虹の帝と神武王朝絵巻…絢爛たるロイヤル・サミット

喪われた伝統を取り戻した御即位の儀式。荘厳な神武王朝絵巻に続く饗宴は史上最大級のロイヤル・サミットとなった。そして“虹の帝”は、特別な御宮の最奥で誰も知らない秘儀に臨まれる。
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伊邪那岐命と伊邪那美命は、天の浮橋に立って鉾天沼矛を混沌の地に差し下ろし、攪拌を始めた。矛を引き上げた時に零れ落ちた滴は形を成してオノゴロ嶋となる…

古事記・日本書紀に記された国生み神話の冒頭エピソードだ。二柱の神の所作がヒンドゥー教の天地創世神話である「乳海撹拌」に似ていることも興味深い。
▽天浮橋より『天之瓊矛を以て滄海を探るの図』
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天浮橋を虹に見立てる解釈もあるという。天と地を結ぶルートとして虹が登場する物語は洋の東西を問わず多いが、我が国では和歌に詠まれることも稀で、古来からの瑞祥とは言えない。

それでも10月22日の昼、都心の空に架かった美しい虹は、多くの人の心を魅了した。出現時刻は午後零時58分頃で「即位礼正殿の儀」が始まる数分前だった。
▽大手町から撮影された都内の虹(日経)
日経大手町から捉えた都内の虹.png

「強い雨と風は儀式が始まる直前にやみ、青空がのぞいた。ソーシャルメディアには、儀式の直前に上空に虹が出たという投稿も相次いだ」(10月22日BBC)

雨は神道的に吉兆であるにせよ、首都圏は前夜から雨が降り続き、度々激しく音を立てた。ぐずついた空模様の中、ほんの束の間、陽が差し込み、虹が輝いたことは奇跡のように思える。
▽同時刻にスカイツリーから見えた虹10月22日(NHK)
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偶然が重なり合って生じた自然現象として片付けるのは簡単だ。しかし、偶然の中に神秘性を見出して尊ぶ日本人が多いことに驚嘆する。そして、人の手による演出など些細なものだと知った。
▽午後1時過ぎに富士山初冠雪を観測10月22日(読売)
読売1022午後1時過ぎに富士山初冠雪を観測.png

後世に語り継ぎたい「虹の帝」御即位である。

【伝統回帰の神武王朝絵巻】

昨年9月、皇居・乾門に数台のトラックが滑り込んだ。荷台には御即位の礼で用いられる高御座が載っていた。史上初めてとなるオール陸路での移送だった。
▽高御座を載せた車両が到着H30年9月(産経)
産経18年926京都御所を出発したトラックは26日皇居・乾門に到着.jpg

上皇陛下の御即位の際は、京都の陸自桂駐屯地から輸送ヘリで都内に運ばれた。当時は左翼団体の武装テロが頻発し、搬送は厳戒態勢を強いられた。しかし宮内庁によると「時代は変わった」という。

天皇陛下・皇后陛下におかれては10月22日午前、宮中三殿にて「即位礼当日賢所大前の儀」に臨まれた。聖上が纏われるのは、帛御袍(はくのごほう)と呼ばれる純白の装束だ。
▽「即位礼当日賢所大前の儀」(代表)
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生中継までするのは、いかがなものかと思うが、この時、都心部の雨は激しく、風も強かった。後に晴れ間が覗くとは誰しも予想し得ない天候である。

そして、この日の中心儀式となる「即位礼正殿の儀」が厳かに執り行われる。秋篠宮後嗣殿下らご皇族が松の間に入られる際、回廊に陽に差していることが分かる。
▽宮殿・松の間に向かわれる(宮内庁動画より)
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宮城近くに虹が架かったのは、今上陛下が剣璽等を案に据えられ、高御座に着かれた刹那だ。深紫の十二単をお召しになった女性皇族らが両脇に整った所で、帳が開かれた。
▽厳かに帳を開く伝統の「宸儀初見」(代表)
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これが初めて聖上がお姿を見せる「宸儀初見(しんぎしょけん)」だ。儀式の中でも最重要なのだが、前回は形式が崩れた。それを重く受け止め、宮内庁は平安前期より続く伝統に回帰したという。

一切が静寂に包まれる。厳かな、張り詰めた空気の中、ご宣明に続き、内閣総理大臣が祝辞の「寿詞(よごと)」を延べ、万歳三唱。それに合わせ、北の丸から礼砲が放たれた。
▽内閣総理大臣発声の聖寿万歳(代表)
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高御座の前に立つモーニング姿の安倍首相が「異世界転生っぽい」という指摘に同意する。御譲位に伴う一連の儀式と同じく、千年を遡ったかのようなタイムスリップ感が堪らない。

平安絵巻、王朝絵巻と形容する報道も一部に見られた。しかし、ここは永田町界隈に渦巻く別王朝樹立謀略を牽制する意図から、神武王朝絵巻と銘打とう。

【最大級のロイヤル・サミット】

午後7時過ぎから始まった「饗宴の儀」。4次にわたる「饗宴」の初回は、諸外国からの賓客を招いて開かれた。世界164の国と機関などの代表ら248人が集った。

今上陛下は、和やかにご歓談されながら式場に入られた。会話をされていた相手は、ブルネイのボルキア国王。席も今上陛下のお隣という最高位だ。少し意外な印象を受けた。
▽ボルキア国王と「饗宴の儀」に臨まれる10月22日(代表)
代表「饗宴の儀」に臨まれる.jpeg

饗宴の儀の席次は、在位期間の長さで決まったという。皇后陛下のお隣は、スウェーデンのカール16世グスタフ国王である。調べてみると、僅差でボルキア国王の在位年数が上回る。

ブルネイが英国保護領から独立を果たしたのは、1984年で国家としては比較的新しい。それでもボルキア国王の場合は、イスラム世界の君主であるスルタンに即位した年から正確にカウントした模様だ。
▽各国元首らを招いた「饗宴の儀」(代表)
豊明殿で行われた祝宴「饗宴の儀」代表.jpg

一方、グスタフ国王の戴冠式は1973年で、在位46年と充分に長いものの、ボルキア国王が5年早い。ちなみに同国王はタイのプミポン国王亡き後、英エリザベス女王に次ぐ在位期間を誇る。

今上陛下は皇太子時代の2004年にブルネイをご訪問されている。また同国が独立した年に逸早くボルキア国王を国賓招聘したのが我が国だった。仲睦まじいご様子の背景には両国の深い繋がりがある。
▽参内するアレクサンダー国王夫妻(代表)
宮殿入りするアレクサンダー国王夫妻代表.jpg

皇后陛下のご静養など交流が続くオランダのアレクサンダー国王夫妻を始め、ベルギーのフィリップ国王にスペインのフェリペ6世国王。英国からはチャールズ皇太子が参列した。

少しマニアックな視点では、ルクセンブルクのアンリ大公らモナコやリヒテンシュタインなど公国からの参列が喜ばしい。欧州の国王や皇太子が勢揃いした格好だ。



アジア地域からは他にブータンのワンチュク国王、カンボジアのシハモニ国王らが参列。鮮やかな伝統衣装に身を包んだアフリカやアラブ諸国の王族も饗宴の儀に華を添える。

元首級では印パ大統領の同席といったトピックスもあるが、この日は脇役だ。これだけの各国王族が、祝いの席で一堂に介したケースは類例を見ない。正真正銘のロイヤル・サミットである。
▽「饗宴の儀」前に歓談する各国王族ら(代表)
代表饗宴の儀前に歓談する各国王族ら.jpg

「饗宴の儀」は深夜まで続き、両陛下は全ての参列者にお声を掛けられたという。過密なスケジュールをこなされたが、赤坂御所に戻られる天皇陛下・皇后陛下は朗らかなご様子だった。
▽午前零時前に赤坂御所に戻られる10月22日(産経)
産経1022饗宴の儀」を終え、赤坂御所に戻られる天皇、皇后両陛下=22日午後11時すぎ.jpg

素晴らしい1日を下賜されたことに、臣民として深く感謝したい。

【世人の誰も知らぬ秘儀中の秘儀】

「非常に謹厳な様子で、陛下はきりっと口を結びになられて、決意がしのばれました。皇后さまは非常に慎み深く、奥行きの深い印象でした」

「即位礼正殿の儀」に参列した万葉研究の第1人者・中西進氏は、そう印象を語った。当人は軽くはぐらかすが、元号「令和」の考案者。やや離れた「春秋の間」で儀式を見守ったという。
▽皇居前広場で車列見送る臣民10月22日(AP)
AP通信小旗をふる.png

その更に周縁に位置する皇居前広場には、日の丸の小旗を手にした多くの国民が居た。御皇室の慶事を我が事のように寿ぐ日本人の姿に改めて感動する。
もちろん奉祝ムードに包まれたのは皇居周辺に限らない。全国の行政窓口に設けられた記帳所は混み合い、各地の神社では記念の御朱印を求める参拝客の長い列ができた。
▽特別な祭祀が行われた宮崎神宮参道10月22日(宮崎日日)
即位礼合わせ祭祀が行われた宮崎神宮の参道22(宮崎日日).jpg

メディアも「列島が祝賀ムード」と表現するが、報道されるものは断片に過ぎない。主要な神社で執り行われる特別な祭祀。表に現れるイベントで全体を推し量ることは難しい。

そして、御即位に伴う重要な神事も表に現れない。秘儀中の秘儀である大嘗祭が11月中旬に控える。新たな帝が臨まれる一世一度の神事で、古来、国家の最重要祭祀として位置付けられてきた。
▽赤坂御所ロイヤル茶会のアンリ大公10月23日(宮内庁)
茶会に招かれたルクセンブルクのアンリ大公とあいさつをする天皇、皇后両陛下=2019年10月23日午後3時ごろ、赤坂御所、宮内庁提供.jpg

現在、皇居・東御苑で進む大嘗宮の建造は大詰めを迎えている。平成2年の大嘗祭では、上皇陛下が10時間近く宮にお籠もりになられたが、斎行の次第は詳らかになっていない。

儀式の模様を記した文献はごく僅かで「諸説は俗説」と断じる神道学者もまた核心に接近することは困難だ。大嘗祭を営まれた歴代の帝が口外されていないのだ。
▽完成が近づく東御苑の大嘗宮10月(産経)
産経皇居・東御苑で建設が進む大嘗宮。廻立殿、悠紀殿、主基殿などが姿を現した.jpg

即ち「天皇霊」との関わりを強く唱えた折口信夫説も、完全に否定する材料を欠く。およそ判っているのは、国家国民の安寧と五穀豊穣を祈られることである。

畏れながら私見を述べれば、アニミズムよりもシャーマニズム的な要素が濃いと直感するが、果たしてどうか…秘儀の中身を推理して論じることも無粋だろう。
▽典雅を極めた「即位礼正殿の儀」10月22日(代表)
即位礼正殿の儀に幕.JPG

エソテリックの結晶が現代に息衝き、東洋の片隅に残ってることが極めて貴重で尊く、それこそが奇蹟のように思える。



最後まで読んで頂き有り難うございます

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参照:
□青空文庫 折口信夫『大嘗祭の本義(昭和3年講演録)』

参考動画:
□YouTube『天皇陛下、即位を宣明される「即位礼正殿の儀」』

参考記事:
□BBC10月22日『天皇陛下、「即位礼正殿の儀」で国内外に即位を宣言』
□日経新聞10月21日『海外王室と深めた交流 天皇、皇后両陛下 』
□FNN10月22日『祝宴「饗宴の儀」“令和の国際親善”が幕開け』
□産経新聞H30年9月26日『高御座を東京に移送 「即位礼正殿の儀」に向け初の陸送』
□FNN18年4月21日『天皇の象徴「高御座(たかみくら)」が狙われた時』
□産経新聞10月22日『新憲法下も「伝統」堅持 即位礼正殿の儀』
□産経新聞10月22日『「陛下お話になるとき、かーっと日が照って」「力合わせ、いい日本に」中西進氏』
□時事通信10月23日『華やかに「饗宴の儀」=英皇太子ら外国賓客招き-皇居・即位の礼』
□時事通信10月24日『両陛下、外国王族招き茶会=上皇ご夫妻も出席-東京・赤坂』

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