抹殺された北朝鮮元工作員…安明進逮捕で笑うのは誰

衝撃が走った安明進逮捕の一報。容疑を補完する情報も素早く噴出し、転落の図式は完成しつつある。反金正日を叫ぶ元エリート工作員の退場を喜ぶのは誰なのか。
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韓国・聯合ニュースが9日に打った速報が発端だった。

ソウル市警が麻薬管理法違反の容疑で韓国在住の元北朝鮮工作員を逮捕。その経歴は、金正日誠司軍事大学を卒業、93年に特殊工作員として韓国に派遣された後に亡命…

パーソナルデータは、日本でもお馴染みの安明進元工作員のものと符合していた。聯合ニュースの一報が出た後、我が国のマスコミ各社が取材を始め、捜査当局の関係者が逮捕者の名前を明かす。

「アン・ミョンジン」

予想だにしない衝撃的な事態だ。拉致事件で画期的な証言を行なってた人物が、麻薬事犯で被疑者となる異様な展開である。

聯合ニュースなどによれば、安明進容疑者は2年前の5月、中朝国境に近い都市で北朝鮮製の覚醒剤75グラムを入手。同居中の女性と一緒に使用すると共に、今年2月、ソウル市内のバーで覚醒剤を売るなど4回にわたって12グラムを密売したという。
▽逮捕された安明進元工作員
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単なる覚醒剤の所持に留まらず、販売目的所持となると量刑は一気にアップし、重罪に問われる。更に、密輸容疑も加味され、長期間の拘留は確定的だ。

別の脱北者が6月に逮捕されたのを切っ掛けに、ソウル市警麻薬捜査隊が内偵をスタート。安明進元工作員の自宅周辺で張り込みを続けた結果、駐車場の自家用車から吸引具などを発見、逮捕に至ったという。

続報では「1年余り薬物中毒状態だった」といったマイナス情報が氾濫しているが、果たして捜査当局のリーク情報を額面通り受け取って良いものなのか?

【日テレの早過ぎる補完情報】

安明進元工作員と面識のあった拉致被害者家族会など関係者は「覚醒剤で逮捕」の報せを受け、一様に動揺を隠せない。
▽工作船を視察する安元工作員(代表撮影)
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その中で荒木和博氏は、かつて安明進から直接受けたという警告の言葉を回想している。韓国政府のブラックリストに載る荒木氏は、知らない間にバッグに麻薬を放り込まれてテッチ上げ逮捕されることもある、と注意された経験があったという。
参照:『増元照明 メッセージ7月10日付け』

麻薬を使った工作に注意を促していた本人が、大量の覚醒剤を所持していたことは奇妙だ。確かに、今回の逮捕劇には「完成されたシナリオ」があるようにも思える。
▽画像:NNN
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7月10日、日テレ報道局は続報として「安明進容疑者 日本にも覚せい剤持ち込みか」とタイトル打ちした独自ニュースを流した。その内容は大きな疑問符を付けられるものだ。

「救う会」の元幹部を名乗る男がバストショット(顔隠し)で登場。2年前に安元工作員が来日した際、覚醒剤の実物を見せられた上で、売買の斡旋を依頼されたという告発だった。
▽「救う会」元幹部を名乗る男性(NNN)
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夕刊ニュース『リアルタイム』で報じられたのが最初だが、事件の一報から24時間以内での“内部告発”だ。素早い報道から、取材活動でキャッチした証言ではなく、元幹部サイドからの情報提供だったと考えられる。

マイナス情報を畳み掛けて追い込もうとする一定の力が働いているように見えてならない…

【平壌915病院で出会った日本女性】

これまで貴重な情報を提供し、金正日非難を繰り返してたきた安明進逮捕の報は、拉致被害者家族会のみならず、金正日独裁体制と闘う人々にとって大きな痛手だ。

しかし、旧知の関係者は正面から弁護するのを避けた方が良い。麻薬事犯は、人格そのものを否定する意味がある。他の軽微な犯罪容疑とは質的に違うのだ。沈黙せざるを得ない。
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当局に嵌められた可能性があっても、麻薬を放り込まれて捕まればそれでジ・エンド…罠に陥れられたのであれば、それこそ特殊工作のエキスパートにとっては致命的なミスでもある。

だたし、安明進逮捕が報道の通りであっても、証言の信憑性が損なわれるものではない。特に拉致事件の突破口になった横田めぐみさん拉致に関しては、既に加害者側が自供しているものだ。覆る要素は全くない。

懸念されるのは、古川了子(のりこ)さんに関する目撃証言である。昭和48年に失踪した千葉県市原市出身の古川さんについては、安明進証言が頼りだ。

失踪から18年後の平成3年(91年)夏、特殊機関員専用の平壌915病院の敷地内で安明進は偶然、散歩中の女性と出会う。気になって看護婦に素性を訊ねると、その女性は日本人だった…
▽古川了子さん
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失踪者リストの中から写真照合した結果、浮かび上がったのが古川さんで、そこでは安明進証言が決定的な役割を果たした。昨年11月1日に法廷で証言台に立ったのも古川さんの拉致認定をめぐる訴訟での一幕であった。

証言の信憑性に関して改めて疑念を生じさせることはないが、唯一の目撃者が社会的に抹殺された現状は、解決に向けて少なからず障害となる。非常に残念な事態だ…

【議論を呼んだ“3人の安明進”】

今から10年前の97年。安明進証言は拉致事件解明への突破口を開いた。その功績は今も変わらない。

元工作員の告発は大きな反響を巻き起こすと同時に、誹謗・中傷を掻き立てる原因ともなった。表舞台への登場時から、絶え間ない攻撃に晒されていたのだ。
▽証言する安元工作員(共同通信)
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最も敏感に反応したのは総連=北朝鮮と結託する我が国の反日ファシスト連中で、横田めぐみさんに関する目撃証言を妄言と切り捨てた。その5年後に大恥をかくことになったが…

また発言の微妙な誤差を取り上げて矛盾を追及する者もいた。中でも安明進はスポークスマンに過ぎず、背後のいる覆面の人物の代わりに喋っていると指摘する声もあった。

これまで数々のテレビメディアに出演してきた安明進だが、その情報の中に別の元工作員が提供した内容が含まれているのは確かだろう。本人は自著の中で、他の3人の仲間と共に国境線を越えて亡命した事実を明かしている。
▽脱北した先輩との記念撮影
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いずれも特殊工作員としてエリート訓練を受けた人物だ。安明進はその内、ただ1人顔を晒して北朝鮮を告発する役割を担った。暴露したエピソードのいくつかは、別人から得た情報を統合したものであるだろう。

「3人の安明進」などと揶揄されることもあったが、それはインテリジェンスの世界では許される範囲と考えられる。情報鎖国・北朝鮮の内情を知るには、あらゆるインテリジェンスを汲み上げ、精査する必要がある。そこから何を読み取り、透視するかが重要なのだ。

しかし、北朝鮮を仮想敵とする我が国は、高度なインテリジェンスの獲得にどれだけの努力をしたのだろうか?

【有益な情報源を放置した無策】

『産経新聞』『AERA』などが横田めぐみさんのスクープを報じた後、警察関係者は慌てて韓国に飛び、安明進元工作員に面会し、話を聴いていた。本人の弁によれば、複数回に及んだという。

しかし、それは警察組織による事情聴取の範囲を越えなかったようだ。公安調査庁やCIRO(内調)が、広範な情報獲得に動いた気配はない。お粗末なインテリジェンス感覚との誹りは免れないだろう。

日本人拉致がどのような謀略組織によって準備・実行されたのか…我が国は、あらゆる手を尽くし、北朝鮮の工作機関の実情把握に務めるのが基本だ。情報獲得において「過剰」は存在しない。
▽衆院拉致問題特別委での証言(JNN)
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旧知の関係者が明かすところでは、最近、安明進元工作員は職を失い、生活に窮していたという。我が国にとって決定的な証言を提供した人物に対し、国家として救いの手を差し伸べるべきだったろう。

機密費を投じて抱え込んでおくような度量が必要だった。情報源を守る努力をしなければ、今後、我が国に有益なインテリジェンスを提供する者も限られるに違いない。カネとはそのような時に使うものだ。

安明進元工作員は韓国では既に使い捨てにされていた。そればかりか、太陽政策の元では逆に“危険な存在”であった…

【親北再暴走の矢先に起きた逮捕劇】

「私は韓国に着いて間もなく、北朝鮮が繰り返している各種スパイ行為と国際的謀略を当局に暴露した。スパイ養成機関やその侵入方法、そして彼らの訓練状況など、知っている限りの情報を提供して韓国当局に協力を惜しまなかった」(『北朝鮮拉致工作員』132頁)

安明進元工作員が韓国に亡命を果たしたのは、南北及び米朝の対立が先鋭化していた93年夏だった。当時韓国は金泳三政権下。安企部も強力で、北朝鮮への警戒を怠らなかった時代だ。

しかし、金大中の登場によって安企部は解消、国情院として改組された。いきなり風向きは変わってしまった…金正日体制の告発者は厄介者扱いである。
▽南北首脳会談
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現在の盧武鉉政権に至って、その傾向は更に顕著となり、安明進ら告発者は居場所を失ってしまったようだ。最高位脱北者の黄長ヨプ氏も軟禁さながらの状態に置かれてる。

更に、韓国が親北路線で再び暴走し始めた中で起きたのが、今回の逮捕劇だった。もちろん軽々に国策逮捕などと言うことは出来ない。だが、安明進逮捕で誰が一番喜んだのか、答えは明白だろう。
▽ソウル市内を歩く安元工作員
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かつて北朝鮮は安明進証言に震撼し、平壌放送は、こう喚き立てた。

「北朝鮮工作員・安明進という人物は過去にも現在にも存在したことがなかった。実在しない幽霊のような人物を登場させたこのような謀略劇が通用するわけはない」

お決まりのフレーズでもある。しかし「北朝鮮元工作員・安明進」が「過去にも現在にも存在しなかった」と位置付けたいのは、今や韓国政府なのではないか?


      〆
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参考記事:
読売新聞7月11日『逮捕の安元工作員、転落の逃亡生活…離婚、薬物中毒』
イザ7月10日『生活費工面できず、元工作員いつかキタ道』
参照:
平成17年7月28日国会衆議院拉致問題特別委 安明進証言

参考文献:
安明進著『北朝鮮拉致工作員』徳間文庫2000年
講談社ムック『横田めぐみは生きている」2003年

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