ダイヤモンド中心部の傷…中共海軍が挑む三正面作戦

尖閣を包囲する武装船に続き、台湾国を脅かす中共軍機も常態化した。南シナ海には1万人規模の海上民兵…三正面作戦で習近平が真っ先に狙うのは日米印豪ダイヤモンドの中心部だ。
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その昔、沖縄駐留の米軍が特異な権力を持っていたという話を事情通から伺ったことがある。ホワイトハウスもコントロールに難儀する一種の独立軍のような存在だった…

大東亜戦争終結前の沖縄占領・統治に始まり、朝鮮戦争・ベトナム戦争で独自の力を高めたとされる。要領を得ない突飛な逸話で長らく忘れていたが、尖閣に関する共同通信の特ダネで、ふと思い出した。
▽尖閣諸島東端の大正島(時事file)
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機密解除された公文書によると米政府は’78年6月に米軍の射爆場として使われていた尖閣諸島・大正島の訓練使用を止めた。理由は、領有権を巡る日支対立に巻き込まれることを嫌った為だ。

やり取りの詳細は伝えられていないが、米軍側は停止指令に不満を示し、大正島での演習再開を求めたという。この部分に駐沖米軍が抵抗した形跡が読み取れる。米政府の決定に対する異例の反発である。
▽大正島の位置 久場島も米軍射爆場で使用(産経)
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「ここ数十年の尖閣諸島に対するアメリカの姿勢は非常に複雑である。欠陥があると言った方がいいだろう」

マリーン出身の米政治学者エルドリッヂ氏は、そう指摘する。今年2月、国防総省スポークスマンが尖閣の主権について政府の見解から逸れる発言をし、訂正した一幕は、複雑な事情を象徴するものだった。

「尖閣は沖縄と共に残された。’51年のSF講和条約で、沖縄の残存主権は我々によって認められた」
▽執務室のキッシンジャーとニクソン'73年(AP)
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キッシンジャーはニクソン大統領に、そう明言した。ホワイトハウスで沖縄返還協定調印直前の’71年6月の会話で、近年になってニクソン図書館に記録音声が残っていたことが明らかになった。

参照:NNN’12年10月5日『尖閣は沖縄の一部…返還調印前に米国が確認』

時事通信が発掘し、各社が一斉に後追いしている。残存主権とは、当該国の施政下にある潜在的な主権を意味し、鉤カッコ付きだが、この時点でも米国は、我が国が尖閣の主権を有することを認めていたのだ。
▽北小島、南小島と魚釣島(時事file)
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米大統領執務室で尖閣問題がテーマになった背景は、台湾側の反発を考慮したものだったとされる。しかし、それだけだろうか。この会話は、キッシンジャー訪中の1ヵ月前でもあった。

米政府の尖閣に対する曖昧で“欠陥のある姿勢”は、フランケンシュタインを生んだ米中接近、台湾切り捨てと直接リンクしているように見える。

【第3次海峡危機を上回る準戦時態勢】

「米台関係は有史以来、最も強固だ」

台北入りした米国のクリス・ドッド元上院議員は4月15日、蔡英文総統との会談で、そう強調した。アーミテージ元国務副長官ら3人で構成される非公式の台湾国訪問団だ。
▽総統府入りした米非公式訪台団4月15日(中央社)
中央社415会談に臨む米非公式訪台団.jpg

CNNによればドッドはバイデンの長年の盟友で、人選には米新政権の決意が汲み取れるというが、推し量り過ぎではないか。アーミテージもすっかり老けて3人とも見た目はヨレヨレ。迫力を欠く。

ポンペオ電撃訪台が囁かれていた1月頃とは隔世の感もある。それでもケリーの上海訪問と並行させるなど巧みな外交テクニックは健在で、訪台のタイミングも効果的だ。
▽ドッド元議員と挨拶する蔡総統4月15日(時事)
時事415クリス・ドッド元上院議員(左)らとの会談冒頭、あいさつする台湾の蔡英文総統.jpg

「チャイナは台湾周辺海域と空域で軍事活動を活発化させ、地域の平和と安定を脅かしている」

蔡総統は会談冒頭の挨拶で、自国の危機的な状況に触れた。4月12日には過去最大規模となる中共軍機25機が台湾国のADIZ(防衛識別圏)に侵入。その中には核搭載可能の爆撃機4機も含まれていた。

台湾国防部は昨秋からADIZに入った中共軍機の動向を発表し始め、異常な実態が浮き彫りになった。今年3月のADIZ侵入は20日を超え、常態化しつつある。
▽ADIZ侵入した中共Y8対潜哨戒機4月11日(台湾国防部提供)
国防部4月11日ADIZ侵入したY8対潜哨戒機.png

「最近は、中共軍が将来の紛争や戦争の準備を強化している印象が強い」

台北の軍事専門家は危機感を募らせる。沖縄・宮古海峡や南シナ海から台湾国南部に回り込む飛行パターンも増加。台湾空軍は一部で追尾を諦めざる得ない逼迫した状況に追い込まれた。

更に海上では、中共軍のヴァリャーグ級空母「遼寧」が4月10日、バシー海峡を抜けた。4月3日に宮古海峡で捕捉された最新鋭ミサイル駆逐艦を含む6隻の艦隊が西進したと見られる。
▽「遼寧」を監視する米駆逐艦幹部4月4日(米海軍)
米海軍4月4日並走する「遼寧」を見る米駆逐艦「マスティン」の幹部.jpeg

江沢民錯乱で一触即発となった’95年の第3次台湾海峡危機を凌ぐ開戦前夜の様相だ。本邦メディアは断片的に伝えるものの、有事の可能性や危機の本質について論じることはない。

非常事態は尖閣、台湾国に留まらない。習近平は狂気の三正面作戦に挑む構えだ。

【海上民兵1万人が蠢く“海の長城”】

「チャイナの主張する九段線は史実に立脚せず、法的根拠が無いことは国際仲裁裁判所で明らかになった。この海域に海上民兵が留まることは更に占領を進めるという意思を示している」

フィリピン国防省は4月4日の声明で、中共のスプラトリー侵攻を強く非難した。南シナ海で起きている“紛争の形式”は、尖閣諸島や台湾国周辺とは様相が異なる。最前線に現れたのは海上民兵だ。
▽環礁に集結した中共の大型漁船団3月7日(AP)
AP通信3月7日環礁に集結した支那漁船団鮮明.jpg

それは静かな幕開けではなかった。比国防省は3月21日、スプラトリーのジュリアン・フェリペ礁(英:ウィットサン)に多数の支那漁船が集結していると発表。その数220隻に達する空前の規模だった。

ジュリアン・フェリペ礁はパラワン島の西324kmにある環礁で、比国のEEZ内にある。付近では3つの人工島が建設済みだが、この環礁は手付かずだった。それを中共は8番目の人工島にする模様だ。
▽“人工群島”の北東にあるジュリアン・フェリペ礁(RFA)
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中共側は「荒天による待避」を主張するが、比当局は凪の時間帯の一斉停泊を確認。米政府も3月末の声明で「海上民兵」の船団との認識を示し、米比外相電話会談でも繰り返した。

「中国の漁船団は、海軍の予備役のようなものだ。船内には1隻あたり約50人、総勢1万人の海上民兵と呼ばれる漁民が乗り込んでいると推測される」

海上安全保障問題の大御所・山田吉彦教授は、そう指摘する。支那の遠洋漁船は中共政府の統率下にあり、独自のAIS「北斗」を通じて指揮されるという。前世紀に比べ、大幅に進化しているのだ。
▽J・フェリペ礁に入り込む中共船団3月22日(ロイター)
3月23日、ウィットサン礁の人工衛星写真=マクサー・テクノロジーズ、ロイター.png

中共の海上民兵は、昭和53年の尖閣襲来事件に参戦した他、パラセル、スプラトリー侵攻の尖兵となった。一方で、米国が問題視し、ペンタゴンの年次報告書で言及したのは僅か5年前である。

海上民兵はSEALDsのような精鋭部隊ではない。習近平の掛け声で再整備・強化されたが、実態は紛争のトリガーとなる囮であり、罠だ。英シンクタンク・IISSは最新のリポートで、こう警告する。

「海上民兵はグレーゾーン戦略の重要な一部で、それは中共が準備する海洋ハイブリッド戦争のシナリオに組み込まれている」
▽連結して停泊する中共漁船団3月23日(AFP)
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心理戦、情報戦の側面を併せ持つ。各国政府が海上民兵の位置付けに苦慮し、親中メディアは「単なる漁船」と宣伝。海上民兵の大船団はプロパガンダと偽情報の嵐に隠れ、針路を取る。

第3海軍とも言われる海上民兵の偽装漁船団の背後には第2海軍の海警武装船が控え、その後方海域には正規の中共海軍が展開。比側が強制排除に乗り出せば中共は海警法を根拠に武力で応戦するだろう。
▽「海の長城」を形成する中共漁船団3月27日(ロイター)
3月27日、南沙諸島で停泊を続ける中国船=フィリピン沿岸警備隊提供・ロイター.png

不安なのは、肝心の比・ドゥテルテ政権がフラついていることだ。

【中心部を狙う中共のダイヤ破壊戦略】

「我々はチャイナ側の主張を信じるような愚か者ではない」

比・ロレンザーナ国防相は当初、強硬姿勢を示していた。4月11日に行われた米オースティン国防長官との電話会談でも懸念を共有したが、支那船団の減少傾向に安堵感を示すなど強気一本槍ではない。
▽シャングリラ会合の比国防相’18年(大紀元)
大紀元18年シャングラ会合の比国防相.jpg

ドゥテルテ大統領もジュリアン・フェリペ礁の占拠事件直後、中共大使と面会して撤退を求めたが、それ以降は沈黙。次に口を開いた4月6日には一転して、中共との融和・協力関係を強調した。

比国は中共から武漢ウイルス用ワクチンの無償提供を受けている。贈られたワクチンは100万回分で、3月末にはワクチン贈呈のセレモニーにも出席した。
▽中共ワクチン贈呈式に出席3月29日(新華社)
新華社3月ワクチン式典の大統領.png

この点でドゥテルテ政権を責める気にはなれない。比は途上国だ。我が国を含む先進各国は途上国にワクチンを配布する枠組みを構築中だが、中共に先を越されている。

資金面で体力の乏しい民主主義国の指導者にとって感染拡大は政権瓦解に直結する案件だ。一方でワクチンが有り余る先進国もない。その隙をついた中共の薄汚いワクチン外交に早くから警戒すべきだった。
▽中共大使とワクチン迎えるドゥテルテ2月28日(AP)
AP通信2月28日中共大使とワクチン迎えるドゥテルテ.png

「もし島に上陸するなら、私は兵士に自爆を伴う任務を命じる」

2年前、パラワン島視察で勇ましく語ったドゥテルテ大統領だが、同時に支那・中共政府を「友人」と呼んで憚らなかった。ワシントンと北京の顔色を窺うコウモリ外交だ。

パンデミックによってドゥテルテ政権の中共傾斜は強まっている。比国内で米軍の活動を認めるVFA(訪問軍地位協定)は、一方的な破棄宣告が先送りになっているに過ぎない。
▽日米印豪クアッド首脳電話会談3月12日(EPA)
EPA3月12日米国、日本、インド、オーストラリアの4カ国協議体であるクアッド(Quad)は12日(現地時間)、初の首脳会議をオンラインで行った。シドニーから参加するオーストラリアのスコット・モリソン首相.jpg

安倍前首相が提唱したセキュリティ・ダイヤモンド構想は、トランプ大統領が完成させ、幸いにして後継政権により発展を続けている。その中で戦略的に重要な位置を占めるのが、比国だ。

日米印豪を結ぶ四角形のド真ん中。中共が比国に狙いを定め、封じ込め策の破壊を試みることは確実である。振り返れば、中共軍のスプラトリー侵攻は、在比米軍基地返還による軍事空白が原因だった。
▽2年ぶりに再開した米比合同軍事演習4月12日(比軍提供)
4月12日2年ぶりに再開米比合同軍事演習フィリピン軍提供.png

ルソン島が“陥落”すれば、次は台湾、尖閣だ。中心部が傷付いたダイヤは著しく価値を失い、やがて砕け散る。



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参照:
□IISS4月9日『What the Whitsun Reef incident tells us about China’s future operations at sea』

参考記事:
□FNN3月24日『【解説】220隻で南シナ海を占拠した中国「海上民兵」にフィリピンが手を出せない理由(山田吉彦)』
□日経新聞4月7日『南沙諸島に中国船停泊1カ月 フィリピン、対応に苦慮』
□産経新聞3月28日『南シナ海に「万里の長城」中国船が隊列 比は占領警戒も対応困難』
□BBC3月22日『中国の「漁船」船団が南シナ海に集結 フィリピンが非難』
□日経新聞4月11日『米比国防トップ電話協議 南シナ海の中国船停泊に懸念』
□現代ビジネス4月14日『アメリカの尖閣諸島政策、機密解除文書で浮き彫りになった危険な欠陥(ロバート・D・エルドリッヂ)』
□共同通信4月5日『米政府、尖閣射爆場の停止指示 1978年、現在まで不使用』
□産経新聞4月15日『台湾総統、米代表団と会談 中国対抗で関係強化協議』
□ロイター4月13日『中国軍機25機、台湾の防空圏に侵入 過去最大規模』

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