グーグルの孤独な対中戦争…完全敗北した既存メディア

衝撃を与えたグーグルのシナ市場撤退検討の表明。先行きは不透明だが、新興のIT企業が正面切って中共の言論統制に反発したことは、新聞社など既存メディアにとって重大な意味を持つ。
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「インターネットの自由を侵害するようないかなる行動も望まない」

アフガン支援会議の為にロンドンを訪れていた米国のクリントン国務長官は、中共の楊外相との会談でグーグル問題を提起し、懸念を表明した。対して楊外相は、こう反論したという。

「海外で考えられているよりも数段開放的だ」

両国はこの問題を継続的に協議することで一致したが、クリントン長官は外相会談後の会見で激しく批判することを避けた。ややトーンダウンした感は否めない。
▼英国を訪問したクリントン長官1月28日(ロイター)
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「我々全てに利益をもたらし互いを結びつける共通の知識の集合体を有する惑星に住むのか、それとも情報や機会へのアクセスが居住地や検閲官のきまぐれに左右される分裂した惑星に住むのか、という事に関わっているのだ」

クリントン長官は1月21日、ワシントンでの講演でそう演説し、グーグル問題をめぐる中共の姿勢を痛烈に批判した。これまでにない強い警告だった。

「サイバー攻撃をする国々や人々は、重大な報いと国際的な非難に直面するだろう」
▼激烈だったワシントン講演1月21日(ロイター)
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それまで静観する構えを見せていた中共サイドは、この発言を受けて全面対決の姿勢に転じた。複数の党機関紙が一斉に「内政干渉」と批判した他、外交部スポークスマンも猛反撃する。

「事実に反し、中米関係を損ねる言論であり断固反対だ」
▼反発する中共外交部報道官1月26日(FNN)
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中共側は、ネット規制に関する不満が国内に鬱積していることを承知し、それが表面化する事態を懸念している模様だ。この激しいリアクションだけを見ても、グーグルが投げ掛けたことの意味は大きい。

【グーグルは中共当局に和諧された…】

「これまでのウェブ上での言論の自由に対する制限なども受けて、中国事業を再検討する」

グーグルのデビッド・ドラモンドCLO(最高法務責任者)は1月12日、ブログでシナ市場からの撤退を示唆するコメントを発表。突然の“最後通牒”は、世界各国に衝撃を与えた。

参照:グーグル公式ブログ1月12日『A new approach to China』

撤退検討の直接の引き金は、シナ国内外の人権活動家や記者のGメール・アカウントに対するサイバー攻撃だったという。少々、情緒的な理由だが、実際にチベット支援団体のリーダーは深刻な被害を受けたと報告している。
▼基地内でネットする中共軍兵士2005年(ロイター)
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その後、ワシントン・ポスト紙が、サイバー攻撃は米国の金融・防衛・IT企業・人権団体などを標的にした「組織的なスパイ行為」の可能性を指摘。大手化学企業を含め、34社が被害を受けていることも判った。

グーグル側は一連のサイバー攻撃について「中国国内から来た」としか表現していないが、中共側は政府機関の関与を否定し、「中傷だ」などと過剰反応。グーグル側が証拠を掴んでいる可能性は高い。
▼撤退表明直後のグーグル北京支社前(ロイター)
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一方、この問題で敏感に反応したのは、中共政府よりもシナ国内のネットユーザーだったようだ。撤退示唆の表明後からグーグル北京支社前の碑に献花する人々が続々と現れた。

中には「和諧」と題された本のようなものを置く者もいた。シナ国内の一部ネットユーザーは、屠殺鬼のスローガン「和諧」を、我が国における「友愛された」と同じ使い方をしているという。
▼グーグル北京支社前の碑に…1月14日(ロイター)
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「抹殺された」といった意味が込められていそうだが、真意は不明。そして、これでグーグルがシナ市場から“抹殺”されるか否か、先行きは不透明だ。

【検閲受け入れで巻き起こった非難の嵐】

検索エンジン大手だったグーグルがシナに上陸したのは2006年1月だった。進出にあたってグーグル社は、中共の意向を受け入れて検閲を容認した。その際、こう主張していた。

「検索結果を削除することはグーグルの使命に反するが、何の情報も提供しないことはもっと使命に反する」
▼グーグル北京支社前の監視カメラ1月27日(ロイター)
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エリック・シュミットCEOは、検閲受け入れの要求には強い違和感を覚えたが、シナ進出について「しないよりも、した方が良い」との結論に達したと語っている。

この検閲受け入れに直ぐさま反発したのは、米国に拠点をおくチベット支援団体だった。早くも2006年2月に、カリフォルニア州マウンテンビューにあるグーグル本社前で抗議活動を行っている。


この動きは、一瞬で各地に広がり、同じ2月にインド北部のマクロードガンジでもグーグル非難の抗議活動が行われた。当初から、中共と手を携えて検閲を行うグーグルの姿勢に批判が起きていたのだ。
▼インド北部でのグーグル抗議活動2006年(SFT)
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以前、グーグルアースを非難する映像クリップをYouTubeで見た事があった。その動画は、グーグルアースで「Lhasa,tibet」と打ち込んでも起動せず、「Lhasa,china」だと見事に反応する…といったものだった。


シナ国内だけではなく世界共通だ。中共の視点でも「チベット自治区」なる植民地名は存在していることから、不可解な扱いだった。現在は、取り敢えず「tibet」は解禁されている。

【嘲笑の対象になったDon't be evil】

4年前に始まったチベット支援団体によるグーグル非難は「No Luv 4 google」という運動に結実。毎年、バレンタインデーに集中抗議を行っているが、今年は直前に撤退検討のニュースが飛び込んできた格好だ。
NoLuv4Google
ただし、チベット支援団体は好意的に受け止めながらも静観している状況。一度、失った信用を回復することは難しい。しかも、グーグル社は水面下で中共当局と交渉を続けている最中である。

ちなみに、グーグル抗議では「Don't be evil(邪悪になるな)」というスローガンが頻繁に登場する。これは、グーグル社のモットーだ。検閲に対する抗議では、それが逆に嘲笑の対象になっていた。
▼No Luv 4 google制作のロゴ
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撤退検討に関して、一部ではグーグル本社がある地域特有のリベラルな気風、あるいは共同創始者サーゲイ・ブリン社長の意向があったとも伝えられる。

SFT(スチューデンツ・フォー・ア・フリー・チベット)の声明によると、バレンタインデー抗議には世界中で延べ1万2,000人が参加。グーグル幹部に送った抗議のメールは4万5,000通に上ったという。
▼マクロードガンジでの抗議活動2006年(SFT)
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そうした絶え間ない非難の声が、ボディーブローのように効いた可能性はあるが、巨大企業となったグーグル社が理想主義で決断するとは思えない。徹底して実利に基づくことは間違いないだろう。

またチベット支援団体にしても、例えグーグルが撤退を決断しても、チベット国内の悲劇的な状況が何ら改善されないことは判っている。ダライ・ラマ法王日本代表部のラクパ・ツォコ代表は、こう語る。

「昨年10月にはラサに住む若者2人が法王の画像をダウンロードしただけで逮捕された。翌月にはアムドに住む男性がチベット文化に関するサイトを開設して逮捕され、15年の刑を言い渡された」
▼1月14日一時的に検閲が乱れた(AFP)
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一方で東トルキスタンでは、昨年のジェノサイド以降、これまでない規模の広範囲で長期的なネット遮断が行われているという。中共植民地ではネット検閲以前の問題が横たわっているのである。

グーグルの撤退検討が図らずも浮き彫りにしたのは、単にネットの問題に留まらない。それは我が国を含め、各国のメディアが真剣に受け止めなければならない大きなテーマなのだ。

【重大な問題を避けて論じるメディア】

シナ国内でのシェア低落、または、急伸する市場としての旨味と規制の葛藤…などグーグル問題をビジネスの視点から捉えた論評が目立つ。経済誌や企業関係者が語るなら妥当だろう。

しかし、新聞などメディアも、グーグル撤退検討に絡んで、経営面からのみ論じているのは、異常だ。故意に重大な問題から視線を避けているとしか見えない。
▼グーグル北京本社前の碑への献花1月14日(AFP)
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それが表向きにせよ、グーグルが撤退検討で問題視したのは、中共の言論統制である。市場進出に伴う規制といったレベルではない。人類史上最大・最悪の言論弾圧機関とどう向き合うかの問題である。

グーグルは直接、中共の言論統制にNOを突き付けたのだ。

これが「言論・報道の自由」を金科玉条とする老舗の報道機関ではなく、新興のIT企業によって行われたことに衝撃の大きさがある。
▼グーグル北京支社前に翻る虐殺紅旗(AFP)
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果たして日米欧各国で、これだけストレートに中共の言論統制に対して拒絶姿勢を示した報道機関があったか?

歴史の浅いIT企業に、先を越されてしまったのだ。それは既存メディアの大敗北を意味する。とりわけ、深刻なのは、我が国の媚中メディアだ。

【既存メディアの歴史的敗北へ】

「経済のグローバル化が進むなかで、情報の自由な往来を止めることは、国民の知る権利を侵害し、民衆の持つエネルギーを封じ込めてしまうことで、経済発展の障害になる」(朝日新聞社説)

「中国はインターネットに関する世界の常識を受け入れるべきだ」(毎日新聞社説)

朝日も毎日も、グーグルの撤退検討を「ネットの問題」に落とし込んで論じている。また経済発展と結び付けている点も同じで、根本にある中共の言論統制には踏み込んでいない。
▼香港の支持者「グーグルよくやった」1月14日(AFP)
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我が国の媚中メディアは、承知の通り、中共の言論統制を批判しないばかりか、積極的に協力。検閲を受け入れるどころか、悪質なプロパガンダの拡散にも加担してきた。

「Don't be evil」という文句を、そっくりそのまま媚中メディアに捧げよう。

グーグルは中共の意向を受けて、言葉狩りを行ったが、捏造情報の拡散に協力することはなかった。この点で我が国の媚中メディアの悪質さは、比べようもない。

しかもグーグルはシナに市場で利益を得ながら、言論弾圧に拒絶反応を示した。一方、我が国の新聞社は、シナに市場を持っているわけではなく、より自由に中共批判ができる立場にある。
▼グーグル北京本社前の碑に献花1月14日(ロイター)
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そして最も重要なのは、以前のエントリで力説したように、ジャーナリズムの大義は「言論の自由」を守ることだ。それは報道機関の命綱とも言えるが、グーグルなどのIT企業にとっては本来、無関係である。

それにも関わらず、正面きって言論統制に反発したのは、90年代末にアパートの一室で創業したIT企業だったのだ。この意味の重大性を既存メディアは自覚しているのか…記者の殆どが気付いていないとすれば、致命的である。

今後、グーグルの撤退が確定すれば、それは旧来のメディアの完全な敗北として歴史に刻まれることになるだろう。



   〆
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参考記事:
■産経新聞1月26日『「ネットの自由」についてのクリントン米国務長官発言(21日講演)』
■CNN1月22日『クリントン長官、ネット規制に反対表明 グーグル問題受け』
■AFP1月26日『人権擁護団体サイトに集中サイバー攻撃、中国』
■読売新聞1月15日『検閲拒否のグーグル、勇敢だ…中国の若者ら「支持」』
■イザ1月15日『ダライ・ラマを検索すると公安が 中国、恐怖のネット事情』
■共同通信1月15日『天安門写真、再び消える グーグル中国、献花絶えず』
■共同通信1月22日『中国に残りたいとグーグルCEO 電話会見で』
■大紀元1月24日『「6ヶ月間ネットなし」 新疆を囲むファイアウォール』
■産経新聞1月23日『【主張】グーグル検閲 中国の情報統制を許すな』
■毎日新聞1月15日『社説:グーグル検閲 中国の品位の問題だ』
■ニューズウィーク1月20日『グーグル「中国撤退」の不可解な論理』
■ニューズウィーク1月15日『グーグルを追い詰めたサイバー企業スパイ』

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