侵犯船サンプル映像の飛沫…“尖閣闘争”に泣いた菅直人

日中首相会談ご破算の影には北京の権力闘争が見え隠れする。中共側が尖閣対応で神経を尖らせる中、プレミア上映される侵犯船ビデオ。6分余りの映像に「疑惑の核心部分」は写っていない。
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「頭を下げてまで中国と会談をする必要がない」

外務省の一部からは極めて常識的な意見も出ていたという。ハノイのASEANプラス3会合を前に両国の外交当局は調整を続けていた。ところが、蓋を開けてみると中共側がドタキャンした格好となった。

10月29日夜、菅・温家宝会談の開催は日本時間の午後8時半から始まるとアナウンスされた。関係者が慌ただしく会談場を整える姿も確認されたという。
▼3ヵ国会談冒頭の菅直人と温家宝(ロイター)
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日支会談に先立って、韓国を含めた3ヵ国首脳会談が日本時間の午後7時半過ぎから始まった。しかし温家宝は菅直人と距離を保ち、握手の際も、満面笑顔の管とは対照的に、表情は固いままだった。

日本側のアナウンスとは違い、この時すでに中共側は会談キャンセルを決定。中止の通告があったのは3ヵ国会談の直前だった。それでも菅直人は3ヵ国会談後、1時間も会場で待機していたとう。
▼後ろにいる温家宝に注目…10月29日(ロイター)
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呆然としている場合ではない。外交儀礼に背いたのは、中共だ。猛然と抗議すべき事態である。その近くでは中共外交部の次官補が別室に香港メディアだけを集め、激烈な日本批判の演説を行っていた。

「日本側のあらゆる行為は、ハノイでの会談に必要な雰囲気を壊すもので、これによる結果は日本側がすべて責任を負わなければならない」

発狂し過ぎで意味不明だ。一体、会談キャンセルの背景には何があったのか…

【尖閣対応で揺れる胡-温体制の政権末期】

「一連の会議の前に、日本の外交当局責任者は他国と結託し、尖閣問題を再び煽った」

中共外交部次官補の胡正躍は、首相会談キャンセルの理由の一つとして、27日にハワイで開かれた前原・クリントン会談を挙げた。ここで日米は尖閣諸島が安保条約の適用対象となることを再確認した。
▼会見する日米外相10月27日(ロイター)
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記者会見でも改めて明言したクリントン長官に対し、中共側は「強烈な不満」を表明している。だが10月29日、日支外相会談は予定通り開催。問題があれば、外相会談も中止になっていたはずだ。

また胡正躍は、外相会談後に日本側がブリーフで事実と異なる内容を流布したと息巻く。しかし、これは一部通信社の誤報で、外務省の速報は、中共側の原則的なスタンスを伝えている。

参照:外務省HP10月29日『日中外相会談(概要)』

▼外相会談の胡正躍:右端10月29日(NNN)
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より詳細なプレスリリースも同様だったという。中共側が会談拒否の理由を後付けしたことは明らかで、難癖・因縁の類いに過ぎない。当日、混乱していたのは中共サイドである。

ハノイで会談実施に向けて動いていた温家宝に対し、北京が横槍を入れてご破算にしたのが真相だろう。習近平の“当確後”も、中共指導部内では権力闘争が続いている。日本側が読み違えたのは、この点だ。
▼全体会合で温家宝を見つめる菅直人(AP通信)
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一部メディアは「会談実施による国内世論の硬化を避けた」と解説。シナに「世論」が存在するという愚かしい説明だが、その「世論」は殆どケースで「軍部の反対」「反胡錦濤派の圧力」に変換できる。

中共が声高に罵声を浴びせる時、背後には隠さなければならない内部事情が必ずある。尖閣対応で未だ中南海は揺れているのだ。学生騒乱の規制を含め、胡錦濤と温家宝は綱渡りを強いられている。
▼10・16六本木デモのプラカード(AFP)
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「ビデオの公開を決めたからだ。シナリオを立てずにやるからだ」

民主党の閣僚経験者は、そう関連付けた。しかし 会談キャンセルが侵犯船ビデオ公開の余波とする見方は違う。中共側にとって侵犯船ビデオの限定公開は織り込み済みで、会談拒否の理由にはならない。

しかも10月29日に決まった映像の視聴スタイルは、「公開」と呼べるものではなかった。

【サンプル映像のプレミア上映会】

予想通り、秘密会での限定視聴となった。侵犯船映像を観るのは、衆院予算委の理事ら約30人。限定公開でさえない。最悪に近い“プレミア上映会”だ。

限定上映会は、11月1日朝8時から衆院議院会館の会議室で開催。“プレミア招待”されるのは、予算委理事会メンバーと同日の審議で質問に立つ予定の議員だという。
▼映像を収録したDVDの引き渡し10月27日(産経)
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もちろんメディアは完全にシャットアウト。さらに映像・音声の流出を防ぐ措置として、上映会場への携帯電話持ち込みも禁止する念の入れようだ。

「ビデオ視聴後に内容を外で喋ることまで止めることはできない」

衆院予算委の中井洽委員長は、記者団に対して偉そうに語ったが、当たり前の話だ。上映会の後、視聴した議員が報道陣に取り囲まれる光景が、今から目に浮かぶ。
▼衆院予算委の理事懇談会10月29日(日経新聞)
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しかし、上映会で新しい情報がもたらされる可能性は低い。議員が視聴する映像は僅か6分50秒で、サンプル映像レベルだ。そこに映っているのは、直接の逮捕容疑になった“衝突の瞬間”だけだろう。

1回目の攻撃で巡視船「よなくに」が撮影した映像と2回目の「みずき」が捉えた激突映像が、それぞれ3分程度収められているものと見られる。目新しい要素は少ない。
▼侵犯船と巡視船よなくに9月8日(読売新聞)
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すでに侵犯船ビデオの焦点になっているのは、編集でカットされた部分だ。

【強行突入に15人は無抵抗だったのか?】

巡視船「みずき」が撮影した映像は約2時間40分だった。これに「よなくに」や「はてるま」の映像、さらに海自P3Cが撮影したものまで含めれば、総時間は軽く10時間を超す。

「那覇地検に送られたビデオは数種類あるのだろう」
▼参院内閣委で答弁する仙谷由人(FNN)
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10月28日の参院内閣委で仙谷由人は、当日の映像が他にも多数あることを初めて認めた。その中から抽出した6分50秒は、ほんのヒトコマでしかない。

「みずき」の映像には、デッキで挑発的な行動を取る詹其雄の姿が映っていることも判明している。しかし、こうした「国民が激高する」部分は上映会では隠されるに違いない。

「(10月23日に)政府関係者から仄聞ですが、と聞きましたが、巡視艇の乗員が落ちたのを、中国の漁船が銛で突いているんだって、それは、仄聞ですがと言ったが数人から聞いた」



『新報道2001』の24日放送で石原都知事が紹介したエピソードは大反響を巻き起こした。この発言について海保の広報担当者は「乗組員が海に転落した事実はなく、負傷者もいない」と答えている。

火消しに躍起な印象もあるが、政府側は当初から「負傷者なし」と説明。現時点で前言を翻すような回答はしない。石原発言を完全に否定するには映像の全面公開が不可欠だ。
▼侵犯船の立ち入り調査9月7日(海保)
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巡視船乗組員の身に危険が及ぶシーンは確実にあった。海保側は事件発生当日、逃走する侵犯船に海上保安官が乗り込み、エンジンを停止させたことを明かしていた。

強行接舷し、飛び移った末にエンジンを切ったのである。その際、侵犯船の乗員15人が無抵抗で受け入れたとは到底、考えられない。乱闘に近い状態が船上に広がっていたと想像するのが自然だ。

挑発する詹其雄の姿や強行突入のシーンを含まない映像の視聴など全く意味がない。

【段階的公開で隠される映像の核心】

「海保職員が船長を連行する際、酒臭かった」

10月28日付の産経新聞は、捜査関係者の証言として詹其雄容疑者が飲酒していた可能性を報じた。この証言は、10月14日発売の『週刊新潮』が伝えていたものと同じだ。
▼石垣島に護送される詹其雄9月8日(AP通信)
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そして29日にはNNNが「泥酔状態」だったと報道。しかも情報ソースは「中国当局者」で、事件の6日後に帰国した船員が政府に証言したという。アルコール臭よりもプロパガンダの匂いが濃厚である。

参照:NNN10月29日『船長、衝突前に飲酒し泥酔状態 漁船衝突』

詹其雄の船が領海侵犯したのは午前9時過ぎだった。朝から酒をあおり、巡視船と対峙する最中も飲み続けていたとは考えられない。また詹其雄がデッキに立って延々と挑発していたという目撃情報もある。

NNNの「泥酔証言」はスクープではない。日本テレビは10月29日、我が国の放送局としては初めて新華社と協力協定を正式に締結。いきなり初日から中共のプロパガンダに利用された格好だ。
▼地元で開かれた歓迎式典9月27日(共同通信)
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中共側はビデオ公開で日本側の世論が沸騰する事態を織り込んで、布石を打ってきた。「飲酒男の暴走行為」として片付けたいようだが、「道徳模範」として表彰された今となっては虚しい言い逃れである。

一方の菅政権側もビデオの限定公開を織り込んでいる節がある。6分50秒のサンプル映像は、検察庁と海保が協議し、菅内閣の許可を得て提出された。大胆カットの編集について法務省は、こう説明する。

「海上保安庁の取り締まりの手の内が一般に明らかになるのは良くない。プライバシーの問題もある」
▼DVD添付の“取説”読む中井10月27日(共同通信)
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秘密会の議員視聴で、ブライバシーに配慮する必要はない。11月1日のプレミア上映後、映像の取り扱いが改めて協議される。恐らく、報道機関を通じた公開の流れになるだろう。

しかし、段階的公開が菅政権のシナリオだ。世論調査でビデオの公開を求める声は圧倒的だが、6分余りの映像を観て満足してしまう国民も多く、一気に鎮静化する恐れも高い。仙谷由人の思う壷である。
▼引き渡される超短編映像DVD10月27日(NHK)
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この期に及んでハードルを下げてはならない。あくまでも菅政権に要求するのは、未編集映像の全面公開。侵犯船の執拗な攻撃、つまり「逮捕の正当性」は、9月の時点で分かりきった事柄なのだ。

野党側が公開を求めた理由は、詹其雄の処分保留・釈放が妥当だったか否かを判断する為だった。海保が撮影したビデオには確実に「釈放の不当性」が刻み込まれている。

それが封印された証拠映像の核心部分だ。


  〆
最後まで読んで頂き有り難うございます
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参考記事:
■毎日新聞10月29日『日本テレビ:中国国営通信の新華社と協力協定 放送分野で』
■イザ10月28日『尖閣ビデオ 中国船、故意衝突 船長は飲酒か』
■産経新聞10月27日『尖閣ビデオ 公開意思まるでなしの政府与党 衆院議長は異例の訓示』
■日経新聞10月28日『尖閣沖衝突ビデオ公開「手の内みせることに」法務省』

■日経新聞10月29日『日中かみ合わぬ歯車 会談時間の発表直後に一転白紙』
■読売新聞10月29日『「中国が前向き」は誤算、翻弄された日本』
■時事通信10月29日『胡正躍中国外務次官補の発言全文』
■読売新聞10月31日『中国夕刊紙、『廊下外交』再演と報道』

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