第2次米朝舌戦の乱数列…金正恩が震える年末進行

“老いぼれvsロケットマン”のリターンマッチは第1次舌戦と同じ展開を辿るのか。自ら設定した「年末期限」に慌てる金正恩。ICBMを撃っても止めても、その先にあるのは修羅場だ。
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「今のような重大な時期に、意図的に対決の雰囲気を増幅させる表現を使うなら、老いぼれの耄碌が再発したと診断すべきだろう」

金正恩がゴリ推しする女性外交官・崔善姫(チェ・ソンヒ)は12月5日、トランプ大統領を“口撃”した。2年ぶりに再開れた罵り合い。第2次米朝舌戦である。

記者質疑で飛び出した不規則発言ではなく、個人名義とは言え、北外交部の公式談話だ。更に、米朝協議のキーマンとされる金英哲(キム・ヨンチョル)も9日、負けじと談話を発表する。
▽ホワイトハウスを訪れた金英哲1月18日(共同)
共同1月18日北朝鮮の金英哲朝から金正恩党委員長の親書を手渡され.jpg

「トランプ氏は非常に無謀で一貫性のない老人である為、彼を再び『老いぼれ』と呼ぶ時代が来るかも知れない」

「無謀で一貫性のない老人」と決め付けた時点で充分な罵倒だが、微妙に違うのか…第2次舌戦の発端は12月3日、NATO首脳会議で訪英中のトランプ大統領が放った一言だった。

「ロケットを飛ばすのがとても好きだ。だから彼をロケットマンと呼んでいる」


記者の質問に答えたもので、直後には「だが、実は私とは仲が良い」と続く。UN総会一般討論演説の文書に盛り込んだ2年前の「ロケットマン」とは温度差がある。

「米国の老いぼれ狂人」「火遊びを好むならず者」「ゴロツキ」

UN演説の3日後、金正恩は自ら映像に登場し、トランプ大統領を口汚く罵った。2年前の秋、米朝軍事衝突の機運が最高潮に達する少し前のことだ。米軍の平壌サージカル・ストライクは秒読みと思われた。
▽声明で罵倒語羅列する金正恩'17年9月(KCNA)
KCNA17年9月声明を発表する北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長=22日.jpg

ところが、’18年新春の金正恩“命乞い演説”で、情勢は劇的に変化する。度を超えた罵倒合戦が史上初の米朝首脳会談に繋がったのだから、国際政治は摩訶不思議だ。

果たして第2次米朝舌戦も似たような展開を辿るのか。

【罵詈雑言レース過熱で深刻発言】

「安倍は本物の弾道ミサイルが何なのか遠からず、それも非常に近い所で見ることになるかも知れない」

北外交部が先月末に日本担当副局長名義で発表した談話である。北朝鮮が11月28日に連射した新型ミサイルに関して、我が国だけが「弾道ミサイル」と呼称したと言うのだ。
▽記者団に応じる安倍首相11月28日(産経)
産経11月28日北朝鮮によるミサイル発射について、取材に応じる安倍晋三首相=28日午後.jpg

「北朝鮮の度重なる弾道ミサイルの発射は、我が国のみならず、国際社会に対する深刻な挑戦です」

緊急開催された国家安全保障会議後の会見で、安倍首相はそう語った。北は「超大型多連装ロケット砲」を自称するが、軍事専門家は事実上の弾道ミサイルで、的外れな断定ではないと指摘する。

「一連の発射は弾道ミサイルであり、明確な安保理決議違反だ」
▽コミュニケ発表する6ヵ国のUN大使12月4日(時事)
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英独仏など欧州6ヵ国は12月4日、安保理非公開会合後の会見で、北を非難するコミュニケを発表した。これを受け、北のUN大使は12月7日、6ヵ国を「米国のペット犬」と罵倒した。

肝心の米国がコミュニケから漏れていることが重要なのだが、こちらも遅ればせながら、舌戦に参加した格好だ。後発組の焦りがあったのか、UN大使の金星(キム・ソン)は、口を滑らせる。

「我々は今や米国と冗長な話し合いを行う必要はなく、非核化は交渉のテーブルから既に消え去った」
▽北朝鮮UN大使の金星(file)
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重大な発言だ。北外交官の談話・声明は、個人名儀であっても金正恩の意向と見做される。この“非核化消滅宣言”に対し、さしものトランプ大統領も敏感に反応した。

「シンガポールで私と一緒に強力な非核化合意に署名した。もし金正恩委員長が敵対的な行動を取れば、余りにも多くのものを失うことになる」
▽NATO総長と会談するトランプ大統領12月3日(AFP)
AFP3日、ロンドンで、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長との会談の際に発言するトランプ米大統領.jpg

首脳会談の唯一の成果が「非核化合意」である。トランプ大統領は非核化の約束が破られないことを理由に、弾道ミサイル発射を見逃してきた。大前提が覆れされたのだ。

対北問題を話し合うUN安保理の緊急会合が現地時間12月11日にセットされた。開催を求めたのは米国。北UN大使にお灸を据える程度の非難声明に留まるのか、新たな制裁にまで踏み込むのか…

年の瀬にかけ、米朝の動きが慌ただしくなってきた。

【哀れ南北合意書の“焼却処分”】

佐世保を拠点とする米海軍の弾道ミサイル追跡艦「ハワード・O・ロレンゼン」が11月29日、出港した。金正恩が連射劇を視察した翌日だ。新たなミサイル発射への警戒である。
▽USNSハワード・O・ロレンゼン(file)
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また12月に入ると嘉手納基地から「コブラボール」が日本海に向け、繰り返し発進している。この電子偵察機も高い弾道ミサイル監視能力を誇る特殊機だ。

そして12月5日、米国の研究機関が北のICBM発射施設に動きがあると発表。衛星写真の分析で、大型の輸送コンテナが配置されていることが明らかになった。
▽ミサイル実験場に大型コンテナ確認12月5日(共同)
12月5日東倉里コンテナ.png

「遠からず、我が邦の戦略的地位をもう一度変化させる上で重要な作用をするだろう」

北朝鮮当局は12月8日、前日に「非常に重大な実験が成功した」と表明する。専門家の予想通り、エンジンの燃焼実験だったが、行われた施設に問題があった。
▽燃焼実験の痕跡を確認12月8日(共同)
12月8日実験後の衛星写真.png

北西部・東倉里(トンチャンリ)に古くからある「西海衛星発射場」。ここは第1回米朝首脳会談で金正恩が「解体」を約束し、トランプ大統領は一部解体を成果のひとつとして強調していた。

「各国の専門家の前で実験場と発射台の永久的廃棄に合意した。とってもワクワクする!」

トランプ大統領が歓喜したのは昨年9月のことだ。南北首脳会談で金正恩は東倉里施設の「永久放棄」を明言し、平壌共同宣言にも盛り込んだ。遠い昔の話のようでもある。
▽永久廃棄を明記した南北合意文書'18年9月(ロイター)
ロイター18年9月合意文書に署名する南北首脳.jpg

トランプ大統領の顔に泥を塗りたくると同時に、金正恩は文在寅の存在意義を軽く吹き飛ばしたのだが、南鮮側は「深い憂慮」を示しただけだ。平壌宣言の不履行に関しては忘れた振りをする。

射程1,000kmを超す長距離弾道ミサイルの発射は、米朝協議の即時終了を告げる。金正恩もそれを心得た上で、寸止めに近いICBMエンジン実験というカードを切った。残る手札は殆どない。
▽前回の実験に立ち会った金正恩'17年3月(KCNA)
KCNA17年3月東倉里の「西海衛星発射場」で行われた高出力ロケットエンジンの地上燃焼実験に立ち会う金正恩.jpg

「Xmasプレゼントに何を選ぶかは米国の決心次第だ」

米国担当の北外交部次官・李泰成(リ・テソン)は12月3日、そう呼び掛けた。北にとっては脅し文句なのだろうが、ホワイトハスや国務省が動じることはないだろう。

「決心」を迫られているのは、金正恩だ。

【29年ぶり重大演説の自業自得】

「米国がどう年末を賢く乗り越えるか見たい」(金桂寛)
「時間稼ぎをし、年末を無難に越そうと考えるなら愚かな妄想だ」(金英哲)

平壌は晩秋頃から繰り返し「年末」という締め切りを強調してきた。報道でも「年末期限」が副詞的に使われるが、そこに潜む本気度の解釈は様々だ。

「今年末までは忍耐心を持って米国の勇断を待つ」
▽初の施政演説を行う3代目4月(朝鮮中央TV)
朝鮮中央TV演説の金正恩朝鮮労働党委員長(4月12日).jpeg

今年4月12日に開かれた最高人民会議の施政演説で金正恩が読み上げた言葉である。機関紙が掲載した談話やコメントではなく、本人が党員・党幹部を前に揚々と宣言したのだ。

自ら設定したリミットの間際になって慌てふためく様子は、南も北も変わらない。ただし北の場合は、GSOMIAの土下座延長とは比較にならない程の重みを持つ。
▽3代目の議場入りでマンセー4月(朝鮮中央TV)
朝鮮中央TV議場に入る金正恩朝鮮労働党委員長(4月12日).jpg

金正恩による施政演説は世襲後初めてのもので、1990年の金日成演説以来、実に29年ぶりとなる。最重要演説で示した方針を撤回したり、軽々に扱ったりすれば、金王朝の基盤が大きく揺らぐ。

当初、この年末期限は、第3回米朝首脳会談の実施と理解されたが、板門店会談以降もリミットが解除されることはなかった。トランプ大統領が38度線を少し越えて見せただけの政治ショーだった。
▽米朝板門店会談の記念写真6月(ロイター)
ロイター6月、南北軍事境界線上の板門店に並んで立つトランプ米大統領(左)と金正恩朝鮮労働党委員長.png

北朝鮮側は、年末までに米国が大幅譲歩しなければならないと言う。クリア条件のひとつは「体制保証」だ。しかし、あと3週間以内に米側が半島向けの軍事的圧力を捨て去る可能性はゼロである。

その場合、金正恩は年明け早々にもICBMの発射に挑む。方向は北海道沖で、太平洋上に着弾するケースも想定される。レッドラインにしてデッドライン。約10年毎の米朝蜜月が幕を閉ざす。
▽新型SLBMの発射10月2日(KCNA)
KCNA10月2日新型SLBMの発射.jpg

全てが水泡に帰する結末はトランプ大統領も望まない。年末までに、形式的な協議に応じるのではないか。ストックホルムでの短時間接触、あるいはポンペオ国務長官の再訪朝だ。

実現した暁に金正恩は「米側が譲歩の勝ち取った」と捏造宣伝し、交渉継続を謳う。これも瀬戸際でGSOMIA“破棄回避”で急場を凌いだ文在寅政権の言い訳と同じである。
▽白頭山麓を大名旅行する金正恩12月(KCNA)
KCNA白頭山の革命戦跡地を視察する金正恩朝鮮労働党委員長=日時不明、朝鮮中央通信4.jpeg

だが、金正恩が米朝交渉の中身を偽って年末を乗り越えても、平壌中枢は事実を知っている。施政演説の言葉は途轍もなく軽く、最高指導者は平然と嘘を吐き、国家と国民を欺く糞チキン野郎…

今度は内部からの突き上げだ。金正日時代の末期とも似ている。3代目が年末年始と厳冬期を乗り切り、穏やかな春を迎える為の窮余の策は、そう簡単に見付からない。



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参考記事:
□産経新聞12月3日『北が米に「年末までに決心を」と重ねて警告、ICBM再発射示唆』
□日経新聞12月9日『米朝「年末期限」で駆け引き激化 非核化交渉』
□ロイター12月9日『北朝鮮、トランプ氏発言をけん制 「金委員長が評価変更も」』
□産経新聞12月9日『トランプ氏の「自慢の種」脅かす東倉里カード…正恩氏は決裂避けつつ圧力』
□CNN12月8日『非核化は「交渉のテーブルから消えた」北朝鮮の国連大使』
□FNN12月8日『日曜安全保障 ロケット砲orミサイル? 罵倒のわけ』
□日経新聞12月4日『トランプ氏、北朝鮮をけん制 軍事力行使に再言及』
□ブルームバーグ12月9日『北朝鮮、トランプ氏を厳しく個人批判-「無謀で一貫性ない老人」』

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