タリバンにも太陽政策を…韓国人拘束事件の隘路

情報が錯綜する韓国キリスト教団人質事件。犠牲者の確認後、新たな韓国特使が現地に向かった。盧武鉉の対タリバン交渉は太陽政策の愚かさまで浮き彫りにするか…
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収容された遺体には、頭や胸など10ヵ所に銃創があった。処刑に等しい残忍な扱いだ…

日本時間7月25日夜、アフガニスタン東部ガズニ州でタリバンに拘束された韓国人23人のうち1人が殺害されたことが判明。遺体は拘束現場から約100キロ離れた砂漠に放置されていたという。

遺体で発見されたのは裴炯奎( ぺ・ヒョンギュ)牧師・42歳で、韓国人キリスト教グループを引率していた人物だった。
▽犠牲者発生を伝える韓国紙(AP)
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人質殺害についてはタリバン側の報道官が25日夕方の時点でNNNの取材に対して、こう答えていた。

「アフガン政府との交渉は決裂した。人質を殺害する」

遺体発見後も韓国政府は断定を避けていたが、26日朝になって会見を開き、犠牲者発生を正式確認。タリバン側が殺害期限の延長を繰り返す中、一部で楽観的な観測も出ていたが、事態は一転、関係者の間には衝撃が広がっている。

犠牲者発生と同時に「8人の人質が解放された」との情報も飛び交ったが、実際には尚も拘束中であることが、アフガン当局者とタリバン側の声明で判明した。

CNNが一時「解放された一部の人質はガズニ州の米軍基地に到着した」と報道するなど情報は錯綜している。

「人質解放」のリーク元は韓国政府当局者で、各メディアが韓国発の情報の振り回されていることが分かる。

【混乱を極めるメディアの実況】

人質殺害の正式確認後、盧武鉉政権は26日昼になって大統領特使を現地に派遣した。23人の拘束が判明してから実に1週間が経過する中での閣僚級特使派遣となる。
▽26日犠牲者を正式発表する韓国政府(FNN)
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事件発生を受け、青瓦台は外交通商相の次官クラスを現地に送り込み、交渉チームを組んでいたが、対応は後手後手。その一方で、情報の混乱に拍車を掛けているのも、韓国メディアだ。

聯合ニュースは25日夜「解放された人質は安全な場所に移動した後、健康診断を受けて帰国する」と報じたが、まったくの誤報だった…

7月20日夜の第一報以降、韓国の主要メディアはアフガンや近隣国に直ちに記者を送らず、ただ海外通信社の情報を都合よく引用してきた。それが情報精度を欠き、楽観的な予測に流れた主な原因だ。

中央日報や朝鮮日報などは発信地のクレジットを点けた記事を配信していない。
▽連日トップで伝える韓国紙(AP)
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アフガニスタン国内に記者を配置しているのはロイターやAPなどの通信社の他、我が国では共同通信だけだった。共同通信にカブール支社を置いて配信を続けているが、やや飛ばし気味。それを韓国メディアが度々恣意的な引用を続けた結果、混乱が広がった。

NHKや読売新聞などはイスラマバードから記事を発信し、時事通信はデリー支局発。タリバン側からの高度な情報が集まるカンダハルから精力的に発信しているのは仏・AFP通信社だけだ。

もっともタリバン復活で政情不安が高まるアフガンでの取材活動は、困難を極める。特に欧米人記者は拉致対象になっている為、取材エリアはごく一部に限定されている。
▽ガズニ州に展開する米軍4月(ロイター)
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一方で“最新リポート”を流し続けたのはタリバン報道官を名乗る人物だった。結局、情報の出元は都内からの電話確認であるなど、本末転倒の状況だ。

【復讐に燃える新司令官が姿を現す】

各メディアに直接電話で応じていたのは、ユスフ・アマディと名乗るスポークスマンだ。日本のマスコミからの電話連絡も可能で、事件発生以降、何度も取材に応じ、威嚇する発言を繰り返している。

先方の発信場所も不明とされるのだが、取材には頻繁に応じているようだ。交渉期限などを明かしているのもこの報道官だが、発言の裏付けはなく、度々混乱を招いていた。
▽タリバン報道官の発言(FNN)
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当初、拘束された韓国人は18人と発表されたが、間違いはタリバン報道官が現状を把握していないだけだった。AP通信に対して報道官は、こう弁明している。

「5人は現地語を話した為、アフガン人と思い込んだ」

度々延長される交渉期限などメディアは報道官の発言に振り回されてきた格好だが、7月25日、遂に本格的な人物が英メディアに登場し、注目を集めている。

英国の民放「チャンネル4」は、タリバン新司令官のインタビュー映像を公開した。新たな司令官と見られるのは、マンスール・ダドゥール。今年3月のイタリア人記者拘束事件で、交換釈放された人物だ。
▽映像に登場した新司令官(チャンネル4)
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新司令官は映像でアフガンの武装勢力に対し、こう呼びかけている。

「できるだけ多くの外国人を拉致し、解放の条件として収監されているタリバン戦闘員の釈放を要求せよ」

今年5月12日、南西部ヘルマンド州の戦闘でタリバン司令官が戦死した。攻勢を強めるタリバンにとっては大打撃となる事態だった。死亡した司令官の名前もダドゥール…

新司令官として登場したマンスール・ダドゥールは実の弟と見られる。タリバン側が7月になって、これまで例外的だった外国人の拘束・即殺害を繰り返しているのは、復讐に燃える新司令官の方針によるものだろう。
▽武装集団を率いる新司令官(チャンネル4)
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アフガン国内に留まらず、パキスタンでもタリバン支持勢力が過激な活動を活発化させているのも、少なからず関係していように見える。その新司令官は、英チャンネル4の映像の中で、こう宣言していた。

「次の人質処刑の際には子供に首をはねさせる」

相手は問答無用の武装勢力だ。掃討作戦に対しタリバンが逆攻勢を強める中、現地に入った韓国人グループは、やはり「無謀」と指摘されても仕方がない部分があるだろう。

【イスラム圏突入の意味を知っていたのか】

23人の拘束判明後、韓国内でも批判的な見方が噴出していた。『東亜日報』は、拘束されたメンバーが仁川空港内にあるアフガン入国自粛を掲示板の前でピースサインを出す写真を掲載、批判的に報じていた。
▽批判された写真(JNN)
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また23日には団体として「望まれない地域での活動を中断する」との声明を出すなど謝罪に追い込まれた。韓国内での批判は、犠牲者が出た事で、やや沈静化すると見られる。

しかし、集団で現地入りしたのは、あくまでもプロテスタント系のキリスト教団。イスラム圏の中でも、強硬な原理主義が広がるエリアにグループで入るのは、余りにも挑発的な行為だ。

センムル(泉の水)教会は、創立10年に満たない若い宗教団体だが、精力的に海外での布教活動を行っていると解説されている。ボランティア目的を看板にしても警戒感を抱かれるのは当然で、イスラム世界を甘く見た印象は否めない。
▽公開されたグループ写真(AP)
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穏健派のイスラム世俗国家でさえも、異教徒の布教はほぼ禁止されている。その中、殉教戦士を育成しているタリバンの勢力範囲に突入するのは、過剰反応を呼び起こすものでしかない。

しかも、同グループは現地で「死の道」と呼ばれる幹線を新型のバスで集団移動。その途上で数十人ものタリバン兵に囲まれた。移動情報が漏れたうえで、待ち伏せされたものと見られる。
▽拘束後に発見されたバス(AP)
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警戒心を持っていれば、目立たないように移動するのが基本だが、このグループは、まったく逆だった。その背景には「競争」があったのではないか?

【韓国政府によるメディア表現規制】

韓国紙の情報によると、現在アフガンに長期滞在する韓国人宣教師は10派100人以上。その殆どが奉仕活動をメーンにして宣教活動は明かしていないという。そこでは、各派で競争意識があったようにも感じられる。

中には古くから地道な活動を続けている団体もあるが、一部には「危険な地域での活動」を必要以上に強調し、広報に活用している組織もあるのではないか…

センムル教会が使っていた“目立つバス”を見ると、現地人の移動を装わなかったのは疑問だ。若年層のメンバーは、善意で参加したのだろうが、教会側は明らかに危険を避ける努力を怠っていた。
▽移動に使用されたバス(AP)
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一方でタリバン側が韓国人グループを標的にした背景には、異教徒の宣教集団と見なしたこともあるだろう。報道官らは明言していないが、宗教的な意味合いがゼロとは到底考えられない。

韓国政府は、外国メディアに対して拘束されたグループがキリスト教関係であることに触れないよう要請を出したという。

確かに我が国の一部メディアも「韓国人グループ」「ボランティア・グループ」などと表現し、教会名を外して報道し始めている。初期の報道で韓国メディアは、こう表現していた。

「アフガニスタンで短期宣教に参加していた韓国人キリスト教信者たちのグループが20日、武装勢力に拉致されたことが明らかになり…」(朝鮮日報7月21日)

それがいつの間にか「ボランティア団」に変化している。表現規制も問題だが、宗教的な背景を隠すと、今後の進展を読み違える可能性もある。相手はあくまでも過激な原理主義武装勢力だ。

【タリバンにも太陽政策は通じるのか】

タリバン側は26日、交渉期限の再延長を決定し、新たに日本時間27日午後4時半に設定した。これで事件発生から6回目となる延長だが、今回も期限を過ぎた場合は残りの人質を殺害すると警告している。

現在、タリバンとの交渉を行なっているのはアフガン政府当局者だ。交渉団関係者によれば、タリバン側は3つのグループに分かれ、それぞれが人質を連れているという。
▽拘束現場近くでの検問(AFP)
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その中の2グループは身代金交渉に応じる意向を示しているものの、残る1グループは拘束中のタリバン兵釈放を要求。タリバン側の足並みの乱れは、逆に交渉を難航させる可能性がある。

3月のイタリア人記者誘拐事件でタリバン幹部を交換釈放したカルザイ政権は、批判の矢面に立たされた。その後、アフガン政府は釈放要求には一切応じないという姿勢だ。

青瓦台が派遣した特使は、現地にキャッシュを運び込む役割も担っているのだろう。単純な身代金交渉であれば、全人質の解放は早い。しかし、既にタリバン側は1人を射殺している。
▽タリバン兵訓練基地(アルジャジーラ)
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イラクで日本人3人を誘拐した小規模の武装グループとはレベルが違う。最終的に金銭で解決に至ると安直に考えない方が良い。国際社会でタリバンは「ならず者」の烙印を捺され、開き直っている集団だ。

危険な組織だからこそ、支援を進め、経済自立を促すというのが盧武鉉の掲げる太陽政策だが、同じ理屈が果たしてタリバンにも通用するか?
▽21日緊急演説する盧武鉉(AFP)
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カネで懐柔しても相手は増長するだけで「ならず者」の性根は変わらない。

対タリバン交渉を通して、太陽政策の理屈が成立しているのか否か、盧武鉉はこれを機に学ぶべきだ。


     〆
最後まで読んで頂き有り難うございます♪
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参考記事:
Channel4 7月25日『Taliban makes kidnap threat』
産経新聞7月27日『揺さぶるタリバン、仲間の釈放要求 韓国人拉致事件』
読売新聞7月27日『タリバン、韓国人人質の交渉期限を27日正午まで再延長』
AFP7月26日『アフガン人質事件、殺害されたのは韓国人牧師と確認』
イザ5月13日『タリバン最高幹部死亡か オマル師側近の司令官』

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