平成最後の梅と桜と新緑と…上皇の御座す新たな御宇

粛々とフィナーレが近付く平成の御宇。最後と思われる御前での万歳三唱も恙なく終わった。そして202年ぶりに上皇陛下を戴く新たな御治世を迎える。
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「なにごとの おはしますかは
   知らねども かたじけなさに 涙こぼるる」


伊勢神宮参拝の際に西行法師が詠んだ歌は、日本人の宗教観を表現した一首として度々引用される。古来より我が国にある素朴な信仰心を理解する為の手掛かりとなるものだ。
▽宇治橋から拝むご来光(伊勢神宮HP)
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西行法師は伊勢神宮の故事来歴を知らぬ仏僧ではなかった。古神道や修験道にも通じ、若い頃は朝廷に仕えていた。鳥羽上皇を護る北面武士である。

同時代を生きた高僧に文覚(もんがく)がいる。京都の名刹・神護寺の中興の祖として知られる文覚もまた北面武士であった。日本史に時折登場する特異な武士に興味を惹かれる。
▽幻想的な紅葉でも知られる神護寺(ウェザーニュース)
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北面武士あるいは北面の武士とは、院御所の北側の部屋に控え、上皇・法皇の警固に当たった者達を指す。承久の乱以降、形骸化するが、中世の近衛騎士団を連想する役職である。
▽京都御苑の仙洞御所庭園(wiki)
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北面武士に惹かれる背景にあるのは、彼らが護る上皇という尊号の威光だ。これは後水尾上皇をチート系ヒーローとして描いた隆慶一郎の一連の作品が大きく影響している。

中二病テイストの憧れに近いのだが、少なくとも上皇は物語の中に限定される存在だった。まさか自分が生きる時代に、実在の上皇陛下を仰ぐことになるとは想像もしなかった。

「His Majesty the Emperor Emeritus」
▽御代替わり後の尊号英語表記(日経)
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宮内庁は2月25日、上皇の英語表記を正式決定したと発表。エメリタスは「名誉退職の」といった意味を持ち、称賛や敬意を含む。同様に上皇后陛下には女性形の「Emerita」が用いられる。

御維新以降、英語表記が特に必要ではなかった為だが、上皇が登場する『平家物語』の英訳版はどう表現しているのだろうか。もうドナルド・キーン博士に解説を願えないことが惜しまれる。

【御在位30年の大御心】

「即位から30年、こと多く過ぎた日々を振り返り、今日こうして国の内外の祝意に包まれ、このような日を迎えることを誠に感慨深く思います」

天皇陛下・皇后陛下ご臨席のもと都内・国立劇場で2月24日に催された御在位30年記念式典。天皇陛下におかれては、会場に集った三権の長ら約1,100人、そして全国民に向けてお言葉を述べられた。
▽御在位30年記念式典会場に向かわれる2月24日(代表)
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「近現代において初めて戦争を経験せぬ時代を持ちましたが、それはまた決して平坦な時代ではなく、多くの予想せぬ困難に直面した時代でもありました」
▽御在位30年記念式典2月24日(代表)
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来し方を振り返られるお言葉は、重く、胸が詰まるものだった。被災地を見舞われる両陛下のお姿に心打たれること度々であったが、平成の御代が「数々の自然災害」で括られることは辛い。

平成28年夏の御譲位に関する玉音放送に際し、天災が相次いだ貞観の治と清和天皇の譲位に絡んだ持論を披瀝した。筆者の不遜な推察だが、今でも「思い過ごし」「見当違い」であって欲しいと思っている。
参照:H28年8月13日エントリ『八月八日玉音放送の衝撃…斯くして御聖断は下された』

「天皇として即位して以来今日まで、日々国の安寧と人々の幸せを祈り、象徴としていかにあるべきかを考えつつ過ごしてきました」
▽松の間での御在位30年祝賀2月24日(代表)
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「天皇像を模索する道」という印象的なメッセージに続き、ご公務を補佐する国の組織、更には国民に感謝の意を示される。実に有り難く、畏れ多いお言葉だ。

「私がこれまで果たすべき務めを果たしてこられたのは、その統合の象徴であることに、誇りと喜びを持つことのできるこの国の人々の存在と、過去から今に至る長い年月に、日本人がつくり上げてきた、この国の持つ民度のお陰でした」



お言葉を結ばれる少し前、微かにお声が震えたように見えるシーンがあった。その刹那、感極まったのは拝聴していた側だ。万感の思いが込み上げる。平成の御宇は、静かに厳かに暮れようとしている。

【千年の書庫に眠る譲位儀】

天皇陛下のお言葉に続く、万歳三唱。安倍首相が大役を務めた。今上陛下の御前での万歳三唱は、これが見納めとなる模様だ。国民がお言葉を賜る機会は、あと一度ある。
▽御在位30年記念式典の万歳三唱2月24日(代表)
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平成最後の日、4月30日。皇居宮殿正殿で「退位礼正殿の儀」が執り行われる。剣璽が安置、供奉される儀式で、発表された概要によると、天皇陛下がお言葉を述べられるという。

“退位”なる不敬用語の公式採用には異論がある。ついでに新たな元号を1ヵ月前に公表するなど言語道断だ。公明党の要請に唯々諾々と従った末の政府決定には呆れ果てる。
▽御譲位に関する式典準備委員会H30年3月(産経)
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前回の御譲位は202年遡る文化14年、光格天皇の御宇だ。それほど昔の話ではなく、『光格天皇実録』などの古書には、儀式の詳細なスケジュールも記されている。

当時は「譲位儀」と呼ばれ、皇太子は参列されていない。今回の「退位礼正殿の儀」とは違いがあるのだが、都合上の改変ではなく、前々回の後桜町天皇の譲位儀では、皇太子とお揃いだった。
▽後桜町上皇仙洞御所遷幸行列絵図(寛政2年)
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また『貞観儀式』にも、天皇と皇太子が共に議場にお出ましになられたとの記述があるという。『貞観儀式』は平安時代前期に編纂された御譲位に関する最古の儀式書だ。

ここまで遡るとさすがに古いと言えよう。およそ1,150年前の書物である。しかも驚くほど詳細な記述で、改めて長い皇統と筆まめな朝廷の官吏にひれ伏す。
▽参院での皇室典範特例法の可決・成立H29年6月(産経)
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御譲位に伴う皇室典範特例法の成立まで、政府の準備委員会では議論も混乱もあった。仙洞御所に移られた皇后陛下の尊号を「上皇后」とした決定は安易に受け入れ難い。

政府の仕事は予算措置など事務方の雑務に留まり、神事に関して嘴を挟まないことだ。2,679年に渡るご皇室の歴史の前では、たかだか明治以降の政府高官も大臣も通りすがりの過客に等しい。

【平成の最後を飾る万朶の桜花】

「天皇陛下のオーラはすごい。入って来られた瞬間、空気が張りつめましたから。妃殿下はみんなの中に入ってお話になってました。日本の皇室は国民に愛されてると実感しました」

参内した高須克彌院長は、そう感慨深げに語る。2月25日から2日間に渡り、計3回の宮中茶会が催され、各界の功労者や大使など約2,100人が招かれた。
▽豊明殿の御即位30年宮中茶会2月25日(産経)
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両陛下を始め御皇族方は、園遊会と同じく主に最前列の招待者にお声を掛けられ、話に耳を傾けられた。その中に、「救う会」西岡力会長の姿があった。

「陛下や私の若い日と重なって始まる拉致被害者の問題などは、平成の時代の終焉と共に急に私どもの脳裏から離れてしまうというものではありません」
▽御即位30年宮中茶会2月26日(産経)
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皇后陛下におかれては昨年10月、御生誕日に発表されたお言葉で、拉致事件にお触れになられている。この日も西岡会長に「希望を持ちましょう」とお声を掛けられたという。

御即位30年の茶会は、3月に京都御所でも催される。一方、4月恒例の春の園遊会は、御譲位の日程を勘案して取り止めとなった。天皇陛下・皇后陛下が御臨席される機会は、もう限られる。
▽昨年の春の園遊会4月25日(産経)
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天覧相撲も1月の両国が平成最後となった。ご退席される際の鳴り止まない拍手と歓声。そして、突如として湧き起こった万歳三唱に涙腺が崩壊した。



今上陛下の御在位中最後になった1月2日の一般参賀も絶勝だった。訪れた国民は15万人を超え、両陛下のご提案により、午後4時過ぎから異例となる7回目のお出ましもあった。

玉音放送に接したあの夏の日、「まだ先のこと」と考えた自分を恥ずかしく思う。時の歩みは残酷で、冬は足早に遠のき、春の兆しに包まれ始めた。
▽昨年の皇居・乾通り一般公開H30年3月24日(日経)
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皇居の梅は見頃を迎えただろうか。乾通りや千鳥ヶ淵の桜が満開になるのも今年は少し早そうだ。やがて新緑の季節を迎え、天皇陛下・皇后陛下は吹上御所を離れられる。

あと2ヵ月。残された一日一日が、この上なく大切に、そして愛おしく思える。



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参照:
□宮内庁HP『天皇陛下御即位30年記念特集』
□宮内庁HP『歴史上の実例(PDF)』
□内閣府HP『天皇陛下御在位30年慶祝行事等(PDF)』

参考動画:
□政府インターネットテレビ『天皇陛下御在位三十年記念式典(全編)』
□政府インターネットテレビ『天皇陛下 御即位から三十年』

参考記事:
□産経新聞2月24日『天皇陛下「務めを行うことができ幸せでした」ご在位30年式典』
□日経新聞2月24日『在位30年記念式典 天皇陛下のお言葉全文』
□産経新聞2月25日『「上皇」の英語ご称号、名誉表す「エメリタス」に 宮内庁決定』
□日経新聞2月25日『上皇・上皇后の英語表記決まる 宮内庁』
□産経新聞2月26日『「希望を持ちましょう」 宮中茶会で皇后さま、「救う会」会長にお言葉』
□女子SPA2月27日「宮中茶会に招かれた高須院長「天皇陛下のオーラはすごかった」』
□日経新聞10月20日『皇后さま84歳の誕生日 「お言葉」全文』
□産経新聞1月5日『【皇室ウイークリー】12月28日~1月3日 両陛下、一般参賀7回目ご提案』
□FNN1月8日『平成最後の新年一般参賀 陛下のお心遣いでまさに「奇跡」のお出ましが…』

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