厳戒のキルティ僧院に肉薄…焼身抗議の衝撃映像届く

通信社のベテラン記者が潜入取材に成功。キルティ僧院がある町は大部隊に埋め尽くされていた。そして焼身抗議の瞬間を捕らえた映像も一気に海外へ流出。封印された事実が明らかになる。
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注)ショッキングな画像を複数掲載しています

10月17日午後、新たに自ら火を放ったのは、女性だった。チベット・アムド地方のンガバで連続する僧侶の自己犠牲。その中でも尼僧の焼身抗議は、中共軍の侵略以降、初めのことだ。

「彼女は炎に包まれながらも7~8分の間、法王猊下の帰還と宗教の自由を訴えて歩き続けました」

現地からの報告は、そう焼身抗議の模様を伝えている。僧衣が燃え盛る中、数分間も行進を続けたというのだ。自らの命を犠牲にした最期のメッセージ。崩れたその場で、彼女は息を引き取った。
▼10月20日までの焼身抗議(RFA)
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ンガバの尼僧テンジン・ワンモさん、享年20。悲痛な焼身抗議が行われたのは、ンガバの中心部から約3㌔離れたマミー尼僧院の近くだった。ワンモさんは、この尼僧院で学んでいた。

郊外だった為に、ワンモさんは中共の治安要員から暴行を受けることなく、尼僧によって僧院内に運び込まれた。中共当局は遺体の引き渡しを要求したが、尼僧は断固拒否し、手厚く葬ったという。
▼尼僧ワンモさんの焼身抗議10月17日(RFA)
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ついに尼僧までも自らを灯明と化す抗議に踏み切った…その訃報から間もなく、ショッキングな写真が現地から届いた。遠くから駆け寄る複数の尼僧。周囲に広がる美しい草原が、悲劇を際立たせる。

将来ある若い尼僧を駆り立てる程に事態は深刻だ。ワンモさんは決して、前日まで普通に学んでいたのではない。マミー尼僧院は、2008年のキルティ僧院虐殺事件の際にも弾圧を受けていた。
▼ワンモさんの追悼集会10月18日(パユル)
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多くの尼僧が中共治安部隊に拉致され、激しい尋問を受けた。少なくとも3人が刑務所に長期監禁され、1人の尼僧が暴行で惨殺された可能性があるという。

大規模弾圧による悲劇が、新たな悲劇を生み出しているのだ。

【世界同時法要前に抗議続く】

「チベット本土の兄弟姉妹よ、私達はあなた方と同じ夢の実現に向けて頑張っています。そして、あなた方の犠牲の苦しみを分かち合っています」

チベット亡命政府は10月19日、各地のチベット難民に断食を呼びかけると共に、終日法要を行った。ダライ・ラマ14世法王猊下をはじめ、カルマパ17世らも加わる異例の世界同時法要である。
▼ツクラカン寺院で法要営む猊下(パユル)
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その日、各国でも行われた追悼セレモニーや法要。我が国では西新宿の常圓寺で法要が営まれ、法王庁日本事務所のラクパ・ツォコ代表や在日チベット人が参加した。

亡命政府が世界同時法要を呼びかけた際、声明には7人の僧侶の名前が刻まれていた。だが当日の19日には、そこに2人の名が新たに加わっていた。



尼僧ワンモさんが亡くなる2日前の15日正午前、8人目の焼身抗議がンガバの中心部で起きた。自らに火を放ったノルブ・ダンドゥルさんは、これまでの抗議者と同様、19歳の若さだった。

ダンドゥルさんもキルティ僧院で学ぶ僧侶の1人だったが、今年6月に還俗し、両親と暮らしていたという。だが、自ら僧籍を離れたのか、当局の命令による強制還俗か、経緯は判明していない。
▼焼身抗議を行ったダンドゥルさん(FTC)
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「彼はひどい火傷を負っていましたが、まだ息があるように見えました」

現場に居合わせたチベット人は、中共の治安要員がダンドゥルさんを小さな車に押し込むのを目撃していた。そして、車は大きな病院とは別の方向に走り去ったという。

目撃証言によると、中共の治安要員はダンドゥルさんに対しても消火と同時に、暴行を加えていた。現在も安否は判っていないが、設備の整った病院で延命治療が施されていないことは確かだ。
▼マクロードガンジの横断幕10月19日(AP)
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また焼身抗議の直後、現場には武装した大量の治安要員が集結。チベット人を追い払うと共に、町の外に通じる道路を封鎖したという。ンガバの厳戒態勢は、さらに強まっている。

完全に外部から遮断されたンガバの町。だが、そこに3月以降初めて海外メディアの記者が潜入した。

【治安部隊が埋め尽くす町】

「仏教僧の自己犠牲が続く大きな寺院は、自動小銃や鉄パイプで完全武装したポリスに見張られていた」

潜入した記者は、キルティ僧院周辺の様子をそう描写する。10月17日、フランスAFP通信の記者2人が、厳戒態勢のンガバに潜入。2日後、記事を配信すると共に映像を公開した。



2人が潜入したのは、尼僧ワンモさんの悲劇発生から間もなくのことだった。隠し撮りした映像は、中共治安部隊に埋め尽くされたンガバ中心部の異様な状況を克明に捕らえている。

ンガバの町を東西に貫くメーンロード。記者が乗る車は、その道を東から西へ進んでいる模様だ。商店は営業しているが、地元住民の姿は疎らで、フル装備の治安要員ばかりが目立つ。
▼大通り沿いに展開する部隊10月17日(AFP)
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「車両が道を塞ぐ間、迷彩服を着た兵員の大部隊が、自動小銃やスパイク付きの鉄パイプ、消化器を運び込んでいた」

ンガバ中心部を占拠しているのは、武装警察だ。丸腰のチベット人を相手にしながら、防弾ベストまで着用。すでに警備・警戒レベルではなく、実戦遂行中のスタイルだ。
▼中心部を威圧行進する部隊10月17日(AFP)
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人口の少ないンガバ中心部で繁華街と呼べるのは、キルティ僧院の参道周辺だ。カメラは、徐々に接近して行く。カーキ色の大型兵員運搬用トラックを横目に、幅の広い通りが出現する。

4月の流出映像と照合した結果、ここがキルティ僧院の門前と推定できる。コマ送り再生で注意深く見ると、参道に停車している運搬用トラック車両の中に兵員が詰まっていることが判った。
▼輸送トラック内で蠢く兵員10月17日(AFP)
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停車中のトラックは、空ではなかったのだ。盾を持った治安要員が、3列縦隊で内部に潜む。まさに臨戦態勢である。いったい、何個中隊の兵力がンガバ中心部に展開しているのか…

そして反対側には、武装警察の白い装甲車が停まっている。フロントにはドーザーブレードを装備。南モンゴルでは今年5月、このブレードを使って住民を跳ね飛ばし、足を切断する惨事も起きていた。
▼兇器装備した武警の装甲車両(AFP)
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記者が乗る車が更に進んだ所で、一旦映像が途切れる。メーンロードから外れ、西側から回り込むようにしてキルティ僧院に接近したのだ。

「記者はキルティ僧院に入ることは出来なかったが、境内を歩く僧侶や周辺に駐留する大部隊を確認した」
▼キルティ僧院の大チョルテン(AFP)
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黄色くペイントされた僧院の外壁、その手前に座る僧侶。そして、キルティ僧院の大チョルテン(仏塔)が映り込んだ次の瞬間、映像はフェードアウトする。

【当局欺くベテラン特派員の技】

「 今年8月以降、海外のジャーナリストがンガバの町に入ったのは、例えあったとしても僅かだろう」

潜入取材を敢行したAFP通信のロベール(Robert J. Saiget)記者は、そう謙遜を交えて記しているが、初めてのケースだ。中共当局は記者はもちろん、外国人旅行者の入域も全く認めていない。
▼ンガバ中心部に展開する部隊(AFP)
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ロベール記者は数年前から北京に駐在し、多数の記名記事を発表している。中共宣伝部にも面の割れた特派員だ。どうやって厳重封鎖エリアへ到達したのか明かしていないが、最後には正体が発覚する。

「暫くの間、公安に拘束された。軍や公安が写っている画像は削除され、1台のカメラも没収となった」

一時拘束を受けた後、ロベール記者ら2人は解放されたという。その際、ンガバの治安当局は、隠し撮りした映像データには気付かなかった。さらに、一部の写真も削除を免れた模様だ。
▼潜入記事に添付された“資料”写真①
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潜入取材の記事には2枚の写真が添えられていた。しかし、キャプションには場所も日付もなく、File(資料)と記している。不可解だ。AFPは古い資料画像にも場所・日付を入れるケースが多い。

1枚目の写真は、展開する武警部隊とチベット僧が写っているが、ンガバ近郊とは断定できない。一方、2枚目の写真には足元に消火器が置かれ、兵員が持つ盾にはチベット語の説明もある。
▼AFP“資料”写真②
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焼身抗議に備えたンガバ特有の警戒態勢だ。2年前まで遡っても、AFPが過去にこの画像を使用したことは確認できなかった。10月17日に撮影した最新ショットと判断するのが妥当だ。

恐らく拘束されたロベール記者は、写真の全削除を承諾して解放された。その為、苦肉の策として最新画像を「資料」として公表したのだろう。推測の域を出ないが、老練なテクニックを感じさせる。
▼映像と異なる写真も存在10月17日(AFP)
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当然、隠し撮りビデオ公開の件で中共宣伝部から因縁を付けられるが、当局に抗うのが真のジャーナリストだ。ジェノサイドに加担した日本メディアの記者とは比較にならない。

そしてAFPの潜入取材に続き、AP通信がンガバの映像を獲得した。焼身抗議の瞬間を収めたショッキングな映像だ。

【ンガバの真実を伝える34秒】

「手ぶれの目立つ映像は、火が放たれた後から始まっている。公安車両と武装警官の背後から、チベット女性の悲鳴が聞こえる。武装警官は、彼を助けようとしていない」
▼9月26日の焼身抗議(AP通信)
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消火剤が撒かれた現場。やや離れた所から眺める治安要員。道路に倒れているのは、キルティ僧院のロブサン・クンチョクさんだという。9月26日、ンガバ中心部の出来事だった。

9月から現在まで相次ぐ一連の焼身抗議の発端。その日、18歳の2人の若き僧が自らに火を放った。目撃者は、既に1人は息を引き取っていた可能性が高いと証言していた。
▼クンチョック僧の抗議(ウーセルblog)
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AP通信が映像の一部を公表する直前、北京在住のチベット人作家ウーセルさんがブログに3枚の写真をアップしていた。同じ映像からキャプチャーしたものだ。

ウーセルさんが公開した写真には、全身炎に包まれるクンチョクさんの姿もあった。通り過ぎる荷台付きのバイク、遠くには複数の人影…その中でクンチョクさんは前進している。壮絶な抗議だ…
▼炎に包まれるクンチョック僧(ウーセルblog)
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AP通信は、総尺34秒の映像だと説明しているが、キャプ画像を1枚配信しただけで、映像そのものは現在までに公開していない。理由は、撮影者が当局に特定され、処罰されるのを避ける為としている。
▼倒れ込むクンチョック僧(ウーセルblog)
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「撮影するな」

映像の最後には、オフィサーの1人がシナ語で叫ぶ声が入っているという。解像度から携帯カメラで動画撮影を行ったものと推定するが、流出経路などAP通信は詳しく報じていない。

【これでも報道各社は無視するか】

AP通信のキャプチャー画像の公表に先立って、ロンドンに本部を置くFTCは、焼身抗議の写真を1枚公開していた。同じ日に、同じ者が撮影したものと考えられる。
▼焼身抗議を行った僧侶(FTC)
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仰向けで横たわる僧侶について FTCは、3月に焼身抗議を行ったプンツォさんとしていた。しかし、9月26日に自ら火を放ったもう1人の僧侶ロブサン・ケルサンさんである可能性が高い。

プンツォさんの焼身抗議では公安が集団で襲いかかった。それに対して9月26日のケースは、治安部隊による暴行は目撃されていない。状況はRFAなどの報道と一致している。
▼安否不明のケルサン僧(RFA)
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ただし、中共治安要員によるリンチがなかったのは、抗議者が既に重篤な状態だったからだ。余りにも痛ましい写真…だが、これがンガバで起きている事実だ。

これまでは有力な目撃証言しかなかったが、この数日で焼身抗議の現実を伝える写真が一気に流出した。そして、治安部隊が埋め尽くすンガバの異様な状況もカメラに収められた。
▼デリーの大規模デモ行進10月20日(AP通信)
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「証拠」を獲得したのが通信社だったことに意味がある。我が国の報道機関の大半がAP通信と契約し、またAFPから映像を買い取ることも可能。直ぐにでも組み合わせて報道することが出来るのだ。

この期に及んでも無視を決め込むのか?
▼デリーUN施設前での訴え10月24日(AP通信)
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焼身抗議を決行した僧侶は正に自らの命を犠牲にし、それを撮影した者や海外に届けた者も命懸けだ。チベットからの悲鳴を葬り去るか否か…すべては報道機関の“良識”に委ねられている。


  〆
最後まで読んで頂き有り難うございます
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参照:
ダライ・ラマ法王日本代表部事務所HP10月17日『チベット本土で相次ぐ僧侶の焼身自殺とチベットへの支援と連帯に関する、亡命政権内閣(カシャック)と議会の共同プレス声明』
看不見的西蔵(ウーセルBlog)10月23日『悲悼!――境内藏人传出的阿坝自焚僧侣照片』
Free Tibet『Tibetan monk Phuntsog, 16 March 2011, Ngaba, Eastern Tibet, following self-immolation』

参考記事:
■AFP(google News)10月19日『Chinese town under siege as Tibetan monks protest』
■ABC news(AP)10月23日『Tibetan monk’s suicide try seen in leaked video』

■Phayul10月18日『A Tibetan nun dies after self-immolation, Situation in Tibet spiraling out of control』
■TCHRD10月18日『Nun Self Immolates, then Marches, Calling for Freedom』
■RFA10月17日『Tibetan Nun Sets Herself Ablaze』
■RFA10月20日『Monks Held Amid Solidarity Rally』
■TCHRD10月15日『Another Self-Immolation; Serious Concerns about Increased Incidents』

追記:10月27日未明

26日までにYouTubeにAP通信の入手したものと同じ映像が複数アップされました。


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