中共軍将校に脅され、その女性、ラビア・カーディルさんは両手を頭上に置いたまま、震え上がった。200人以上のウイグル人が虐殺されたグルジャ大虐殺の3日後の出来事だった。
▽グルジャ大虐殺の中共側記録映像(WUC)
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後にノーベル平和賞最終候補者となるラビアさんは当時、政治協商会議の委員に任ぜられ、占領地に於けるウイグル人“代表”でもあった。事件の一報を得た彼女は、実態把握の為に現地に駆け付けたのだ。

ウイグル人の締め付けを強めていた中共指導部は、若者を中心とする伝統的な集まりの禁止を突如命じた。中央アジアのトルコ系民族に伝わるマシュラップと呼ばれる習慣である。



一方的な禁止措置に憤慨したウイグルの青年らは、グルジャ市内で平和的な抗議デモを実行した。しかし、中共の治安部隊は水平射撃で参加者を虐殺、生存者をサッカー場に追い込み、放水した。

気温は氷点下20度。そこで何百人が凍死したのか詳しく判らない。抗議デモに参加したとして約200人が死刑台に送られ、事件後に消息を絶った4000人余りのウイグル人が帰ってくることはなかった。

「グルジャ大虐殺が数え切れない程のウイグル人とその家族に破滅的な結果をもたらしたことを私は目撃した」
▽ウルムチ時代のラビアさん'97年(RFA)
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ラビア・カーディルさんは大虐殺直後、グルジャで30軒の関係者宅を訪れて事情を聴いた。繰り返し脅され、勾留されたが決意は揺るがなかった。彼女の人生、ウイグル人の命運を大きく変えた悲劇だった。

2月5日、冬季虐殺五輪の競技が本格的にスタートした。グルジャで起きた血と氷の惨劇から25年後に当たる節目の日である。

【地球を一周する“憤激の前夜祭”】

ウイグル人にとって決して忘れられない悲劇の日だ。その重要な日に、新聞各紙を飾った虐殺五輪の華やかな写真は、見るに耐えられないものであったに違いない。かくも世界は矛盾に満ちている。

「25年前、東トルキスタンのグルジャで多くの若者が犠牲になりました。全てを奪った中国共産党との戦いは、今日で終わる訳ではありません」



グルジャ大虐殺の犠牲者を追悼するデモが今年も2月5日、都内で行われた。マスク姿のウイグル人が現在に連なる悲劇を物語る。音信不通になった家族や親族は増える一方で、安否が強く懸念される。
▽都内で行われた五輪反対抗議デモ2月4日(毎日)
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2日連続のアピールだった。冬季虐殺五輪の開会式に合わせ、前日の2月4日にも抗議行動が催され、ウイグル人有志が先頭に立った。日ウ教会の于田ケリム会長は、こう訴える。

「収容所には300万人のウイグル人が収容され、その中には私達の家族や友人、先生方も含まれています。今の中国共産党政府にオリンピックを開催する資格は一切ありません」

都内で開かれた抗議デモには他に、在日チベット・モンゴル人や香港民主派の有志らが参加。六本木から日比谷に至るコースは途中に外務省など政府庁舎があるのがポイントだ。
▽外務省庁舎前を通過するデモ隊2月4日(撮影筆者)
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普段よりメディア関係者が多かった印象である。常に敬意を払ってくれる大紀元以外は“アリバイ作り”的な取材と思われたが、意外にも誠実に取り上げた報道が少なくなかった。

ちなみに午前に行われた中共大使館前の抗議には非シナ人の妨害勢力が出現。間近で目撃した村田春樹氏によれば、しばき隊のメンバーが数人の確認できたという。これがヘスピ集団の本性だ。
▽在日外国人らに罵声浴びせる外道集団2月4日(ch桜動画より)
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冬季虐殺五輪の開幕に照準を合わせた抗議活動はロンドン、NY市など各国各都市で開かれた。その中でも際立っていたのが、IOC本部があるスイス・ローザンヌだった。
▽IOC本部周辺での大規模抗議2月3日(AFP)
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2月3日の抗議には、チベット人500人が集結した。史上最大規模のアクションだ。スイスは移住したチベット難民が多く暮らすが、近隣国からも駆け付けたと見られる。

北部ベルンから単独のウォーキング・ラリーを始め、話題を呼んだチベット人歌手ローテン・ナムリンさんも無事到着した模様だ。五星紅旗を引き摺り、スキー板で歩く姿は見る者に鮮烈な印象を与えた。
▽独り抗議で歩き続けるナムリンさん1月(AP)
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「この旗はチャイナが私達の国と文化を破壊したことを象徴しています。大量殺人犯や独裁者に五輪の栄誉を与えてはなりません」

14年前に続き、今回もフルボイコットは叶わなかった。達成感も満足感もない。けれども国際社会は少しだけ聞く耳を持ってくれた。

【スポーツと侵略が融合した恥の五輪】

「放送が始まったら見ないことだ。米国民なら誰でも可能だし、誰もがそうする必要がある」(12月28日付けワシントン・ポスト)

開会式ボイコットを呼び掛ける声も根強かった。純粋な競技とは無関係のセレモニーは、CCPによるCCPの為の重要な政治イベントで、中共指導部にとっての“核心的利益”だ。
▽加CBCバンクーバー支局前の抗議1月(CBC)
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14年前とは著しく異なり、米NBCなど主要中継局への抗議も激化した。この訴えも退けられ、各局は何の注釈もなしに式典を垂れ流したが突如、部分的・局地的に実現した。

インド公共放送の最高幹部は2月3日、放送予定にある開会式の生中継をキャンセルすると明言。実際にプログラムを抹消したのか、詳細な続報は見当たらないが、在印チベット難民は歓喜しただろう。
▽デリー中共大使館前の抗議活動2月4日(AP)
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「チャイナ側が五輪を政治利用した」

インド外務省のスポークスマンは会見でそう述べ、駐北京インド大使のセレモニー出席を取り止めると表明。開幕前日、インドが外交的ボイコットの輪に加わったのである。

事件は2月2日に起きた。メーンスタジアム近くを走った聖火ランナーに、インド側は目を疑った。棒を握り締める男は、2年前のインド北部侵攻で指揮官を務めた祁発宝という中共軍将校だったのだ。
▽ランナーに抜擢された侵略部隊指揮官2月2日(ロイター)
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’20年6月の中共軍ラダック侵攻で、インド軍は20人が戦死、数十人規模の負傷者が出たる被害を受けた。中共軍がLAC(実効支配線)脇に軍用道路を整備し、建物を急増したことが原因で衝突が起きた。

関連エントリ:令和2年6月25日『ヒマラヤを赤く染める狂気…妄想帝国の極限環境紛争』

災害救助で奮闘した自衛隊員や高齢の退役軍人が聖火ランナーを務めることは問題ない。しかし祁発宝は、CCPが“英雄”に祭り上げて勲章を与えた政治銘柄の軍将校。侵略軍の指揮官である。
▽ラダック侵攻を指揮する祁発宝'20年6月(中共宣伝機関)
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「チャイナのオウンゴールだ。北京はインド人の新鮮な血で手がべったり濡れている軍の指揮官に聖火を渡した」

ワシントン・ポスト紙の記者は、そう論評した。インド政府は11月末の中露3ヵ国外相会談で五輪支持を打ち出し、外交的ボイコットを否定していた。そのスタンスを一変させたのである。
▽印露中3ヵ国外相会談11月26日(共同)
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「スポーツと政治を切り離せ」と中共は無限リピートした。しかし「スポーツと侵略」と結び付けて五輪を政治イベントに仕立て上げたのが習近平だ。

【モンスター討伐の残された切り札】

インドが締切目前の駆け込み不参加を決めても、外交的ボイコット表明は8ヵ国に留まった。リトアニアが先陣を切り、米英豪が続いたが、頭打ちで広がりに欠けた。

岸田政権を筆頭にした中途半端な対応で凌ぐケースや、感染症と結び付けて誤魔化す国も目立った。それでも若干、強がって言えば、14年前のような圧倒的な敗北感、絶望感はない。
▽デモ行進終了後の記念スナップ2月4日(撮影筆者)
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第1回虐殺五輪の夏、ボイコット運動が孤立化を深める中、ブッシュJr.や福田達夫の父親らが相次ぎ裏切って開会式参加を宣言。五輪史上最大となる100人超の首脳・元首が北京に集まった。完敗である。

筆者の場合、最初に設定したハードルが低かったように思う。昨年2月に第2回虐殺五輪の公式ロゴが発表された際、1年後に再び挫折感を味わうと確信していた。だが、予期した状況とは違った。
▽虐殺五輪ボイコットの公式ロゴ発表’21年2月2日(AP)
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議会レベルでジェノサイド認定する国も増え、古惚けた大手メディアの中にも真正面から批判する報道が垣間見られた。2008年の夏に見捨てられたチベット人とは対照的である。

「外交的ボイコットは空虚なジェスチャーに過ぎず、無意味で有害だ」

今年初め、世界陸連会長の暴言が波紋を広げた。「開会式欠席に意味があるのか」という問い掛けは、親中派の合言葉ともなった。この懐疑的な見方は、土台の部分から間違っている。
▽本部前抗議「IOCは中共によって腐敗した」2月3日(ロイター)
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ウイグル人を絶望監獄から即時救出する手段がない現状で、中共指導部にプレッシャーを与える数少ない方法が、ボイコットだったのだ。黄熊のメンツを潰す云々は副次的な問題である。

25年前のグルジャ事件で真相を追ったラビアさんは’99年、遂にスパイ容疑で不当拘束され、監獄に送られた。国際人権団体は解放運動を世界展開し、欧米諸国の一部も中共批判を強めた。
▽大阪G20で抗議するラビアさんR2年6月(RFA)
大阪G20で抗議するラビアさんR2年6月(RFA).jpeg

その結果、当時の胡錦濤指導部はプレッシャーに耐えかね、’05年に病気治療の名目で海外出国を認める。救出運動が実り、解放に成功したのだ。

同じ頃、冤罪で死刑を宣告されたチベットの活仏テンジン・デレク師が各国議会の助命嘆願決議で減刑された事例もあった。ところが、胡錦濤政権の中期から国際圧力が余り効かなくなる。
▽デレク師解放を求めるオランダ大規模抗議’04年(ICT)
ICT04年オランダのデレク師助命2.png

ノーベル平和賞を受賞した劉暁波氏も治療を口実にした亡命で決着する予想する向きもあった。しかし、劉氏もデレク師も獄中で“早過ぎる死”を遂げ、救い出すことが叶わなかった。

習近平政権下でCCPはより凶悪なモンスターと化した。圧力さえ上手く効かない相手に対話など不可能。一致団結して追い詰め、囲い込み、討伐するのみだ。
▽13年前の都内グルジャ犠牲者追悼デモH21年2月(共同)
共同09年12年前の弾圧事件に抗議し、デモ行進する「世界ウイグル会議」日本代表のイリハム・マハムティさん(中央)ら=7日、東京都渋谷区.jpeg

良識ある国際社会の一員は、ウイグル人を救う為に、知恵を絞るのではなく、決断する時が来た。



最後まで読んで頂き有り難うございます
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【side story】

去る11月、石原元都知事と長年の交流がある方から、電話での話が困難になったと伺い、とても気懸りでしたが、良い報せもなく年を越し、今回の訃報に接しました。謹んでお悔やみを申し上げます。

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参照:
□日本ウイグル協会HP『グルジャ事件』
□世界ウイグル会議HP’13年2月6日『16 YEARS WITHOUT ANSWERS: GHULJA MASSACRE MOURNED BY WUC』
□Amnesty International2007年2月1日『People’s Republic of China: Rebiya Kadeer’s personal account of Gulja after the massacre on 5 February 1997』

参考動画:
□YouTubeチャンネル桜2月4日『【アジア連帯】人権弾圧進行中の北京オリンピック開催への抗議デモ』
□YouTube2月4日『【デモ出発前集会】人権弾圧進行中の北京オリンピック開催」への抗議デモ 六本木・三河台公園〜日比谷公園』
□YouTube2月4日『人権弾圧進行中の北京オリンピック開催」への抗議デモ 六本木・三河台公園〜日比谷公園』

参考記事:
□大紀元2月4日『人権弾圧はいまも進行中…北京冬季五輪開幕当日、民族団体ら都内で抗議活動』
□毎日新聞2月4日『「文化奪うな」在日ウイグル、チベット人らが北京五輪に抗議デモ』
□ハフポスト2月4日『中国の人権「懸念」決議、当事者たちはどう受け止めた?北京五輪の抗議デモ会場で聞いた』
□AFP2月4日『北京五輪は「恥の大会」 チベット人500人、IOC本部前で抗議』
□日刊スポーツ2月4日『北京五輪開催に世界各地で抗議デモ「五輪精神に反する」「人権なくして五輪なし」』
□ロイター2月3日『Tibetans march on IOC headquarters to protest Beijing Games』
□フランス24(AFP)2月4日『Tibetans protest against Beijing Games outside Olympic Committee HQ in Lausanne』
□The Hindu2月3日「Indian diplomats to boycott Beijing Winter Olympics』
□AFP2月4日『インド上級外交官、北京五輪ボイコット 聖火リレー人選に反発』
□中日スポーツ2月4日『インドの外交ボイコット、米メディア「中国のオウンゴール」としてやったり』
□CNN2月4日『インド、北京五輪の外交ボイコット発表 中国兵の聖火ランナー起用で』
□HKFP’20年2月7日『The Ghulja Massacre: remembering China’s brutal crackdown on a peaceful Xinjiang protest』
□ニューズウィーク’21年3月30日『拷問を生き延びたウイグル人家族が、20年の沈黙を破って語った恐怖』

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