金正男が待つ虚像の搭乗口…隠滅された在日暗躍の記憶

暗殺成功に金正恩は小躍りし、習近平は胸を撫で下ろす。女2人組にダミー説も浮上する一方、メディアは虚像を拡散。“ミッキー大好きおじさん”と朝鮮総連の裏ビジネスは再び闇に埋もれる。
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余りにも手際の良い短時間での処理だ。暗殺対象に背後から忍び寄る女2人組。1人がスプレーを顔面に吹きかけ、もう1人がハンカチで鼻と口を塞ぐ。時間にして約10秒の早業だったという。

「多くの旅客が体調を崩してカウンターを訪れる。まさかそれが事件だとは誰も思わなかった」

空港職員は、そう述懐する。同時に、犯行には誰も気付かず、業務に支障はなかったとも語る。事件が起きたのは2月13日午前9時頃で、クアラルンプール国際空港の出発ロビーは混雑していた。
▽KL国際空港の出発ロビー2月15日(AFP)
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公衆の面前で、2人組の女が男を襲うという大胆な犯行手口だ。大騒ぎになっても不思議ではない。しかし、空港内にあるカフェの従業員も、何が起きたか知るのに時間が掛かった。

「警察が集まりだして、初めて事件に気づいた」

マレーシア警察は、被害者が急死したことを受け、慌てて事件性の有無を調べる為、現場検証を初めたと見られる。そして、急死した人物が、金正日の長男・金正男であると判明するのは更に後だ。
▽襲撃現場の自動チェックイン機前(EPA)
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男が所持していた北朝鮮のパスポートには「キム・チョル」という偽名が記され、生年月日も違った。死亡確認から最初の報道が出るまでタイムラグは1日以上。当局側の混乱が透けて見える。

ただ、殺された男が金正男である可能性が浮上した後、捜査当局の動きは素早かった。防犯カメラから容疑者と見られる2人の女を割り出し、16日までに相次いで逮捕した。
▽事件後にタクシー待つ容疑者(防犯カメラ)
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「韓国人に見えるが、調べには終始英語で応じている」

容疑者について捜査当局の関係者は、そう語る。容疑者のパスポートはベトナムとインドネシア。このうち、インドネシア外務省は、実在する国民であると発表した。

北朝鮮は’87年のKAL機爆破テロで、2人の工作員に日本の偽造パスポートを持たせた。今回も同じ手口が指摘されたが、金正恩は過去の失敗体験から学んでいるだろう。
▽KAL機テロで拘束された金賢姫(file)
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3代目による異母兄暗殺計画は巧妙で、女2人組の襲撃そのものがダミーだったとする新説も浮上している。

【致死毒の“空港ドッキリ”】

「悪ふざけをしよう」

最初に逮捕された28歳の女は、男4人から、そう持ち掛けられたと供述している。捜査当局が容疑者グループと見る男4人組との関係は金銭授受以外判然としないが、実行犯役として利用された可能性が高い。

「イタズラを撮影する目的でマレーシアに来た」「殺人とは知らなかった」

取り調べに対して女は、相手を殺すつもりなどなかったと話す。軽いノリで“空港ドッキリ”に参加した印象すら覚える。元北朝鮮幹部も実行犯の行動に疑問を持つ。
▽移送される容疑者の女性2月16日(CCTV)
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「工作員ならば犯行後に逃避するか自殺するハズだ」

KAL機爆破テロ犯の2人は身柄確保の寸前に迷わず服毒自殺を図った。ところが、逮捕された女は襲撃後、変装も顔を隠すこともせず、タクシーに乗って宿泊先のホテルに戻っていた。
▽ホテルに入る容疑者の女性2月12日(共同)
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捜査当局が物証に関して発表を控えていることも不自然だ。女2人組が使ったと供述するスプレーとハンカチは、どこに消えたのか。致死毒の残留物が検出される大事な物証である。

「口から泡を吹いており、典型的な毒殺だ」

複数の南鮮政府関係者は、猛毒のVXガスが使用された可能性を指摘する。VXはオウム真理教&北工作員伝統の準備する神経毒。皮膚接触や吸気で呼吸停止に陥り、死に至る。
▽供述に基づくドッキリの図(時事)
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スプレー噴射した場合は使用者側も被害を受け、ハンカチで口を塞げば、掌から吸収される。だが、実行犯の女2人組は無事だった。我が国の公安関係者も首をかしげる。

「居合わせ得た空港利用者などに巻き添えを出しかねず、危険な手法だ」

新たに襲撃直後、正男が平常だったという情報も出てきた。女2人に襲われたが異変はなく、トイレに立ち寄ってから体調が急変。近くの案内カウンターで救けを求め、その場に倒れた。
▽助けを求めた案内カウンター2月15日(AFP)
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女2人組の襲撃はダミーで、別の人気の少ない場所で本物の毒を打ち込まれた…初期報道に登場した「毒針」が正しく、特定された容疑者グループ全員が囮である可能性も捨て切れない。

【二重三重の諜報員包囲網】

事件から丸2日、金正男の司法解剖が続くクアラルンプール市内の病院に1台の黒塗り高級車が滑り込んだ。都内の朝鮮学校にも翻る旗。外交官ナンバーを付けた北朝鮮大使館の公用車である。
▽病院を訪れた北朝鮮公用車2月15日(AP)
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意外だった。正男暗殺に関して金正恩政権は、沈黙を貫くとの観測もあったが、在マレーシアの北大使館職員は果敢にも病院に突撃。遺体を引き渡すよう9時間に渡ってゴネたという。

通常、自国民が殺された場合、大使館側は現地捜査機関に対し、犯人確保を急ぐよう要請する。だが北大使館員は何も訴えない。これでは暗殺シナリオを描いたのが自分達だと告白しているも同然だ。
▽病院に居座る北大使館員ら2月15日(共同)
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「私と私の家族を助けてほしい」

2012年4月、正男は異母弟に向け、助命嘆願の手紙を送ったという。ソースは南鮮情報機関。どんなチート技を駆使すれば、ハイレベルの書簡文面をキャッチできるのか…眉唾である。
▽北京で発見された金正男’07年(代表)
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それでも金正恩が3代目就任直後から、異母兄の抹殺を企てていたことは確実だ。後継者問題が取り沙汰される中、晩年の金正日は“血統継承”を強調。党機関紙も、こう宣伝した。

「白頭血統の輝く継承の中で、主体革命の揚々たる伝導がある」

中世風の古びた王朝。そこに屈折した儒教文化が加わり、長男が圧倒的な優位性を保つ。中共のバックが有る無しに拘らず、金正恩政権にとって異母兄は生まれながらの政敵だった。
▽1981年当時の金正日と正男(時事)
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金正日の誕生日を直前した暗殺実行は偶々で、そこに大きな意味はないと見る。金正恩はチャンスを窺い、ガードの手薄な東南アジアで予てからの計画を実行に移したのだ。

平壌が金正男のパスポートを失効させなかったのも、移動先の国で狙う為だったのではないか。金正恩に睨まれる一方、正男が北朝鮮旅券で諸国漫遊を続けられるという矛盾も今回の暗殺で解消した。
▽マカオで記者に挨拶する正男’10年(AP)
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だが、本当に正男が護衛を一切付けていなかったのか、疑問は残る。まず、南北朝鮮の工作員が徹底追跡。それを取り巻く形で、欧米及びロシアのエージェントが周辺に居たと推測する。

正男暗殺関連の報道は情報が錯綜し、犯行状況も二転三転しているが、理由は報道各社が各国エージェントの情報を間接的に伝えている為だ。明示できないソースを多用した結果、混乱に拍車が掛かった。
▽病院に殺到する各国報道陣2月15日(AP)
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その中で最も見え難いのが、中共エージェントの動きだ。習近平指導部は、ボディガード兼監視要因を派遣していた。しかし、影は全く見えない。

【金正恩が握る「必殺カード」】

放蕩息子さながらに平壌を離れたナゾ長男・金正男は、2007年1月から頻繁に報道陣の前に姿を現すようになる。BDAマネーロンダリング問題を巡り、米朝金融交渉が緊張する最中であった。
▽撮影でポーズ決める正男’07年(読売)
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我が国を始め海外の記者が、相次いで正男の激写(死語)に成功、コンタクトを取った。仕込みである。当時、読売新聞は正男移動情報の入手先を明かしていた。

「在香港の複数の外交筋」

ワンクッション置いているが、中共当局からの案内だ。胡錦濤指導部は、正男を後継者に据えることを目的にイメージ戦略を行い、在日新華社系メディアは、悪質なヤラセ報道まで行った。
▽カメラ回してたら金正男にバッタリ(TBS)
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参照:H19年2月15日『反日TBSの心理トリック…金正男“独占”でも不審点』

この時、既に金正日は3代目襲名は正恩と決めていた。中共は飼い馴らした正男の脱落に慌て、必死に“売り込み”を続けたのだ。しかし、金正恩政権の誕生で、中共のキャンペーンは閉幕する。

屠殺鬼・胡錦涛を引き継いだ便所前・習近平が、半ば用済みの正男をどう取り扱っていたのか…それが、暗殺事件の鍵を握る。中共指導部は正男の護衛サービスを意図的に削減縮小したのではないか?
▽処刑宣告で連行される張成沢(KCNA)
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決定的だったのは’13年末の張成沢(チャン・ソンテク)処刑だ。正男は張成沢と親しく、その妻で金正日の妹・金敬姫と頻繁に連絡を取り合っていた。

正男がマレーシアに拠点を持っていたのも、同国の北朝鮮大使・張勇哲(チャン・ヨンチョル)が張成沢の甥だった為である。幼い孫娘に至るまでの容赦ない一族抹殺。張勇哲も本国召還後、処刑された。
▽前大使が処刑されたKLの北大使館2月15日(地元紙)
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2月13日に起きたKL空港事件も、その延長線上にあると考えれば、犯行動機も理解が早い。同時に、中共指導部は正男の暗殺リスクが高まっている状況を的確に把握。では何故、守り切れなかったのか…

金正恩が命を狙う一方で、習近平にとっても正男は、不都合な事実を知る厄介者だったのだ。

【暗黒プリンスと在日の固い絆】

「北朝鮮の複数のUN安保理決議違反に対して、断固たる国際的な対応を主導することで一致した」

独ボンで開催れた日米南外相会談で、3カ国は「最も強い言葉」で北朝鮮のICBM発射を非難した。会談では拉致事件に加え、金正男暗殺に関してもテーマになったという。
▽北朝鮮が発射した新型ICBM(朝鮮中央TV)
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KL空港事件前日の2月12日、北朝鮮は日本海に向けてICBMを放った。昨年、発射された新型SLBMを地上発射式に変えた「KN-11」。固体燃料で即時発射も可能な脅威の出現である。

南鮮の政情大混乱が続く中、北朝鮮は過激な軍事オプションを選択しないとの予想もあったが、外れた。怒り心頭なのは、南鮮へのTHAAD配備阻止で焦る習近平だ。
▽ダボス会議で失笑買った便所前1月(AP)
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既存メディアは沈黙するが、金正恩が中共に対しても強気な理由は、巨大インパクトの隠し玉を持っているからだ。そこに正男も絡んでいる。

金正恩は張成沢を処刑する前、ビジネスに絡んだ極秘情報を入手した。張成沢が取引していた相手の詳細情報だ。舞台は北支から旧満州エリアで、主要な取引先は中共幹部や幹部系列の企業だった。
▽反腐敗強化を謳った6中全会’16年(大紀元)
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このラインに習近平の子分筋が多数乗ってくる。ライバルの江沢民派は上海・広東の一帯が根城で、旧満州エリアは「化外の地」だ。自然と共青団や太子党の影響力が強い地方となる。

金正恩が“張成沢カード”を切れば、反腐敗闘争を展開中の習近平は致命的な打撃を受ける。戦々恐々の北京と余裕綽々の平壌。中共関係は、現政権下で過去にない逆転状態に変化した。
▽ICBM発射時のマンセー寸劇2月12日(KCNA)
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一方で、張成沢ビジネスの深層まで知り尽くした正男の死は、習近平にとって好都合でもあった。積極的に守りVIPではなかったのだ。暗殺の一報を受けて習近平は少しだけ胸を撫で降ろしただろう。

そして、安心した連中は我が国にも大勢居る。かつて正男と裏ビジネスを行ってきた朝鮮総連幹部と在日商工人だ。正男は初来日した平成2年以降、偽造パスポートでの入国を繰り返した。
▽VIP待遇で成田発つ金正男H13年(ロイター)
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覚醒剤に賭博業、土地転がし…ドス黒いディープ情報が飛び交い、公安も徹底マークで共謀する在日勢力を割り出したとされるが、結局、闇ビジネスが表に出ることはなかった。

「自国の防衛の為には当然だと思う」

正男が我が国のミサイル防衛を擁護したことがあった。親日的な発言から、一部ではマサオの愛称で呼ばれるなど根強い人気も誇る。確かに報道陣の前に現れる正男はミッキー好きのゆるキャラに見える。
▽独占取材に応じる正男’09年(ANN)
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平成13年の密入国発覚の際も、メディアは東京TDL訪問をクローズアップしつつ、闇ビジネスの裏人脈には触れなかった。これも在日勢力との関係を意図的に隠す、印象操作の一環だった。

’90年代の我が国で正男が、どう暗躍し、在日暴力団や総連幹部の誰と共謀していたのか…その衝撃的な最期をもって、過去の暗黒面が暴かれる可能性は殆どなくなった。全てが闇に埋もれる。

確実なのは、金正男が命を絶つ一方で、暗黒ビジネスに手を染めた在日商工人の多くが今も我が国で、のうのうと暮らしていることだ。



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【side story】

初期の頃から、金正男に関してはマメに追いかけてきたような…最古のエントリを探してみたら、タイトルが思いのほか酷かった。

参照:H19年2月1日『希少動物・金正男を捕獲…運命の米朝ヤミ金融道』

今振り返っても、2004年の北京空港発見から3年間での変化が著しいというか不自然。影武者説は飛躍し過ぎている感じだけど、暗黒ビジネス界にどっぷり浸った男が、どんな暮らしをしたら短期間で絶妙なスマイルを見せられるようになるのか、疑問は尽きないが、それはそれで合掌。

参考記事:
□産経新聞2月16日『浮かび上がる多国籍の犯行グループ 女は「殺人とは知らなかった」と供述 真の実行犯が別に存在する可能性も』
□時事通信2月15日『金正男氏の遺体引き渡しへ=「請負殺人」見方も-マレーシア国籍男も逮捕・暗殺事件』
□産経新聞2月17日『「100ドルで誘われた」 インドネシア人の女が供述 「いたずらビデオへの出演持ち掛けられた」「何度もリハーサル」と殺意を否定』
□ NHK2月16日『キム・ジョンナム氏 神経性毒ガスで殺害か VXの可能性も』
□産経新聞2月15日『正男氏はカウンターで助け求めた…家族待つマカオ行きに搭乗前、旅客行き交う中での凶行 クアラルンプール国際空港ルポ』
□産経新聞2月15日『「私や家族を助けて」 正男氏は弟・正恩氏に命乞いの手紙を送っていた 韓国情報機関「2012年にも暗殺計画」』
□DailyNK2月16日『金正男氏、常にボディーガードを連れていた』
□毎日新聞2月16日『日本政府が情報収集 偽造パスポート懸念』
□東亜日報2009年2月17日『金正日総書記67歳の誕生日、「血統継承」を強調』
□月刊「新東亜」2001年10月号『(全訳)金正男の日本内の拠点「丸金ビジネスホテル」の秘密』

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