焼身抗議チベット僧の覚悟…中共の非道を暴く灯明

僅か12日間でチベット僧5人が相次いで焼身自殺を図った。いずれも10代後半の若い僧侶だ。非常事態が続く悲劇のキルティ僧院。自らを犠牲にした光が、中共の非道を照らし出す。
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「私はまったく後悔していません。悲しく思わないで下さい」

それが最期の言葉だったという。10月8日、チベットの若き僧侶カインさんは、病院で息を引き取った。享年18。自己犠牲を厭わない覚悟の行動であった。
▼マクロードガンジの追悼集会10月8日(AP)
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中共の弾圧に抗議する焼身自殺…チベット北東部アムド地方ンガバで、悲劇は再び繰り返された。訃報を受け、町の中心部の商店は3日間シャッターを閉ざし、喪に服した。

「僧侶は遠くから祈りを捧げていました」

カインさんの実家は弾圧部隊によって封鎖され、僧侶が近づくことも出来なかった。RFA報道によると、中共当局は遺体の引き渡しすら拒否し、親族に遺灰を差し出しただけだったという。
▼僧侶の存命を祈るキャンドル10月8日(AP)
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10月7日昼、カインさんは同じく僧侶で19歳のチュペルさんと共にンガバの路上で自らに火を放った。今年3月以降、中共の激しい弾圧が続くキルティ僧院で2人は学んでいた。

一部報道では「元僧侶」と表現されているが、中共当局が2人の僧籍を剥奪したと見られる。チベットで相次ぐ不当な強制還俗だ。当局が僧院に介入すること自体、許されない。
▼武警に包囲されたキルティ僧院3月(FTC)
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「2人は病院で治療を受けており、命に別状はない」

中共の宣伝機関は10月7日、住民の沈静化を謀ってデマ情報を流していた。しかし、翌日にカインさんが死亡。そして危篤状態と指摘されていたチュペルさんも11日に亡くなったことが判った。
▼チュペルさん存命祈る僧侶10月8日(AP)
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余りにも絶望的で衝撃的な事態だ。僅か2週間足らずの間に、キルティ僧院の僧侶5人が連続で焼身抗議を図った。しかも、全員が10代後半の若き僧侶だった…

【焼身抗議の僧侶を集団暴行】

「2人は厚手の僧衣をまとって結跏趺坐していました。そして立ち上がって雪山獅子旗を掲げ、法王猊下の帰還とチベットの自由を訴えたのです」

一部始終を目撃していた住民は、そう語る。2人は僧衣を脱いで道の中央に赴くと、ガソリンを被り、自らに火を放った。炎に包まれてもなお、2人は叫び続けていたという。
▼焼身抗議したクンチョク僧(RFA)
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9月26日の悲劇だった。焼身抗議を行ったのは、キルティ僧院のロブサン・ケルサンさんとロブサン・クンチョクさん。共に18歳の若き僧侶だ。

「1人はまだ息があるように見えたが…」

目撃者は、1人が現場で絶命した可能性が高いと話す。重度の火傷を負って倒れ込んだのは確かだ。直後に治安部隊が連れ去った為、2人の正確な安否は現在も判っていない。
▼安否不明のケルサン僧(RFA)
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ンガバでは、3月に起きたロプサン・プンツォさんの悲劇以来の焼身抗議。2人が自らに火を放った場所は、プンツォさんと同じ町の中心部にある交差点だったという。

ケルサンさんは、プンツォさんの従兄弟にあたる。僧侶として慕っていただけではない。今年4月にケルサンさんは当局に拘束され、厳しい尋問も受けていた。3月以降、強まった弾圧の直接の犠牲者だ。
▼町の中心部に進攻する装甲車3月(THCRD)
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そして、この衝撃が醒めやらぬ10月3日、再びキルティ僧院の若き僧侶が焼身自殺を図った。17歳のケルサン・ワンチュクさん。彼もプンツォさんの親戚のひとりだった。
▼ケルサン・ワンチュク僧(RFA)
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「チベットには宗教の権利も自由もない」

法王猊下の写真を手にワンチュクさんは、そう叫び、焼身自殺を図った。場所はンガバの野菜市場の近くで、附近には住民を監視する治安要員が潜んでいた。

その為に火は直ぐに消し止められたが、ワンチュクさんは治安要員から激しい暴行を加えられることになった。現地からの情報によると、頭部を強く殴打され、重傷を負っているという。
▼棍棒を握る私服の治安要員3月
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端から治安要員に、抗議の焼身自殺を図った僧侶を助ける意思などない。連中はチベット人弾圧を目的に配置された中共の虐殺部隊なのだ。この非道国家では抗議者を庇うチベット人も重罪に処せられる。

【救出者を殺人犯として断罪…】

ロプサン・プンツォさんが3月に抗議の焼身自殺を図った際、近くにいた公安は、消化どころか棍棒で殴り付けた。それを周囲にいた大勢のチベット人が救出。保護する為にキルティ僧院に運び込んだ。



ところが中共の人民法廷は8月末、この救出劇に絡んで3人の僧侶を断罪。プンツォさん保護に直接関わった僧侶ロプサン・ツンドゥさんに対し、懲役11年の禁固刑を言い渡した。

更に、焼身抗議を「唆した」としてキルティ僧院のツェリン・テムジンさんは懲役13年、ツェリン・テムチュンさんは懲役11年の実刑。2人は特にプンツォさんと親しかった僧侶だという。
▼冤罪で投獄されたテムチュン僧(RFA)
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殺人犯とされたツンドゥさんは、プンツォさんの叔父でもあった。焼身自殺を誰よりも悲しんでいる近親者を逆に監獄に押し込めるという狂気の事態。これが中共の素顔である。

9月に入ってから相次いだ僧侶の焼身抗議は、キルティ僧院に対する中共の弾圧激化を物語っている。一方、関連が指摘されるのが、別の地域で起きた悲劇だ。
▼焼身自殺したツェワン・ノルブ僧(FTC)
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8月15日、チベット東部カム地方カンゼの町タウで、僧侶が焼身自殺した。ニャツォ僧院のツェワン・ノルブさん、享年29。幼い頃から眼に障害を抱え、10代半ばで僧になったという。

その日、町の中心部に現れたノルブさんは、法王猊下の帰還とチベットの自由を訴えるビラを散布。そしてガソリンを浴びた後、自らに火を放った。即死だった。
▼ノルブ僧の焼身抗議8月15日(FTC)
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タウでは7月に尼僧が猊下の誕生日を祝ったことが当局に露見。それ以来、尼僧院やニャツォ僧院の水道が止められるなど締め付けが厳しくなっていたという。

そこで立ち上がったのがノルブさんだったが、彼が自らを犠牲にして問いかけたのは、もっと根源的な問題だ。僧侶への思想教育、強制的な洗脳プラグラムは、チベット全土に及ぶ。
■生前のノルブ僧が映り込んだ映像


僧院を破壊し尽くした文革末期よりも深刻な「内部からの崩壊」だ。中共の統制強化に対し、水面下での抵抗を激しさを増す。しかし、それが外の世界に伝わることも同時に減ってきている。

【全住民監視で悲鳴は届かず】

10月1日の国慶節、カム地方北部の町セルタで住民が抗議行動を繰り広げたことが判った。広場に面した建物に、法王猊下を描いたタンカと雪山獅子旗が掲げられたのだ。
▼掲げられたタンカ10月1日(ウーセルBlog)
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「抗議活動は15分くらい続きました」

現場を目撃した住民によると抗議者は僧侶ではなく俗人だったという。詳しい状況は不明だったが、北京在住のチベット人作家ウーセルさんが証拠写真を入手、10月3日に公開した。

セルタはタウから北西に約200㌔離れた山間の小さな町だ。30人程の公安が抗議現場に急行、抗議者の拘束を試みたが、集まったチベット住民に圧倒されたという。
▼広場に集まるチベット住民(ウーセルBlog)
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このレジスタンスは突発的な行動ではなかった。ウーセルさんは、中共への抵抗を呼びかける文書が町中に複数貼り出されていたと解説。それは強い口調で自由の獲得を訴えるものだった。
▼抵抗を呼びかける文書(ウーセルBlog)
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水面下で脈打つチベット人の抵抗活動を裏付ける貴重な資料だ。しかし、こうした中共批判の文書や抗議活動などの証拠写真が、海外流出するケースは、減少傾向にある。

チベット政府は6月、ビラを撒きながら行進する僧侶の映像を公開した。昨年4月に、カム地方ニャロンで起きた抗議行動だが、この映像の撮影者が拘束されたことが判明したという。



中共当局は抗議者に加え、写真・動画の撮影者や流出に関わった人物にも厳罰を与えている。焼身自殺したノルブさんの痛ましい写真が流出したのは例外的だ。場所がタウだったことが背景にある。

ンガバで連続する10代僧侶の焼身自殺に関連する写真は、今の所1枚も確認されていない。通信回線の遮断を始め、住民の移動を制限するなど当局が情報の伝達を阻んでいる結果だ。
▼THCRDが4月に入手したンガバ映像


かろうじて一部のチベット支援団体とRFAが現地住民の声を採取しているだけで、完全なブラックアウト状態。続発する焼身抗議が報道されることも少なく、国際社会は沈黙している。

【灯明を見失った世界の闇】

相次ぐ焼身自殺を受け、各地で中共への抗議活動も起きている。10月9日、チベット難民が多く暮らすデリーでは、女性らが中共大使館前で抗議活動を繰り広げた。
▼デリー中共大使館前の抗議10月9日(AP)
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抗議の中心になったのは、熱心な運動方針で知られるTYC(チベット青年会議)だ。この日は、大使館前の街路灯に登って僧侶の写真を掲げるなどアピールを続けたが、警官隊に排除・拘束された。
▼ポスターを掲げるチベット人10月9日(AP)
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また同じ日、都内の中共大使館前にも有志が集結。「チベット問題を考える会」の小林秀英代表やSFTジャパンのメンバーが抗議を行った他、永田町でもアピール活動を続けた。



今回のンガバの非常事態に関しては、欧米でも大規模な抗議活動は開かれていない。その中、我が国で素早く抗議活動が行われたことは注目だ。

止む気配のないンガバの焼身抗議について大手メディアは殆ど報じていない。これは我が国だけではなく、世界的な傾向だ。3月以降、海外メディアの記者は誰一人、ンガバに入っていない。
▼ンガバに続く道の検問3月(THCRD)
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中共が立ち入りを厳しく制限しているのだが、それを理由に取材を怠ることは報道機関として自殺行為だ。国際社会からの眼を封じた上での大弾圧は、中共の常套手段である。

「生命を犠牲にして分裂主義の目的を果たそうとする、形を変えた暴力テロだ」

中共外交部のスポークスマンは10月11日の定例会見で、そう言い放った。これは焼身抗議に関する外国人記者の質問に答えたものだが、国際メディアが猛反発するレベルの非道発言である。
▼アムド含む成都軍区の武警部隊9月(AFP)
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ベトナム戦争中、焼身自殺した僧侶を揶揄したマダム・ヌーの発言は、全世界から非難された。今回の中共外交部の暴言は、それを遥かに上回るが、軽くスルーしているのが現在の国際メディアだ。

一連の焼身抗議では、中共治安要員による激しい暴行が発覚している。ンガバでは2009年2月、キルティ僧院の僧侶タペーさんが焼身自殺を図った。当時、チベット支援団体に衝撃を与えた出来事だった。
▼タペー僧の焼身抗議2009年2月(THCRD)
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路上に崩れるタペーさんの周囲を中共の治安要員が取り囲んでいる。炎に包まれる最中、無慈悲に連中が銃撃したのだ。更に、中共当局は銃撃の証拠を隠す為に、病院でタペーさんの両足を切断した。

同様の非道行為が、今もンガバで続いているのだ。自らを犠牲にする覚悟の抗議…それを逆に「暴力」と公式発言する中共の居直りは醜さを極めるが、受け流すメディアも国際社会も狂気の中にある。
▼カトマンズの追悼集会10月11日(パユル)
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チベット人は、僧侶の焼身自殺を「自らを灯明と化す」と表現しているという。チベット学の権威によると、他者を救う目的の自己犠牲は究極の布施と考えられていると説く。
▼マクロードガンジの追悼集会9月26日(AP)
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灯明とは、無明を照らす智慧の輝き、浄火だ。中共の非道を照らし出す為に若き僧侶たちは自ら灯明となった。しかし、その光に気付く者は余りにも少ないのが現実だ。

世界を覆う闇は、灯明を見出せない程に深い。


  〆
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参照:
日刊チベットついーと
チベットNOW@ルンタ
白雪姫と七人の小坊主達8月21日『自らを灯明と化す』
ウーセルblog10月4日『来自藏东康地的不为人知的讯息』
アムネスティ9月28日『弾圧に抗議、チベット僧の焼身自殺相次ぐ

参考記事:
■SFTジャパン10月7日『ンガバでなにが起きているのか ~2011年10月』(PDF
■ダライ・ラマ法王日本代表部HP9月26日『アバ地区キルティ僧院にて再び焼身自殺』

■FTC10月7日『Seven monks self-immolate - many more ready to die』
■RFA10月10日『Town Mourns Over Self-Immolation』
■RFA10月7日『Two Tibetan Youths Self-Immolate』
■RFA10月4日『Self-Immolation a 'Worrying' Trend』
■RFA9月26日『Two More Monks Self-Immolate』
■産経新聞10月12日『焼身自殺は「テロ行為」中国当局が非難』
■共同通信10月8日『チベット族元僧侶が焼身自殺図る 中国チャン族自治州』
■産経新聞10月4日『国慶節にチベット独立叫ぶ 住民ら警察の拘束阻止 焼身自殺の情報も』

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