チベット祈りは風にのって…重厚な支援組織が発足

2人の米大統領候補が相次いで法王猊下支持を表明。我が国では新たなチベット支援組織が旗揚げされ、VIPが緊急来日した。そして五輪開幕を目前に再びフリー・チベットの声が高まる。
画像

「北京には自由というメッセージを携えてゆく」

虐殺五輪開会式のメーンゲスト・ブッシュ大統領は7月29日、ホワイトハウスに5人の人物を招き、記念写真を公開した。大統領と並んで微笑むのは、中共が忌み嫌う在米の自由・民主活動家たちだった。
▼公開された記念写真(ホワイトハウスHP)
画像

大統領が肩に手を乗せている女性は、ご存知、ノーベル平和賞最終候補にもなったWUC(=世界ウイグル会)のラビア・カーディル総裁。右隣は、労改問題追及の第一人者ハリー・ウー(呉弘達)氏だ。

ラビア総裁の左には米ウイグル協会のアリム・セイトフ事務局長。そして、シナ民主活動家の重鎮・魏京生氏、中共のキリスト教徒弾圧を批判する女性活動家ボブ・フー(傅希秋)牧師が並んでいる。

公表された写真は1枚だけで、各人との会話の詳細は伝わっていない。しかし、興味深いのは、同じ日、ホワイトハウス内で中共・楊外相とハドリー補佐官との会談が行われていたことだ。
▼ブッシュ大統領と楊外相7月29日(サーチナ)
画像

もちろん時間は重ならず、5人と中共政府当局者らがすれ違うことはなかったろうが、意図的なニアミスだ。どこぞの国の首相官邸では、あり得ないアピール手法である。

横田早紀江さんと対面した2年後に、真正面から裏切ったのがブッシュだ。こうした「正しい行い」でも開会式出席の批判は免れない。ただ、重要なのは、ブッシュ大統領にプレッシャーを与える充分な民意や議会の声が背後に存在していることだ。

【マケイン候補が猊下と劇的初会談】

翌7月30日、米下院本会議は、新たな対中非難決議を採択した。五輪開催にあたって「人権状況の改善」を中共政府に強く迫る内容だった。

人権侵害の停止、チベット・ウイグル系住民への抑圧停止、そしてスーダン・ビルマ非人道政府への支援ストップ。また具体的に、獄中にあるシナ人権活動家・胡佳氏らの即時釈放も掲げている。
▼投獄前の胡佳・曾金燕夫妻去年1月(AFP)
画像

中共はさっそく会見で発狂し「ひと握りの反中議員の劣悪な行為」と批判したが、下院本会議の採択は「賛成419反対・棄権2」という圧倒的なものだった。北京語では419議員を「ひと握り」と表現するようだ。

欧米社会で人権問題は、議論の余地のない普遍的なテーマだ。政治家が重大な人権侵害に沈黙することは許されない。それを如実に物語るのがブッシュの活動家招待であり、2人の米大統領候補のアクションだった。
▼会談に臨む猊下とマケイン議員(AP通信)
画像

米共和党の大統領候補マケイン上院議員は25日、コロラド州アスペンで訪米中のダライ・ラマ14世法王猊下と初めて会談した。緑の中を2人が手を取りあって歩く姿は、実に印象的だ。

「中国は3月の騒乱で行方不明とされたチベット人政治犯を釈放し、チベットの自治に関する実効的な対話に応じるべきだ」

会談後、マケイン議員は、記者団にそう答え、五輪開催に絡んだ人権問題についても話し合われたことを明かした。対して法王猊下は、大統領候補がチベット問題に大きな関心を示したことに謝意を表明した。
▼コロラド州アスペン7月25日(AP通信)
画像

法王猊下は先日にウィスコンシン州で重要な宗教行事を終えたばかりで、過密なスケジュールを縫う中での初会談だったが、これに少々慌てたのが一方のオバマ上院議員だった。

【オバマ候補も最高の敬意と支持】

実は、法王猊下とマケイン議員の会談が行われたコロラド州アスペンには、オバマ議員の密使も姿も見せていたのだ。クリントン政権時代にNSCアジア担当だったジェフリー・ベーダー氏である。

密使は、オバマ上院議員が法王猊下に宛てて書いたメッセージを携えてやって来た。

「私は、各巡業日程のため法王の今月のアメリカ訪問時にお会いできない事を残念に思っています。しかし、この決定的な時期に法王と法王の活動、そしてあなたの国の人々に対する私からの最高の敬意と支持をこの機会を借りて再保証したいと思います」
▼DCで演説するオバマ議員7月29日(ロイター)
画像

なかなか誠実な文章で、両候補共に好感度アップだ。この書簡の日付は、7月24日だった。マケイン陣営が法王猊下との会談を公表したのが24日。それを知って直ちにメッセージを書き上げたのである。

マケイン議員は24日、遊説先のオハイオ州で記者団に初会談実施を明かすと共に、法王猊下を「国の模範となる卓越した人物」と絶賛。さらに、こうも語っていた。

「私は以前からダライ・ラマ法王の熱烈なファンだ」
▼報道陣に答える猊下とマケイン議員(AP通信)
画像

対するオバマ陣営は、以前に下院外交委でオバマ議員が法王猊下と対面していたことなど強調。将来的にオフィシャルな会談が行われることは確実だ。

例え政治家の“人気取り”であったとしても、チベット人にとっては好ましい。チベット支持・支援が票に繋がる現実、さらに背景に米国民の熱い声があることを裏付けている。
▼猊下とマケイン議員の後ろ姿(AP通信)
画像

残念ながら、その点で我が国は後進国だ。チベットの政治テーマ化を嫌うヘタレな議員連中が余りにも多い。チベット亡命政府議会は、7月28日付けで福田首相宛に「お願い」の手紙を送った。

「どうか北京をご訪問の際には、ダライ・ラマ法王によって唱導された『対話』をご称賛いただき、対話を通してチベット問題の永続的な解決策をみつけるよう中国指導部にご提言いただきますようお願い申し上げます」
参照:法王庁HP7月28日『チベット亡命政府議会から福田康夫日本国内閣総理大臣へのアピールレター』

福田康夫は8日の北京訪問で屠殺鬼らと相次いで会談する。他の元首クラスに比べて異例の長時間会談だという。そうした“格別の地位”を知った上で一筆献上したのだが、福田は握り潰すだろう。
▼日支首脳会談の2人5月(ロイター)
画像

自称リベラルの野党から、開会式に参加する福田に強力な圧力をかける気配もない。しかし、その中で政治家有志も巻き込んだ動きが立ち現れた。

【外交の転換目指す新支援団体が誕生】

五輪開幕を目前に「チベット自由人権100人委員会」が結成され、永田町の憲政記念館で7月30日、発足記念のシンポジウムが開かれた。急な展開で告知する余裕がなかったが、筆者も参加した。

世界のノーベル賞受賞者や思想家などが参加する著名な「チベット100人委員会」は92年から活動を続けているが、ついに我が国でも産声をあげた。
▼挨拶する松原仁衆院議員(撮影筆者)
画像

結成趣意書には、チベットに関する情報の共有、関心の喚起などに続いて、国会議員及び地方議員と協力してチベットと日本政府の仲介を補助することも謳われている。

「日本の国会あるいは地方議会へのロビー活動を行い、チベットに関する政府の外交方針を転換させ、チベットを『占領された国家』と認定させる」(趣意書4項目抜粋)

我が国は古くから熱心なチベット支援組織が複数ある。しかし、外交方針の転換を迫るようなロビー組織がなかった。今、求められているのは、幅広い市民の声を政治に反映させるパイプ役だ。
▼挨拶する中川元政調会長
画像

発足シンポジウムには、中川昭一元政調会長をはじめ、自民党から衛藤晟一参院議員、山谷えり子参院議員、戸井田とおる衆院議員らが出席。民主党からは松原仁衆院議院、渡辺周衆院議員らが参加した。また安倍前首相は特別メッセージを寄せている。

パネルディスカッションには西村幸祐氏、櫻井よしこ氏、酒井信彦氏、王進忠氏が登壇。それぞれ高い見識に基づいた興味深い話を堪能することができた。
▼壇上の西村幸祐氏と王進忠氏
画像

この発足シンポが画期的だったのは、インドから特別に貴賓が招かれたことだ。法王猊下の実兄ギャロ・トゥンドゥップ閣下である。

【中共指導者が北京に招いたチベットVIP】

ダライ・ラマ14世法王猊下の2番目であるギャロ・トゥンドゥップ閣下は、さる7月28日に緊急来日した。「100人委員会」の発足シンポの為に、遠いインドから我が国に足を運んだのである。
▼ギャロ・トゥンドゥップ閣下
画像

産経新聞がインタビューした程度でメディアは報じなかったが、VIPの突然の来日である。ギャロ・トゥンドゥップ閣下は、法王猊下の実兄という以上に、チベット外交のキーパーソンとして知られる。

法王猊下とは光と影の関係に近く、チベット専門家は“汚れ役”を担い続けて来たとも評す。特に有名なのは、1979年にトウ小平と直接会談を行ったことだ。

チベットにしても、中共にしても余り語りたくない歴史の1ページだが、今回のシンポでギャロ・トゥンドゥップ閣下は、伝説的な会談について、多くの時間を割いて語ってくれた。壇上で語られたのは、無難な話ではなく、当事者による直接の生々しい説明…驚きである。
▼通訳するペマ教授と閣下
画像

トウ小平時代が幕開けして間もなく、北京はチベット側と交渉の準備をスタート。閣下が明かした所によると、香港で自分を捜しているとの情報が入ってきたという。始まりは香港ルートだったのだ。

トウ小平は、ギャロ・トゥンドゥップ閣下に白羽の矢を立て、指名ししてきたようである。そして79年3月、北京での会談が実現。3週間以上も北京に留まったという。
▼1980年頃のトウ小平
画像

ギャロ・トゥンドゥップ閣下はトウ小平に対し、難民の相互訪問やチベット語教師の派遣、更にパンチェン・ラマ10世の正しい扱いなどを要求。答えは、いずれも好意的だった。この会談冒頭、トウ小平は「この場から交渉を始めましょう」と述べ、こう宣誓していた。

「完全な独立以外、何でも話し合う用意がある」

中ソ対立の時代だったとはいえ、積極的なアプローチである。ダライ・ラマ14世法王猊下が訴える「高度な自治」は、誤解も多いが、チベット=中共対話の端緒となった79年の会談に繋がっているのだ。

密かな折衝は、89年のラサ大虐殺で一旦幕を降ろすが、意外なことに、閣下の屠殺鬼評は悪くない。実は、トウ小平に連れ回されていた時代の胡錦濤に会ったこともあるのだという。刮目のエピソードだ…
▼基調講演で質疑に応じる閣下
画像

ギャロ・トゥンドゥップ閣下の講話は、ペマ・ギャルポ教授の通訳で、質疑応答も含め約40分にも及んだ。印象深かったのは、アジアの国家として我が国に大きな期待を寄せていることだった。そして、閣下は力強く、こう語っていた。

「人口も少なく、知恵も乏しいが、正義だけはチベットにある」

【開幕にあわせ地球規模で光のプロテスト】

政治レベルで働きかけを行う組織が設立される一方、我が国のチベット支援の輪は草の根的にも広がりを見せ続けている。五輪開幕直後には、再び六本木でデモ行進を予定。チベット人グループの主催で、大きな規模になりそうだ。

8月9日(土)午後4時~ 六本木・三河台公園
参照:チベット・サポート・ネットワーク・ジャパンHP
▼3・22集会の三河台公園
画像

そして、米流時評様が7月26日付けエントリ『 告知・五輪当日に史上最大のフリーチベット!』で逸早く伝えていた「キャンドル・イン・マイ・ウィンドウ」にも注目だ。

五輪開幕に合わせて行う地球規模の光の抗議である。まずインドで、現地時間8月7日の午後9時にスタート。日没を追って地球を西に回り、次々にキャンドルに火を灯していく壮大な計画だ。
参照:『Candle 4 Tibet(日本語トップページ)』
▼カトマンズのチベット人集会4月(AFP)
画像

我が国の指定時間は、7日21時ではなく、五輪開幕の8月8日夜。開会式が始まる時に、キャンドルに火を灯す。関西などでは集団での点火が予定されているが、個々人で実行するのが特徴で、自宅や職場など、キャンドルを灯す場所はどこでも良いという。

鮮やかな沈黙の意思表示だ。このプランを知って連想したのは、チベットの美しい伝統、風に旗めくタルチョだった。
▼チベット僧院に翻るタルチョ(ロイター)
画像

チベット世界では、タルチョという「五色の旗」を目にすることが多い。僧院に限らず、家の軒先や屋上など様々な所に結ばれている。旗に刻まれているのは、ルンタ(風の馬)や経文だ。

ありがたいお経が、風に乗って他に土地にも届くことを願っているのだという。風に運ばれてダルマ(仏法)は世界に広がる…
▼ヒマラヤ山麓で風になびくタルチョ(ロイター)
画像

チベット人は代々、この世を安らかにする為に、別世界の住人達に「祈り」をプレゼントしてきた。今は、光のプロテスト、祈りのキャンドルで、チベット人にお返しをする番だ。

自分以外に灯りを目撃する者はいないかも知れないが、その思いを、きっと風が運んでくれることだろう。
画像


  〆
最後まで読んで頂き有り難うございます
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発 となります

banner1



young
****************
【Side Story】
「チベット自由人権100人委員会」の発足シンポに関して、告知が間に合わず、申し訳ありません。同会についてはペマ教授から詳しい案内がなされると思います。ペマ教授のブログなどにご注目下さい。
参照:ペマ・ギャルポblog7月29日『チベット自由人権日本100人委員会』会員申込書

『Candle 4 Tibet』のムーブメントは、現在、Mixiなどを中心に急速に伝達されています。署名数も、ここ2日間で急増。大変な勢いです。一昨日は約55万人だったような記憶が…錯覚か。神戸・長野などに加えて、各地で集団点火が催されるかも知れません。

参照:
「キャンドル・フォー・チベット」 プレスリリース

法王庁HP7月28日『オバマ氏、アメリカのダライ・ラマ法王とチベットの人々への支援を再保証する』

参考記事:
■産経MSN7月30日『ダライ・ラマ実兄 「暴力からは何も生まれない」胡錦濤主席との直接対話訴え』
■時事通信7月31日『「チベットの人々を支援」
オバマ氏がダライ・ラマに書簡』
■産経MSN7月26日『「チベット自治で対話を」マケイン議員、ダライ・ラマと会談』
■産経MSN7月30日『米大統領、魏京生氏らと面会 五輪出席控え民主化への関心強調』
■産経MSN7月31日『米下院、対中非難決議を採択 「人権状況の改善」迫る』

"チベット祈りは風にのって…重厚な支援組織が発足" へのコメントを書く

お名前
ホームページアドレス
コメント