6ヵ国協議のメルトダウン…北京の8時間、米朝の暗闘

5日間にわたる6ヵ国協議は完全な失敗に終わり、枠組みを問う声も噴出…3年半のムダな歳月だった。6人の代表者をよそに、米朝の金融担当者は不気味な交渉を続けた。焦点は謎の8時間だ。
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「また北京に戻ってきます。いつになるか分かりませんが…」

23日、北京空港に到着した米国のヒル国務次官補は、そう言って帰国の途についた。17日の日曜日に北京に降り立ってから7日間が経過していた。

なぜ今回の6ヵ国協議が何ら成果なく終わったのか…それはヒル次官補の最後に吐いた皮肉めいた言葉に集約されている。

「次は北朝鮮の代表団が交渉できる権限をもって臨むことを期待する」
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つまり北朝鮮代表の金桂冠は、飾り物に過ぎなかったのだ。

10月末に行われた米中朝の秘密会合で、ある程度の道筋はついていた。中共が描いたシナリオは途中で何らかの障害にぶつかったと見られる。

今回の協議に向けて米国は実質的な進展に意欲を見せていた。

北京を訪れた米国代表団の中には、権限を持たされた人物が含まれていた。NSCの東アジア部長ビクター・チャーだ。ビクターは対北朝鮮強硬派のひとりで、6ヵ国協議のテーブルでは次席代表として北朝鮮側と激しく渡り合う場面も予想されていた。

だが、現実は違った…

18日の協議再開から簡単に流れを追ってみよう。

【金桂冠の役割は吠えるだけ】
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■12月18日■~1日目

金桂冠は手始めブラフをかける。国際会議の場とは思えない脅し文句であった。

「我々は核を持っていることに満足している」

この姿勢には、北朝鮮が6ヵ国協議を核削減交渉の場に変えようとする悪意が込められていた。更に、金桂冠はそれだけでは飽き足らず“凶器”を振り回す。

「制裁圧力が高まれば核抑止力強化のための措置を取る」

これは追加の核実験を示唆するものであった。相変わらずの恫喝発言だが、初日の会合はまったく意味をなさなかった。

北朝鮮側の重要な担当者が到着していなかったのだ。

■12月19日■~2日目

その担当者とは、米朝の金融作業部会でネゴシエーターに選ばれた呉光哲(オ・グァンチョル)朝鮮貿易銀行総裁だ。表向きの肩書きも重要だが、呉光哲は金正日の秘密資金を管理する「38号室」に関わる金庫番とも見られている。

金桂冠は、金融作業部会の進展を見ながら6ヵ国協議を進める意向を打ち出し、各国代表者は呉光哲の到着をただ待っていたのだ。
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当の呉光哲は19日昼前に北京空港に降り立ったが、米朝の金融作業部会がスタートしたのは午後4時過ぎだった。

それが終わったのを受けて、各国代表者が参加する夕食会が開かれた。

ここで2国間会合が行われたが、日朝間だけ行われなかった。佐々江局長はこの場で中共の武大偉を通じて「拉致問題の解決が重要だ」と話しかけたが、金桂冠は頷くだけで取り合わなかった。

■12月20日■~3日目

未明の北京には国連総会で北朝鮮非難決議採択のニュースが飛び込んできた。外国人拉致を含めて北を非難した決議だが、中ロは反対している…
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「今日は重要な日になる」

協議に先立ち、ヒル次官補はこう語っていたが、それは6ヵ国協議の代表者会議ではなく、米朝の金融作業部会を指していた。

2日目の米朝会合を睨みながら釣魚台での協議が行われた。

ホスト役の中共は個別の作業部会設置を正式提案するが、単にコミュニケ発表が怪しくなってきた為、部会設置を最終日の議長声明に盛り込もうとしたに過ぎない。

「日朝正常化」部会も提案されたが、北朝鮮は拒否している。メンツが潰され、中共に焦りの色が見え始めたのがこの日だ。
□写真:AFP=時事  
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焦点の米朝交渉は、前日より長く行われたが進展なく、協議には反映されなかった。

【ホスト役・中共の威信失墜】

■12月21日■~4日目

「状況は極めて厳しく、事態打開のメドはたっていない」
夜になって記者団の前に姿を現した佐々江局長は手短にこう語っただけだ。ヒル次官補も「長くて困難な一日だった」とコメントしている。米朝協議も行われたが、進展がなかったと報じられている。

ただ、本当に何も進展がなかったのか怪しい部分もある。マラソン会議ではマスメディアへの情報リリースが少ない時こそ変化が起きているケースがある。

■12月22日■~5日目

殆ど実質的な協議の進展が見られないまま最終日を迎える。

「6カ国協議の信頼性に対してもいろいろな意見も出るだろう。対話のあり方について議論がありうる」

佐々江局長は午前の段階で、6ヵ国協議の枠組みを問う声が強まるとの見方をしめした。
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最終日も中身はなく、武大偉は議長声明を読み上げたが、閉会セレモニーは5分未満で終了した。次回の日程も決められず、中共のメンツは潰れたままの幕引きとなった。

【北京の8時間に裏取引はあったか】

ヒル次官補は、21日夜、更に22日、同じセリフを繰り返した。

「北朝鮮の代表者には何の権限も与えられていなかった」

このセリフが今回の6ヵ国協議を象徴している。

「拉致問題への強硬策で、日本は無視された」と語るしたり顔の識者がいるが、何を見ていたのか…

佐々江局長もロシアのアレクセーエフも韓国の千英宇も協議では顔が見えなかったが、それはヒル次官補も同じだった。話し合いに参加できなかったのだ。その意味では北朝鮮の金桂冠も同じである。

ヒル次官補は、北朝鮮代表団は金融問題が解決されない限り協議の課題に入ってはならないと本国から指令を受けていた…と苦言を呈している。

2日間の金融作業部会で進展がなかった為に金桂冠は、口出しが出来なくなっていたのだ。

余りにも無意味な5日間のテーブルだった。

実質的な話し合いが行われたのは、19日・20日の米朝交渉だけであった。
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19日…於:米国大使館~3時間
20日…於:北朝鮮大使館~5時間

計8時間の交渉だけが何らかの“進展”を見たのだ。では、そこで何が話し合われたのか?

ネゴシエーターを見れば、ある程度推理できるだろう。

【BDAをめぐる米朝の格闘】

米国側の主人公はダニエル・グレーザー財務省次官補代理。この人物は米財務省でテロ資金・金融犯罪を担当するトップ格だという。
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焦点はもちろん米国が金融制裁で狙い撃ちしたマカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)だ。BDAを巡って米国は、偽造ドル、麻薬マネーに絡む資金洗浄の決定的証拠を握っている。

グレーザーは、その証拠を突き付けたと見られるが、交渉の“落としどころ”がよく判らない。何と何を取り引きするのか…

識者の解説では、違法資金と無関係な口座の凍結解除が入り口になると言う。しかし、金正日が解除を要求しているのは、自分に関係する秘密口座で、そこには100%違法マネーが注ぎ込まれている。

最も犯罪性が高い口座を、米国が凍結解除するはずがない。
□北朝鮮側担当者:呉光哲
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4年前の拉致事件同様に、北朝鮮が偽ドル製造を一部認めるとの韓国報道もあったが、金正日が拉致と同じ轍を踏むとは考えられない…

まったくの想像だが、米国が違法資金の調査で掴んだ決定的証拠とは、WMD=大量破壊兵器に絡んだカネの流れ出ではないか?

しかもイスラエル絡みだ。中東の某国に引き渡されたWMDの証拠資料を北朝鮮に提出させようとしているのでは…米国の金融部門が大々的に動いていたことからの推測だが、取り引き材料としてはあり得る。

ヒルは憤懣やる方ない様子だったが、グレーザーは部会協議に一定の評価をしているのが不気味だ。8時間続いた交渉には具体的な材料があったと読む。

それが何なのかは、まだ見えて来ない…

【6ヵ国協議第5Rに成果はあった】

北朝鮮が強硬な態度を示し、6ヵ国協議を機能不全に陥れた意図は、対米国だけではなく、中共への面当てだったとも見られている。

噴飯モノの議長声明しか出せなかった中共は、各国報道陣のカメラの前でメンツを潰され、これまでのホストとして協議を牽引してきた事までも非難されている。

23日までの4大紙の社説を見ると、産経。読売はもちろん毎日や朝日までもが協議の枠組みを疑問視している。

「対話」が欠かせないと言っていたのは誰か?

今回、国際社会は北朝鮮に5日間もの「対話の時間」を与えた。そこで実りある結果はでなかったのだ。刃物を振り回す犯罪国家に話し合いの余地などない。

逆説的に言えば、今回の「第5回6ヵ国協議第2次会合」には大きな成果があった。

それは3年半に及んだ6ヵ国協議がまったくの無意味だったこと。そして「まず対話を」などと叫んでいた連中の主張が、単なる妄言に過ぎないと暴かれたことだ。

来年1月にはNYでの米朝金融交渉が予定されているが、それが90年代の不毛な米朝高官協議の再来であってはならないだろう。

これ以上、金正日にモラトリアムを与える必要はない。

奴の鼻先に突き出すのは、更なる制裁と軍事力による脅しだ。


             〆
最後まで読んで頂き有り難うございます♪
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