惨劇再びチベット僧院の危機…血に染まるパンダの故郷

衝撃的な若きチベット僧の焼身抗議…悲劇はそれだけで終わらなかった。パンダの故郷に近いアムド北東部の古い僧院に中共治安部隊が突入。大虐殺の地が新たな危機に見舞われている。
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パンダの着ぐるみを先頭にした集団は、否が応でも激しく目立った。揃いのTシャツを纏って山手線に乗車。マスコットと政治アピールのアンバランスが人々の好奇心を掻き立てる。
▼JR渋谷駅山手線ホームに並ぶ4月16日
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4月16日、永山英樹さんを中心に「頑張れ日本行動委」のメンバーが一風変わった抗議運動を展開。渋谷駅頭の街宣に続き、再び“パンダ熱発症中”の上野駅周辺で訴えた。シャツの背には、こう記されている。

「パンダはチベットの動物だ!」「FREE TIBET」「中国はチベットを侵略し 120万人を虐殺しました」

抗議の参加メンバーは、横断幕を掲げて花見客に賑わう上野公園を行進。そしてパンダ目当ての家族連れで埋まる上野動物園に入場した。園内ではTシャツの文字を読み上げる来場者の声を何回か聞いた。
▼広小路口から上野公園へ行進4月16日
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驚いたかのような声だ。やはり、パンダがチベットの動物だという一般認識は低い。この日に限らず、チベット支援者はパンダ再来日後、上野界隈でアピール活動を行ってきた。

パンダが上野に到着した夜も有志が駆け付け、プラカードを掲げた。産経新聞の掲載写真にも雪山獅子旗がハッキリ映り込んでいたが、記事では「着ぐるみを着た熱心なファンも」と紹介…
▼パンダ2頭を上野動物園に搬入2月21日(産経)
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皮肉ではなく、報道レベルでも「パンダの真実」は知られていないようだ。メディア以外でも連呼される「四川省産」という固定観念から崩す必要がある。そこは初期に侵略されたチベット東部アムドである。

上野のパンダ2頭は“四川省雅安宝興県”から移されたが、当地ではパンダが手厚く保護されているという。悪質極まりないブラック・ジョークだ。
▼上野動物園内でアピール活動4月16日
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いま「パンダの故郷」は人道上の重大な危機に直面している。

【僧侶355人と若い女性らを拉致】

パンダの自然保護区は雅安の北の山岳部に広がっている。その保護エリアから約200㌔離れた場所にあるチベット人の街ンガバ(Ngaba)。そこで現在進行形の悲劇が続いているのだ。

「連中は全ての部屋に押し入って300人を上回る人数の僧侶を拘束しました。そして10台以上の大型車両に収容して去ったのです」

地元のチベット人は、そう証言する。4月21日、ンガバのキルティ僧院を中共の治安部隊員が襲撃。英国の支援団体によると僧侶355人が一夜にして拉致された。
▼ンガバに展開する武装警察部隊3月18日(FTC)
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「夜9時頃でした。武装警察と特殊警察のメンバーが僧院を取り巻いたのです」

キルティ僧院襲撃は午後9時過ぎから翌日の未明まで繰り広げられた。大規模で無慈悲な弾圧。悲劇は僧院の中だけではなく、住民にも及んだ。

22日未明、僧院の危機的な状況を知って門前にはチベット人住民200人程が結集。僧侶の連行を止めようとしたが、中共治安部隊は住民にも容赦なく襲いかかった。



これまでに60歳の男性と65歳の女性が、その場で虐殺されたことが判明している。目撃証言によると、治安部隊が激しく殴打し、その場で殺害した模様だ。

更に門前にいた一部の住民を車両に押し込んで附近の軍事キャンプに連行。大半が翌朝までに解放されたが、若い女性や青年が戻らず、消息が分からないままだという。
▼ンガバの通りでの厳重な検問3月18日(FTC)
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これが「パンダの故郷」で現在起きている事実なのだ。悲劇が連鎖するキルティ僧院。危機的な状況が始まったのは、先月のことだった。

【焼身抗議の僧を公安が集団暴行】

1人の若き僧侶の身を賭した訴えから悲劇が始まった。現地時間の3月16日午後、キルティ僧院で修行する僧ロプサン・プンツォ(Lobsang Phuntsok)さん20歳は、人通りの多い街頭に赴き、自らに火を放った。

「チベットに自由を」「法王猊下万歳」

周囲のチベット人は、振り絞るような叫び声を聴いた。見ると、そこには炎に包まれた僧侶の姿があった。プンツォさんは、もがきながら立ち上がり、そして倒れた。
▼ロプサン・プンツォさん(TCHRD)
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駆け寄ったのは近くにいた公安だった。複数名の公安は火を消すどころか、プンツォさんを棍棒で激しく殴り付けたという。状況は不明な点が多いが、目撃証言から公安が殴打したことは事実だ。

周りのチベット人はプンツォさんから公安を引き離し、保護する為に僧院に運び込んだ。火傷と暴行による怪我は酷く、病院に連れて行ったが、当局の指示で病院側は当初受け入れを拒んだとも伝えられる。
▼マクロードガンジの追悼行進4月24日(Phayul)
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そして3月17日未明に息を引き取った。プンツォさんは1991年生まれで、近郊の村の出身だった。両親は遊牧民で、兄弟も同じキルティ僧院に入門しているという。

ンガバの住民は大きな衝撃を受けた。この街では2年前にもキルティ僧院の若い僧侶が抗議の焼身自殺を図っていたのだ。その現場は、プンツォさんが火を放った通りと同じだった。
▼キルティ僧院での葬儀3月19日(FTC)
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プンツォさんの葬儀は3月19日、まずキルティ僧院の境内で営まれ、次いで郊外の丘陵地帯で荼毘に付された。葬列に加わったチベット人住民は3,000人を超えたという。
▼住民が悼む中で荼毘に付された3月19日(FTC)
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嘆きも憤りも頂点に達したンガバのチベット人住民。それに対し、懐柔策を講じることなく、逆方向に突き進むのが中共当局の基本姿勢だ。この葬儀を前にして進駐した治安組織の弾圧は強まっていた。

【フリチベ団体が当日の映像を入手】

チベット人住民の大規模な抗議は、プンツォさんが焼身自殺を図った当日に巻き起こった。状況を知った住民が通りに集まり始めたのだ。同時に、中共当局も治安部隊を大動員した。

ロンドンに本部を置く支援団体FTC(フリー・チベット・キャンペーン)は4月20日までに、ンガバの映像と写真を入手し、公開に踏み切った。そこには街の通りを埋め尽くす治安部隊員の姿があった。
▼行進する特警部隊3月16日午後5時(FTC)
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黒ずくめの完全防備集団は、特警=特殊警察だ。その中には棍棒を手にした私服の男も確認できる。シビル(私服警官)を紛れ込ませ、混乱を激化させるのが、中共の常套手段だ。
▼特警と一緒に棍棒を持つシビル(FTC)
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また公安の黒塗りセダンにはナンバープレートが付いていないことも判る。証拠を隠滅する為の犯罪専用車両。近年の沿岸部では御法度だが、占領下のチベットでは、こうした無法が罷り通っている。
▼ナンバーなしの公安車両3月16日(FTC)
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特警・一般公安に加え、大掛かりな武装警察部隊も動員。白い装甲車両に大型輸送トラック、そして機関銃を担う要員が街中に配置されている。
▼注)ショッキングな映像が冒頭にあります


「抗議に参加したチベット人の摘発が続いています」

ンガバの住民は、そう証言していた。16日に起きた突発的な抗議行動の後、弾圧部隊は大規模な“チベット人狩り”を強行。3月23日にはプンツォさんの僧侶の弟や叔父も不当拘束された、
▼キルティ僧院境内での葬儀3月19日(FTC)
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不当拘束と住民監視が強まる中、3月19日に大掛かりな葬儀が執行できたのは、当局が参加住民らを割り出す為だった可能性もある。実際、キルティ僧院が深刻な危機に見舞われたのは、その後だった。

【弾圧部隊が包囲…僧院孤立化の非常事態】

プンツォさんの焼身抗議は、瞬く間にアムド地方各地、そして海外に広まった。TCRHD(チベット人権民主センター)が死亡直後にプロフィールを割り出し、顔写真を公表したことが大きかったようだ。
参照: TCRHD3月17日『Monk dies after self-immolation』
▼マクロードガンジでの追悼3月17日(Demotix)
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ンガバに近いチベット人の町で抗議活動が始まり、学生によるハンストも多発。中共当局は各地の治安部隊を増強し、ンガバ南西のザムタンでは虐殺も発生している。

その中、キルティ僧院では4月上旬までに少なくとも僧侶ら30人が不当拘束され、同時に“兵糧攻め”に遭っていることが判明。弾圧部隊がバリケードを築き、ロックアウトしたのだ。
▼厳重警戒態勢の僧院門前3月(FTC)
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中共当局は僧侶に対し、共産党に隷従する“法制教育”を強要。18歳から40歳までの僧侶全員を連行しようする当局に対して4月12日、チベット住民が激しく抵抗。2人が撲殺された。

「キルティ僧院には約2500名の僧侶が暮らしていますが、周囲を武装警察部隊に完全に包囲され、食糧や物資を運びこむことができない状況が続いています」
▼猊下によるプンツォさん法要4月26日(AP通信)
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ダライ・ラマ14世法王猊下は4月15日、緊急声明を発表。「破滅的な結果」の到来を憂慮し、国際社会に訴えた。15世紀初頭に創建された古い僧院と街が壊滅の危機に瀕しているのだ。

一方、中共外交部は19日の会見で「僧侶の生活や法要など一切の活動は正常に行われている」と完全否定。逆に海外メディアを批判したのだが、全くの嘘だった。
▼チベット難民生徒らの抗議活動4月24日(AP通信)
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実際にキルティ僧院は完全封鎖されていた。そして21日夜に弾圧部隊が一斉突入、355人の僧侶や住民を拉致し、新たに2人を虐殺した。

【虐殺の街で再び弾圧の悲劇】

4月21日の事件を受け、我が国の既存メディアも現地の状況を伝え始めた。しかし、BCCなどがFTCの入手した映像を活用しているのに対し、我が国のメディアは曖昧な伝聞調だ。



証拠映像を無視し、中共外交部や新華社の報道を垂れ流す姿勢は一貫している。RFAのクレジット入りで映像を使用したJNNは例外的で、最悪なのがNHKだった。

「中国では3年前、チベット自治区で大規模な暴動が起こっており、今も、各地のチベット族の間には、中国政府に対する不満がくすぶっています」

ミスリードではなく、捏造報道のレベルだ。今回のキルティ僧院の悲劇は、プンツォさんの焼身抗議だった。なぜ、そのアクションが3月16日だったのか…
▼ロプサン・プンツォさん(TCHRD)
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チベット大虐殺が起きた2008年3月。キルティ僧院周辺では、10代半ばの少女を含む30人が虐殺された。世界各国に衝撃を与えた虐殺の決定的な証拠写真。その惨劇があったのが3月16日だった。
▼キルティ僧院での虐殺2008年3月16日(Phayul)
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その日、プンツォさんは抗議活動に加わっていたという。住民虐殺という悲劇を身近で体験していたのだ。ンガバの街には家族を殺された住民や暴行を受けて身体が不自由になった被害者が多く残っている。

過去の虐殺を直視せず、単に「暴動」と表現してきたメディアは、今回の新たな悲劇を根本から説明することが出来ない。それは五輪開催式に首脳を送った各国政府も同じだ。
▼追悼の祈りを捧げるチベット女性4月24日(AP通信)
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4月27日から北京で米中人権対話が始まる。以前から予定されていた会合だが、中共は承知で大規模な弾圧を実行した。米国もEUも強く抗議しないことは想定内。3年前の黙認が全ての誤りだった。

中共は国際社会を嘲笑うかのように虐殺を続けている。



  〆
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【Side Story】

キルティ僧院は1412年創建、ゲルグ派の古刹です。立地に関して報道では「アバ」と表現されていますが、「ンガバ」「ンガワ」がチベット語に近い発音になる模様です。

英国のフリー・チベット・キャンペーン(現Free Tibet)が入手した画像は、以下のページに置かれています。

http://www.freetibet.org/newsmedia/photographs-depicting-immediate-aftermath-phuntsogs-self-immolation-and-funeral

またTCHRDのサイトからZIPで画像を入手することも可能です。

http://www.tchrd.org/press/2011/pr20110422.html

参照:
ダライ・ラマ法王日本代表部事務所4月15日『キルティ僧院の危機的状況に関するダライ・ラマ法王の呼びかけ』

参考記事:
■RFA4月22日『Kirti Monks Forcibly Removed』
■freetibet4月22日『More than 300 monks forcibly removed from Kirti monastery – two Tibetans dead - fears of further forced removal』
■Phayul4月22日『2 beaten to death in Ngaba, 300 Kirti monks arrested』
■ICT4月22日『Two elderly Tibetans killed as hundreds of monks detained from Kirti; crackdown deepens』
■BBC4月22日『China denies blockading monastery where monk burnt himself』
■RFA4月18日『'Tense' Situation at Monastery』
■TCHRD4月11日『Chinese armed police cordon Ngaba Kirti Monastery, 2500 monks face food shortage』
■RFA3月29日『Dozen Tibetans Held in New Crackdown』

■時事通信4月24日『チベット僧300人以上拘束か=2人死亡の情報も-中国四川省』
■NHK4月24日『チベット族の地域 緊張高まる』(魚拓)
■読売新聞4月23日『中国、チベット仏教寺院で僧侶300人拘束か』
■共同通信4月23日『中国、チベット寺院で思想教育 300人拘束情報も』
■時事通信4月15日『チベット寺院、部隊が封鎖=僧侶2千人の食料不足-中国四川省』
■産経新聞4月15日『国際社会に中国説得要請 寺院封鎖でダライ・ラマ』
■イザ4月1日『僧侶自殺、チベットデモ続発…中国当局、引き締め強化』
■イザ3月17日『チベット族が抗議デモ 僧侶の焼身自殺きっかけ』
■産経新聞2月21日『着ぐるみ姿のファンも歓迎 2頭が上野動物園に到着』

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