金正恩“死後の世界”…生野血統を恨む抵抗勢力

手術室に消えた金正恩の行方は杳として知れない。健康不安説を嘲笑う既存メディアは12年前の過ちを繰り返すのか…焦点は“生野血統”兄妹と本流抵抗勢力の暗闘に移っている。
Kim_Jong_Unre_1587948930.jpg

北朝鮮中枢の重大問題、即ち金正恩の健康異常説は、昨年末に持ち上がった。独自の情報網を駆使するジャーナリスト・篠原常一郎氏によるスクープ報告である。

「北の政体において一番の要となる領導者の革命的血統に重大な問題が生じた。簡単に言えば最高指導者の健康問題です」

もたらされた情報によると循環器系の疾患だという。以来、筆者は党宣伝機関が流す金正恩の動静を注意深く見守ってきた。具体的には、当局が公表する3代目の写真だ。
▽黄順姫の弔問に現れた金正恩ら1月17日(KCNA)
故黄順姫霊柩1月17日.png

革命第1世代と担がれる高齢女性が天寿を全う。1月17日、金正恩は本妻や幹部を伴って弔問に訪れる。特に違和感はない。1月末の劇場観覧も同じだ。

これに続く、2月16日の錦繍山宮殿“参拝”の写真は妙だった。革のコートに光が反射している為か、1人最前列の立つ金正恩が浮いているように見える。別の写真をハメ込んだ疑いが捨て切れない。
▽錦繍山宮殿を詣でる北中枢メンバー2月16日(KCNA)
216故金正日総書記の生誕で平壌の錦繍山太陽宮殿を訪問した金正恩朝鮮中央通jpg.jpg

北朝鮮の公表写真は常に加工疑惑が取り沙汰される。また金正日の時代からボディ・ダブルを使うことでも有名だった。それでも最近公表された金正恩のアップ写真は本物である可能性が高い。
▽幹部会議で発言する金正恩2月29日公表(KCNA)
朝鮮労働党中央委員会政治局拡大会議を指導する、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長。日時は不明。朝鮮中央通信が2月29日報じた(朝鮮中央通信=朝鮮通信).jpg

右眉上のおでこに寄る皺が特徴的だ。例えば昨年のハノイ訪問といった影武者NGのケースでも同じ皺が確認できる。すり替えがあるとすれば日付だ。
▽火力打撃訓練を視察する3代目3月9日公表(KCNA)
9日、朝鮮人民軍の火力打撃訓練を指導する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮通信=共同)のコピー.jpg

一方、3月に大量投下された視察写真は、帽子を被って額上部や生え際が見えないものが多い。ニセ正恩と断定は出来ないが、随行者のマスク姿と帽子がセットになっているパターンは実に怪しい。

【3代目危篤説のリアリティ】

「だいたい承知しているが、今は言えない。あなた方もそう遠くない間に分かるだろう」

金正恩の容体について質問が出た際、そうトランプ大統領は返した。歯に衣着せた思わせぶりな受け答えである。「健康を祈る」との締めの言葉は、先の会見と同じだった。
▽記者質問を聞くトランプ大統領4月27日(AP)
ワシントンのホワイトハウスで4月27日、記者からの質問を聞くトランプ米大統領(AP).jpg

「不正確だと思う。古い資料を使ったと聞いている」

トランプ大統領は4月24日の会見で、金正恩重篤説を独自に報じたCNNを批判した。それでもスクープを一蹴したのではなく、健康状態に何らかの問題があることを滲ませた。

世界を驚かせたCNNの特ダネであったが、その前日にデイリーNKがひと足早く「金正恩の手術」をスッパ抜いていた。ただし、予後に関する見立ては正反対だった。
▽病める3代目の様々な疾患(朝鮮日報)
20200422-00080116-chosun-000-3-view.jpg

CNN情報は、手術後に重篤な状態に陥ったとする。ソースは米当局者だ。一方、デイリーNKの北国内消息筋は「心血管系の手術」と詳細を明らかにしつつも、術後の経過は良好と話す。

続いて「週刊現代」出身のジャーナリスト・近藤大介氏による「手術失敗、植物状態」という情報が海外でも大反響を呼ぶ。ソースは中共の医療関係者だ。

「人民解放軍301医院の医師らを中心に、器材なども含めて50人近い派遣団を組み、特別機で平壌へ向かった」
▽平壌順安空港の中共専用機’19年6月(共同)
平壌順安空港の中共専用機19年6月(共同).jpg

しかし、中共医師団の到着を待てないと判断した北の心臓外科医が手術に踏み切った所、ステント挿入に失敗。脳死状態になった…近藤氏も「にわかに信じがたい話」と解説する。

確かに詳細過ぎて逆に信憑性を疑うが、翌日にロイターが後追い報道。更にJNNが解放軍病院関係者から「派遣を認める」発言を引き出す。朝鮮労働党系メディアの面目躍如なのか?

「本当です」

参照:JNN4月28日『北朝鮮へ医師団派遣、中国の病院が認める』
▽臓器移植で悪名高い北京の301医院(file)
unnamed.jpg

答えたのは、発熱外来の担当者。武漢肺炎絡みの対応で北朝鮮入りしたという設定だ。金正恩重篤説を避けつつも、北当局が武漢ウイルス蔓延を否定する中、感染拡大の深刻化を証明する拙い言い訳である。

また一部メディアは、3代目専用列車の元山駅停車を殊更に大きく報道。重篤説の反証にしたい模様だが、これも感染を恐れて地方に逃げた金正恩の醜態を晒す結果に繋がっている。
▽元山駅の金正恩特別列車4月23日(38 North)
4月23日に撮影された金正恩朝鮮労働党委員長の特別列車とみられる列車が停車した北朝鮮・元山の専用駅の衛星写真38ノース提供.jpg

「異常なし」と連呼する文在寅政権も同様。これまでに浮き彫りになったのは、金正恩の生命的危機が不都合な連中が、激しく動揺していることだ。

【12年前の新聞全紙“特オチ”事件】

「現在の状況を踏まえれば、特に異常なことではない」

南鮮の統一部長官は4月28日、議会の公聴会で”北の平時”を改めて説いた。金正恩が公の場に現れないのは、感染症対策が理由で、「太陽節」のイベント不在も不可解ではないと言う。

金日成の誕生日とされる4月15日、金正恩は錦繍山宮殿に姿を見せなかった。3代目襲名以来、欠かすことのなかった最重要行事だ。2月16日の“参拝発表”と今月の不参加は整合性が取れない。
▽金正恩不在で参拝する幹部陣4月15日(KCNA)
今年の錦繍山太陽宮殿参拝の様子 金正恩委員長と妹の金与正氏だけがいない.jpg

西岡力教授は、重篤説を裏付ける有力な情報はないと率直に認め、やや懐疑的な見方を示すが、不規則な動きはあったと語る。「太陽節」前日のミサイル乱射だ。

北朝鮮軍は4月14日朝、南東部・文川付近から日本海に向けて短距離巡航ミサイル数基を発射した。ところが党宣伝機関は恒例の写真公開をせず、未だに関連情報は公になっていない。
▽資料画像でミサイル発射伝える南鮮TV4月14日(AP)
AP通信4月14日巡航ミサイル発射を伝える南鮮TV.png

ミサイル発射はスケジュール通りだったが、その後の発表過程で混乱が生じたことは確かだろう。裁可する金正恩も代理人の金与正も機能していなかったのだ。

4月12日に開かれた最高人民会議の欠席は過去にもあったケースで、不自然とは言い切れない。ただし、同日付けで航空師団視察の謎写真が公表されたことについてはチグハグな印象を抱く。
▽航空師団視察する妙に元気な3代目4月12日公表(KCNA)
m_kyodo_photo-20200413GZ___00751000.jpg

デイリーNKが伝えた金正恩の緊急手術は4月12日だった。この日を境に平壌中枢で混乱が発生、複数の情報筋から“最高機密”が漏れ始める。分岐点となった日であることは間違いない。

続く「太陽節」欠席が重篤節に拍車を掛けた状況は、12年前と似ている。金正日は2008年9月の建国60周年式典を欠席。海外メディアが健康不安説を一斉に取り上げたが、後追いに過ぎなかった。
▽金正日不在の建国60周年大式典’08年9月(file)
d0123476_18401940.jpg

前年の7月に金正日は軽い脳卒中で倒れていた。脱北者を含む一部の北朝鮮ウオッチャーは、関連情報を掴んで公にしたが、デマ呼ばわりされるなど手荒い攻撃を浴びせられた。

しかし、健康不安は事実だった。金正日は’08年8月に再び脳卒中に見舞われ、仏医師団による高度な治療を受けていた。平壌に独自ルートを持たない大手メディアの完敗だった。
▽2度目の脳卒中前の金正日’08年夏(ロイター)
008.jpg

最初に金正恩の深刻な健康不安がもたらされたのは昨年末だ。焦点はポスト正恩に移っている。

【生野血統vs白頭血統のゲリラ戦】

「沈黙が続いていることは不思議だ。報道をフェイクと言いそうだが、言わない」「金正恩委員長は妹以外、誰も信用していない」

元CIA分析官は、そう語る。実妹の金与正が、後継レースの先頭に居ることはCIAに指摘されるまでもない。分岐点の4月12日、北宣伝機関は与正が党政治局員候補に選出されたことを伝えた。
▽板門店入りする金与正’19年6月(青瓦台)
板門店入りした金与正’19年6月(青瓦台).jpg

与正は既に党組織指導部第1副部長への昇格を果たしている。組織指導部は「党の中の党」と呼ばれ、政務・人事を司る核心的機関。昨年末のマラソン会議で、この最強ポストが付与されたと言われる。

「権限を全部金与正氏に集中させる」

4月22日付け読売新聞は、そうした内部決定がマラソン会議で下れたと報じた。これは金正恩が指令を出せなくなった場合に備えた措置で、昨年末の時点で後継体制の準備を急いでいたことが窺える。
▽延長戦に突入した党中央委総会12月30日(KCNA)
2019年12月30日に開かれた、朝鮮労働党中央委員会総会の3日目の会議(朝鮮中央通信=共同.png

だが、読み切れないファクターが存在する。金正日によって「国外追放」された金平一(キム・ピョンイル)の帰国だ。休暇で帰省したことはあったが、本格的な里帰りは約40年ぶりとなる。

平一は金日成と金聖愛(キム・ソンエ)の間に生まれ、正日の異母弟に当たる。また同じく海外在住だった平一の妹・金慶真も同時期に祖国復帰を果たした模様だ。
▽駐チェコ大使時代の金平一’15年(AP)
AP通信15年チェコ大使時代の金平一.png

平一・慶真兄妹の“電撃帰国”情報は、昨11月初旬から南鮮筋を中心に飛び交い始めた。この唐突な祖国復帰劇が、正恩の健康問題と絡み合っていることは確実だろう。

北の党宣伝機関は、平一の帰国に関して何ら公表していない。情報が不正確である可能性も排除出来なかったが、今年に入って傍証と成り得る驚天動地のお披露目があった。まさかの金敬姫復活だ。
▽三池淵劇場に現れた金敬姫:黒服1月25日(KCNA)
optimize.jpeg

金敬姫(キム・ギョンヒ=慶喜とも)は、正日が溺愛した実妹で、甥の正男の後ろ盾として知られた。処刑された張成沢の妻で、粛清の嵐が吹き荒れた6年前に表舞台から消え去った。

金敬姫の消息については処刑説と毒殺説と自殺説があった。いずれの場合でも生きてはいない。更に可愛がっていた金正男も3年前、正恩の企みで暗殺されている。
▽対空機銃で処刑される直前の張成沢’13年(KCNA)
news191859_pho01.jpg

3代目にとっては、北中枢の秘密を知り尽くす危険極まりない大叔母。そんな金敬姫を劇場の最前列に招き、宣伝機関を通じて広く内外に伝えた意味は何か…

“白頭血統”に連なる一族の結集は、金王朝存続に関わる危機感の表れに見えるが、金与正が権力を継承した時、金平一も金敬姫も邪魔で厄介な存在だ。“白頭血統”と“生野血統”ガチ対決の構図である。
▽生野血統の仲良し兄妹’18年4月(代表)
代表2018年04月27日金与正.jpg

数少ない“白頭血統”を海外から呼び寄せ、神輿に担ごうとする勢力の台頭。金正恩脳死が確定事項であれば、現在は激烈な内部抗争が繰り広げられているに相違ない。

例え3代目が死の淵から蘇っても、常に健康不安が付き纏い、醜い後継争いは過熱する。金正日政権末期のカオスを思い起こした時、大阪・生野ルーツの兄妹がゲリラ戦を勝ち抜くことは難しい。



最後まで読んで頂き有り難うございます
クリック1つが敵に浴びせる銃弾1発となります

banner1

□参考動画:YouTube12月29日『緊急ライブニュース 北、革命的血統に異変? 異例含みの党中央委総会 最高指導者に健康問題?』

参考記事:
□デイリーNK4月20日『金正恩氏が心血管疾患で手術か…12日、国内の専用病院で』
□CNN4月21日『北朝鮮の金正恩氏、手術を受け重篤の情報』
□現代ビジネス4月24日『金正恩は「植物状態」に…? 関係者らが明かした「重病説」最新情報(近藤大介)』
□ロイター4月25日『中国、北朝鮮に医療専門家などのチームを派遣=関係筋』

□NNN4月29日『CIA元分析官「妹の金与正氏が後継者」』
□産経新聞4月12日『存在感増す金与正氏 解任後に返り咲きか』
□中央日報4月23日『金正日総書記の「惜しい鼻毛」…「金与正氏、昨年から北朝鮮の第二人者だった」』
□時事通信19年11月4日『金正恩氏叔父の駐チェコ大使、帰国へ=韓国情報機関が報告』

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 14

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス ナイス

この記事へのコメント