南モンゴル大草原の導火線…忘れられた南北分断国家

民話も民謡も消えていた…中共によるモンゴル語抹殺計画は予想を越えて過酷だった。直ちに反対の声を上げたのは北の同胞。忘れられた分断国家が、枯れゆく大草原の彼方に姿を現す。
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「これはモンゴル語の抹殺です。文化的なジェノサイドです」

南モンゴルを故郷に持つ男性の悲痛な訴えが響く。9月5日、都内・中共大使館前に有志が結集し、強い抗議の声を上げた。欧米先進国に先駆けたアクションである。



「文書での通達があったのは3日前でした」

南モンゴル出身者でつくる連帯組織=クリルタイ幹事長のオルホノド・ダイチンさんは、そう語る。支那新学期が始まる9月に合わせ、中共は新たなモンゴル語抹殺プログラムを発動した。

中共当局は8月末、小学校を含む南モンゴル国内の国語教科書をモンゴル語から漢語に変えると発表。来年度以降は段階的に「道徳」「歴史」の教科書も漢語オンリーにするという。
▽抗議する生徒と保護者ら(大紀元)
大紀元9月抗議する生徒と保護者ら.jpeg

「殆どのモンゴル人は授業の変更に反対です。言葉は数十年で絶滅の危機に瀕するでしょう」

現地の住民は外国メディアの取材に、そう答える。南モンゴル全土で反対運動が同時多発したのも当然の成り行きだった。児童・生徒による授業ボイコットや学校立て籠りだけではない。

学校には保護者らが駆け付け、撤回を求めた。それに対し、地元当局は警官隊を送り込み、抗議者狩りを強行する。話し合う余地もなく、暴力で口を封じる無法国家ならでのは対処法だ。



南モンゴル東部のジリム盟(占領名:通遼市)では中学生が校舎4階から飛び降りる悲劇も起きた。生徒は抗議で学校に駆け付けた母親が武装警察に襲われる様子を見て激しいショックを受けたという。

続報はなく真偽は不明だが、9月13日には中部エレンホト市の小学校校長が自殺したことが判明。ネットで実名や在職中の写真が拡散し、海外でも衝撃が走った。
▽自ら命を絶ったモンゴル人校長(SMHRIC)
自殺した校長SMHRIC.png

当局と住民の板挟みにあった女性のモンゴ人公務員など少なくとも9人の自殺が確認されている。また米国を拠点とする人権団体によると、学生・父兄らの不当拘束は5,000人を超えたという。

9年前に起きた南モンゴル騒乱とは性質も規模も異なることは明白だ。

【甘い観測を裏切る過酷な抹殺計画】

モンゴル語排除の動きは今年の初夏に表面化し、警戒が続いていた。RFA(ラジオ・フリーアジア)は7月7日付けの記事で、保護者らが撤回を求める請願書の署名活動を始めたと伝えている。
▽漢語教育に反対する横断幕7月頃(RFA)
RFA撤回請願の署名呼び掛け運動7月頃.jpeg

我が国では南モンゴル生まれの静岡大学・楊海英(よう・かいえい)教授が、産経新聞への寄稿文で、モンゴル語教育廃止に伴う民族の危機を警告。反対を訴える署名サイトを立ち上げた。

参照:産経新聞7月2日『正論:「内モンゴル人権法」を制定せよ 文化人類学者、静岡大学教授・楊海英』

「モンゴル人の多くは当時、正式な文書がないから大丈夫だろう、と甘く判断していた」

楊教授は、そう指摘する。中共当局が自称する“バイリンガル教育”について、一部には楽観的な見方もあったのだ。また教育部門の中共幹部が訪問したジリム盟の学校限定との噂も根強かった。
▽撤回を求める教師と保護者の署名8月(RFA)
RFA8月共産党に内モンゴルでの言語教育政策を逆転するよう要請するための両親と教師によるキャンペーンの請願2.jpg

モンゴル人が過激な言葉狩りの実態に気付いたのは、新学期が始まり、新しい教科書を見た時だった。国語の教科書は冒頭に「私は中国人」というフレーズが北京語で記されていた。

モンゴル人が親しむ民話も民謡も見当たらない。「モンゴル」という言葉自体が抹殺されていたのだ。正に文化的なジェノサイド。生徒や保護者の怒りが爆発した。



この新学期から沸騰した抗議デモは南モンゴル全土で、数万人が参加したとされる。同時に断片的ではあるが、各地の学校で起きた反乱や治安部隊の襲撃映像が世界に拡散し始めた。

抗議者は生徒や保護者だけに留まらない。エレンホト市では公共バスの車体からモンゴル語表記が消えた。民族の英雄チンギス・ハーンの肖像が撤去された商店もある。



これまでの土地収容に絡む局地的な抵抗運動とは大きく違う。チベットや東トルキスタンと同じエスニック・クレンジングだ。中共指導部は、モンゴル人のナショナリズムに火を点した。

【南モンゴル全土に弾圧部隊が展開】

「生徒達は、有刺鉄線が張り巡らされた高さ3メートルのフェンスを越えて脱出しました」

保護者は、そう証言した。中部シリンゴル盟の中学校で9月9日、監禁された生徒の大規模な脱走劇があったという。各地で相次ぐ登校拒否とは相反する情報である。

現地筋によると逃げ出した生徒は、モンゴル人高官や共産党員の子弟で、登校を強いられていた模様だ。当局が登校を呼び掛けると同時に、公安が各家庭を巡って保護者を脅す異常事態になっている。



抵抗する教員は即時免職で、逮捕されたケースも報告される。更に公安当局は、抗議参加者の顔写真を配布し、密告者には高額の報酬を支払うと約束。疑心暗鬼を生むモンゴル住民の分断工作だ。

モンゴル人の反旗が予想通りだったのか、当局が後手に回ったのか、現時点では判然としない。中共指導部は9月2日までに公安部門トップの趙克志を南モンゴルに送り込んだ。
▽香港警察トップを指導する趙克志’19年(新華社)
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治安部隊の引き締めではない。範囲を拡大して抗議者を拘束する大規模モンゴル人狩りの前兆である。抵抗が続けば、ラサやウルムチ、六四広場と同じ、凄惨な状況が出現する恐れが高い。

今回の抗議活動は、過去30年で最大とも指摘される。南モンゴルでは2011年5月、モンゴル人男性惨殺事件を発端に、反中共デモが続発。戒厳令が敷かれる事態となった。
▽モンゴル住民と対峙する武装警察’11年5月(SMHRIC)
シリンホトの抗議集団と武警隊5月23日(SMHRIC).jpg

殺された男性は遊牧民の地域リーダーで、炭鉱開発に抗議した際、大型トラックに轢かれた。事故ではない。トラックが繰り返し轢いた事実が浮かび上がり、モンゴル住民の怒りが爆発した。

当時、米国の人権団体SMHRIC(南モンゴル人権情報センター)が集めた情報を頼りに現地の実情を追った。しかし、情報は途絶え、程なく鎮静化したことに驚いた記憶がある。
▽シリンホトで武警に拘束されるモンゴル人'11年5月(SMHRIC)
シリンホトで拘束される抗議者5月23日(SMHRIC).jpg

今回、9年越しの疑問が解けた。福島香織さんによると、男性を惨殺したトラック運転手は直ちに死刑になったという。全体国家ならではのは強引な幕引きだが、異例の解決方法とも言える。

参照:JB Press9月3日『中国政府にモンゴル語を奪われるモンゴル人の怒り』

死刑を急がせた胡錦濤は、モンゴル人の抵抗運動が極めて厄介で、大きなリスクを孕んでいることを知っていた。南モンゴルには、チベットや東トルキスタンと異なる要素が存在する。

【大草原を彷徨う南北分断国家】

「子供達からモンゴル語教育を奪うな」
▽大阪市内で行われた抗議活動9月12日(産経)
産経912大阪市で開かれたモンゴル語教育の保護を訴える集会で、横断幕を掲げる参加者ら=12日午後、大阪市.jpg

西麻布の抗議から1週間、9月12日には大阪の中共総領事館近くで母国の窮状を訴える集会が催された。決して多くはない我が国の南モンゴル出身者が報復を恐れず、声を上げている。

一方、海外各国の抗議デモは限定的だ。9月11日に台湾国会周辺で抗議活動が行われた他、欧米で目立った動きはない。台北の場合も、集会を主導したのは自国の先住民だという。
▽台湾国会周辺で開かれた抗議集会9月11日(台北時報)
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’70年代には欧米で拠点を構築していたチベット人や、国際組織を持つウイグル人とは格差が激しい。海外に渡った南モンゴル出身者は少なく、有力な支援団体も数えるばかりだ。

「知的好奇心が旺盛で海外を見て回るが、モンゴル人は必ず故郷に戻る。外国に定住するのは私みたいなダメなモンゴル人」

楊海英教授は石平さんとの緊急対談で、モンゴル人の一風変わった傾向を紹介する。GDPが増えても嬉しくない、大自然の中で暮らすことが至上の幸福なのだという。独特の生活習慣を保つ遊牧民族である。



在外モンゴル人の声は束になり難く、各国政治家の後ろ盾も期待薄だ。だが、南モンゴルには同じ言語と伝統を持った“本国”が北側に控える。全土を武力制圧されたチベットや東トルキスタンとは異なる。

「モンゴル文化のジェノサイドは生存への闘いを煽るだけだ」

民主化運動の担い手でもあったモンゴルのエルベグドルジ前大統領は、素早く反応した。そして首都ウランバートルでは小規模な抗議デモも開かれた。
▽モンゴル外務省前の抗議9月1日(AFP)
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衛星国根性が抜けきらず、親中路線も揺るがない往年の大国である。抗議活動も一度限りと見くびったが、連続し、9月15日の王毅訪問に合わせた抗議も行われた。9年前には有り得なかった現象だ。

「分断された後も、同じチンギス・ハーンの子孫で、同じ心理を共有し、同じ歴史を創造してきたという民族意識が少しも変わっていない」

楊海英教授は、本国モンゴルからの支援に期待を滲ませる。アジアの永世中立国を目指し、軍事力も貧相なモンゴルが、国家として北京を恫喝できるとは思えない。
▽「王毅出てけ」の声も飛んだ抗議9月15日(ロイター)
ロイターDemonstrators protesting against China's changes to school curriculums that remove Mongolian language from core subjects gather on Sukhbaatar Square in Ulaanbaatar, Mongolia September 15, 2020.jpeg

それでも教授の指摘は重要だ。清朝と帝政ロシア…衰退する二つの帝国の狭間で、モンゴルは2番目の社会主義国となって生き残りを図った。100年以上も前の悲哀に満ちた民族史である。

独立保持の為に切り捨てた南側の草原地帯は、二度の大戦を経ても蘇らなかった。モンゴル人不在のヤルタ謀議で引かれた国境線は、蒋介石が追われても、ソ連が崩壊しても不変不動だった。
▽炭鉱開発で消滅したリンゴル市の草原地帯'17年(AFP)
AFP2017炭鉱開発で消えたホーリンゴル市の草原.png

馬英九とプーの会談で、メディアや有識者は「中台分断」と連呼したが、何が分断されたのか、説明はなかった。一方で、真っ二つに引き裂かれた南北モンゴルには触れようともしない。

北東アジアには南北朝鮮の他にも分断国家が存在あった…国際社会は歴史的な経緯にも立ち入って強く中共を牽制すべきだ。民族浄化に直面するモンゴル人の叫びを枯れゆく草原に埋もらせてはならない。



最後まで読んで頂き有り難うございます
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関連エントリ:
平成23年5月31日『南モンゴル戒厳令の危機…侵略シナ人が破壊した草原』

参照:
□SMHRIC(南モンゴル人権情報センター)HP 
□南モンゴル クリルタイHP
□国基研HP9月7日『人道的危機下の南モンゴルに関与を:大野旭(楊海英)』

参考映像:
□YouTubeチャンネル桜『【南モンゴル草原の風 #32】中国による「モンゴル語教育停止」に数千人が抗議!』

参考記事:
□Bitter Winter9月14日『Inner Mongolia: 5,000 Arrested, CCP Offers Bogus “Compromise”』
□Bitter Winter9月3日『『CCP Cracks Down on Inner Mongolia Protests, 2 Dead, Hundreds Wanted』
□RFA8月28日『Ethnic Mongolian Parents Strike Over China's New Language Policy in Schools』
□RFA8月31日『Mass Protests Erupt as China Moves to End Mongolian-Medium Teaching in Schools』
□RFA9月4日『Ethnic Mongolian Official Dead by Suicide Amid Language Protests』
□RFA7月7日『Thousands in Signature Campaign as China Plans End to Mongolian-medium Classes』
□ニューズウィーク9月10日『内モンゴルの小中学校から母語教育を奪う中国共産党の非道』
□時事通信9月7日『中国・内モンゴル、標準語教育に住民反発 同化政策、「文化絶滅」の懸念』
□産経新聞9月12日『「言語奪うな」批判集会 中国語教育でモンゴル人ら』
□ニッポン放送9月15日『モンゴル語を奪おうとする中国~日本に問われる「国会の見識」』
□大紀元9月14日『モンゴル当局、言語政策に従わない公務員を処罰』

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この記事へのコメント

金 国鎮
2020年09月20日 12:15
中国共産党には中国内の各民族に対して共通する政策があるようだ。共産党の抗日戦、対国民党に対する内戦の軍事作戦に協力したのかというのがどうも各民族に対する基本方針のようだ。

チベット・中央アジアの各民族に容赦ない漢族化を強制している。モンゴル族は微妙な立場に位置している。

この問題の対応は中国ではなくて中国共産党の将来を決定するだろう。もし中央アジアの民族が中ロ国境を越えてロシア側の各民族と協力するような事態になれば中国は内部分解してしまう。
中国共産党は中国東北ではまだ何もする気はないようだ。

戦前中国東北の抗日運動を指揮したのは中国共産党ではない。
八路軍は関東軍の軍事力を恐れて関東軍と軍事戦闘をしたことはない。東北はソビエト軍と東北内部の抗日組織によって軍事解放された。これが重要。
中国東北は中国にして必ずしも中国にあらず。
中国東北の軍事組織は中国共産党に必ずしも従わないだろう。