中共第2海軍の尖閣侵略陣形…「公船」が覆い隠す危機

尖閣を狙う中共第2海軍が牙を剥き出しにした。だが、武器使用宣言を受けても政府・メディアは「公船」の呼称を譲らない。領海内で安全装置を外した敵の艦影は更に朧げになっている。
八重山日報2年5月高洲丸(左端)を追尾する中国公船(右から2隻目.png

「この法律が国際法に反する形で適用されることがあってはならない。現場に与える影響を含め、中国海警局をめぐる動向を高い関心をもって注視する」

茂木外相は1月29日の定例会見で、そう述べた。定型句の“見守り発言”で、国際法に違反したifケースを牽制するに留まり、強い批判になっていない。王毅会談の失点を取り返す気概はない模様だ。
▽定例会見の茂木外相1月29日(日経)
日経記者会見する茂木外相(29日、外務省).png

一方、この会見後、岸防衛相らが参加するNSC4大臣会合が首相官邸で開かれたという。尖閣防衛の法整備も再燃する中、注目の動きだ。政府・与党間での早急な詰めの作業が求められる。

NSC大臣会合と閣僚定例会見の時系列が気になって、同日の首相動静を調べて愕然とした。4大臣の1人である麻生財務相の参加は5時27分から同33分の6分余り。岸防衛相の出入は記録にない。

参照:時事通信1月29日『首相動静』
▽タジク大使迎える国士・中西哲政務官R2年10月(外務省)
外務省20年10月タジク大使迎える中西哲政務官.jpg

菅政権の外交に関しては、国士の宇都隆史副大臣と中西哲政務官が脇を固めたことで期待値MAXだったが、雲行きが怪しい。今国会冒頭の施政方針演説からも「尖閣」の二文字は消えた。

加藤官房長官は演説内の「さまざまな懸案」に尖閣が含まれると説明する。しかし外交・国防問題では、あらゆる機会を捉えて繰り返し言明することが重要だ。言葉がなければ行動もない。
▽施政方針演説を行う菅首相1月18日(産経)
産経118施政方針演説を行う菅義偉首相.jpg

中共が1月22日に内外に宣告した“海警法改正”は、尖閣諸島を中心にした東シナ海、そして南シナ海の状況を大きく変える。中共指導部の一存で兵器が使用され、漁船及び海保巡視艇を重大な危機に晒す。

尖閣沖で操業する漁船への追尾は昨年激増し、1月14日にも1人乗りの小型漁船が異常接近される事態が起きている。その日は石垣市が定めた「尖閣諸島開拓の日」で、明らかな見せしめだった。
▽「尖閣諸島開拓の日」式典会場1月14日(NHK)
NHK「尖閣諸島開拓の日」.png

そして接続水域常駐ではなく、領海侵入が常態化している。尖閣周辺海域の衝突リスクは11年前の比ではない。

【CCP中央軍事委隷下の“海の武警”】

「中国公船1隻が同日午前に尖閣周辺の領海に入り、航行中の日本漁船1隻に接近しようとする動きをみせた」(1月14日付け日経新聞)

産経も含めてメディアでは「公船」という呼び方が定着した。侵犯船事件の頃は「監視船・巡視船」と表現するケースが多かったが、事態が悪化する中で敵側の正体は曖昧になる一方だ。

「自分の家に侵入してくる強盗を『公務の役人』と呼ぶことに等しい」
▽接続水域に侵入した大型武装艇(海保file)
接続水域に侵入した大型武装艇(海保File).jpg

定着した「公船」表記について、古森義久さんは痛烈に批判する。公船とは、政府・自治体に属して公用に供される船舶を指す。主権侵害を受ける我が国が「公船」と呼称することは不適切だと訴える。

「いかにも正当な公務を執行する政府当局の船という意味にも響く」

腑に落ちる見解である。その上で「中国の武装艦艇」と呼ぶ。以前から中共の武装艇などと連呼していた筆者としては少し嬉しい。また自民党の有村治子参院議員も「公船」に異議を唱える稀な政治家だ。

「辞書でも『法執行船」という解説が明記され、あたかも中国が主権・管轄権を持っているニュアンスが出てくる」
▽尖閣防衛にも熱心な有村議員(Facebook)
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有村議員は、内閣府や外務省などに掛け合ってきたが、反応は思わしくない。「公船」表記は、メディアだけの問題ではなく、国交省や海保、即ち日本政府が率先して用いているのだ。

従来、中共の武装艇を「公船」と呼ぶことに明確な誤りはなかった。しかし、習近平指導部は’18年7月に海警を国務院・公安部から切り離し、党中央軍事委員会の直轄に組み入れた。
▽軍事委工作会議で指示するプー19年1月(新華社)
新華社19年1月軍事委工作会議で演説するプー.png

所属も運用も政府ではなく、党である。この性質は、党の私設軍隊である中共軍が国軍扱いされる我が国で理解が深まるか疑問だが、公船と呼ぶには無理がある。政府の法執行機関とは明確に区別すべきだ。

侵犯船事件後に尖閣周辺で威嚇航行を繰り返した大型の漁政シリーズは、農業部漁業局に所属していた。当時から中共海軍と密接だったが、現在は「海の武警」に他ならない。
▽農業部の漁政シリーズも大型だった’10年(file)
農業部の漁政シリーズも大型だった’10年(file).jpg

専門家によるとメディア等が用いる所属先の「海警局」は対外的な呼称で、正式名称は「武警海警総隊」だと言う。海警局が飾りの偽看板ならば、誤った報道が垂れ流し状態になっている。

参照:笹川平和財団HP’19年3月『中国海警局(武警海警総隊)と海上保安庁(PDF)』

いずれにしても我が国の海保や台湾国の海巡署とは全く異なる。尖閣で領海侵犯を続ける武装艇は、海上警察でも准軍事組織でもない。CCP央軍事委が率いる第2海軍の艦艇だ。

【南シナ海を遊弋する中共第2海軍】

「学者たちはチャイナの『第2海軍』承認が地域の緊張を高めると懸念している」

米議会系のRFAは1月28日、中共の“海警法改正”に関する記事で、そう伝えた。どの国の学者が「第2海軍」と指摘したのか判然としないが、意外にも時事通信が記事タイトルに盛り込んでいた。

参照:時事通信1月23日『「第2海軍」尖閣に脅威 世界最大の沿岸警備機関―中国海警局』

この記事では、海警総隊トップが中共海軍少将から横滑りした王仲才で、軍との一体化が進むと指摘。また2年前の記事では「中国メディアが『第2海軍』と呼ぶ」と報じている。
▽東海艦隊副参謀長時代の王仲才(人民日報)
東海艦隊副参謀長時代の王.png

環球時報あたりだろうと検索して見たが、該当する記事は英文でも中文でも発見できなかった。ただし、遠洋に出没する中共コーストガードを「第2海軍」と捉える見方は決して新しいものではない。

「PLA幹部から、海軍と海警局は連携していないとの話を多く耳にするが、それは全くの嘘だ」
参照:ロイター’14年3月6日『焦点:中国監視船は「第2の海軍」か、規模拡大で近隣国の脅威に』

今から7年前に遡る’14年春当時の米海軍大佐の発言だ。フィリピン外務省がジョンソン南礁の埋め立て写真を公開し、世界に衝撃を与えたのが同年5月である。
▽ジョンソン南礁の要塞建設'15年(比外務省提供)
ジョンソン南礁の要塞建設'15年(比外務省提供).jpg

この時点で既に中共は海軍艦艇をスプラトリー方面に派遣し、急ピッチで人工島建設を造成。ハーグ仲裁裁判所に審判を求めたアキノ前政権が歴史戦で勝利するが、中共は無視し、洋上要塞が完成した。

「開かれた南シナ海に於いて、この海警法は戦争の脅しだ。抵抗しなければ屈服したと見做される」

比外相は1月27日、そう述べ、外交ルートを通じて中共に抗議したことを明かした。スプラトリー諸島周辺では、中共海軍艦艇が侵攻しているが、武器使用宣言後に海警艦艇も動きを活発化させている。
▽比・パグアサ島の児童ら’15年頃(file)
パグアサ島のこどものコピー.png

比西岸沖のパグアサ島周辺に大型の「海警5013」が展開。1月25には漁船を威嚇し、排除する動きに出た。パグアサ島は児童も多い南洋の楽園だったが、対中共防衛の最前線となって数年が経つ。

南シナ海には海上民兵も派遣され、各国の漁船を駆逐する。一般的に海上民兵は今でも漁民扱いで、武装した海警艦艇も沿岸警備の警察力とされた。だが、それらは偽りの姿でしかなかったのだ。

【警官コスの軍隊に騙される世界】

「1隻は機関砲のようなものを搭載」(1月31日付け産経)

海保発表をベースにした紋切り型の報道が続く。実際には「〜のようなもの」ではなく、即時対応可能な機関砲だ。海保の巡視船も機関砲を搭載していることから「標準装備」とする意見もあるが、違う。

中共は武器使用宣言に先立つ1月6日、改修した「海警2501」の写真を公開。新たに76ミリ速射砲を設置し、軍用レーダーを搭載したとの説明を添えた。
▽艦隊を率いる「海警2501」1月6日公開(日経)
日経中国海警局の艦船「2501」(手前)。甲板に「76ミリの速射艦砲」とみられる武器を搭載している(「微信」の公式アカウントから、共同).png

海自幹部によると76ミリ砲は、敵艦船や航空機・ミサイルを破壊する有力な艦砲で、多くの海軍駆逐艦・フリゲートの主砲だという。写真では両舷に2門搭載しているように見える。

昨年5月、尖閣沖で与那国の漁船「瑞宝丸」が中共武装艇4隻に威嚇・追尾される事件が発生した。この時に異常接近した1隻が「2501」だった。比較するとブリッジ上に違いが認められる。
▽「瑞宝丸」を威嚇する「2501」R2年5月(産経)
尖閣諸島周辺の領海で日本漁船を追尾した中国海警局の船=5月10日産経.jpg

重武装化に加え、お家芸の物量も問題だ。中共指導部は尖閣侵犯船事件の前から“巡視船”の大型化を推進。排水量1,000tを超す艦艇は130隻以上に達し、1万t級も「海巡09」就役で3隻態勢となる。

「世界で圧倒的に最大の沿岸警備部隊」

昨年の米ペンダゴン年次報告書は、そう記して「事実上の軍事組織化」と指摘した。米では沿岸警備巡視艇=軍艦とされ、我が国の「公船」報道でイメージされる法執行機関とは大きな認識の差がある。

参照:東洋経済12月24日『尖閣周辺の領海を侵犯する「中国海警」の正体』

2008年のラサ大虐殺では、中共軍(PLA)が市内に侵攻し、主な僧院を包囲した。だが、実際に虐殺行為に手を染めたのは、武警部隊だった。「暴動を鎮圧する警察」という騙し絵である。
▽ラサ市内に展開する中共軍部隊’08年(AFP)
AFPラサの中共軍08年.png

現地から流出した画像等を元に下手人が軍なのか武警なのか、慎重に検証した。その際、弾圧組織の厳密な識別は「北京の術中の嵌っているのではないか」との有り難い注意を受けた。

六四天安門大屠殺での軍投入が国際的な批判を浴びた反省で、中共指導部は「軍隊ではなく警察だ」とする外向けの言い訳を考案した。同じ水平射撃でも警察力の行使について諸外国は介入しづらいのだ。
▽香港弾圧向け深圳に集結した武警部隊’19年(ロイター)
ロイター19年8月深圳の武警.jpeg

そうした詐術が海上でも本格化している。平成28年に中共海軍の情報収集艦が口永良部島沖の領海に侵入。この時、我が国は抗議したが、昨年88件に上った尖閣の領海侵犯事件では遺憾砲すら響かない。

「法執行船」の侵犯であれば当然、海上警備行動の発令もない。中共に“警察擬態”に騙されているのではなく、我が国も「公船」と呼称することで、国民を曖昧なグレイゾーンに導いているのではないか…
▽海警と対峙するインドネシア海軍20年1月(ロイター)
ロイター20年1月11日、南シナ海でインドネシア海軍と睨み合う中国海警船.jpg

国防政策はリアリズムの極北で、僅かな印象操作も許されない。中共の軍事プレゼンスが高まる中、緊迫する現場海域と永田町・メディアの温度差は開くばかりだ。そこに本当の危機が潜む。



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参照:
□外務省HP1月29日『茂木外務大臣会見記録』
□海上保安庁HP『尖閣諸島周辺海域における中国海警局に所属する船舶等の動向と我が国の対処』
□海自幹部学校HP平成27年9月18日『防衛駐在官の見た中国(その22)-中国海警は第2の中国海軍-』
□笹川平和財団HP令和2年11月17日『中国海警も中国共産党の軍隊である』
□有村治子参院議員Facebook1月13日『尖閣諸島、中国「公船」と呼ぶべきでない明確な理由』

参考記事:
□Japan-In-depth1月6日『中国「公船」という呼称止めよ(古森義久)』
□JB Press1月28日『牙を剥く中国、「海警法」のとんでもない中身(福島香織)』
□JB Press1月28日『これで日本が何もしなければ「尖閣はもう終わりだ」(北村淳)』
□東洋経済12月24日『尖閣周辺の領海を侵犯する「中国海警」の正体』
□産経新聞1月30日『比とベトナム、中国海警法に猛反発 「戦争を仕掛けるという脅迫だ」』
□産経新聞1月29日『中国海警法「国際法に反する形、あってはならない」 茂木外相が牽制』
□NHK1月29日『政府 NSCの4大臣会合 尖閣諸島含む東アジアの安保情勢を議論か』
□日経新聞1月22日『中国の海警局「準軍事組織」に 新法で位置づけ明確化』
□日本.com(時事)’19年2月21日『中国「第2海軍」、増強継続=尖閣の緊張常態化』
□時事通信’20年5月17日『尖閣、挑発緩めぬ中国 軍艦並み、巨大公船も警戒―「グレーゾーン」対処課題』
□RFA1月28日『中国海警法允许动武 台学者:北京在刺激全世界』
□JB Press’12年3月30日『中国は第2の海軍をつくるのか、海上の衝突に対処する「沿岸警備隊」構想』

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