飯島参与のアタッシュケース…外相級待遇に潜む毒と薬

待遇は予想を裏切る外相級だったが、ミサイル恫喝も忘れない。憶測と毒電波が乱れ飛ぶ“沈黙の飯島訪朝劇”。目立ち過ぎる謎のアタッシュケースが内外に疑心暗鬼を生む。
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「今回、訪問して真摯に長時間、会談ができました。それなりの判断材料のひとつとして、これから精査して考えたい」

5月17日夜、北京空港に到着した飯島勲内閣官房参与は、取り囲む記者団を対して答えた。飯島参与が公に語ったのは、それだけだった。北朝鮮側と突っ込んだ話し合いがあったのは確かだ。
▼北京空港に到着した飯島参与(共同)
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意表を突かれたのは、飯島参与がエア・チャイナで平壌から北京に戻ったことである。一日帰国が早まった可能性が高い。飯島参与は14日、高麗航空で訪朝した。北側の招待であれば復路も同じキャリアを使う。

帰りは18日土曜日朝の高麗航空151便と予想されていた。だが、その日、北朝鮮は東部沿岸から「KN-09」と見られる3基の短距離ミサイルを断続的に発射した。レンジは120㌔。日本海に向けて放ったのだ。
▼北の短距離ミサイル2010年(ロイター)
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常識が通じない北朝鮮でも、ミサイル発射が「祝砲」であるはずがない。牽制以上の意味を持つ。タイミングからも明らかな恫喝だが、安倍首相もすぐに応戦した。

「拉致問題は安倍政権のうちに解決しなければならない問題だ。全ての被害者の家族がお子さん達をしっかり抱きしめる事ができる日が来るまで、私の使命は終わらない」
▼視察先で答える安倍首相5月18日(FNN)
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改めて北側に釘をさすような強いトーンだ。また飯島訪朝の事前協議に加わった古屋拉致担当相も、圧力の継続を示し、具体的に金正恩の名前を出して日本側の基本的な立場を表明した。

「国際社会と連携し、北朝鮮包囲網をつくっていく。金正恩第1書記に全員の被害者を戻さなければ日本から支援を得られないということを分からせることだ」
▼街頭演説する古屋拉致担当相5月18日(産経)
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ミサイル連続発射で飯島訪朝が失敗したようにも見えるが、北朝鮮との交渉は毎度このようなものだ。互いに「圧力のカード」を切りながら探り合う。表と裏がは違う。実際、飯島参与は平壌で異例の待遇を受けていた。

【飯島参与のソファーセット】

「日本の映像では、金正恩…若き指導者…」

平壌での飯島参与の肉声を確認することができた。ほんの一瞬で、前後の内容は不明だが、飯島参与の口から「金正恩」という言葉が出た。更に、それを北朝鮮側は敢えて公開した。

日本側は金正恩を対話相手と認め、平壌の指導部は対北強硬派の安倍政権を対話相手に選んだのである。民主党の3代ゴミ政権とは全く異なる劇的な転換だった。
▼飯島参与&金永南の記念撮影5月16日(AFP)
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金永日に次いで出現したのは、金永南。報道各社は「北朝鮮ナンバー2」と表現しているが、対外的に「序列2位」扱いになっているだけだ。金正日のイエスマンで権力闘争とは無縁だった。

注目は、最高人民会議常任委員長という肩書だ。飯島参与が招かれた場所は、日本の国会議事堂にあたる万寿台議事堂。水面下の交渉では決して使わない。政府間の公式な外交ルートで用いる広間である。
▼万寿台議事堂での対面5月16日(KCNA)
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挨拶に続いて、ソファーでの対面。そこにも北側の姿勢が刻まれていた。過去にも同じ光景が見られた。例えば、2007年にイランからの訪問者と金永南が対面したケースのセッティングだ。
▼イラン外務次官と金永南07年1月(AFP)
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背景は違うが、ソファは同じだった。この時、金永南が対面したのは、イランのサファリ外務次官。外務省の事務方トップである。また“血の友誼”中共の外務次官・張志軍との対面も同じスタイルだった。
▼コロンビア外相と金永南12年6月
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3代目の新体制移行後は、コロンビアの外相と同じセットで話している。つまり、飯島参与は今回、外相級の扱いを平壌で受けたのだ。国交のない国としては、予想外の厚遇である。

ソウルも北京も、この扱いに肝を冷やしただろう。

【定期便に乗り込む隠密?】

「平壌の空港に降り立った時の飯島勲氏の面食らった様子が印象的だった」(5月18日付け西日本新聞)

複数のメディアが「隠密訪朝がうっかり露呈した」という論調を出した。北朝鮮の罠にハマったかのような報道だ。無知にも程がある誤った解読である。
▼平壌・順安空港での記念撮影5月14日
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飯島参与は、北京空港から高麗航空に乗り込んだのだ。中共当局は、週3便しかないツポレフの搭乗者を完璧にチェック。時々、平壌入りするイランの技術者が網に掛かったりもする。

小泉訪朝につながる田中均の極秘交渉は、シンガポールやクアラルンプール、大連などで行われた。第三国が舞台だ。飛行機で平壌入りすれば100%、中共当局にキャッチされる。
▼北京空港で囲まれる飯島参与5月17日(共同)
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そこから中共サイドに事前通告していたことも明らかだ。飯島参与が搭乗カウンターに並んだ時点で把握される。隠密行動などできない。外交上、30分前でも事前通告と認められる。

「接触が現在の朝鮮半島の緊張した情勢の緩和や、地域の平和と安定の維持に役立つことを希望する」

翌16日の中共外交部のコメントは、妙に当たり障りがなかった。米国も同じだ。我が国の外務省が「預かり知らない」と表明している中、他国の外務当局が先に知っていれば、深刻な矛盾が生じる。
▼慌てる6ヵ国協議責任者5月14日(ANN)
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南鮮には、国際回線の乱れなどで本当に通告しなかったかも知れないが、ご愁傷様としか言いようがない。安倍首相が派遣した切り札が、北で外相レベルの待遇を受けたのだ。事前通告云々の話しではない。

「目的や協議内容も知らずに、 第三者がとやかく言うことではない」

北朝鮮に牽制される始末。ちなみに、このコメントは北の謀略サイト「我が民族同士」に掲載されたものだ。アノニマスの侵入を許して“猪八戒ジョンウン”がいい味を出した例のサイトである。

【黒いアタッシュケースの自己主張】

飯島訪朝は途中で露見したものではない。北朝鮮側のカメラがある程度の映像を公開するのは織り込み済みだった。「官邸のラスプーチン」と呼ばれた男だ。あろうことか、逆に仕掛けてきた。

万寿台議事堂を舞台にした金永南との対面。テーブルには灰皿が据えられ、飯島参与は書類かメモのような物を手にしている。そして、腰掛けるソファーの脇には、アタッシュケースが置かれていた。
▼傍らに黒いアタッシュケース…5月16日
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平壌・順安空港に降り立った際も大事そうに抱えていたアタッシュケースだ。見るからにズッシリした印象…ほかの対面画像を見ても、私物を持ち込んでいるケースはない。意味ありげである。

案の定、このアタッシュケースの中身をめぐって推理合戦が始まった。安倍首相の親書、総連本部ビル絡みの書類、あるいは特定失踪者を含めた解放要求リスト…
▼平壌到着時の飯島参与5月14日
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謎が謎を呼ぶギミックで、飯島参与の仕掛けに見事にハマっている感じだが、公式な対面の場にまで持ち込んでいる姿は、確かに異様だ。更に、戻ってきた際の北京空港でも、さりげなく登場している。
▼北京空港の駐車場でも…5月17日(FNN)
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アタッシュケースの中身に、安倍首相の親書が含まれていた可能性は高いが、金正恩との接触を示唆する発言もない。飯島参与が特使だったのか否か、重要な部分である。

2010年に人質釈放でカーター元大統領が訪朝した。当初はオバマの特使と騒がれたが、直前になってカーターは親書の携帯を否定。特使扱いではなく、金正日とも会談をしなかった。
▼平壌市内でイルカショー観覧(KCNA)
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一方、飯島参与のケースでは、親書の存在をきっぱり否定する周辺情報はない。メディアだけではなく、関係各国を始め、野党に加えて自民党内も疑心暗鬼だ。真相は首相官邸と平壌中枢しか知らない。

北朝鮮との駆け引き、メディアを巻き込んだ情報戦が既に始まっている。

【金正恩29歳、テストを受ける】

訪朝が公になった14日夜の段階から「朝鮮総連の影」をちらつかせる報道が噴出した。中には、総連人脈が訪朝の決め手になったという情報まであった。相変わらず、怪しさ満点だ。

北朝鮮関連のメディア情報は、常に、ディスインフォメーションの嵐となる。今回は、本部ビルのダミー入札失敗直後とあって、総連との関連が取り沙汰された。
▼朝鮮総連本部ビル(file)
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情報戦を同時に仕掛けてきたのは、朝鮮総連サイドだ。5月15日付の機関紙は「飯島参与一行」という表現を使用。総連幹部を含む訪朝団だったかのような扱いである。

平壌の空港で、飯島参与に寄り添って歩く人物がいた。灰色のジャケットを着たビジネスマン風の男だ。取材陣の所まで案内していたが、ヤクザ丸出しの総連幹部には見えない。
▼到着した飯島参与をご案内5月14日(AP)
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そもそも最福寺が購入に失敗したのは5月10日。古屋拉致担当相が飯島訪朝の準備協議に加わったのは3月頃で、時間も動機も前後する。総連ビル処理が協議の一項目であることも確かだが、規模は小さい。

安倍首相は、北朝鮮との包括交渉に乗り出す。具体的には、平成20年8月に福田政権下で行われた日朝実務者協議のラインまで戻る。この時は、交渉で斎木昭隆審議官が拉致問題で押しまくり、いい線までいった。
▼協議を終えた斎木代表08年8月(共同)
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人骨売買がメーンテーマになった民主党政権下の政府間協議は黒歴史認定で無視だ。北の壺売りビジネスは本格交渉を睨んでボツ扱い、拙ブログの追及第3弾『有田芳生を外為法違反で逮捕せよ』もお蔵入りである。

日朝実務者協議ラインの復活は、正攻法の至極真っ当な外交スタイルだが、いかにも登場人物が地味だ。宋日昊(ソン・イルホ)などは今回、握手シーン直前で映像を切り替えられてしまう哀れな扱いだった。
■飯島参与訪朝ノンクレジット映像


安倍首相は、並行して訪朝の機会もうかがい続ける。これまでの「粘り強い交渉」が何の結果も生まなかったことを知っている。そして、トップ会談の突破力を目の当たりにした数少ない政治家だ。

平壌に乗り込む勇気…余りにリスクが大きく、2度目の小泉訪朝以降、誰も実現できなかった。政治生命を一瞬で失う危険が潜む。それでも安倍首相は、拉致被害者の生命を迷わず優先する。
▼福岡視察中の安倍首相5月19日(産経)
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「拉致問題の解決とは拉致被害者全員の帰国、真相究明と拉致実行犯の日本引き渡しだ。安倍政権の中で必ず実現させていく決意で今後、交渉あるいは対話を行っていきたい。拉致問題が解決しないなら今行っている圧力は維持する」

安倍首相は19日午後、飯島リポートのアウトラインを知ったとした上で、そう語った。安倍-正恩時代が本当に幕を開けるのか…
▼金正恩の視察写真3月公開(KCNA)
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胸先三寸では国家も国民も守れない。襲名間もない3代目が指導者の重みに耐えられるか、試練の時が来たのだ。


  〆
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参考記事:
■イザ5月19日『首相発言要旨 拉致問題』
■イザ5月18日『“黒子”が一転“主役”に…訪朝の飯島氏』
■イザ5月18日『日本政府は、北朝鮮に嵌められた? 飯島氏訪朝と首脳会談』
■西日本新聞5月18日『平壌の空港に降り立った時の飯島勲氏の面食らった様子が印象的だった』
■朝鮮新報5月17日『日本の内閣参与一行が訪朝』
■AFP2007年1月20日『北朝鮮とイラン、友好会談 - 北朝鮮』

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