香港が「天安門」になる日…監獄化防ぐ“最後の抵抗”

凶悪犯の引き渡しはフェイクだった。来日した雨傘運動のヒロインが告発する香港最大の危機。21世紀型の「天安門」=静かなる弾圧・抹殺は既に始まっている。
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6月4日を迎えた香港が騒然となることはない。この日は静かな追悼セレモニーが開かれ、宵闇にキャンドルが揺らぐ。だが、今年の六四天安門大屠殺30周年は、やや趣きが異なった。

メーン会場の香港島ビクトリア・パークに集まった市民は、主催者発表で約18万人。5年前の25周年をピークに参加者は減り続けていたが、30周年に際し、復調した格好だ。
▽ビクトリア公園の追悼セレモニー6月4日(共同)
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「香港で自由が享受できることに感謝している」

第2次天安門事件当時、香港で抗議活動をしたという参加者は、そう語る。英国統治の終焉から22年、多くの香港市民は、迫り来る“自由の喪失”に危機感を抱き始めた。
▽香港中心部で行われた大規模デモ6月9日(NYT)
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六四記念日から5日が過ぎた6月9日、香港中心部を大勢の抗議者が埋め尽くした。主催者発表で実に100万人超。総人口700万人余りの「地域」としては異例の規模だ。デモ参加者の1人は、こう訴える。

「中国は香港の政策に干渉し自由を奪ってきた。改正案が通れば、国際都市としての香港が終わる」
▽「本土移送反対」訴える市民6月9日(FOX)
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焦点となっているのは、支那本土への“容疑者”移送を容易にする「逃亡犯条例」の改正案だ。香港市民に限らず、渡航した外国人も中共の標的となれば、問答無用で本土に連行される。

香港特別行政府による条例改正の提案は今年2月だったが、中共当局が恣意的に運用する恐れが指摘され、反対論が急速に拡大。4月末には13万人が参加する大規模デモが行われた。
▽前哨戦となった最初の大規模デモ4月28日(AFP)
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2014年の雨傘運動以降、最大となる抗議活動だ。そして、6月4日の追悼セレモニーでも、条例改正に反対するプラカードを手にした市民が目立った。
▽行政長官更迭を求めるプラカード6月4日(AFP)
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今年の六四記念日は別の意味を持っていたのだ。民主派が屠殺部隊に制圧されるかも知れない…そんな差し迫った危機感である。

【鎖に繋がれる香港民主派闘士】

「中国の独裁が近づいていて、香港が返還されてから最も危険な法案です」

雨傘運動を牽引したティーンエイジャーの1人だった周庭(アグネス・チョウ)さんは深刻な表情で、そう訴える。100万人デモの翌日というベストタイミングでの来日、そして会見だ。
▽日本記者クラブで会見する周庭さん6月10日(産経)
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9日の抗議活動は予め告知されていたもので、緊急来日ではなかったのかも知れない。しかし、デモ隊が100万人規模に膨れ上がり、国際的な関心を集めたことで、会見場には報道陣が殺到した。

「初めてデモに参加した若者が多く、大声でスローガンを叫んでいた訳ではないけど、怒りが伝わってきた。100万人規模は’89年に北京の学生運動を応援したとき以来です」
▽注目を集めた周庭さんの会見6月10日(Business insider)
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周庭さんは独学で身に付けた日本語で、抗議活動の模様を語った。前日は街頭デモに参加した後、深夜のフライトで香港を発ち、日本に向かったという。

「今回が最後のデモになるかも知れない。最後のチャンスだと考えている人も多いと思う」

香港の大規模抗議に漂う悲壮感の正体が、これだ。雨傘運動による広場占拠は違法認定され、民主派の重鎮だった大学教授らは相次いで逮捕された。
▽初会見時の周庭さんと黄之峰さん’17年(JNPC)
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2年前、周庭さんと一緒に来日会見に臨んだ雨傘運動のリーダー・黄之峰(ジョシュア・ウォン)さんも例外ではない。繰り返し拘束された末、この日の司会者によると今も収監中で自由を奪われたままだ。

周庭さんもまた「政治的な自由」を奪われている。禁固刑を受けた黄之峰さんに代わり、立法会議員の補欠選挙に出馬したが、党綱領の文言を理由に被選挙資格を剥奪された。
▽立候補資格剥奪された周庭さんら’18年(フォーサイト)
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彼女と彼が属する政党「デモシスト(香港衆志)」の若き党首・羅冠聡(ネイサン・ロー)も同じだ。’16年の選挙で当選を果たしが、宣誓の言葉が違法とされ、議員資格を取り消された。

香港に残存する民主派は、岐路に立たされているのではない。立っているのは崖っぷちで、その背中を押す中共の手は強大にして凶々しい。

【偶然を装った中共の仕掛け】

「逃亡犯条例」上程のきっかけは、昨年2月に起きた台湾国での殺人事件だった。香港人の男が妊娠中の恋人を殺害し、台北郊外の公園に遺棄して香港に逃げ帰る。

犯人の男は殺害を自供したが、司法管轄権の問題により殺人罪で起訴することが出来ず、窃盗などの容疑に留まった。懲役3年余りの短い刑罰に一部から異論が噴出した。
▽移送される殺害事件の容疑者4月(明報)
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香港立法会は台湾当局に引き渡す目的で条例の改正をはかった。だが、香港政府にとって台湾国は大陸の一地域である。そこで引き渡しの範囲を支那本土にまで拡大したのだ。

一連の経緯を辿ると条例改正は偶然の産物に見える。しかし周庭さんによると、引き渡し交渉を行う相手国の「中央機関」が台湾のどの組織に該当するのか、香港行政府は説明を拒み、沈黙しているという。

「条例改正は単に殺人事件の解決ではなく、裏に政治的な意図がある」
▽会見する周庭さん6月10日(毎日)
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凶悪殺人犯の厳罰は言い訳でしかない。中共指導部は機会を窺い、一気に動き出したのだ。北京が条例改正の背後に控えていることは、大規模デモに対する猛批判からも明らかである。

「外部勢力が香港特別行政区政府の立法に干渉する誤った言動に断固反対する」

中共外交部のスポークスマンは6月10日、そう会見で喚き、条例改正への断固支持を明言した。「西側の~」という前世紀的な陰謀論は中共メディアの“論調”と軌を一にするものだった。
▽六四天安門大屠殺30周年の追悼6月4日(ブルームバーグ)
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雨傘運動の最盛期にも中共プロパガンダ機関は「西側の裏支援」を連呼した。しかし運動の衰退ぶりを見れば、言い掛かりに過ぎなかったことが判る。欧米は香港の怒れるティーンをあっさり見捨てた。

「香港の主流の民意が改正を支持している」

同日の会見で中共スポークスマンは、そうも言い放った。改正支持の署名が80万筆集まったと言うのだが、全体主義国家の役人から「民意」というワードが出るとは、ブラックジョークにしても黒過ぎる。
▽中心部を埋め尽くした大規模デモ6月9日(ロイター)
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香港紙『明報』の緊急世論調査によれば、条例改正反対は95%に迫り、賛成は2%未満。ぐうの音も出ない程に圧倒的だが、それでも香港行政府は強気で、改正案成立に向け自信と余裕を見せつける。

【ディストピアに併呑される香港】

「香港が国際的な義務を果たす上で、極めて重要な法案だ」

香港行政長官の林鄭月娥(キャリー・ラム)は、改正案撤回の意思が微塵もなく、反対派と真っ向勝負に臨む姿勢を示した。抗議活動の「暴動認定」が早まる恐れも高い。
▽批判の矛先が向く林鄭長官6月9日(日経)
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香港ではスト実施の呼び掛けが広まり、小売店を中心に一部教育機関も呼応。この動きに対して林鄭月娥は6月11日、「過激な行為」を擁護しないよう警告を発した。

6月9日の街頭デモは平和裡に進んだが、10日未明には立法府の建物を包囲した市民に対し、警官隊が強制排除に乗り出し、衝突も起きた。催涙スプレーと応戦する雨傘は5年前を思い起こす。
▽強制排除に乗り出した警官隊6月10日(AP)
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香港には中共の鎮圧部隊が駐留している。一部では、天安門事件の再来を恐れる声も上がるが、装甲車が香港市民を轢いて回るような事態は起きない。

21世紀型の「天安門」は、剥き出しの残虐とは方向性が異なる。東トルキスタンやチベットと同様のハイテク監視による長期的・永続的な包囲である。
▽改正後をイメージした抗議6月8日(ロイター)
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著名な反中活動家に限らない。デモ参加者の顔はデータ化され、軒並み政治犯リストに登録される。警戒すべき予備軍などではなく、将来的な抹殺対象だ。

香港の民主化闘士は通話が満足に出来ない程ノイズが酷いと嘆き、今や重要な話し合いの場にはスマホを持ち込まないという。ペンス副大統領が警告したオーウェリアン・システムの構築は既に進んでいる。
参照:H30年10月9日エントリ 『米支激突の“仄暗い海”…国境を越えるオーウェリアン』
▽立法府周辺に展開する警官隊6月10日(ロイター)
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香港の暗澹とした未来は、東トルキスタンの絶望監獄や華為技術の問題とも繋がっているのだ。自由を求める香港市民と中共の対決に矮小化してはならない。

「『一国二制度』の枠組みが骨抜きになることで、これまで国際的に築きあげられた香港の特別な地位が危機に晒される」
▽米LAでも支援するデモ開催6月9日(共同)
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米国務省は大規模デモの直後、重大な懸念を示した。これまで英国やカナダが条例改正を牽制した他、EU在香港事務所は行政長官に抗議。周庭さんによるとEUの申し入れは初めてだという。

「香港は私たちの家です。香港人は今、自分の家を守る為に一生懸命、抵抗しています。それは私自身の為だけではありません」
□6月10日の会見&質疑応答全編


周庭さんは、震える声で訴えた。果たして国際社会は、その言葉をどう受け止めるのか。我が国を含め先進国は雨傘運動を見殺しにしたが、二度目は許されない。

拡大するオーウェリアンを野放しにするのか、抗うのか…自由主義陣営の覚悟が問われている。



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関連エントリ:
□H30年7月11日『砂漠の果てのディストピア…光彩を奪われたウイグル人』

参考記事:
□ロイター6月11日『香港逃亡犯条例への抗議行動拡大、行政長官は非難』
□ニューズウィーク6月10日『「逃亡犯条例」改正案で香港民主派のデモ、警官隊と衝突 政治危機の様相https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/06/post-12286.php強まる』
□産経新聞6月10日『「香港返還後、最も危険」雨傘運動リーダーが条例案批判』
□Business Insider6月11日『「民主の女神」現役大学生が訴える“香港103万人デモ”のリアル「日本も無関係じゃない」』
□日経新聞6月10日『香港「中国の独裁が近づく」容疑者移送案に危機感 雨傘運動主導の活動家が会見 』
□ロイター6月10日『焦点:香港大規模デモ、火種となった「引き渡し条例」とは何か』
□JB Press5月30日『香港に激震、中国政府が思想犯を捕まえ放題に』
□Forbes’18年3月29日『習近平独裁に抵抗 周庭が発する「不協和音」』
□東洋経済(Foresight)’18年3月16日『香港議会補選「中国の圧力」と民主派の健闘』

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年金問題、安倍、自助努力
2019年06月21日 21:03


【安倍外交の成果】
ロシア:30回以上会って3000億円貢いだ結果、「北方領土」という言葉は使用禁止となり領土問題は棚上げとなる、
北朝鮮:圧力圧力と言い続けた結果、「ミサイル」という言葉は使用禁止となり「飛翔体」と表現。金委員長には「会う」のでなく「お目にかかる」と言わされる。
カナダ:バラマキ外交の努力が実を結び、カナダで中国人と思われる

#ナチス礼賛で話題の高須克弥さんが、映画の空母いぶきに激怒「安倍首相が下痢野郎という設定は許せない 事実だから、なおさらだ」
#安倍総理が恫喝「加計学園の認可と補助金、早くしろよ!」www.hokade.jp 自民 安倍 佐伯伸之 竹田力 懲戒請求 山口県警OB 余命時事 若杉良作 ファーウェイ

#松本人志「丸山穂高議員は不良品」
#大量コピペ発覚後、コピペ問題に関してはダンマリを決め込んでいる作者、編集者、監修者
#日本国紀 #幻冬舎 #新井浩文 #百田尚樹 #見城徹 #江崎道朗 #久野潤 #上島嘉郎 #谷田川惣 #有本香 #殉愛の真実 #殉愛
#年金問題で追及された安倍、財政審意見書から「将来の年金給付水準の低下」「自助努力を促す」との文言を削除するよう命令

 [神奈川・外村和隆・東京大学大学院]

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  • 香港を見捨てるアホの日本政府

    Excerpt: 香港の「一国両制」を骨抜きにせんとする中共と、その下請けの香港政府。このような“香港の中共化”に対してイギリスや欧米諸国が憂慮を表明している中、ひとり我が国政府はファシズムの権化=中国・習近平に気兼ね.. Weblog: 賭人がゆく(excite ブログ) racked: 2019-06-14 21:25