将軍は強いロシアの夢を見る…プーチンが再興した金王朝

ソ連の後ろ盾を無くし、核とミサイルの恫喝外交に走った’90年代の金王朝。その窮地を救ったのがプーチンだ。3代目は「強いロシア軍」が虚像だったと知り、覚悟を決める。
KCNA’19年4月プーチン正恩会談.jpg

「南朝鮮が我々との軍事的対決を選択した場合、我々の核戦闘力は必然的に任務を遂行せざる得ない」

朝鮮労働党の宣伝機関は4月5日、金与正の発言を伝えた。過去にない本格的な核恫喝だ。南の新政権発足を前に、生野血統の暴言妹は今月に入ってから気色の悪い挑発を続けている。
▽朝鮮労働党大会に現れた金与正1月(朝鮮中央TV)
朝鮮中央テレビ1月党大会に現れた金与正.jpg

「北朝鮮のミサイル発射の兆候が明確ならば先制攻撃する」

発端は4月1日の南鮮国防部長の発言だった。北側はこれに猛反発し、核ミサイルで報復すると宣言したが、南側の発言はICBM発射に伴うもので、マッチポンプの印象も強い。

「北朝鮮は新たな挑発行動を懸念している」

米国務省高官は4月6日の会見で、北が近く核実験に踏み切る可能性に言及した。平壌が重視する4月15日の金日成バースデー、いわゆる「太陽節」が要警戒の危険日だ。
▽昨年の「太陽節」関連イベント’21年4月(AFP)
AFP昨年の“太陽節”関連イベント21年4月15日.png

北朝鮮北東部にある豊渓里(プンゲリ)で3月初旬、不穏な動きが検知された。米マクサー社の衛星写真から、現場施設の新築や修復など核実験場再整備の動きが露見した。

そして3月末には、南側の坑道で新たな掘削作業が行われていることも判明。4月3日に撮影された衛星写真から、トンネルの掘削は確実との解析結果が示された。
▽準備作業が続く豊渓里実験場4月3日(CNN)
準備作業が続く豊渓里実験場4月3日(CNN).png

豊渓里核実験場はトランプ政権下のデタントで爆破ショーが行われた場所だ。平壌指導部は爆破で坑道を埋めたとするが、当局映像を見る限り、近くの粗末な小屋が吹き飛んだだけだった。

IAEAは昨年8月の報告書で、北が寧辺の原子炉を再稼働させた可能性が高いと指摘。核実験に使用する兵器級プルトニウムは確保し、後は実験の効果を高める政治的なタイミング待ちだ。

【対北制裁がロシア企業に飛び火】

「幹部らの間で動揺が走っている」

西岡力氏が関係筋から得た情報によると、ウクライナ戦争の趨勢に北朝鮮幹部が強い衝撃を受けているという。装備品の供給元であるロシアの陸戦力が、予想外に弱かった為である。

この戦況を見守る3代目の心理状態は分からない。しかし開戦当初、金正恩は強気だった。4年4ヵ月ぶりとなるICBMの発射は2月27日、ロシア軍によるウクライナ侵攻の翌日だ。
▽北ICBM発射を伝える南の報道2月27日(AP)
AP通信2月27日北ICBM発射を伝える南の報道.jpg

兄貴分のプーチンに捧げる祝砲であると同時に、反米の狼煙という意味も込められていた。また習近平に忖度し、北京虐殺五輪の閉幕を待ったとの指摘もある。

「1万5,000km射程圏内の戦略的対象を正確に打撃する」

金正恩は昨年1月の朝鮮労働党大会でICBMの開発目標に触れた。背後にはトランプ退場があった。モラトリアム宣言破棄は時間の問題と見られたが、約1年に渡ってバイデン政権の出方を窺った。
▽英COP26で船を漕ぐバイデン’21年11月(BBC)
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結局、バイデンの対応はオバマ政権を踏襲するだけの“無関心政策”と判明した。文句は垂れるが、踏み込まない。懐に飛び込んでくるトランプ政権のようなイレギュラー要素は少しも見当たらないのだ。

ICBM発射という明確な安保理決議違反に対し、3月25日にNYで緊急会合が開かれたが、中露が北を擁護。追加制裁も非難声明も出せずに終わった。形式的な会合に米政権の無関心ぶりが際立つ。
▽北ICBM発射受けたUN安保理緊急会合3月25日(AP)
北朝鮮のICBM発射を受け、米ニューヨークで開かれた国連安全保障理事会(25日)=AP.png

我が国は4月1日、北ICBMのEEZ内落下を受けて独自の対北制裁を発表した。資産凍結の対象となるリストには、ロシアの4団体とロシア国籍者3人が含まれていた。

斜め上感が否めないロシア方面への飛び火に驚かされたが、この件に関する報道は少なく、林芳正も実質回答拒否で語らない。団体名を追うと、米国が3月に出した制裁リストのコピーに過ぎないようだ。

【北朝鮮ミサイル開発の地下水脈】

「団体:Apollon OOO 所在地 Vladivostok 個人:アレクサンドロヴィッチ・チャソヴニコフ 住所 ウラジオストク市」

対北制裁の資産凍結に関する3省合同の発表文は、固有名詞が箇条書きで記されているだけで、説明はない。一方、米財務省は制裁対象のロシア企業について若干の補足説明を施している。

「北朝鮮のミサイル開発の為に精密部品を譲渡した」
▽火星17と称するICBMの発射3月24日(共同)
火星17と称するICBMの発射3月24日(共同).png

何らかのパーツ提供で、それがミサイル本体とも発射装置系とも断定できない。時勢に乗って対北制裁をロシア叩きに利用した様にも見える。米国は本気で北ミサイルとロシアの関係を糾す気があるのか…

「米ミサイル専門家は、打ち上げ後の破片などから、ロシアからの輸入の可能性が高いとした」(’19年5月14日付け共同通信)

北朝鮮が3年前に発射した自称・戦術誘導兵器が、ロシア製短距離弾道ミサイル「イスカンデル」と酷似。技術供与が疑われたが、北の独自改良という分析が主流となって深追いされることはなかった。
▽北版イスカンデルと騒がれたミサイル’19年5月(聯合)
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’17年に発射されたKN-22(火星15)搭載の“白頭山エンジン”は、旧ソ連の「RD250」と類似していた。このエンジンもロシアから渡った可能性が指摘された。

一方、NYタイムズはエンジンが闇市場を通じて北がウクライナから調達したと報道。東部の工業都市ドニプロにある国営ミサイル製造企業「ユジマシュ」が同モデルを製造していたことは事実だ。
▽RD250エンジンとの比較検証 (Graphic news)
RD250エンジンとの比較検証.png

参照:日経ビジネス’17年8月25日『北朝鮮にミサイル技術流したのは誰だ 対立するロシアとウクライナの新たな火種に』

ユジマシュ社はソ連時代に誕生した工廠で、独立後もロシアと取引を続けた。それがクリミア併呑で主要販路を失い、在庫のエンジンが闇市場に流れたという見立てである。

北朝鮮は早くからユジマシュ社に目を付け、技術者と接触。設計図の入手を企んだ北工作員2人が’11年に逮捕されている。裁判では工作員が高額報酬を餌に技術者を勧誘していたことも判った。
▽ユジマシュ社の工場内部(VPK)
ユジマシュ社の工場内部(VPK).jpg

ヘッドハントされ、北に渡った技術者も複数居る模様だ。エンジン流出の真相は藪の中だが、ウクライナに世界有数のミサイル工廠があることは主流メディアで一切伝えられていない。

アゾフ海でロシア軍の揚陸艦を撃沈したのは弾道ミサイルだったとされる。対戦車携行兵器が脚光を浴びる一方、ウクライナ軍のミサイルはブラックボックスの中に仕舞われる。

【金王朝を再興したプーチンの命運】

「ショイグ国防相は公の場から消えていた間、チャイナと北朝鮮を訪問し、消耗した弾薬・ミサイルなどの支援を要請した」

約2週間に渡って消息不明になっていたセルゲイ・ショイグに関する突拍子もない証言が飛び出した。ロシア軍の窮状を物語る動静だが、ソースは反プーチン派の没落オリガルヒだ。

参照:中央日報4月8日『ウクライナメディア「ロシア国防相、中朝にミサイル支援要請」』

表でも裏でも、プーチンの最側近の指揮官が戦時中にモスクワを離れることはない。ロシアの北朝鮮担当は、伝統的に極東連邦管区の全権代表で、国防相が直々に訪朝するという筋書きは無理がある。
▽更迭説が流れたショイグ国防相:右2月(ロイター)
ロイター2月27日ショイグ.jpeg

更に、クレムリンは今でも平壌に命令できる立場だ。’19年4月にウラジオストク入りしたプーチンが現地に金正恩を呼び付けたことは記憶に新しい。しかも会談は2時間程であっさり終了した。

「我々の血盟であるロシアが戦争中だ」

戦況を知る朝鮮労働党幹部は細胞で党員の引き締めを図っているという。北は朝鮮戦争でソ連軍事顧問に指導を受け、兵器を貰った。それ以前に、長ったらしい国名はスターリンから授かった。
▽スターリン肖像掲げた北労働党創設大会’46年(file)
スターリン肖像掲げた労働党大会’46年.png

北朝鮮とソ連の関係は、東欧の衛星国とは一線を画す。親モスクワ派の大粛清や激しい中ソ対立など破綻の瀬戸際も何度かあった。だが、北京との血盟を逆手に取る形で、末席の地位を維持し続けた。

最大の危機はソ連崩壊だった。’90年代、新生ロシアとの首脳間交流は途絶え、北は中共に完全統治されかねない状況に陥る。窮余の独自路線で核とミサイルを振り回す恫喝外交を始めたのが、この時期だ。
▽独自路線に向かった金親子'92年(AFP)
孤立深めた金父子'92年(AFP).jpg

そこにプーチンが登場する。大統領就任直後の2000年7月、プーチンは平壌を訪問。ソ連時代の書記長を含め、クレムリン政治指導者の訪朝は初めてだった。

約3週間に及ぶ金正日の有名なシベリア旅行は。このの返礼である。また2代目最後の外遊となったバイカル湖畔ツアーでは、ロシアが北の債務110億ドルの帳消しを確約。一気に露朝貿易が活発化する。
□北宣伝機関が伝えるプーチン訪朝


露朝蜜月という表現は適切ではない。ソ連時代にもなかった良好な2国間関係は、プーチン個人が金王朝と築き上げたものだ。後を継いだ金正恩は返し切ればい程の借りがプーチンにある。

この先、プーチンがどのような運命を辿るのか…平壌で3代目はCNNに齧り付いて戦況を見守り、覚悟を決めているだろう。西側メディアは毎日、強いロシア軍が存在しないことを教えてくれる。
▽初対面した3代目とプーチン’19年4月(AP)
初対面した3代目とプーチン’19年4月AP通信.png

ソ連の後ろ盾を失った北朝鮮には独自路線を進むしかなかった。正恩は祖父や父親と同じく、核とミサイルを切り札に使う。プーチンなき世界で、間違いなく北朝鮮は’90年代の凶暴な恫喝外交に回帰する。



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参照:
□経産省HP4月1日『北朝鮮の核その他の大量破壊兵器及び弾道ミサイル関連計画等に 関与する者に対する資産凍結等の措置の対象者の追加について(PDF)』
□国基研HP4月4日『北朝鮮の核恫喝にどう立ち向かうのか』
□外務省HP4月1日『林外務大臣会見記録』

参考記事:
□BBC4月6日『北朝鮮の金与正氏、韓国が先制攻撃すれば「核で報復」と』
□時事通信3月8日『北朝鮮核実験場、修復の動きか 衛星画像で確認―米報道』
□CNN4月8日『北朝鮮、地下核実験場で新たにトンネル掘削 衛星画像で判明』
□読売新聞3月26日『ロシアにすり寄る北、機能不全の安保理…ICBM発射で「追加制裁なし」判断か』
□産経新聞3月5日『露擁護の北朝鮮、ウクライナ侵攻に乗じて核・ミサイル開発加速』
□ロイター(共同)’19年5月14日『北朝鮮飛翔体はロシアから輸入か』
□プレジデント4月6日『なぜ高度なICBMを作れるのか…失業したウクライナ人技術者を誘い込む北朝鮮の手口(名越健郎)』
□産経新聞H29年8月15日『『北ミサイル ウクライナ、ソ連の軍事産業集積地 技術流出の懸念つきまとう』
□Yahooニュース3月17日『「わが国の体制が滅べばいい」ロシアのウクライナ侵略で北朝鮮国民(高英起)』
□時事通信(Forsight)’16年1月12日『北朝鮮「水爆実験」で変わるロシアとの「闇の関係」』
□産経新聞H28年2月16 日『秘録金正日(63)ミサイルを反米国「シリア、イランに販売」自ら暴露 利用し合う盟友、プーチン

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