金正恩斬首作戦の予行演習…激突危機は再び朝鮮半島に

米vsイラン年越し対立は“不発弾落下”で幕を閉じた。その陰で金正恩は司令官「斬首作戦」に戦慄する。遠吠え将軍は2月に迫る危険日を乗り切る為、必死にもがく。
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香港の反送中デモが大きな転換点を迎えた時期と重なる。昨年10月1日の大規模抗議で警官隊が初めて実弾を発射。続いて戒厳令に等しい緊急条例が発動され、覆面が禁止された。

その頃、イラク国内で起きていた大規模デモを詳しく伝えたメディアは少なかった。バグダッドから中南部に拡大した反政府デモは、僅か1週間で約150人の犠牲者を出す。
▽バグダッド中心部を埋めるデモ隊10月30日(AFP)
イラク・バグダッドの中枢部グリーンゾーンとタハリール広場を結ぶ橋を埋め尽くしたデモ隊(2019年10月30日.png

高い失業率を背景に南部では恒常的にデモが発生している。しかし、昨10月に始まったデモは「反イラン」の色を強く帯びていた。イラク現政権はイランと密接に関わり、「傀儡」と非難する声すらある。

IS(イスラミック・ステート)の登場は、一方でイラク国内に様々なシーア派民兵組織を生む土壌を築いた。その民兵が治安部隊に紛れ込み、デモ参加者に対して残虐に振る舞ったとも指摘される。
▽治安部隊と対峙するデモ隊10月2日(ロイター)
ロイター10がつ2ひ反政府デモ隊と治安部隊が各地で衝突.jpeg

イランによるシーア派民兵の支援は公然の秘密だ。大規模反政府デモの第2波に続き、11月に入るとイラン領事館襲撃が続発。南部ナジャフでは燃え盛る領事館をデモ隊が取り巻き、気勢をあげた。

「イランはイラクから出て行け」
▽炎上するナジャフのイラン領事館11月27日(AFP)
イラクのイスラム教シーア派聖地ナジャフで、燃え上がるイラン領事館前に集まるデモ隊=11月27日(AFP時事).jpg

反イランの動きが激化する中、正体不明の武装集団が12月6日、バグダッドのデモ隊拠点を急襲。20人を惨殺し、数十人が負傷する事件が起きる。また駐留米軍を狙ったテロもエスカレートする。

米軍関連施設や空軍基地へのロケット砲攻撃は、大規模な反政府デモに呼応する形で10月から頻発。ペンス副大統領のイラク電撃訪問は、こうした事態を受けたものだった。
▽アサド基地で演説するペンス副大統領11月23日(ロイター)
ロイター11月23日11月23日、米国のペンス副大統領はイラクを訪問.png

そして北部キルクークの基地で軍属の米国人1人が殺害されるに至って、米軍が反撃。12月29日、イラクとシリアに跨がるシーア派軍事組織「カタイブ・ヒズボラ」の拠点5カ所を空爆した。

大晦日に発生したバグダッドの米大使館襲撃事件は、この空爆に対する抗議が発端だった。典型的な報復の連鎖であるが、どこに起点を置くかで見方が変わってくる。
▽軍服集団も目立つ米大使館襲撃事件


イラク国内に広がった反イランのうねりを出発点にすることも一面的だろう。年末年始の米イラン対立は、トランプ大統領がブチ切れて悪玉を爆殺したといった単純なストーリーではない。

【黒幕説も国家No.2説も不可解】

「大規模な損害はなかった」

米国のエスパー国防長官は被害が軽微に留まったと明かす。イラン革命防衛隊は1月8日、16基の短距離弾道ミサイルを発射。12基が米軍の駐留するアサド空軍基地などに着弾した。
▽破壊されたアサド基地の倉庫1月8日(AP)
AP通信18アサド基地.jpg

速報段階では、米イラン全面戦争の勃発を予感させるものだったが、米軍側に人的損害はなく、事態のエスカレートは回避された。着弾後、イランのザリフ外相は、こう語る。

「相応の自衛措置を実施・完了した」

報復は連鎖せず、これにて“殉教者ソレイマニ作戦”は終了。仰々しい作戦名が指し示す通り、トランプ大統領が裁可した司令官爆殺は、悪手であると考えられた。
▽故郷で行われたソレイマニの葬儀1月7日(ロイター)
ロイター1月7日、米軍の空爆によって殺害されたイラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の葬儀が、同氏の故郷である同国南東部ケルマンで.jpg

イラン東部ケルマンで前日に営まれた葬儀には数万人が街の中心部を埋め尽くした。イスラム教では格別の意味を持つ殉教者の誕生である。トランプ大統領は敵国に新たな英雄を生み出してしまったのだ…

「司令官がイラン全土に慕われていることを米国に示したくて参列した」「1000キロ離れた町からやってきた。司令官はイラン国民の心の中にいる」

メディアは、怒りに震えるイラン人の言葉を競って伝えた。しかし、どうも事情が違う。首都テヘランでの葬儀には、ハメネイ師らも参列したが、国葬という表記は見当たらない。
▽ハメネイ師主宰のテヘランでの葬儀1月6日(ロイター)
ロイターテヘランでは6日、3日の米国の空爆により死亡した革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の葬儀が、最高指導者ハメネイ師の主宰で執り行われた.jpg

革命防衛隊の最精鋭軍団を長年率いたソレイマニについて、複数のメディアが「実質的なナンバー2」と形容した。ロウハニ大統領よりも国家的序列が上で、ハメネイ師に次ぐ地位にあると言うのだ。

それ程のVIP暗殺が“被害軽微”の基地攻撃でチャラになるものだろうか。現場指揮がモットーであるにしても、国家ナンバー2が米エージェントが多く居るバグダッドに出入りしていたことも納得いかない。
▽ソレイマニとハメネイ師:時期不詳(ZUMA Press)
イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官(左)とハメネイ師ZUMA Pres.jpg

ロイターによるとソレイマニは10月、バグダッド市内の「別荘」でシーア派民兵組織の幹部と会合を重ねた。チグリス河畔の「別荘」からは対岸の米国大使館が望めたという。

参照:ロイター1月7日『焦点:イラン司令官、死につながった米軍攻撃計画の内幕』

米エージェントが極秘裏にソレイマニを処理する機会は過去に何度もあったはずだが、事実上の野放しだ。このシーア派ミリシアを束ねる人物が米国が忌み嫌う宿敵といった説にも疑問符が付く。
▽テヘラン米大使館跡地に肖像画も1月6日(AP)
テヘランの米大使館跡地で、米軍に殺害されたソレイマニ司令官を悼む市民ら(6日)=AP.jpg

1月3日の爆殺で一躍脚光を浴びたソレイマニだが、この男が担った役割や政治的な立ち位置など何か重要な情報が欠落しているように思えてならない。

【北のサンタは来なかった】

「イランは今のところ矛を収めているようだ。これは全ての当事者と世界にとって良いことだ」

日本時間1月9日未明に始まったトランプ大統領の会見は、抑制が効いていた。あらゆる選択肢があるとしながらも、武力行使に頼らず、経済制裁を優先する方針を示す。
▽声明発表するトランプ大統領1月8日(AFP)
AFP18会見するトランプ大統領.jpg

弾道ミサイル着弾後、ザリフ外相は米政府宛に書簡を送ったことを表明。イラン政府筋によると米国の反撃がなければ追加攻撃をしないという内容で、トランプ大統領の声明に影響を与えた可能性も高い。

ミサイル攻撃は事前にイラク首相府に通知されていた。着弾の約2時間前で、アサド基地に駐留する1000人規模の米兵らがシェルターに退避する時間は充分にあった。
▽イランから発射された弾道ミサイル1月8日(AFP)
イランからイラクのアサド空軍基地に向けて発射されたロケット弾とされるもの。国営イラン放送が放映した動画より(2020年1月8日.jpeg

“壮大な茶番”と揶揄する向きもあるが、着弾地点が大きく逸れて3桁の死傷者が出たなら、全面衝突に発展する。イランにとっては、ミサイルの命中精度を信じるギリギリの綱渡りである。

トランプ大統領としてはXmas休暇から年始にかけて、伏兵に翻弄された格好だ。キルクークで米軍属が殺害された日、ホワイトハウスが神経を尖らせていたのは間もなく始まる北朝鮮の重要会議だった。
▽フロリダで休暇中のトランプ大統領12月24日(ロイター)
ロイター12月24日、トランプ米大統領は、北朝鮮の「クリスマスプレゼント」を用意しているとの警告について、米国は「極めてうまく対応する」と述べた。 フロリダで撮影.jpg

「Xmasプレゼントに何を選ぶかは米国次第だ」

北朝鮮外交部の米国担当次官は12月上旬、そう豪語していた。米国が軟化しない限り“プレゼント”を贈呈する…だが、イブも当日も、ブラック・クリマスの贈り物は影も形もなかった。

「単なる脅し。北の言うことは全て話半分で聞け」

事前に切って捨てたのはボルトン前補佐官だ。流石である。一方で彼を排除したトランプ政権は戦々恐々としていたに違いない。グアムを射程内にするICBMが発射された瞬間、今回の米朝蜜月は破綻する。
▽平壌で開かれた党中央委総会の初日12月28日(KCNA)
28日、平壌で始まった朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会。朝鮮中央通信が29日報じた(朝鮮中央通信=朝鮮通信).jpg

そして12月28日、平壌で朝鮮労働党の中央委総会が始まった。当初2日間と予想されていた重要会議は1日延期され、更に大晦日まで続く。プレゼントが年内に届く可能性は消えた。

対して、意外なプレゼントを北に捧げたのは米軍だった。Xmas前と新年早々のダブル贈呈。金正恩にとってインパクト絶大な贈り物だ。

【金正恩に迫る国威発揚“危険日”】

「北朝鮮の首脳に焦点を合わせたこうした攻撃は、米国が年来保持しているとされる、北朝鮮首脳部に対する『斬首作戦』の一種だとも言える」

古森義久さんは、演習の内容と映像公開に秘められた意味を読み解く。昨年12月22日、米軍当局は「ニセ正恩」を縛り上げて連行する演習映像をメディアにリークした。



11月に南鮮・群山米空軍基地で実施された合同演習の一部を敢えて敏感な時期に公開したのだ。米南のメディアは金正恩捕獲を模した訓練と紹介するが、南鮮国防部は真っ向否定する。

「これは対テロ訓練と要人の救出訓練だ」
▽合同演習に登場した金正恩役11月8日(米国防総省)
11月8日、韓国の群山空軍基地で共同訓練を行う米韓の特殊部隊員(米国防総省提供).jpg

そんなことはない。連行される「ニセ正恩」の背格好が似ているのは偶然の一致だとしても、後ろ手に縛られている。米南の特殊部隊は救出した要人を器具で拘束し、腕を抱え込んで案内するのか?

また映像の突入シーンには、古めかしい軍装の敵兵役が登場する。板門店の北側で見かけるような装いだ。想定する制圧対象が八路軍でないとすれば、残るは北朝鮮軍である。
▽拠点突入時に一瞬現れる敵兵役(YouTube)
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この映像だけでも金正恩は吐き気と寒気を催すが、年初を迎えて戦慄する。お屠蘇気分を吹き飛ばすソレイマニ爆殺。拠点急襲よりも現実的なMQ-9リーパーによる斬首作戦だった。
▽炎上するソレイマニ搭乗車両1月3日(提供イラク軍)
提供イラク軍13炎上する車両1.jpeg

朝鮮労働党の宣伝機関が爆殺に触れたのは3日後の1月6日で、しかも中露外相の電話会談を伝える中で表記したに過ぎない。イラン革命防衛隊とは長年の取引があるにも拘らず、無視を決め込むようだ。

「世界は遠からず、共和国が保有することになる新しい戦略兵器を目撃するだろう」

金正恩は党総会の結びで、そう宣言した。新型ICBM発射の予告である。実際に撃つのは、いつになるのか。要注意日とされた1月8日の3代目誕生日も沈黙のまま終わった。
▽金正恩不在の平壌決起集会1月5日(共同)
平壌の金日成広場で開かれた朝鮮労働党中央委員会総会の決定貫徹を訴える決起集会=5日(共同).png

撤回した「年末期限」に加え、更に虚勢を張り続けるなら、金正恩の権威は完全に失墜する。2月8日の建軍記念日、2月16日の2代目誕生日と国威発揚の特異日は続く。

リミットは恐らく、4月15日の金日成誕生日だ。残り3ヵ月余り。金正恩のたった1人のチキンレースは、終わりが近づいている。


最後まで読んで頂き有り難うございます
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参考記事:
□JB Press1月1日『「拘束された金正恩」写真を公開した米国の真意』
□聯合ニュース12月24日『「北朝鮮軍襲撃訓練」報道を否定 韓米国防当局』
□FNN12月24日『米韓“北”の要人生け捕り訓練? 物議 写真を米が公開』
□時事通信12月23日『米韓両軍、正恩氏の斬首訓練? 北朝鮮へのけん制か―韓国紙』
□デイリーNK12月23日『金正恩が恐れる「斬首作戦」……米韓合同訓練の動画公開でひと悶着』
□ZAKZAK1月7日『トランプ氏の“狂気”に正恩氏震える!? イラン・ソレイマニ司令官の爆殺で…北朝鮮は挑発行為を停止 識者「正恩氏は『自分の身も危ない』と精神的に追い詰められた」』
□AFP10月31日『イラク反政府デモ、月初からの死者250人超に 首相退陣圧力強まる』
□BBC11月28日『イラクの反政府デモ隊、イラン領事館に放火』
□時事通信12月3日『「反政府」「反イラン」泥沼化 首相辞任でも収拾不透明―イラク』
□AFP12月8日『イラク混迷、首都ではデモ拠点襲撃に抗議 サドル師宅にはドローン攻撃』
□CNN1月1日『米軍、イラクに増援部隊を派遣 大使館への抗議デモ受け』

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