中共が禁断の果実を齧る時…香港弾圧加速で戦線拡大

取り囲んだ警官隊は香港リンゴ日報グループ本社に突入した。発作的な宿敵拘束と腰砕けの解放…“禁断の果実”を齧った習近平の眼前には、無限の戦線が広がる。
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「香港の民主化運動に参加して以来、8年間で4回逮捕されましたが、今回が正直、一番怖かったし、きつかったです」

不当拘束を解かれた周庭さんは8月11日深夜、日本語でそう語った。監禁場所となった警察署の前には、本邦メディアを含む大勢の報道陣が詰めていた。
▽警察署前で会見する周庭さん8月11日(Twitter)
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事前に解放情報がリークされた模様だが、唐突な印象は否めない。前日の不当拘束も報道カメラが待ち構える中、後ろ手に縛られる姿が国際ニュースになった。明らかに見せしめ的なパフォーマンスである。

もちろん香港警察の判断ではない。不当拘束をプログラムしたのは中共指導部だ。香港民主化の象徴とされる周庭さんを捕縛することでで、香港市民に新たな恐怖心を植え付ける作戦だった。
▽弾圧部隊に不当拘束された周庭さん8月10日(ロイター)
ロイター8月10日夜8時連行される周庭さん.jpg

ところが、事態は思わぬ方向に動いた。周庭さん拘禁映像は、自由社会の人々に大きなショックを与え、我が国の政府までが“懸念”を表明するほどの反応を生み出した。

「CCP(中共)が香港の自由を骨抜きにし、住民の人権を侵害していることが改めて証明された」

米国のポンペオ国務長官は、地元警察など香港当局の批判するような野暮な発言はしない。真正面から中共を罵倒する。既に悪の主体は、香港行政庁から北京に移っているのだ。



「世界の皆さんから応援を頂き、そして日本人の皆さんが私の為にハッシュタグを作ったことも弁護士から聞きました」

周庭さんが語る通り、ツイッターの「#FreeAgnes」は日本発だった。一部メディアも国際的な反発が、素早い解放に繋がったと指摘するが、やや安易な分析に思える。

現在の習近平政権は、国際社会の批判を全く気に掛けない。反発が強まると逆に悦ぶドM体質だ。東トルキスタンの強制収容所問題が良い例である。
▽拘禁場所に移送される周庭さん8月10日(ブルームバーグ)
ブルーム警察によって連行される途中で車外に目を向ける周庭(アグネス・チョウ)氏(8月10日).jpg

見せしめの不当拘束と唐突な解放劇は、稚拙な印象が濃く、強硬策一本槍の習近平にしては珍しい。中共指導部内の混乱が影響している可能性もある。

【“禁断の果実”に手を出した中共】

「香港で10日、『民主の女神』と呼ばれる周庭氏ら民主活動家ら10人が逮捕されました」(8月11日JNN)

シンボル的な周庭さんをピックアップすることは決して間違いではない。しかし、他の9人を「ら」で纏める報道は、核心をぼかす印象操作の類いだ。

凶悪国安法に基づく一斉不当拘束の標的は、蘋果日報を率いる香港メディア王・黎智英(ジミー・ライ)前会長だった。香港メディアの速報は、その関連で周庭さんも逮捕されたと伝えている。
▽自宅から連行される黎智英前会長8月10日(AP)
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参照:読売新聞8月10日『中国に批判的な香港紙創業者、国安法違反容疑で逮捕…香港メディア「周庭氏も逮捕」』

8月10日に不当拘束された10人うち7人が蘋果日報の幹部で、黎智英前会長の息子2人も含まれていた。民主派メディアの創業家一族を狙い撃ちにした弾圧である。

早朝の黎智英前会長拘束に続き、200人規模の警官隊が蘋果日報の編集部に突入。強制捜査は、グループ本社ビルの全フロアから息子の自宅、所有するヨットにまで及んだ。


参照:蘋果日報8月11日『【壹傳媒聲明】堅守崗位,撐到底!』

英領時代からの「自由な報道」が残る香港で、報道機関への大規模捜索は今回が初めてだった。蘋果日報潰しを目の当たりにした香港記者協会のトップは、こう語る。

「驚きと恐怖を感じる。香港の報道の自由が今、破壊され、白色テロが起きつつある」

今更感は否めないが、正しい認識だ。一方で予想外だったのは、多くの香港市民が蘋果日報支援に動いたことである。連帯を示す香港人が行列を作って8月11日付けの同紙を購入した。
▽購入のため行列をつくる香港人8月11日(AP)
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「政府が蘋果日報の存続を許さないのなら、私たち香港人が救う」

ある料理店オーナーは、配布用に大量買いしたと言う。当日の発行部数は通常の7倍に当たる55万部に増刷。株価も一時、前日の終値から1000%急騰した。
▽購入した蘋果日報を配布する女性8月11日(AFP)
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平時から蘋果日報は人気が高く、キオスクでは売れ筋だという。それでも具体的な数字で示された支援の輪の大きさは驚異的で、僅かな希望が残されているようにも受け取れる。

【国安法に内蔵された“蘋果潰し”】

「闘い続けよ。闘い続けよう。香港の人々の支持がある。彼らを気落ちさせる訳には行かない」

不当拘禁を解かれた黎智英前会長は8月12日未明、本社に戻り、記者らにそう檄を飛ばした。今後も怯まず、親中派政治家を激怒させてきた“率直な記事”を書き続けるよう呼び掛けた。
▽グループ本社に戻った黎智英前会長8月12日(SCMP)
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かつては香港紙を親中派・中立派といった色分けすることが常識だった。だが、中共に批判的な論調を掲載する新聞は、次々に矛を納め、飼い犬紙に成り下がるか、消滅した。

20世紀初頭に創刊した一流紙SCMP(南華早報)も、5年前にアリババ・グループに買収された。今の所、中共に不都合な記事も掲載しているが、時間の問題だろう。
▽紙面を使ったアピール活動も8月11日(AFP)
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「蘋果は戦い続ける」

飛ぶように売れた11日付けの1面には、そう記されていた。一部の新興ネットメディアを除き、蘋果日報は正真正銘、民主派にとって「最後の砦」だ。しかし“戦うリンゴ”もまた臨終が近い。

凶悪国安法の31条には、会社・団体が刑事罰を受けた場合は、営業停止処分を受けると規定される。通常は組織への適用はハードルが高いが、無法者の一存で、無実も死刑になる。
▽本社ビルに突入する警官隊8月10日(蘋果日報)
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同法施行の瞬間から蘋果日報抹殺はレール上にあり、将来的な廃刊は不可避だった。その中、数少ない光明は、前会長ら蘋果日報関係者の“容疑”に関して、微細なブレが浮き彫りになっていることだ。

「裁判を維持できないことが分かったのかも知れない」

唐突な保釈措置に対して宮崎正弘氏は、そうウラ読みする。地元警察の発表によると、前会長らの容疑は国安法違反となる「外国勢力との結託・扇動・詐欺共謀」だという。
▽警察車両に押し込まれる黎智英前会長8月10日(AP)
AP通信810拘束されたジミー.jpg

罪状てんこ盛りで攻めた感じだが、この内の「扇動」は昨年の大規模集会に関するものとも指摘される。つまり同法施行前の過去にタイムリープしての適用となる。

罪刑法定主義は、東京裁判史観のゴミ左翼が70年以上もスルーするが、近代法の鉄則にして原則だ。一般教養に相当する法学の基礎中の基礎である。
▽拘禁中の模様など語る周庭さん8月13日(YouTube)
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「海外勢力と結託して国家の安全に危害を加えた」

周庭さんの“容疑”も、過去に遡っての適用だった。彼女は同法施行後、SNSでの発信を工夫し、該当する発言は一切行っていない。明らかに無理筋の拘束劇で、起訴は不可能だ。

単なる警察の勇み足でもない。逮捕令状は先進国と同様に、裁判官が発行しているものだろう。香港は6月末以降、警察・検察と裁判所が一体化しているが、手口が雑で拙い。誰が何に慌てているのか?

【習近平の『アジア最終戦争論』】

引退した重鎮を招く中共幹部会合が8月5日までに避暑地・北戴河で始まった。今年は武漢ウイルス禍の影響でキャンセルも噂されていたが、周辺道路の封鎖状況から開催が判明した。

党の最重要会合だが、非公式なイベントで日程も詳細な討議内容も不明。リーク情報を海外に発信する役割を担っていた香港メディアがプーの宣伝機関に成り果てた今、闇は更に深まった。
▽赤い貴族専用の北戴河リゾート施設8月2日(共同)
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中共指導部の場当たりな強硬策が、この北戴河イベントと並行していたことは偶然ではない。香港・台湾問題を巡って意見が割れる中、慎重派を牽制する狙いで急進的な動きを示したのではないか。

発端は7月23日の強烈なポンペオ反CCP演説だ。国務長官は訪英時に亡命した民主活動家・羅冠聡(ネイサン・ロー)氏と対面。演説で彼を「フリーダム・ファイター」と讃えた。
▽羅冠聡氏と対面するポンペオ長官7月21日(FB)
Facebook7月21日訪英中のポンペオ米国務長官(右)と面会する香港民主派の羅冠聡氏.png

激怒した中共指導部は、羅冠聡氏ら海外在住の民主派6人を国安法違反や国家分裂扇動罪で8月1日までに“指名手配”する。施行当初から問題視されていた同法の域外適用だ。

米在住の民主派活動家・朱牧民(サミュエル・チュー)氏も“手配”された。朱氏が香港を離れたのは六四事件の翌年で、香港返還前の’96年に米市民権を獲得。現在は、著名な父を継ぎ民主化支援のNGOを運営している。
▽在米30年の朱牧民氏(蘋果日報file)
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二重国籍の解消時期は分からないが、中共の統治とは無関係の外国人である。最早、域外適用の不当性を論じている場合ではない。香港の民主化を支援する者は国籍を問わず、指名手配する構えなのだ。

更に、朱牧民氏に対しては蘋果日報弾圧事件後、関連の容疑で再び指名手配する念の入れようだ。同時に、蘋果グループの重役で渡米中のマーク・サイモン氏も手配された。
▽豊富な米人脈を持つM・サイモン氏(SCMP)
マークサイモン氏(SCMP).jpg

また中共指導部は、一斉不当拘束と同じ日、米のルビオ議員ら11人への個人制裁を発表。その中には米人権団体HRWの代表も含まれていた。報復制裁と威張るが実効性は薄く、対象の箔付にしかならない。

強硬策連発と表現するより、手当たり次第に撃ちまくっている印象だ。駆け引きの材料にはなり得ず、恫喝だとしても弱い。従来の陰湿かつ狡猾な中共外交とは根本的にメソッドが異なる。
▽インド国内で愛でられる黄熊6月(PTI)
PTI6月インドの講義で.jpg

脊髄反射に等しい短絡的な戦線の拡大。ここから北京が逆転打を放ち、ワシントンが屈服するシナリオは想定できない。勝ち筋の全く見えない中共の無秩序な暴走に、改めて戦慄する。

終末の時は近いのだ。CCP創設から99年、その命運を賭けた最終決戦が始まる。



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参考記事:
□産経新聞8月12日『「リンゴ」の危機は座視できない 香港の報道・言論の自由「最後の砦」』
□AFP8月12日『「闘い続けよ!」 保釈された香港紙の創業者、スタッフらを鼓舞』
□AFP8月11日『香港紙の創業者逮捕で購入殺到、55万部に増刷 株価は1000%近く急騰』
□JB Press8月13日『日本への恫喝も、中国が周庭氏を狙い撃ちした理由(福島香織)』
□時事通信8月12日『国安法、民主派中核に迫る リンゴ日報「恐れない」―香港』
□毎日新聞8月12日『周庭氏ら実刑判決の可能性も 黎氏の米国人秘書を国安法違反容疑で指名手配』
□NHK8月12日『香港 逮捕された民主活動家の周庭氏保釈「政治的弾圧」と批判』
□ニッポン放送8月12日『周庭氏逮捕でわかった国家安全維持法の本当の意味』
□JB Press8月12日『抗戦!香港メディアが配信した創業者連行の緊迫現場』
□ヒューマン・ライツ・ウォッチ8月11日『中国/香港:国家安全維持法による一斉逮捕』
□BBC8月1日『香港警察、海外の民主活動家6人を指名手配 国安法違反の疑い』
□BBC8月10日『中国、米議員ら11人に制裁 香港めぐるアメリカの制裁に対抗』

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