第3次大戦に続く夏への扉…誤読されるポンペオ演説

第3次世界大戦の扉が開くのか…“宣戦布告”とも比喩される米ポンペオ長官の大演説。しかし、その主張は誤った対支那政策の後悔と自戒に満ち、物憂げなトーンを帯びていた。
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素朴な疑問が浮かぶ。機密書類を跡形もなく処分するのに、人目につく屋外で焼却する間抜けがどこに居るのか…細かく裁断し、酸で溶かした上、下水に流せば良い。

「煙を確認したが、警察や消防が建物内に立ち入る許可は与えられなかった」

地元警察側は、そう語る。米テキサス州ヒューストンの中共総領事館で7月21日午後、火災が発生。惜しくも建物に延焼せず、鎮火したが、多数の消防車が集まり、一帯は物々しい雰囲気となった。
▽中共総領事館に急行した消防車7月21日(ABC)
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ボヤではなく、中庭で書類を焼いていたのだ。その一部始終を捕らえた動画も存在する。通りの向かい側にある高層ビルから撮影したもので、職員がドラム缶風の容器内に火を放つ模様が映っていた。

消防や報道のヘリが上空から撮影したのではない。中共総領事館サイドは、外部から丸見えであることを承知で、堂々と焼却を実行したのだ。パフォーマンス的要素が強く、全てが謎めいている。
▽中庭で書類焼く総領事館職員7月21日(the sun)
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「我が国の知的財産と個人情報を保護する為だ」

米国務省は火事騒ぎの翌日、声明を発表し、同総領事館の閉鎖を命令した。中共は怒り狂った言葉遣いで米政府を非難し、報復だとして成都の米国総領事館の閉鎖を打ち出した。

米支外交当局の激突である。退去命令無視でヒューストンは一気に緊迫するかと思いきや、米当局者は普通に通用口から入り、中共職員もあっさり総領事館を離れた。
▽通用口から入る米国務省職員7月24日(ロイター)
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同じ日、在サンフランシスコ中共総領事館に逃げ込んでいた支那人研究者が拘束された。中共軍所属の身分詐称が直接の逮捕容疑だが、注目は中共側が抵抗を諦め、軍人を差し出したことだ。

米司法当局は火事騒ぎがあった21日から相次いで4人の支那人研究者を逮捕・訴追した。在ヒューストン総領事館の閉鎖も、こうした動きの一環だった。米側は在米の中共スパイ網を壊滅させる構えである。
▽中共総領事館が放出した女スパイ(未名新聞)
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しかし、中共指導部のリアクションは薄く、対応も愚鈍だ。嵐の前の静けさなのだろうか。

【反CCP演説“4本の矢”】

「スパイ活動と知的財産窃取の拠点だったからだ」

ポンペオ国務長官は7月23日、中共総領事館の閉鎖について、そう語った。単なる時局講演会の発言ではない。歴史のターニングポイントになり得る反中共演説の中での一節だった。

偶然だったとしても、予定通りだったにしても驚きだ。演説の場所は、ロス郊外にあるニクソン記念図書館&博物館で、敷地内には第37代大統領の生家が復元されている。
▽ニクソン記念館で演説するポンペオ長官7月23日(米政府)
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「ニクソン大統領はかつて、中共を世界に導いた件で『フランケンシュタインを作ってしまったのではないか』と懸念を語った。素晴らしい先見の明だ」

ポンペオ長官はニクソン大統領の言葉を引用し、讃えた。フランケン発言は、著名な政治コラムニストとの会話で、飛び出したものだ。晩年になって、自らの選択を悔やんでいたのである。

参照:産経新聞15年11月2日『中国というフランケンシュタインを造ったニクソン&ヴォルデモートの魔力を授けたオバマ…米大統領の対中大錯誤』

世界史の教科書にある通り、米国と中共の連携は1972年のニクソン大統領の北京訪問で始まった。我が国や台湾国の度肝を抜く、正真正銘の電撃訪問だったという。
▽博物館を案内されるポンペオ長官7月23日(米政府)
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ニクソン訪支以降48年間の関係にピリオドを打つ…ポンペオ演説は、そうしたトーンで全編が染め上られていた。72年当時に思い描いた夢は幻で、関与政策は無惨な失敗に終わったのだ。

「チャイナとの協力関係が、豊かな未来を創り出すと信じられていました。しかし、中共が世界との約束を破った為、私たちは今マスクを付け、香港やウイグル弾圧のニュースを毎朝目にしています」
▽強制収容でシラをきる駐英中共大使7月19日(BBC)
BBC7月19日強制収容所に送られるウイグル男性.png

ポンペオ長官は、チャイナとCCP(中共)を注意深く使い分けている。このスタイルはペンス副大統領の演説と同じだ。過去2回のペンス演説に続く第3弾に見えるが、シリーズ的には別だという。

「オブライエン補佐官がうまく説明した通り、CCP政権がマルクス・レーニン主義政権であることを強く認識する必要があります」

この演説を長官はFBIのレイ長官やバー司法長官らに続く4本目の矢と位置付ける。本邦の既存メディアは一切報じなかったが、安保担当大統領補佐官が放った最初の矢は、強烈だった。

「習近平総書記は、自らをスターリンの後継者と捉えている」
▽演説するオブライエン大統領補佐官6月(FOX)
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6月24日、アリゾナ州を訪れた際の発言だ。一部の米メディアは、最も辛辣な反中演説と評した。だが、そこに埋め込んだ重大な用語の使い分けには気付かなかった。或いは知りつつ無視したのか…

【米国版“静かなる侵略”の後始末】

「習近平総書記は、破綻した全体主義イデオロギーの真の信奉者だ」

名言にして金言。このフレーズが、ポンペオ演説の白眉であることは論を俟たない。親中派の共同通信やNHKも、ダイジェスト報道で仕方なく取り上げたが、最も特徴的な“呼称問題”を隠蔽した。

プーを国家主席ではなく、総書記と呼んだのだ。演説に関する宮崎正弘氏の鋭い指摘を受け、原文をチェックすると補佐官も長官も「president」から「General Secretary」に変えていた。
▽インドで集中攻撃を食らう黄熊6月(PTI)
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専門的な知識も解釈も不必要。黄熊は国家・国民の代表ではなく、政党代表に過ぎないという意味である。米国務長官が公の場で「主席」の呼称を剥ぎ取ったのは、恐らく80年代以降で初のケースだ。

「共産主義者は常に嘘を吐きます。最大の嘘は、自らを14億人の代弁者と定義していることです。実際は逆で、中共は国民の正直な意見をどんな敵よりも恐れています」

ポンペオ長官は「正直な意見」の持ち主として支那の反体制知識人を挙げる。そして彼らが振り絞った声を無視した歴代の米国リーダーに苦言を呈する。
▽演説には魏京生・王丹氏らが招かれた7月23日(米政府)
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苛烈な中共批判だけではない。演説には、甘い観測に頼って道を踏み外した米国50年の対支那政策への反省と自戒の念が込められていた。潔く失敗を認めた上で、善後策を提起しているのだ。

ペンス副大統領の反中共演説は「第2の鉄のカーテン演説」とも呼ばれた。このポンペオ演説も全面的な対決姿勢は、新たな冷戦の始まりを告げる印象を持つが、長官は否定する。



「封じ込め政策ではありません。かつてのソ連は自由社会から隔離されていましたが、共産主義チャイナは、既に私達のエリア内に入り込んでいます」

怖いことを言う。いわゆる間接侵略だ。中共が得意とする浸透工作で、我が国や豪州、一部EU諸国で深刻な問題を引き起こしているが、米国の外交トップが、それを認めて警告したのである。

「私達の記者会見もそうです。大学や研究機関に留まらず、高校やPTA会議にまで宣伝活動家を送り込んでいます」
▽中共の飼い犬だったハーバード大学部長1月(WSJ)
WSJ中共の子飼いだったハーバード大学部長.jpeg

米市民のブレイン・ウォッシュを目的とする孔子学院の閉鎖に続き、中共と密かに連携する名門大学実力者の洗い出し作業。そして研究機関に潜り込んだ中共軍人・軍属の摘発が始まった。

「チャイナから来た勤労者や学生の全てが、小銭を稼ぎ、知識を得る為に来たのではないことを知っています。多くが私達の知的財産を盗み、国に持ち帰る目的で来ているのです」

言い切った。後戻り出来ないレベルで言い切ってしまった。そしてポンペオ長官は返す刀で、人権弾圧に目を瞑る支那進出企業や中共の媚びて自己検閲に励むハリウッドを両断する。
▽抹殺された日章旗と青天白日旗(File)
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腹を据えた反CCP演説であることは間違いない。だが矛先は北京だけではなく、米国内の敵性勢力、更に優柔不断な諸外国にも向けられている。

【新装有志連合が漕ぎ出す未来】

「私達と共に立ち上がる勇気がない国も存在します。あるNATO同盟国は、経済的な利益を優先して香港の自由の為に立ち上がりませんでした」

判断基準は不明だが、6月末にUN人権理に提出された香港弾圧法反対の共同声明が手掛かりになるだろう。南鮮は声明への参加を拒絶したが、NATOとは関係がない。
▽UN人権理で居直る林鄭月娥6月30日(ロイター)
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共同声明には27ヵ国が加わった。人権理を脱退した米国を除き、リストからNATO諸国を引き算すると、イタリアやスペインが漏れる。いずれも武漢肺炎で大被害を受けたが、懲りていないようだ。

またNATOの末席に座るトルコやギリシャも声明不参加だった。両国は習近平の新植民地ベルト構想で、多額の中共マネーを受け取っている。既に“チーム分け”が完成しているようで不気味だ。
▽港を売って喜ぶギリシャ首相’19年(ロイター)
ロイター19年港を売って喜ぶギリシャ首相.jpg

「今こそ、自由主義国家が行動を起こす時です。志を同じくする国が新たな民主主義のグループを構築する時なのです」

明確に、新しい枠組みの軍事連合結成を呼び掛けている。香港蹂躙側に回ったイタリアなどNATO同盟国は、どう受け止めたのか。そして地政学的には我が国やインドが、この有志連合の鍵を握る。
▽山梨の別荘で歓談する日印首脳H30年(産経)
産経H30年別荘で歓談す日印首脳.jpg

「チャイナと対抗するには、欧米の他、とりわけインド太平洋地域の民主主義国家の努力とエネルギーが欠かせません」

新連合国軍の前衛部隊を務めるのは、米英軍と海自・空自だ。内外のメディアは「米中衝突」と表現するが、実際は反中共包囲網で、北京側に付く可能性のある勢力の動向が注視される。

南シナ海での小規模な衝突に終わるといった考えは楽観的で、何の根拠もない。中共と運命共同体の北朝鮮やパキスタンの出方次第では、大第3次世界大戦に発展するリスクを秘めている。
▽感染最盛期に訪支したパキスタン大統領3月17日(新華社)
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一方でポンペオ演説には、好戦的で宣戦布告めいた脅し文句は登場しない。ニクソン訪支以降の「失敗」に力点を起き、自由主義陣営に決断を促す…寧ろ、哀愁の色さえ帯びている。

「過去に戻ることは出来ません」
▽ニクソン記念館で演説するポンペオ長官7月23日(米政府)
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例え現状が最悪でも、ハインラインの名作『夏への扉』のように過去に遡ってやり直すことは不可能だ。生み出したフランケンシュタインと対峙し、処分もしくは無力化させなければならない。

「行動を起こさなければ中共は私達の自由を侵し、法と秩序を奪う。屈服した時、私達の子や孫は中共の奴隷となります。自由世界が共産主義のチャイナを変えなければ、私達が変えられてしまうのです」



最後まで読んで頂き有り難うございます
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参照:
□米政府HP7月23日『Communist China and the Free World’s Future』
□英政府HP6月30日『UN Human Rights Council 44: Cross-regional statement on Hong Kong and Xinjiang』

参考記事:
□日経新聞7月24日『ポンペオ米国務長官の対中演説要旨』
□読売新聞7月24日『「中国共産党は我々の自由で開かれた社会を悪用した」…ポンペオ氏演説の要旨』
□時事通信7月24日『総領事館は中国のスパイ拠点 習主席を名指しで批判―ポンペオ米国務長官』
□Politico6月24日『Trump national security adviser compares Xi Jinping to Josef Stalin』
□JB Press6月30日『ついに対中強硬姿勢一色に染まった米国(堀田佳男)』
□ロイター7月25日『ヒューストンの中国総領事館が閉鎖・撤収、米国務省職員が現地に』
□ブルームバーグ7月25日『中国総領事館がかくまった研究者、米当局が拘束』
□ CNN7月25日『米、逃走の中国人研究者を拘束 「ヒューストン総領事館はスパイ網の一部」』

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