金正日亡命説の不毛…情報撹乱に惑わされる世界
核実験後、金正日の亡命説や体制動揺説が真しやかに囁かれているが、根拠を示す情報は何ひとつない。今、世界では米中のディスインフォーメション合戦が繰り広げられているのではないか…
【敵スパイが存在しない国家】
26日に米CIAの極秘文書がまた一つ解禁された。それはCIAが97年に作成したもので「北朝鮮は5年内に崩壊する可能性が高い」と予測したものだった。
こうした甘い予測はこれが初めてではない。94年の第一次核危機でも米情報機関は「数年内に金正日後継体制は内部崩壊する」とほぼ断定していた。
その楽観的な観測が金正日の果てしない暴走を許し、今の危機を生んでしまった。
世界最高峰の諜報機関でも予測を踏み間違えるのは、単に北朝鮮内にCIA要員がただの一人も紛れ込んでいないことを示すものだろう。
イラクやイラン、タリバーンにさえも、いわゆる“草”が政権中枢に潜んでいたと言うが、北の体制はそれを許さなかった。
また中共が誇る情報工作員も平壌には存在しないというのが定説だ。かつて朝鮮人民軍の深くに潜り込んでいたスパイはある時期に一斉に処刑されたとも囁かれる。
もっとも北の独裁政権では、最高会議が頻繁に開かれることもなく、国家の青写真は金正日の頭の中にしかない。それを覗き見るのは至難の業だ。
メディアで語られる内部の噂は風説の域を越えない。
そこで問題なのが、ニセ情報だ。
【情報撹乱に利用されるメディア】
「ディスインフォメーション」という専門用語がある。日本語にすると「ニセ情報 逆情報 意図的デマ」だ。国家がその意思で、情報撹乱のために流すものだ。
これが核実験後、とりわけ安保理決議の採択後に顕著になっていると見る。
特に米中の2国が情報撹乱にいそしんでいるようだ。
中朝国境に設置された鉄条網。
これは中共が“対北強硬”に転じたという姿勢を流布させる為のもので、各国のメディアが写真付きで大々的に報じた判りやすい例だ。
その他にも、旧満州エリアで中共軍の大部隊が集結・大演習を行ったとする情報もディスインフォメーションの匂いがする。
また米国からは、北朝鮮籍の疑惑船追尾に関する情報が該当するだろう。
これは米ネットワークが米情報筋から受け取って報道したが、実際にどのような追尾を行っているか、確認が取れる類いのものではない。
米中が具体的にどんなアクションを起こしているのか、真相は今のところ霧の中と言っていいだろう。
まだ、暫くは慎重に見極め、奇抜な情報には飛びつかない方が賢明だ。
このところ、各マスコミの扱う北情報が激減しているのは、同じような警戒感によるものだろう。
みんな懲りているのだ。
【情報撹乱の悪しき具体例】
9・11テロの後、世界のメディアの間で戦慄が走った。
それはWTCビルの崩壊で、ソロモン・ブラザースが保管していた顧客情報が失われた…というものだった。
詳細は不明だが、それが消失したことで株の大暴落が起こるとされていたのだ。事件から数日後にNY市場が再開される日、当時の『Nステ』はスタジオに株価表示の大パネルを組み、深刻な表情で速報した。結果的に、噂された大暴落は起きなかった。
奇妙なことにその大暴落の噂がどこから発せられたか、誰も判らなかったのだ。
このニセ情報が隠したかったのは、あの日何故か出勤しなかったユダヤ系金融マンたちのミステリーと関係があるのではないか…と指摘しておこう。
湾岸戦争時に世界を駆け巡った「油まみれの鳥」も有名なディスインフォメーションだった。
イラクのタンク破壊で重油が漏れ、ペルシャ湾の鳥が被害を受けたと報道された。そしてイラクによる環境破壊に非難の声が巻き起こったが、事実は全く逆だった。
【亡命説も体制崩壊説も信じない】
恐らく、国際社会が北朝鮮への対応で行き詰まった場合、ロシアをキーにして金正日亡命説が出て来ると予測する。
中共が金正日に大邸宅を差し出す可能性は低いが、ロシア国内か、旧連邦内の小国への亡命はあり得るかも知れない。極寒のシベリアで余生を送るなら、国際社会からの風当たりは多少弱くなるだろう。
ただし、結果は別に、亡命説は問題先送りのディスインフォーメションの可能性が高い。甘い観測は禁物だ。
また、体制動揺説を真に受けて、内部崩壊を期待するのはCIAと同じ轍を踏むことになる。
今、我が国を含め関係国が取り組まねばならないのは、北朝鮮への協力なプレッシャーだ。
強硬策以外にはない。
最善の策はもちろん武力行使である。金正日に鉄槌を下すチャンスなのだ。
【地方レベルの動揺は確実だが…】
前言を翻すようだが、李英和さんの現地スクープ情報や恵谷治さんの綿密な取材に見られる「北の体制動揺」は傾聴に値する。
権力中枢の混乱は想像の域を出ないが、地方の軍紀の弛みは、どうやら確度が高そうなのだ。特にRENKが公開する隠し撮り映像には、地方レベルの混乱や乱れがありのままに捕らえられている。
それを北の崩壊に安直に結びつけないスタンスが良い。
これまで北朝鮮では深刻な暴動が何回か起こったとされている。
特に90年代初頭に伝えられた住民の反乱は大規模だった。
91年8月、中朝国境の町・新義州を中心にした暴動には数千人が参加。
93年4月に同じエリアで発生した「新義州軍民暴動事件」は、軍人も加わった武装蜂起で、後に将校80人が処刑されたと言われている。
だが、北朝鮮では大規模暴動が起こる度に、治安機関が太り、かえって締め付けが厳しくなってきた経緯がある。
今世紀入ってからは、暴動の気配さえも伝わってこなくなった。
次に大規模騒乱が起こるとしたら、それは中共の武器供給による完全な武装蜂起の形態を取るだろう。
まったく歓迎できないシナリオだ。
近代に入ってから朝鮮半島は周辺の大国の思惑に左右され、揺さぶられ、草狩り場になってきた…
大国の密約。
もしかしたら、この独裁国の運命を決めるのはこの「密約」なるキーワードかも知れない。
そんな視点から「撹乱情報」を整理していけば、未来図が垣間見えてくる可能性がある。
〆
【敵スパイが存在しない国家】
26日に米CIAの極秘文書がまた一つ解禁された。それはCIAが97年に作成したもので「北朝鮮は5年内に崩壊する可能性が高い」と予測したものだった。
こうした甘い予測はこれが初めてではない。94年の第一次核危機でも米情報機関は「数年内に金正日後継体制は内部崩壊する」とほぼ断定していた。
その楽観的な観測が金正日の果てしない暴走を許し、今の危機を生んでしまった。
世界最高峰の諜報機関でも予測を踏み間違えるのは、単に北朝鮮内にCIA要員がただの一人も紛れ込んでいないことを示すものだろう。
イラクやイラン、タリバーンにさえも、いわゆる“草”が政権中枢に潜んでいたと言うが、北の体制はそれを許さなかった。
また中共が誇る情報工作員も平壌には存在しないというのが定説だ。かつて朝鮮人民軍の深くに潜り込んでいたスパイはある時期に一斉に処刑されたとも囁かれる。
もっとも北の独裁政権では、最高会議が頻繁に開かれることもなく、国家の青写真は金正日の頭の中にしかない。それを覗き見るのは至難の業だ。
メディアで語られる内部の噂は風説の域を越えない。
そこで問題なのが、ニセ情報だ。
【情報撹乱に利用されるメディア】
「ディスインフォメーション」という専門用語がある。日本語にすると「ニセ情報 逆情報 意図的デマ」だ。国家がその意思で、情報撹乱のために流すものだ。
これが核実験後、とりわけ安保理決議の採択後に顕著になっていると見る。
特に米中の2国が情報撹乱にいそしんでいるようだ。
中朝国境に設置された鉄条網。
これは中共が“対北強硬”に転じたという姿勢を流布させる為のもので、各国のメディアが写真付きで大々的に報じた判りやすい例だ。
その他にも、旧満州エリアで中共軍の大部隊が集結・大演習を行ったとする情報もディスインフォメーションの匂いがする。
また米国からは、北朝鮮籍の疑惑船追尾に関する情報が該当するだろう。
これは米ネットワークが米情報筋から受け取って報道したが、実際にどのような追尾を行っているか、確認が取れる類いのものではない。
米中が具体的にどんなアクションを起こしているのか、真相は今のところ霧の中と言っていいだろう。
まだ、暫くは慎重に見極め、奇抜な情報には飛びつかない方が賢明だ。
このところ、各マスコミの扱う北情報が激減しているのは、同じような警戒感によるものだろう。
みんな懲りているのだ。
【情報撹乱の悪しき具体例】
9・11テロの後、世界のメディアの間で戦慄が走った。
それはWTCビルの崩壊で、ソロモン・ブラザースが保管していた顧客情報が失われた…というものだった。
詳細は不明だが、それが消失したことで株の大暴落が起こるとされていたのだ。事件から数日後にNY市場が再開される日、当時の『Nステ』はスタジオに株価表示の大パネルを組み、深刻な表情で速報した。結果的に、噂された大暴落は起きなかった。
奇妙なことにその大暴落の噂がどこから発せられたか、誰も判らなかったのだ。
このニセ情報が隠したかったのは、あの日何故か出勤しなかったユダヤ系金融マンたちのミステリーと関係があるのではないか…と指摘しておこう。
湾岸戦争時に世界を駆け巡った「油まみれの鳥」も有名なディスインフォメーションだった。
イラクのタンク破壊で重油が漏れ、ペルシャ湾の鳥が被害を受けたと報道された。そしてイラクによる環境破壊に非難の声が巻き起こったが、事実は全く逆だった。
【亡命説も体制崩壊説も信じない】
恐らく、国際社会が北朝鮮への対応で行き詰まった場合、ロシアをキーにして金正日亡命説が出て来ると予測する。
中共が金正日に大邸宅を差し出す可能性は低いが、ロシア国内か、旧連邦内の小国への亡命はあり得るかも知れない。極寒のシベリアで余生を送るなら、国際社会からの風当たりは多少弱くなるだろう。
ただし、結果は別に、亡命説は問題先送りのディスインフォーメションの可能性が高い。甘い観測は禁物だ。
また、体制動揺説を真に受けて、内部崩壊を期待するのはCIAと同じ轍を踏むことになる。
今、我が国を含め関係国が取り組まねばならないのは、北朝鮮への協力なプレッシャーだ。
強硬策以外にはない。
最善の策はもちろん武力行使である。金正日に鉄槌を下すチャンスなのだ。
【地方レベルの動揺は確実だが…】
前言を翻すようだが、李英和さんの現地スクープ情報や恵谷治さんの綿密な取材に見られる「北の体制動揺」は傾聴に値する。
権力中枢の混乱は想像の域を出ないが、地方の軍紀の弛みは、どうやら確度が高そうなのだ。特にRENKが公開する隠し撮り映像には、地方レベルの混乱や乱れがありのままに捕らえられている。
それを北の崩壊に安直に結びつけないスタンスが良い。
これまで北朝鮮では深刻な暴動が何回か起こったとされている。
特に90年代初頭に伝えられた住民の反乱は大規模だった。
91年8月、中朝国境の町・新義州を中心にした暴動には数千人が参加。
93年4月に同じエリアで発生した「新義州軍民暴動事件」は、軍人も加わった武装蜂起で、後に将校80人が処刑されたと言われている。
だが、北朝鮮では大規模暴動が起こる度に、治安機関が太り、かえって締め付けが厳しくなってきた経緯がある。
今世紀入ってからは、暴動の気配さえも伝わってこなくなった。
次に大規模騒乱が起こるとしたら、それは中共の武器供給による完全な武装蜂起の形態を取るだろう。
まったく歓迎できないシナリオだ。
近代に入ってから朝鮮半島は周辺の大国の思惑に左右され、揺さぶられ、草狩り場になってきた…
大国の密約。
もしかしたら、この独裁国の運命を決めるのはこの「密約」なるキーワードかも知れない。
そんな視点から「撹乱情報」を整理していけば、未来図が垣間見えてくる可能性がある。
〆
この記事へのコメント