塞がれた実験室起源の鍵穴…“感染メディア”覆う無関心

パズルを解く重要ピースは自然由来説の学者らに隠された。武漢ウイルスの起源を巡って米極左紙で起きていた内紛。扇情的な報道の裏には“真犯人”を見過ごす異様な無関心があった。
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新聞がテレビの報道現場で原稿の「○」を埋める作業ほど楽なものはない。準備した定型原稿に数字を書き加え、ニュース番組ならアナウンサーが読み上げるだけだ。

大事故の速報であればシリアスだが、感染症関連は違う。続々と現場から入る情報をまとめる必要はなく、書き込む数字の元は自治体の集計発表。FMラジオ定番の渋滞情報と同じで、報道とは言えない。
▽「○」に数字入れる報道のルーティンワーク
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街頭インタビューも似たようなものだ。嫌がらない相手にマイクを向ける軽作業で、VTRの尺稼ぎに近い。そんな報道が昨年の春から延々と続き、今に至る。

「日本のマスコミの冷淡さを、どう理解したらいいのか」

長谷川幸洋氏は、ウイルスの起源を巡って欧米の報道が過熱する中、取り残された本邦の報道姿勢を嘆く。英語力に原因があると一刀両断するが恐らく、それだけでない。
▽感染関連報道で定番化した街録2年3月(file)
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「編集者は『スパイクタンパク質』や『受容体結合ドメイン』といった用語にさえ苦戦し、頭がクラクラになっていた」

元NYタイムズの科学担当記者D・マクニール氏は、そうパンデミック初期の混乱を回顧する。専門用語を多用して4,000文字以内に収める作業は難しく、記者は目を閉じて他の関心事に興味を移したという。

マクニール氏は、実験室起源説を掘り下げた米バニティ・フェア誌の大特集で「2人目の元NYタイムズ記者」と紹介された。陰謀論と連呼し、武漢隠しに励む新聞に反旗を翻した“造反組”である。
▽NYタイムズ本社ビル(ロイター)
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「我々は急速に分裂し、NYタイムズ内部は混乱していた」

ウイルスの起源を巡って社内で激しい対立があったことを明かす。時期は昨年の初春。安全保障担当の記者がトランプ政権から情報を得て、実験室起源説を支持し、科学部門と論争になった模様だ。

昨春に米政府が出した情報は具体性を欠いていた。その背後で、極左紙の記者をも実験室説に傾かせる有力な証拠があったのか。実に興味深い回想である。

【パンデミック初期のスモークガン】

D・マクニール記者は今年2月、海外での差別発言を理由にNYタイムズを解雇された。暴露は意趣返しにも見えるが、直接の転向理由ではない。つい最近までゴリゴリの自然由来説派だった。

転向の契機は「1人目の元NYタイムズ記者」ニコラス・ウェイド氏の長い記事だった。同じ科学担当の元同僚で、記事は5月5日付けの米BAS(原子力科学者会報)に掲載された。
▽同会報のトレードマークは終末時計
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少し裏事情を明かすと、同記事はWSJスクープの前に書いた拙エントリの主要テキストになった。最新の疫学情報解説からファウチの闇まで幅広く抉り出す衝撃的な内容である。

「彼をジャーナリストとして尊敬しているにも拘らず、私の最初の反応は否定的だった」

マクニール記者は、バイデン政権顧問のファウチやWHO武漢調査団のダザックと長年の知り合いで、彼らの仕事に敬意を抱いていたという。信用の置ける良い人達だったのだ。
▽ダザックとファウチ’16年3月(BAS)
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同僚のウェイド記者は執拗に記事の評価を求めてきた。そこで記事を繰り返し読み、引用されている論文を丹念に読み込んだ末、一つの結論に辿り着く。

「この17ヵ月間、チャイナの振る舞いは何かを隠しているように見える」

バットウーマンこと石正麗や武漢市当局の隠蔽工作。信頼していたダザックも見え透いた嘘を吐いていた。また取材対象だった米科学界の重鎮が相次ぎ自然由来説に懐疑的になっている事実も知った。
▽D.マクニール記者(NYT file)
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「転向組」という括りはやや大袈裟で、マクニール記者は実験室起源派の旗振り役とは言えない。だが、個人体験を含む懺悔調のエッセイは、最近の米メディア内部の変化を象徴するものだ。

「去年2月3日、武漢ウイルス研究所の科学者の発表は、煙を吐く銃のような匂いを放っていた」

今更感もあるが、慎重なマクニール記者がスモークガン相当と指摘したのは、石正麗らがネイチャー誌で発表した論文だった。コウモリ保有のコロナウイルス「RaTG13」に関する研究である。
▽コウモリ洞窟で採取する武漢CDC職員(YouTube)
コウモリ洞窟で採取する武漢CDC研究員(YouTube).png

RaTG13はゲノム配列が96.2%一致する「始祖のウイルス」として脚光を浴び、科学界と主流メディアによって神棚に祀られた。しかし、中共にとっては祟り神でしかなかった。

【武漢ウイルスだけが持つ“切り目”】

石正麗が提示したRaTG13に疑問を抱いく者達が居た。武漢ウイルスの起源を追い続けるアマ集団「DRASTIC」だ。論文には採取した場所や日時など重要なファクターが記されていなかった。

そしてDRASTICメンバーは石正麗が’13年に発表した論文にあったRaBtCoV/4991と同一である事実を突き止めた。公開された遺伝子コードが完全に一致したのである。
▽コウモリを追う石正麗’04年(EL PAÍS)
コウモリを捕まえる石正麗’04年(EL PAIS).jpg

「分かり易くする為に名前を変えた」

石正麗は意味不明な返答で誤魔化し、当時連携していたダザックの嘘も暴かれる。ダザックは「RaTG13は研究対象外だったので冷凍庫に入れ、存在を忘れていた」と語っていた。

更にDRASTICは採取地を雲南省南部の鉱山と断定。’20年暮れにBBCなど海外メディアが現地入りを試みたが、当局に制止される。中共は下手を打ち続けたのだ。
▽鉱山近くで立ち往生する取材班’20年12月(BBC)
鉱山近くで立ち往生する取材班BBC20年12月.png

一方、各国のウイルス学者もRaTG13の解析を始めた。そこから武漢ウイルスの大きな特徴が見えてきた。元NYタイムズのウェイド記者は、こう指摘する。

「スパイクタンパク質のフリン切断部位は、ウイルスの起源をめぐるパズルの中心にある」

BASに掲載された記事の後半は、武漢ウイルスの特異な性質に関する専門的な解説に終始する。スパイクタンパク質は電子顕微鏡写真でよく見る棘状の部分で、感染の鍵を握る。
▽習近平から生える角がスパイク6月4日(dailyPress)
dailypress64習近平ウイルス像.png

「スパイクタンパク質にはS1とS2と呼ばれる違った役割を持つ2つのサブユニットがあり、S2が切り離されてヒト細胞に侵入する」

S1とS2のジャンクションに位置するのがフリン切断(開裂)部位だ。フリン(Furin)はヒトの気動に豊富に存在するタンパク質分解酵素で、これがS2ユニットを手際良く切り離す役割を果たす。

RaTG13やSARS、他のβコロナウイルスは、このフリン切断部位を備えていない。同部位のコアにある「PRRA」のアミノ酸配列が、高いヒト感染率を誇る武漢ウイルス最大の特徴だ。
▽682〜685が問題の切断部位(ネイチャー)
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この部位の人為的な挿入が機能獲得実験のメーンテーマとされる。石正麗ら武漢ウイルス研究所のポスドクが長年取り組んでいたことは発表済みの論文からもハッキリしている。

【パズルの完成を阻むスプレッダー】

ヒト細胞が持つ“ナイフ”に合わせて極めて適切に配置された切り目のサイン。武漢ウイルスがこの特異性を獲得した可能性について、ウェイド記者は3つの仮説を立てる。

最初の仮説は、コウモリからスピルオーバーしたウイルスが生態系の中で変異を繰り返し、獲得したとするものだ。しかし、中間宿主の捜索が1年半以上も捜索が続く中、手掛かりすら見付からない。
▽WHOと中共が有力と宣伝したセンザンコウ(共同)
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2番目は最短で数ヵ月、ヒト集団の中で循環し、変異したとする仮説だが、世界中の病院の記録に痕跡はない。そして最後が、機能獲得実験によって研究者が挿入した可能性である。

「私にとってフリン切断部位の唯一の重要性はウイルスの起源を明かす目印になることだ。それが人工的に操作されたと考えると慄える」

知る権利に関する米の非営利団体は8月11日、昨年2月に研究者と学術誌「EMI」編集者の間で交わされたメールを暴いた。議論はフリン切断部位の不都合な事実をどう取り扱うかだった。
▽米・リバティ彫刻公園の習近平オブジェ6月4日(AFP)
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微生物・感染症を専門にする同誌は昨冬、ランセット誌に続き実験室起源説を陰謀論と罵る声明を発表。各国の科学界で広く共有され、大きな影響を与えたという。

専門家は起源を巡る「重大な鍵」を早くから知っていたのだ。そしてメディアは、核心の問題を全く報じず、逆に避けた…パズルを解く重要なピースが意図的に隠されているようもに見える。
▽焼き討ちに遭ったCCPウイルス像7月23日(SNS)
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「潤沢なリソースを持つ大手メディアが、調査報道でアマ集団に大幅な後れを取るなんて、さっぱり理解できない」

DRASTICの主要メンバーは、そう不思議がる。いくつもの発見は大反響を巻き起こすと確信していたが、反応は冷淡だった。当事者だったウェイド記者は報道機関と科学者の関係に触れる。

「政治部と違って科学担当の記者は、取材先が何らかの思惑を秘めてるとは考えない」

パンデミックの最中、専門家のコメントには色が付いていた。更に、多くのメディアが政治的なスタンスとはまた異なる動機で、実験室起源の可能性を排除してきたことを嘆き、訝る。
▽昨年2月から延々使い回しのウイルス拡大写真(NHK)
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我が国も既存メディアにも同じ疑惑が掛かる。「○」に感染者数を埋めて論評する新聞各紙。テレビ報道で顕微鏡のウイルス写真を見ない日がないが、そこに映っているスパイクの秘密には触れない。

いったい顕微鏡写真を視聴者に見せて何になるのか…武漢アウトブレイクから約20ヵ月、メディアの“新型コロナ”に対する無関心は増すばかりだ。



最後まで読んで頂き有り難うございます
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【side story】

最初の疑問は、英メール紙が5月末にスクープした英・ノルウェー研究者チームの論文が他のメディアで全く後追いされていないことだった。メール紙は「論文は数日中に発表」と伝えていた。掲載断念に追い込まれた可能性があると考え、調べると査読を経た論文が6月2日付けで無事に公開されていた。
□参照:QRB Discovery6月2日『Biovacc-19: A Candidate Vaccine for Covid-19 (SARS-CoV-2) Developed from Analysis of its General Method of Action for Infectivity』

冒頭の概要説明に
「それらは帯電したフリンライク切断部位を含む明確な電荷分布を示す(which displays distinct distributed charge including the presence of a charged furin-like cleavage site)」
と記しているが本文に、ヒト感染に最適化した正電荷の4つのアミノ酸と681番台からのフリン切断部位が一致する、といった都合の良い記述は見当たらなかった。もう専門用語だらけで頭がクラクラだ。

それでも同論文が安全なワクチン設計に関する内容で、武漢研やら石正麗ら固有名詞が踊るものでないことが判った。なるほど、独自インタビューを含む英メール紙のスクープ記事が優れていたのだ。

参照:
□Medium(Donald G. McNeil Jr)5月17日『How I Learned to Stop Worrying And Love the Lab-Leak Theory』
□U.S. right to know8月11日『『Scientists who authored article denying lab engineering of SARS-CoV-2 privately acknowledged possible lab origin, emails show』

参考記事:
□Bulletin of the Atomic Scientists(原子力科学者会報)5月5日『The origin of COVID: Did people or nature open Pandora’s box at Wuhan?』
□Vanity Fair6月3日『The Lab-Leak Theory: Inside the Fight to Uncover COVID-19’s Origins』ins
□Sunday Guardian7月31日『Needed, a transparent investigation into origins of SARS-CoV-2』
□現代ビジネス8月13日『新型コロナ「武漢流出説」を、日本のマスコミが「報道できない」情けない理由(長谷川幸洋)』
□時事通信(文春オンライン)7月21日『単なる陰謀論ではなかった…? 武漢ウイルス研究所「流出説」を再燃させた“匿名専門家集団”の正体』
□ニューズウィーク6月4日『「研究所流出説」を甦らせた素人ネット調査団、新型コロナの始祖ウイルスを「発見」!』
□Daily Press6月5日『Weiming Chen unveils 'CCP Virus' at Liberty Sculpture Park in Yermo』
□EL PAIS6月18日『The online detectives sowing doubts about the origins of the pandemic』

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