原発事故報道の“安全地帯”…熔融する既存メディア

発表された数値を垂れ流し、現場の映像&写真は全て貰い物だった。既存メディアは原発報道で無力さを露呈。なぜ独自の動きが出来ないのか…その答えが「取材マニュアル」に記されていた。
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3月16日付朝日新聞の1面を飾った写真は、原発報道を考える上で衝撃的だった。前日、福島第1原発の4号機建屋が爆発で大きく破損、2号機の圧力抑制室の損傷し、高濃度の放射性物質が外部に漏れた。

煙を上げる福島第1原発の遠景。朝日新聞がトップに掲載した写真は「ロイター」とクレジットされた。朝日新聞社が撮影した素材ではなかったのだ。
▼白煙をあげる3号機3月16日(ロイター=東電)
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国内の事件・事故報道で海外通信社の写真を使用することは超レアケースで“特オチ”にも等しい。しかもロイターの写真は、東電のライブカメラ映像をキャプチャーしたものだった。二重の恥である。

3月12日以降、既存メディアは福島第1原発について集中的に報道しているが、その一方、独自素材は殆どない。爆発事故後、初めて公表された上空からの写真はデジタルグローブ社の衛星写真だった。
▼原発施設の衛星写真3月14日(デジタルグローブ)
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これまで複数の写真や動画がメディアで繰り返し使用されているが、東電や自衛隊、あるいは東京消防庁などが撮影したものだ。報道記者が接近して撮影した写真は見当たらない。



朝日新聞を例に取ると3月12日、爆発事故前の福島第1原発を上空から撮影した写真が最後。退避指示の10キロ圏拡大は12日朝だが、上空の飛行禁止発令は3月15日だ。

自粛したのか、政府から圧力を受けたのか…1号機建屋の爆発直後、報道ヘリが1機も急行しなかったのは不自然だった。午後4時過ぎならギリギリで日没前に帰社できる。
▼朝日新聞ヘリが撮影した福島第1原発3月12日
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原発事故報道でメディアへの不信が始まったのは、その時からだった。

【原発事故取材マニュアルのNG項目】

NHKやNNNなどは、固定カメラを使って福島第1原発の状況を伝えている。ユニ映像にも見えるが、微妙に角度が違う。NHKは、常に右肩に妙なクレジットを入れている。

「30キロ以上離れて撮影」
▼固定カメラによる撮影3月27日(NHK)
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原発施設に接近していないことを強調しているようだが、誰に向けたものか不明だ。これでは逆に30キロ圏以内が危険だと視聴者が考えかねない。そこには今も自主避難していない住人が残っている。

一般人の立ち入りが規制されているのは、20キロ圏内である。報道腕章を巻いていれば突破できるのだが、取材陣は正直に守っている。それは恐らく政府からの指示ではなく、内部的な規制だ。
▼原発30キロ地点の交通規制(AP通信)
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在京キー局の『原発事故取材マニュアル』が手元にある。JCO臨界事故の直前にまとめられた古いハンドブック。今も原則的な部分は変わらないが、そこには、こう書かれている。

「事故の一報とともに、付近の住民に退避勧告がでているかどうかを確認することが必要です。(略)現場に派遣された記者やカメラマンは絶対に規制区域内に入らないようにしてください」

このマニュアルに従えば、福島第1原発の20キロ圏内で取材を行うことは不可能だ。さらに3月25日の中途半端な自主避難要請で30キロ圏内も難しくなった。
▼マニュアルに社外秘・部外秘印はなし
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また取材クルーには、現場に放射線量の測定器を携行することも義務付けられている。数値が一定以上になった場合、取材はストップとなる。マニュアルには、こう書かれていた。

「取材中は1時間ごとに数字をチェックしてください。短時間(5時間以内)で2ミリシーベルトを計測したらデスクに連絡して取材を中止し、その場から離れて下さい」

27日公表のデータでは、北西20キロの地点で1時間単位87マイクロシーベルト。単純計算で5時間=0.45ミリシーベルト以下なのだが、取材陣は決して周辺エリアにも突入しない。
▼文科省によるモニタリング3月27日
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そこには戦争報道と同じ既存メディアの組織的な問題があるのだ。

【独立系ジャーナリストは圏内に突入】

「放射性物質が大気中に漏れ出している危険性もあり、現場への取材班派遣は慎重に行う必要性があります」

『原発事故取材マニュアル』の冒頭には、そう記されている。累積線量の前に、放射能漏れが確認された状態で取材を進めること自体、問題視されるのだ。
▼検査受ける南相馬市からの避難者27日(ロイター)
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平成9年3月に起きた旧動燃のアスファルト固化施設火災・事故は、後の調査で微量の放射性物質の放出が確認された。マニュアルではその実例を挙げ、注意を呼び掛けている。

今回の福島第1原発のケースでは、当初から放射性物質の漏洩が判明。取材中に、より大きな事故に発展する可能性も捨て切れない。被害のあり得るエリアへの取材陣派遣は、会社組織として難しいのだ。
▼スピーディによる周辺の累積値(日経新聞)
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最近の戦争報道と似ている。イラク戦争では米軍に従軍した一部記者を除き、前線に入らなかった。特に上場企業である民放大手などは不可能に近い。死傷した場合、命令者の責任問題が浮上する。

新聞社のケースは幾分柔軟な対応が出来るが、それでも今や記者はエリート社員。明らかな危険エリアには派遣しない。命の危険を冒すからこそ尊敬もされたジャーナリスト。それは昔の話しだ。
▼東北方面隊が撮影した4号機3月16日
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大手メディアの記者に代わってアフガン戦争などで活躍したのが、独立系のビデオジャーナリストだった。その構図は今の原発事故報道でも同じである。

昨年末に芸能欄で有名人なったAPF通信社の山路代表は25日、南相馬市の20キロ圏内に入り、カメラを回している。簡単に規制線を突破、退避指示に従わない高齢者にインタビューを行っている。
▼20キロ圏内の立て看板(APF通信社)
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参考動画:【APF News】 3/25 《地震》 20キロ圏内(避難指示区域)・南相馬市小高区の現状

幹線道路の20キロ地点に厳重な検問はなかった。他にも知名度のあるビデオジャーナリストが圏内に入っている模様だが、彼らの貴重な映像や情報が連日のニュースでピックアップされた形跡はない。

戦場リポートでは丸投げ態勢だったが、今回は事情が違うようだ。バグダッド近郊ならともかく、都内から日帰りできるエリアの映像丸受けは余りにも体裁が悪いだろう。

結局、福島第1原発周辺エリアは既存メディアで報道空白地帯となっている。

【フクシマ50を直撃する海外メディア】

連日の放水作業と中央制御室の電源復旧。光明が見え始めた矢先に発生した関電工社員ら3人の被曝は、作業現場の過酷な実態を浮き彫りにした。危険な作業現場の状況はどうなっているのか…

作業員に箝口令が敷かれているわけではない。英テレグラフ紙は、現場を離れて一時的に休息する作業員にインタビューし、27日付の記事で実名と顔写真を公表した。
▼計測される復旧担当の作業員3月27日(テレグラフ)
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「作業チームはとても神経質になっています。世界から注目され、自分たちの肩に重圧を感じていますが、 私達は続けなければなりません」

グループのリーダーと表現された鈴木さんの証言だ。福島第1原発で復旧作業にあたる作業員は、定期的に現場を離れ、一部は福島県南部の小名浜港に停泊する「海王丸」で休息している。

「海王丸」とは“海の貴婦人”の異名を持つ美しい帆船だ。援助物資を積んで20日に東京港を出た後、原発から約60キロ離れた小名浜港に停泊し、作業員を迎え入れていた。
▼福島向け出港する「海王丸」3月20日(FNN)
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朝日新聞も26日付記事で「海王丸」に乗船した作業員にコンタクトしているが、真っ先に駆け付けたのはブルームバーグだった。23日付の記事で作業員の言葉を紹介している。

参照:ブルームバーグ3月23日『原発作業員、震災後初の温かい食事-小名浜港停泊の「海王丸」で』

復旧にあたる作業員の持ち場は細分化されているが、現場の状況はある程度つかめる。丹念に取材すれば、新たな事実も発掘できるはずだが、国内メディアはそれも怠っている。
▼海王丸に乗り込む原発作業員3月25日(AP通信)
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福島第1原発の周辺にエリアに突入しないばかりか、60キロ離れた安全地帯での取材もしないのだ。連日、既存メディアが垂れ流すのは、東電や保安院が発表する数値ばかり…余りにも安易な報道姿勢だ。

【世界的な大事故を眺めるだけの当事国】

「大変お騒がせして申し訳ない。なぜ間違ったのかよく調査したい」

東電の武藤副社長は28日未明にも緊急会見して謝罪した。放射性物質の濃度で大幅な間違いがあったというのだが、保安院の指摘で下方修正した経緯にも怪しさが漂う。一方、メディアは数字を追うだけだ。
▼会見する東電・武藤副社長ら28日未明(時事通信)
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東電サイドの回りくどい説明も、保安院の間延びした会見も批判を浴びている。既存メディアも社説などで苦言をていしているが、非難できる立場ではない。

まず会見にあたって独自の取材をしていないのだ。取材の過程で発見した事実を質問でぶつけることも出来ない。その為、公表される数値をそのまま記事にして伝えているだけの状態である。
▼原子力安全・保安院の会見3月25日(AP通信)
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原発問題が長引く中で補正されてきたが、当初、原子力の知識を持った記者がいなかった。保安院などの会見は、経産省クラブマターだ。通商問題に詳しい記者がいても、科学分野に強い記者は少ない。

新聞社には科学部の記者が少数いるが、テレビ局報道部の経産省担当に大学で原子力を専攻した記者など皆無だ。専門知識の欠如は、ゾロゾロ登場した原子力の専門家の選定にも大きな影響を与える。
▼1・2号機中央制御室の作業員23日(保安院)
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専門家の発言が適正なのか否か、判断する材料がないのだ。危うい状況である。中東問題なども似たケースで専門家の言うがままだが、原発問題は国民の生活を直撃する。判断不能では済まされない。

基本的にTVメディアは「不安を煽った」と批判されることを恐れる。1,000万人単位で視聴している場合も多く、ちょっとした失言で瞬時にパニックが起きてしまう可能性があるからだ。
▼制御室裏側の点検作業3月25日(保安院)
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今回も、国民の不安を和らげる方向で一貫しているが、どう転ぶか先行きは不透明。不安を解消したいのであれば独自に放射線量を測るなど取材方法はあったが、それもしていない。

前述のマニュアルにあったように報道機関は小型の計測器を準備している。数値の正確性には疑問も残るが、断わりを添えて調査・公表することも可能。また水質の独自検査も短期間で出来る。
▼内部が窺える4号機3月27日(東北方面隊)
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独自のチェックを怠って数値は当局任せ、事故現場の映像・写真は自衛隊や事業者から丸ごと引用…今回の事故は、IAEAがレベル6に引き上げれば、チェルノブイリに次ぐ深刻な事態だ。

世界第2位の大事故で、当事国の報道機関が最後まで安全地帯で「何もしなかった」のであれば、威信も信用も同時に失い、メディア凋落に拍車をかけることになる。


  〆
最後まで読んで頂き有り難うございます
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発となります

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参考記事:
■産経新聞3月27日『東電、連日の数字訂正 信頼性に疑問符』
■the Telgraph3月27日『Japan tsunami: Fukushima Fifty, the first interview』
■時事通信3月19日『東電社員の休憩用に船=福島・小名浜に派遣-国交省』
■朝日新聞3月26日『原発復旧現場、昼夜なし「自分のプラント守りたい」』
■J-CAST3月18日『自主避難なのか規制なのか―原発取材カメラも30キロ圏外で大ボケ映像』

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