虐殺五輪もうひとつの攻防…突入抗議40人以上を拘束

競技の陰で相次ぐ抗議者の拘束・強制送還。メンツを潰された警備当局は大量の私服を動員、場外での攻防が続いた。果たして抗議者のメッセージは的確に伝えられているのか。
画像

五輪期間中に北京当局が認めた“デモ”は、ゼロ件となった。

BOCOG(北京五輪組織委)は7月下旬、北京市内3ヵ所に「デモ専用区域」を設置。批判逃れの為に、ヤラセの官製デモが仕組まれるとも見られていたが、完全に封殺された。

五輪開幕から10日が過ぎた8月18日、北京市当局は申請77件に対し、1件も許可しなかったことを発表した。不許可の理由は「すでに問題が解決した」からだと言う。
▼3ヵ所の抗議デモ指定公園(RFA)
画像

「抗議デモ公園の設立は言わば、民衆を拘束する落とし穴だということでしょう」

定例会見に出席した英BBCの記者は、そう批判し、当局側を憤慨させたが、正鵠を射た指摘だった。デモを申請した市民2人に1年間の「労働教育」が命じられた事実も明らかになっている。

労働教育を命令されたのは、強制立ち退き処分に抗議している70代後半の女性2人で、10時間の尋問の末、「公共の秩序を乱した」として刑罰を言い渡された。
▼デモ地区に指定された日壇公園(ロイター)
画像

正に「落とし穴」である。このケース以外にも、予防的な不当拘束は相次いでいる。8月初めに蘇州出身の元医師が申請しようとしただけで拘束された他、17日には報道機関の目前で抗議女性が拉致された。
▼拘束直前の抗議女性8月17日(共同通信)
画像

一部始終を目撃していたのは、共同通信の記者だった。抗議者は河北省の女性で、他の陳情者と座り込みを始めた直後、数人の私服警官に取り囲まれ、黒塗りの車の後部座席に押し込まれたという。

その間、僅か10秒…余りにも手慣れた「拉致のスタイル」だ。
一方で、外国人によるゲリラ的な抗議も早業で阻止され続けている。

【周囲には50人の私服警官がいた】

8月19日深夜、メーン会場の鳥の巣前で「Free Tibet」の横断幕が掲げられた。LEDの照明で文字を描いたもので、右端には「西蔵」の漢字も確認できる。
▼鳥の巣横のLED横断幕(SFT)
画像

抗議を実行したのは、米国出身の男女5人。特殊な横断幕を用いた夜間のプロテストだったが、直ぐに近くの警備陣が察知。およそ20秒間で抗議は封じられ、5人全員が拘束された。
■YouTube『Olympics Beijing: Night Light 'Free Tibet'』

また同じ19日早朝、レーザー光線を使った抗議を計画していたNYのアーティストも拘束された。レーザーで高層ビルに文字を描き出す芸術家として知られるジェームス・パウダリーさんだ。
▼J・パウダリー氏(ウィキ)
画像

パウダリーさんは、携帯型のレーザー装置を使って投射する準備をしていたところ、公安に発見・拘束された。映し出す文字は、ビル3階分に相当する大きさだったという。
▼米でのレーザー投射アート(ウィキ)
画像

成功すれば、刺激的なライトアップだったが、残念ながら未遂に終わってしまった。ゲリラ的な抗議が相次ぐ中、公安の監視態勢は強まっているようだ。

8月21日未明には、 ドイツ在住のチベット難民2世を含む男性4人が鳥の巣近くで拘束された。雪山獅子旗を広げ「フリー・チベット」と叫び始めた直後、私服の公安に取り囲まれた模様だ。
▼鳥の巣近くの抗議8月21日未明(AP通信)
画像

抗議が行われた21日の零時過ぎ。感覚的には20日深夜だ。その夜、鳥の巣では陸上男子200m決勝が行われ、スタンドは大観衆で埋め尽くされていた。注目の競技にあわせて実行した抗議だったが、近くには少なくとも50人の私服が居たという。

やはり“ガス抜き”も許さないようだ。中共当局はチベット支援者による抗議に警戒を怠っていない。そして、この抗議の模様を撮影していたAP通信にカメラマンも同時に拘束・連行された。
▼包囲されたカメラマン・中央(AP通信)
画像

プレス関係者も問答無用で取り押えるのが特徴だ。しかも温和な対応ではなく、力任せの拘束劇。8月13日の抗議でも強引に記者を公安車両に押し込んで問題化していたばかりである。

【幻の中華民族を宣伝する観光施設】

8月13日、北京市内にある「中華民族園」を舞台に、SFTのメンバーが抗議を実行した。
▼入口を封鎖する抗議者(SFT)
画像

入口付近に自転車を並べて口々に「フリー・チベット」を訴え、ほぼ同時に、近くの通路では男女2人が横断幕を掲げた。見事な“波状抗議”である。
▼通路に掲げた横断幕(SFT)
画像

この抗議で計8人が拘束されたが、間近で取材していた英国のTV制作会社「ITN」の特派員ジョン・レイ氏とカメラマンの2人も現場で取り押えられた。その模様を英チャンネル4が克明に映像で伝えているが、公安の取り扱いは極めて荒っぽい。
▼車両に押し込まれるレイ記者(英チャンネル4)
画像

「これは脅しだ。心の底から怒りを覚える」

車両に押し込まれた後も「私はジャーナリストだ」と訴え続けるものの、公安は聞く耳を持たない。また直接抗議に参加していなかったペマ・ヨーコ・ノルブさんも、無理やり車両に押し込まれている。
動画:『UK Channel 4 Report on Protests and Arrest of Activists and an ITN-TV Reporter』

彼女は、チベット人の父と日本人の母を持ち、現在は英国在住。母親は数年前に亡くなっているという。日本大使館は面会を求めたが、当局に拒絶された。その後、大使館側が不当拘束に抗議した形跡はない。
▼メディアに訴えるペマさん(英チャンネル4)
画像

この抗議については、我が国のメディアも軒並み報道したが、重要なのは「中華民族園」という抗議ポイントだった。現地での名称は「北京中華民族博物院」。

チベット人など植民地支配地域の異民族を“中華民族”として観光客に宣伝する為のプロパガンダ・ミュージアムである。SFT側は、中共のチベット支配を印象付ける目的で、最初に五輪に立候補した1992年から建設が始まったと批判している。
▼雪山獅子旗を剥ぎ取る関係者(英チャンネル4)
画像

これまでの抗議とは違い、施設の入口を封鎖するという実力行使に出た理由は、そこにあったのだ。メディアには、背景に踏み込んで抗議の全体像を把握する努力が問われる。

【五輪期間中に40人以上を拘束】

SFTが得意とするクライミング抗議は、五輪開幕後の15日にも行われた。時刻は早朝6時前。2人のクライマーが巨大な五輪看板に登り、垂れ幕を吊り下げるのに成功した。

約30分間のアクションで、米国人ら5人は拘束の憂き目に遭ったが、やはり注目は、その場所だ。大看板があるのは、CCTVの新社屋のすぐ隣だった。
▼CCTV横のクライミング抗議(SFT)
画像

歪曲した奇抜なデザインで話題となったビルで、完成目前だ。抗議は3月以降、反チベット捏造報道を繰り返してきた宣伝機関に向けられていたのである。

SFTはプレスリリースで、抗議参加者の実名を公表すると共に、SFTのラドン・テトン代表の話として、こう指摘している。

「CCTVも輝かしい新社屋に代わり、当局の宣伝戦略も多少は洗練されたようだが、チベットに対する強硬姿勢を支えるプロパガンダは変わっていない」
▼CCTV新社屋横の抗議(AP通信)
画像

外観は超近代的に変わっても「中身は旧態依然」と皮肉っているのだ。海外メディアも現場に駆け付けたが、撮影した写真に背景のCCTV新社屋がハッキリ映り込んでいないのが惜しい。

五輪開幕2日前からSFTは北京市内での抗議を展開してきた。しかし、このCCTV横での抗議が効果的過ぎたのか、それ以降、警備は更に厳しくなったようにも見受けられる。
▼CCTV横抗議では5人が拘束(SFT)
画像

SFTは、18日までに計37人のメンバー及び支援者が拘束されたと明かしている。報道された人数と大きな隔たりがあることから、表面化した抗議以外にも複数のアクションがあった可能性が高い。

我が国では報道されなかったが、8月10日には、天安門広場に近いホテルで、雪山獅子旗を広げようとした男女2人が拘束された。抗議者の女性は、チベット人の父とドイツ人の母を持つパドマ・ドルマさん、21歳。
▼抗議を阻止されたドルマさん(SFT)
画像

周囲にいた私服と見られる人物は、パドマさんを引き摺り回すなど乱暴に取り扱っている。撮影者が近くにいたことに気が付かなかった為だろう。
■YouTube『students for free tibet in Beijing』

一連の抗議で当局者は、やや穏便な対応を示しているが、第三者の眼が届かない所では、威圧的で暴力的だ。それはチベット全土で進行する弾圧の凄まじさを暗示している。

【8月18日にカンゼで住民虐殺の波紋】

渡仏中のダライ・ラマ14世法王猊下は、8月21日付のル・モンド紙に掲載されたインタビューで、ショッキングな事実を明かした。

中共軍が18日にチベット東部カム地方で住民140人を虐殺したという。抗議活動を行っていたチベット人に対し、無差別発砲。3月の話ではなく、つい先日の8月18日のことである。
▼21日付『ル・モンド』紙1面(JNN)
画像

このインタビュー記事について、法王庁は「犠牲者数は語っていない」との声明を発表したが、一方で、虐殺が行われた具体的な場所は、カンゼ地方だと補足している。

チベット内の弾圧に関して亡命政府は常に慎重な立場を取り、精度の低い情報は扱わない。内部情報に定評があるRFAやTCHRDも、8月18日の事件を伝えていないが、法王庁サイドは独自の情報網で確認を取ったと考えられる。
▼仏ナンツ市を訪問した猊下8月18日(ロイター)
画像

実際にカンゼ地方の寺で5月末に発砲が確認された他、6月に入っても抗議活動が続き、相次いで尼僧が拘束されていた。カンゼは四川省に併呑された地域で、大地震の被災地にも近い。救援プロパガンダの陰で弾圧は、果てしなく進行していたのだ。

同じく四川省に組み込まれたアバ地方では8月9日にチベット女性2人が狙撃される事件が発生。軍部隊の増強も報告されていて、8月に入ってから、駐留部隊は2,000人規模から約1万人に急増したという。
▼アバ近郊での大規模演習・日時不詳(SFT)
画像

なぜ五輪開幕直前に部隊の大移動が進められたのか。スポーツ競技の背後で、何が起きているのか。そして、北京に乗り込んだ抗議者たちは、何を訴えようとして行動しているのか…
▼中華民族園入口での抗議8月13日(SFT)
画像

「チベット人は自由のために死んでいる」

中華民族園の前に広げられた横断幕に書かれていた言葉だ。北京に眼を向けた世界の人々は、その言葉の意味を今一度、噛み締める必要がある。


  〆
最後まで読んで頂き有り難うございます
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発 となります

banner1

参考記事:
■共同通信8月17日『北京で白昼に陳情者を拘束、連行  当局、五輪の陰で力ずく』
■AFPBB8月20日『抗議活動申請した高齢女性2人に「労働による再教育」』
■大紀元8月17日『北京五輪定例記者会見、外国メディアの人権質問に報道官怒りあらわ』

■SFT(日本版HP)8月13日『北京「中華民族園」での封鎖と横断幕アピール』
■SFT(日本版HP)8月15日『北京CCTVの五輪看板に"FREE TIBET"横断幕』
■AFPBB8月22日『18日にチベットでデモ弾圧か、ダライ・ラマ仏紙に語る』
■ル・モンド8月21日『Le dalaï-lama dénonce "le projet de répression brutale" au Tibet』

"虐殺五輪もうひとつの攻防…突入抗議40人以上を拘束" へのコメントを書く

お名前
ホームページアドレス
コメント