北感染死1万人の衝撃報告…孤独な金王朝は疫病に苛まれる

最初の患者は平壌の専門病院に運ばれた…北当局が感染ゼロで意地を張る中、死者1万人超えを訴えるリーク情報が浮上。疫病流行で王朝が滅ぶ歴史の法則が金正恩に重くのし掛かる。
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「まったくナンセンスで、危険なフェイクニュースだ」

イギリスの政府当局者は4月4日、会見で怒りをぶちまけた。英国内では今月に入って時世代通信規格5Gの基地局を狙った放火が連続。少なくとも20ヵ所の電波塔が被害に遭った。
▽会見する英ゴーブ内閣府担当相ら4月4日(ロイター)
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春の風物詩的な犯罪ではなく、特定の集団に属さない単独犯による同時多発放火と見られる。しかも、武漢肺炎の蔓延と直接関係していると言うのだから穏やかではない。

5G網と感染爆発エリアの重複を指摘するマップ付き解説をパンデミック初期に見た記憶があるが、別だ。英情報通信庁によると、デマの発信源はFM番組に呼ばれた自称看護婦の発言だった。

「5Gが人々の肺から酸素を奪い取っている…」
▽炎上するバーミンガムの電波塔4月3日(英タイムズ)
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こうした主張が音声ファイル化されてSNSで拡散。更に、米アリゾナ州で「博士」が行った公開講座の動画が、一部で話題となり、各国言語に翻訳されるなど反響を巻き起こした模様だ。

悪い予感がしつつも動画を踏んで見た。「ウイルス=人類の排泄物」とするシュタイナーの言葉やクォンタム・リープなどの用語が飛び交うあたり、正統派のスピリチュアル系である。別に嫌いではない。
▽放火された電波塔4月4日(英サン紙)
英サン紙4月4日鎮火後.jpg

見なかった事にしたかったが途中で引っ掛かった。講演者が「世界で初めて5Gに覆われた都市は何処か」と問い、聴衆が一斉に「ウーハン(武漢)」と叫ぶシーンがある。それって常識なのか?

「武漢市は中国初の5Gネットワークの試行都市として大規模技術試験を開始」(新華社)
参照:AFP(新華社)’19年5月11日『5Gスマート工場が稼働 湖北省武漢市』

BSL-4実験室は焦げ臭いが、こちらは偶然だろう。しかし新型ウイルスが都市中心部に“降って湧いた説”で既存メディアが思考停止する中、“5G電波説”を合理的と捉える者が居ることは不思議ではない。
▽武漢で催された5G関連の展示会広報19年10月(人民日報)
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その中の過激派が電波塔破壊に及んだ。疫病大流行で終末大好きアセンション・キッズが白熱するのは必然だが、一時的な盛り上がりで、結果的に精神的な変容は起きず、尻すぼみで幕を引く。

疫病の正体はウイルスと分かっているし、人類が半減することもない。新時代の神なんて現れないのだ。一方、偽りの神秘性で化粧する旧世代の邪神は、死地に誘われるだろう。

【感染死1万人突破の緊急事態】

「正確な死因は不明だが新型コロナウイルスと推定される」

読売新聞は3月末、既存メディアとしては珍しく、北朝鮮国内の武漢肺炎死者を「100人以上」と具体的に伝えた。情報源は、かなり特殊な「日米南協議筋」だ。

しかも、この死者数は中朝国境に展開する軍部隊に限定したものである。時事通信も「北朝鮮筋」情報に基づき、全国で260人以上死亡と報道。地域不詳の180人が軍人と推定する。
▽豆満江沿いの北国境警備兵(File)
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「国境警備の兵士が中国人らとの接触で感染し、部隊で拡大したと推測している」

デイリーNKは、より詳しく軍医局が最高司令部に報告した人数だとする。部隊内180人の死者は1〜2月の累計で、報告を受けた軍中枢は激しく動揺しているという。

北朝鮮全土の実態は暫く闇の中だったが、西岡力教授が国基研のリポートで、3月下旬時点の状況を伝えた。「内部情報」によれば、武漢ウイルスによる死者は1万人を突破した模様だ。
▽平壌市内にある病院の消毒作業4月1日(AFP)
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1万人を超える死者数は、支那全土には遠く及ばないものの、米国やスペインの被害に迫る。西岡教授は関連して入手した北の内部文書を公開。死者数の裏付けにはならないが、貴重な手掛かりとなる。

「全住民は新型コロナウイルス感染症を防ぐ為の国家非常防疫状態を金儲けの機会として利用する者との闘争に団結して立ち上がろう」

中央から各地の細胞組織に下達された政治講演資料だ。国家非常防疫体制は北が1月に公に宣言したもので、極秘事項ではない。それでも噂が噂を呼び、全土が混乱に陥っている様子が窺える。
▽3月下旬に下達された政治講演資料(国基研)
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「現在まで我が国では新型コロナウイルスの感染者は1人も発生していない」

北衛生当局のトップは4月1日、海外通信社とのインタビューで、そう豪語した。揺るぎなきゼロの大行進。3月24日の会見で茂木外相は「極めて奇跡的」と皮肉った。

中共と同様に政治的な数字など意味がない。焦点は、どの程度の感染爆発が平壌で起きているかだ。

【平壌オーバーシュートの黒い霧】

北朝鮮は1月22日に外国人の入国を禁止し、月末には中朝国境の全面閉鎖に踏み切った。素早い水際作戦に見えるが、北朝鮮は’14年のエボラ流行でも同様の措置を講じている。基本的にビビリなのだ。

北京に全く配慮しない即時遮断は、1月中旬までに感染者の平壌“直輸入”が確認された為だった。遼寧省に留学していた男子学生が発症し、家族を巻き込んで死亡。この学生から更に18人が感染したという。
▽マスク姿が全くなかった1月末の平壌市内(AP)
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死亡した学生は平壌中心部の専門病院に運ばれたことから、党か軍エリートの息子と考えられる。似た状況が重なり、高級幹部の子弟が留学先の支那から武漢ウイルスを相次ぎ持ち込んだ可能性もある。

北朝鮮軍は3月2日、日本海に向けて2基の短距離弾道ミサイルを発射した。射出ポイントは東海岸の元山で、金正恩は2月末の合同打撃訓練から現地入りし、視察の模様を公開している。
▽砲兵部隊訓練を視察する金正恩3月12日(KCNA)
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金正恩は2月下旬に平壌を離れ、別荘のある元山周辺に疎開中との観測が広がった。3代目を護衛する司令部隊内に感染者が出たことが平壌脱出の理由とも囁かれる。

真相は藪の中だが、ほぼ独立した親衛隊にまで武漢ウイルスが達しているのなら、平壌市内のエピデミックは深刻だ。閲兵式のキャンセルも感染拡大が原因と分析される。

「北朝鮮軍は約30日間、基本的に閉鎖状態で、ごく最近になって定期訓練を再開した」
▽テレビ会見するエイブラムス司令官(NHK)
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在南米軍のエイブラムス司令官は3月13日、そう会見で明かした。米偵察衛星は1月下旬、平壌近郊の訓練場に集結した8000人規模の兵員を捕捉。しかし2月8日建軍節の閲兵式は開かれなかった。

建軍節は、北朝鮮軍の創設に因んだ重要な記念日で、2年前は平昌五輪に合わせて盛大に開催。昨年は米朝ハノイ会談を睨んで中止となったことから、今年は大規模化される見通しだった。
▽火力打撃訓練を視察する金正恩3月9日(KCNA)
9日、朝鮮人民軍の火力打撃訓練を指導する北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(朝鮮通信=共同).jpg

軍事パレードを一転して取り止めた背景に武漢肺炎の感染拡大があるとする米当局の見立ては妥当だ。クーデター計画の発覚や軍暴発の可能性を論じるよりも現実的な推測である。

そして弾道ミサイルの乱射や火力演習の再開は、北国内の感染爆発が終息したことを意味しない。他国のケースと同じく、短期での封じ込めは不可能で、事態は確実に悪化している。

【神格化事業に不都合な流行り病】

「95年には党員5万人を含めて50万人が餓死した。96年には11月中旬現在で、すでに100万人が餓死した」(黄長燁著『金正日への宣戦布告』335頁)

90年代半ばの食糧難では、年間100万人レベルの北庶民が飢えで命を落とした。この惨事と今回の感染症拡大を比較することは適切ではないが、壮絶な大量飢餓でも金王朝は維持されたのだ。
▽食糧危機で始まった「苦難の行軍」キャンペーン(File)
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高位脱北者の証言によれば、食糧難で深刻な被害に見舞われたのは北東部などの地方で、平壌は最終局面まで配給が滞りなく続いた。党中枢や軍幹部は殆ど影響を受けず、他人事であった。

だが、武漢ウイルス禍は初期の“感染輸入”ルートからも平壌を直撃している可能性が高い。年老いた赤い貴族の中には、既に死亡した他、重篤な症状で入院している者も多いのではないか。
▽平壌市内バスの乗客もマスク着用2月26日(AP)
AP通信2月26日市内バス乗客もマスク着用.png

貧しい農民や坑夫の一家が100万人単位で絶命しても、北の体制は揺るがないが、平壌エリート層への甚大被害は国家的な危機に直結する。金正恩にとっては襲名後最大の危機だ。

父親の金正日は配給制の崩壊が平壌に迫った’97年春、突如、食糧事情の逼迫を国際社会に訴える。海外メディアに痩せ細った子供達の写真を撮らせ、世界に衝撃を与えた。有名な飢餓宣伝である。
▽支援の世論を喚起した「北の欠食児童」(File)
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我が国を筆頭に先進国の官民組織から援助が殺到。一部は飢えた子供に届いたかも知れないが、肥えたのは指導部で、翌年にはテポドン発射で世界を嘲笑う。典型的な焼け太りだ。

金正恩が危機宣伝に切り替える機会は何度もあった。中共の都市封鎖、南鮮・大邱のオーバーシュート、そして防疫関連の支援を申し出たトランプ親書…それでも感染ゼロの当局発表は不変だった。
▽白頭山麓でのロケが繰り返された19年10月(KCNA)
2019年10月に朝鮮中央通信が報じた、白頭山で白馬に乗る北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長.jpg

昨秋から金正恩は、聖地とする白頭山を繰り返し、凝ったイメージ写真を狂ったように配布している。神格化の補強を急いでいたのだ。その過程で疫病が大流行することは許されない。

党の完全無欠を前提にする中共に対し、北朝鮮は統治者個人の無謬性に立脚する。王権神授説とも異なり、金王朝は金日成を“太陽神”と仰ぐことで、支配を正当化させる。自らが祈り奉られる対象なのだ。
▽新年恒例の万寿台“動員参拝”1月1日(共同)
新年を祝い、故金日成主席(左)と故金正日総書記の銅像が立つ「万寿台の丘」を訪ねる北朝鮮の人々と手向けられた花=1日、平壌(共同.jpg

「コロナウイルスは南朝鮮が撒いた」

北朝鮮国内では南鮮に責任を押し付けるプロパガンダも登場しているという。感染者公表への布石にも見えるが、一般市民は騙せても、党と軍の中枢で幼稚な陰謀論を信じる者は居ない。

明や清といった満蒙系王朝は深刻な疫病が遠因となって崩壊した。21世紀の今、次に同じ歴史が繰り返されるのならば、それは間違いなく金王朝だ。



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参考記事:
□国家基本問題研究所3月30日『死者1万人超か、北朝鮮でコロナ蔓延(西岡力)』
□読売新聞3月29日『北でも新型コロナ蔓延か…中朝国境から「今では全国に」』
□時事通信4月1日『北朝鮮でも多数の死者か 新型コロナ、感染拡散』
□ニューズウィーク3月11日『「焼くには数が多すぎる」北朝鮮軍、新型コロナで180人死亡の衝撃』
□ニューズウィーク4月6日『「感染者ゼロ」北朝鮮の新型コロナウイルス対策』
□ZAKZAK(デイリーNK)4月2日『「新型コロナは韓国が撒いた」北朝鮮がフェイク情報』
□Business Journal2月23日『北朝鮮、コロナウイルス流行に無策で“鎖国”状態…国家破綻の危機(相馬勝)』
□GIGAZINE4月5日『5G電波塔の放火被害が多発、「5Gが新型コロナウイルスを拡散している」というデマがなぜ広がったのか?』
□ニューズウィーク4月6日『「新型コロナウイルスが5Gで拡大」とのうわさイギリスで拡大 政府が否定
□英ガーディアン紙4月6日『At least 20 UK phone masts vandalised over false 5G coronavirus claims』

【side story】

武漢5Gなんたら説の動画はGoogleの方針で一括削除されました。オリジナルとミラー、各国翻訳版を含めて結構なタイトル数があった模様。ごく普通の教授が講義している感じで、信じる人が現れるのも不思議ではないような。確かに、分かり易い強烈電波系よりもナチュラルに危険かも。

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