南シナ海を覆う「九段線」…失われた帝国の妄想版図

中共が南シナ海侵略を正当化する謎めいた「九段線」とは何か? そこには衰亡した帝国の曖昧な版図が隠されていた。シルクロードの砂漠と南洋の珊瑚礁で起きている問題の根は同じだ。
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「釣りをしていただけだ」

取り調べに対し、拘束されたシナ人集団は口を揃えて、そう言い切った。密猟が発覚した現場は、海南島から約1,200㌔も離れたフィリピン西部パラワン島の沖合。シナの釣客が気軽に行ける場所ではない。

フィリピン沿岸警備隊は5月6日朝、パラワン島沖約100㌔のハーフムーン礁周辺で、シナ密漁船を拿捕。“釣り船”には、500頭ものウミガメが積まれていた。ワシントン条約で保護された絶滅危惧種である。
▼密漁船で発見されたウミガメ5月(AFP)
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純粋な法執行だ。フィリピン検察庁は5月12日、未成年の2人を除く11人のシナ人を野生動物保護法違反で起訴した。密猟犯には最大で20年の禁固刑が科せられるケースもあるという。

これに対し、中共側は発狂している。密猟事件を棚に上げ、ハーフムーン礁の管轄権は中共にあると絶叫。党宣伝機関は「武装集団に漁船が襲われた」などと事実を捩じ曲げて事件を煽り立てた。
▼拘束されたシナ密猟者5月(ロイター)
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逮捕・勾留の流れは、尖閣侵犯船事件と類似している。中共の怒りを恐れ、犯人をVIP待遇で帰したのが、仙谷由人だった。その腰抜け無法ぶりと比べ、フィリピン当局は断固として国内で裁く構えだ。

ただし、中共のシナリオ通りに事態が進行しているようにも見える。2012年のルソン島沖スカボロー礁侵略は、シナ漁船8隻の一斉拿捕が切っ掛けだった。
■スカボロー礁の攻防2012年(共同通信)


中共は艦船を南進させ、スカボロー礁周辺海域に軍事侵攻。わずかな期間で武力支配を確立した。そしてスプラトリー諸島の一部とともに「海南省三沙市の行政区域」と内外に宣告して世界を唖然とさせた。

漁船の“トラブル”を理由に一帯を武力制圧する手口は、中共による「海の侵略」の典型パターンだ。今回も拿捕前日に現場北方ではミサイル護衛艦など多数の中共海軍艦船が確認されていた。
▼比パラワン島沖のハーフムーン礁(wiki)
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2年前と同様に国際社会が見て見ぬ振りを続ければ、ハーフムーン礁にも五星紅旗が突き立てられる事になるだろう。

【旅券に描かれた謎のライン】

「バスタブで暴れる竜」

南シナ海の支配を強める中共について、米カーネギー財団の上級研究員は昨春、そう指摘した。大陸と島々に四方を囲まれた南シナ海は、確かに地図上でバスタブに見えなくもない。言い得て妙だ。

図体ばかり大きくなった中共海軍が限られた海域で暴れ、藻掻く。その横暴の背景に控えるのは、独り善がりで仄暗い歴史認識だ。尖閣諸島に関する中共の無謀な主張とも重なる。
▼南シナ海に垂れた赤い舌(RFA)
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南シナ海の領有権をめぐる中共の歪んだ言い分を一部メディアは「赤い舌」と表現して伝えた。これは3年前のエントリで「牛の舌」として紹介したものと同じだ。

参照:23年6月18日『尖閣に連なる南シナ海侵攻…中共6・17上陸計画の波間』

当時はRFAの解説記事に僅かに登場する程度のマイナーぶりだった。ほんの数年前まで第一列島線・第二列島線が、決して報道のメーンストリームで使用されなかったケースと似ていて、隔世の感がある。

インドネシア北部沖まで垂れたラインは、だらしない舌に見える。この異様な舌の存在が一躍脚光を浴びたのは2012年11月だった。中共が発行した新パスポートに「舌」が描き込まれたのだ。
▼中共新パスポートの問題ページ
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パラセルもスプラトリー諸島もすっぽり「舌」に覆われている。関係国の入管がスタンプを捺すことは所有権の放棄と見なす…そんな悪意が込められたもので、ベトナムやフィリピンは当然、一斉抗議した。

このプロパガンダ旅券問題は、欧米でも注目を集め、新たな疑問が生まれるに至った。このラインは何を根拠にしているのか? よく見ると赤い線は一本繋がりではなく、複数の破線で構成されている。
▼中共が主張する南シナ海の境界(WSJ)
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南シナ海に描かれた破線は、全部で9本。これこそが、中共が南シナ海の各諸島を自国領とする根拠の「九段線」だ。英語では「’nine-dash’ line」と呼ばれ始めている。

「地図作成者は規模と正確さを尊重するが、九段線は正確な位置を示していない。太くて黒いマジックペンで書き足されたように見える」

米WSJ紙は今年4月、北京発の記事で、そう指摘した。アフリカや中東に直線の国境を引きまくったヨーロピアンの子孫ならずとも、適当で少し自信なさげの「破線」には違和感を覚えるだろう。

実際に「九段線」はひどく曖昧で、国際社会で認められるようなものではない。同時に、それは中共によるチベットや東トルキスタンの侵略支配、更には尖閣とも重なる大きな問題を暴き出す。

【衰亡した帝国の幻の版図】

「中国でくすぶり続ける分離独立運動は、流動的な帝国の国境と領土を近代国家が維持することで生まれる宿命的な『軋み』とも言える」

産経新聞の西見由章記者は、ウルムチ爆発事件の解説記事で、そう論じた。非常に重要な指摘だ。中共は、過去の帝国の版図に東トルキスタンを重ね合わせ、植民地支配を正当化している。
▼中共が侵攻した比・スカボロー礁(file)
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ここに、シルクロードの砂漠と南洋の珊瑚礁が繋がる。チベットを含む中央アジアで起きている弾圧と南シナ海の軍事的緊張は、同じ根を持っているのだ。

中共が侵略プロパガンダとして用いる「九段線」の歴史は、大東亜戦争直後に遡る。長い歴史ではなく、ほんの最近のことだ。そこまでしか遡ることが出来ないのである。

中華民国政府が1947年12月に作成した南シナ海の地図に11本の破線が描かれた。そして蒋介石を追いやった中共は1953年、2本を削除し、破線9本に下方修正。今に続く「九段線」が誕生した。
▼1947年作成の民国版「十一段線」(wiki)
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細かいことだが、中共がデリートした2本は、ベトナム北部トンキン湾に引かれたラインと台湾国東部から八重山諸島に延びるものだ。残った9本も旧版とのズレが激しく、最初から適当だったことが分かる。

蒋介石政権が描いた「十一段線」は、清朝時代に南シナ海を南海と呼んでいたことを根拠にしている模様だ。満州人の王朝が妄想した版図をそっくり借用。更に中共が継承し、自国の“領海”と言い張る…

近代以前の曖昧な領土・領海を中共は都合良く解釈し、今の国際社会に対し、所有権を主張しているのだ。そのレトリックは、清朝の支配下と見なされたチベットなどに対しても悪用された。
▼ダライ・ラマ5世を懐柔した清の順治帝
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帝国主義を批判しながら、中共は滅んだ帝国の版図を自国のものと決め付け、武力で制圧。矛盾した態度だ。東トルキスタンの暴政も南シナ海の侵略も、この失われた帝国の不明瞭な版図に起因する。

幻の帝国の版図を欲張る余り、図体のデカい竜は、南シナ海のバスタブで、そしてシルクロードの砂漠やチベットの高原で暴れ続けている。

【九段線が暴く支那捏造史】

「九段線によるいかなる海洋権益の主張も国際法に合致しない」

今年2月、米国のラッセル次官補は下院外交委の公聴会で、そう語った。我が国のメディアは殆ど報じなかったが、米政府が初めて「九段線」を公式に否定する発言として注目を集めた。

「九段線」には、どんな国際法上の根拠があるのか? 中共にによる海の侵略が続く中、戦後体制は単純な疑問を一度として投げ掛けることがなかったのだ。
▼公聴会で発言するラッセル3月
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登場から60年以上が過ぎた今年になって初めて唱えられた「九段線」への異議である。中共は敏感に反応し、外交部はラッセル発言を「非理性的」と糾弾。そして、御用学者を通じ、珍説を披露した。

「九段線は1994年に発効したUN海洋法条約より40年以上前に出現している」

更に「九段線」の法的位置付けを海洋法に合致させようと求めることそこが「法の不遡及という国際法の原則に反する」と主張した。無謀すぎる屁理屈である。
▼米中外相会談で「九段線」提起とも2月(AP)
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その一方、依然「九段線」の歴史的根拠に関しては詳しく説明しない。大半が古地図にパラセルやスプラトリーの島々に漢字名が確認されたといったレベルのものだ。

数少ない具体例は、2年前のスカボロー礁侵略時に提示された。しかも中共政権が直接説明したのではなく、フィリピン在住の投資家による歴史講釈を引用したに過ぎなかった。
▼スカボロー侵攻に抗議するマニラ市民(2012)
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それは、尖閣領有の根拠として中共が日本の御用学者・井上清の“研究成果”を挙げた詐欺テクニックと同じだ。余談だが、中共外交部の推薦本を実際に呼んだ所、余りの杜撰さに腰を抜かした記憶がある。

参照:22年10月9日『中共ご推薦“尖閣本”の滅裂…悪霊にもならない御用学者』
▼北京に招かれた井上清:右端(1964年)
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「何がなんでも中国のものは中国のものだ」と書き連ねた井上清。対して、フィリピン投資家が説くスカボロー礁の領有根拠は、その斜め上を行く暴論だった。

「中国は1279年には既にスカボロー礁を発見し、地図に記載していた」

まず、主語に嘘がある。13世紀末は元朝時代だ。更に比投資家は、フビライに仕えていた天文学者が、スカボロー礁を測量の基準点にしていたと解説する。暴論以外の何モノでもない。
▼干潮時のスカボロー礁(file)
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中共は清朝どころか、元朝の版図を今の自国領としている…元はモンゴル人の帝国だ。清の満州人と違い、モンゴルは完全に別の国。フビライ帝の版図がイコール中共の領土・領海だと言うのである。

これはインド人が大英帝国の旧領地を自国領と主張するようなものだ。いったい地球上で何処の誰が納得するのか…
▼清朝時代の地図贈られた習近平3月(AFP)
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習近平指導部は今後も各国首脳に対し、安倍政権の歴史認識を「誤り」として講釈、非難する所存だ。それに、いちいち反駁する必要はない。我が国は徹底して中共の歪み切った歴史観を紹介し、糾弾すべきだ。

歴史的根拠を猛追及すれば、曖昧な「九段線」など瓦解・消滅する。

そして、中共への絶え間ない“歴史攻勢”は、南シナ海を越え、シルクロードの古い帝国の国境線にも新たな疑問を生じさせる事になるだろう。




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参考記事:
□産経新聞2月18日『南シナ海問題、米中で再燃 「九段線」で応酬』
□WSJ4月2日『中国が主張する南シナ海の「九段線」、フィリピンが挑戦状』
□時事通信ワード解説「九段線」
□イザ25年4月24日『「ここは俺さまの海だ」南シナ海は“巨竜”の聖域か』
□AFP2012年11月26日『中国の新パスポートの地図、南シナ海や台湾を自国領に 周辺国が一斉抗議』
□レコードチャイナ2014年2月10日『南シナ海「九段線」めぐる米国務次官補の発言に反論=中国の海洋権利は国際法の保護受けている―中国外交部』
□人民網2012年6月15日『フィリピンメディア「黄岩島は中国に帰属」』
□WSJ5月8日『ウミガメが火種に―中比の南シナ海領有権問題』
□産経新聞5月1日『中国新疆爆発 “帝国維持”軋む中国、爆発の底流 独立運動足元揺るがす(西見記者)』

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