ウルムチ漢族デモの矛先…植民地総督辞任も要求

再びウルムチが緊迫。漢族住民が大規模抗議を行い、参加者は一時数万人に達した。抗議の矛先は地元党トップにも及び、辞任要求まで叫ぶ前例のない事態に。その背後には政争の匂いも嗅ぎ取れる…
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ウイグル人大虐殺から約2ヵ月、再び東トルキスタンの首都ウルムチが緊迫した状態に陥った。大規模デモの発生である。9月3日、ウルムチ市内で漢族住民によるデモ隊が組織され、市中心部を埋め尽くした。

地元住民によれば3日午前、ウルムチ中心部の人民広場にデモ隊が集結。当初、CNNなどは数千人規模と報じていたが、その後、デモ参加者は増加。目撃者は一部メディアに対し、推定で「2万人以上」と語っているが、夜までには数万人規模に膨れ上がった模様だ。
▼ブロックされる漢族デモ隊9月3日(AFP)
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この大規模デモで、市内の交通はマヒし、商店も軒並み閉鎖された。AFPによれば、新華社は「商店や市場が破壊された」と報じているようだが、写真などは公表されていない。ロイターが窓ガラスの破損した救急車の画像を配信している程度だ。
▼破損被害受けた救急車9月3日(ロイター)
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治安部隊との衝突の他、一部が暴徒化したケースも複数あったと推定される。デモ参加者が急増した3日夜は、市中心部に繋がる高速や幹線道路の入口を完全封鎖するなど、厳戒態勢は7月5日を凌ぐとも伝えられる。

深夜になってデモは鎮静化したが、一夜明けた4日も、1,000人余りが市中心部の南湖広場に集まり、治安部隊と睨み合いになったという。一部報道では数千人規模だとも伝えられている。

大量の治安部隊を動員・配置したにも関わらず、中共当局の抑え込みは何故か効を奏していないようだ…
▼市内中心部の抗議デモ9月4日(ロイター)
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これで漢族住民による抗議行動は3日連続となった。最初にデモが発生したのは9月2日で、規模は数百人レベルであったという。その抗議行動発生を受けて、AP通信やロイターなど海外メディアが3日昼までに素早く現地入りした。

官製報道以外に大規模デモの現場をキャッチできたことは幸いだが、抗議行動の原因が何であったか、未だ客観的な情報は不足している。

【終息せず…3日間連続の抗議デモ】

大規模デモ発生の原因に関して海外メディアは、新華社などの報道を引用する形で、8月から連続で起きた注射針による襲撃事件への抗議だとしている。

9月2日には、当局が被害実態に関する発表を行った。恐らく、その発表が最初の小規模な抗議デモに関連しているのだろう。そして3日には、地元テレビ局が被害者の9割以上が漢族だったと報道したという。
▼大通りを行進する漢族デモ隊9月3日(AFP)
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これに呼応して漢族住民がウイグル人への敵対感情を剥き出しにし、抗議活動を激化させた…それが現在までに解説されているストーリーだ。極めて単純な民族対立の構図である。

ウルムチでは、病原菌で汚染された注射針を使ってウイグル人が無差別に漢族を襲撃していたとの噂が広まっていたという。当局は既に21人を拘束し、4人を逮捕しているが、拘束者の民族は非公表だ。
▼バザール附近に集結した漢族9月4日(ロイター)
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3日の大規模デモの最中には、女児に針を刺した疑いが持たれる男が集団で暴行を受けた他、注射器を使った襲撃事件も数件発生したという。ただし、これらは全て新華社の発表で、客観的な情報はない。

また、4日には若者100人が解放南路に集結したとの報道もあった。この解放南路はウイグル人居住区に隣接していることから、漢族暴徒によるウイグル人襲撃も懸念される。

「破壊された商店」も詳細は報じられていないが、ウイグル人経営の店舗だろう。弾圧が続くウイグル人にとって、更に危険な状況が迫っているのは確かだ。
▼街頭を埋め尽くす漢族9月4日(ロイター)
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ウルムチは中共による侵略後、圧倒的な数の漢族に占領支配されているが、そうした状況下で、抗議デモに加わった漢族は「治安悪化への不満」を口々に叫んでいたという。

抗議の矛先は、余りにも意外だ。それは決してシンプルな図式ではなかった。

【党トップの辞任求める異常事態に】

「政府は無能だ」

ウルムチ中心部に集まった漢族の抗議者は、地元政府を批判するシュプレヒコールを挙げて行進。またデモ隊の一部は、地元政府機関に向かい、当局の責任を厳しく追及した。
▼治安部隊に詰め寄る漢族デモ隊9月3日(AFP)
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“ウイグル人排斥”よりも、当局糾弾という反政府的な色彩を備えたデモだったのである。香港メディアによると抗議者の中には、こう叫ぶ者もいたという。

「王楽泉は辞任せよ」

王楽泉とは、自治区共産党委員会書記。即ち、東トルキスタン占領地域のトップ、植民地総督である。
▼全人代に出席した王楽泉:右端3月(ロイター)
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近年、反政府デモや暴動が頻発するシナだが、槍玉に挙げられるのは、市レベルの党幹部や高級役人だ。省の党トップが名指しで辞任要求を絶叫されるようなケースは前例がない。

しかも王楽泉は着任間もない総督ではなく、長年、東トルキスタン全土を牛耳ってきた悪い意味での大物。強大な権力の持ち主である。そんな相手を公然と名指し非難して、無事で済むような国ではない…

また抗議者の代表5人が党委庁舎を訪れ、王楽泉と直接協議したとの報道もある。「代表」が何者か不明だが、抗議デモの参加者が共産党の地元トップに直談判するなど有り得ない事態である。
▼抗議者の前に姿見せた王楽泉9月3日(FNN)
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更に、王楽泉がマイクを握って群衆を説得する様子も撮影されている。姿を見せたのは党委庁舎のテラスだ。その際に群衆の一部が拳を突き上げる姿も見られた。音声はないが、状況から王楽泉を非難しているのではないか…
▼王楽泉演説中に拳を振り上げる者も(FNN)
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このシーンを撮影・放映したのは、恐らく香港メディアである。左肩にCCTVのクレジットは飾られていない。映像を見て、北京の党中央は、蒼褪めたに違いない。
■YouTube 香港メディアの報道9月3、4日

王楽泉は“自治区”トップであるだけではなく、党中央政治局委員でもある。この異様な光景からは「ウイグル人対漢族」といった民族対立の構図では割り切れない「政争の匂い」を嗅ぎ取ることができる。

【恨み募る14年間の王楽泉支配だが…】

王楽泉が東トルキスタン総督に就任したのは、1995年。それから現在まで実に14年間の長きに渡ってトップの座に居座り続けている。これは他の省トップと比べても異例の長期間だ。
▼抗議者を前に発言する王楽泉9月3日(FNN)
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14年に及ぶ天下で、石油利権をほぼ独占、自身の出身地である山東省の人脈を優先するなど腐敗・汚職のレベルが高まり、それが今回の名指し糾弾・辞任要求にまでエスカレートした…との解説も可能だろう。

しかし、王楽泉を最も恨んでいるのは、虐げられるウイグル人だ。97年のグルジャ事件で血の弾圧を行うなど恐怖支配を強め、今回の7・5大虐殺でも強硬姿勢を支持した主犯でもある。
▼7・5展示パネルを眺める王楽泉8月9日(CRI)
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そして若いウイグル女性の異国連行という非人道プログラムを推進した人物。多くのウイグル未婚女性が沿岸部に連行されているが、王楽泉の出身地である山東省に送られるケースが多いという。8月末にも115人のウイグル女性が連行されたが、行き先は山東省の青島だった。

参照:世界ウイグル会議9月2日『東トルキスタン:ウイグル人は外側へ、漢人は内側へ』

王楽泉の更迭・失脚を心待ちにしているのはウイグル人である。だが今回、声高に辞任を叫んだのは漢族。奇妙な構図だ。しかも、求めているのは「治安の悪化」または「回復の遅れ」だった。

中共にとって「治安回復」とは「弾圧完了」と同義であるが、党中央は、8月中旬の時点で「治安回復」を内外に向け、強くアピールしていた。その“鎮圧宣言”が、地元漢族によって覆された格好になったのだ。

【胡錦濤の治安回復アピールが水泡に】

「迅速かつ強力に敵を攻撃し、党中央や国務院などから高い評価を受けた」

王楽泉が武装警察の式典で、そう発言したのは8月12日のことだった。東トルキスタン駐留の武装警察トップは、大虐殺・大弾圧が評価されて、武警副参謀長に昇格した。

ほぼ同時期、EUなど26ヵ国の外交使節団もウルムチに招待され、お抱えツアーで視察を行っている。そして、総仕上げとして、胡錦濤自らがウルムチ入りした。8月22日のことだ。
▼ウルムチ入りした胡錦濤8月(AP通信)
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胡錦濤の東トルキスタン歴訪は、4日間という異例の長さで、虐殺部隊を慰問した他、アクスなど地方都市にも足を延ばす熱の入れようだった。予定をこなして本国に戻ったのは、8月25日である。

問題は、胡錦濤が去った後に再び治安が悪化したのではない、としている点だ。党宣伝機関によれば、注射針による刺傷事件が発生したのは、8月17日。胡錦濤滞在中にも拡大していたことになる。

胡錦濤のメンツは丸潰れだ…
▼アクスを訪れた胡錦濤8月(ロイター)
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「治安は悪化している」とする漢族の声は一方で、笑顔を振りまいて北京に帰った胡錦濤への面当てにも繋がる。王楽泉への非難と同時に、胡錦濤政権も攻撃しているのだ。

今回の漢族による抗議行動は確実に、胡錦濤サミット放棄・緊急帰国の真相と関連している。3日のデモは数万人規模に膨れ上がったが、コアになったメンバーの背後には、在北京の政治勢力が存在していると考えられる。
▼共産党委庁舎前に集結した抗議者9月3日(ロイター)
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王楽泉も政争の匂いを嗅ぎ取っているだろう。そうれなければデモ隊の「代表」を庁舎に招き入れて話し合いの場を設けることなどしない。不動の植民地総督が追い詰められているのは明らかだ。

しかし、総督の足許が揺らごうが、ウイグル人にとっては関係がなく、悲劇的な状況が好転する材料にはならない。むしろ、新たな混乱で圧迫が強まるだけである。
▼不安そうなウイグル人児童ら9月3日(AP通信)
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玩具工場撲殺事件の真相究明を求めた7月5日のウイグル人による平和的な抗議活動は実弾の水平射撃を受けて膨大な犠牲者が発生した。だが、党書記の辞任をも叫んだ漢族の抗議デモは、催涙弾に留まった…

その二重基準が、中共に侵略された東トルキスタンの現実を映し出している。


  〆
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参考記事:
■FNN9月4日『中国・新疆ウイグル自治区で7月の暴動以来の最も大規模なデモ』
■イザ9月5日『ウイグル再びデモ激化 「民族団結」の限界露呈』
■共同通信9月4日『ウルムチ、抗議デモで5人死亡 公安相現地入り』
■毎日新聞9月4日『中国ウルムチ:自治区トップの退任要求 漢族抗議デモ』
■時事通信9月4日『漢族ら数万人が抗議デモ=暴動2カ月を前に』
■AFP9月4日『ウルムチで再び大規模な抗議行動、武装警察側は催涙ガスも』
■時事通信9月4日『デモ収拾せず、厳戒続く=沈静化へ催涙ガス』
■時事通信9月4日『武装警察、香港の記者らに暴行=中国』

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