米大統領が捧げる最後通牒…核実験場跡地の“不発弾”
6月12日に国外に出られない理由があったのか。豊渓里の爆破ショーは不発に終わり、平壌では暴発の兆し…金正恩に2度目の会談キャンセルは許されない。
「会談が実現しない可能性も大いにある。6月12日には実現しないかも知れない」
トランプ大統領が米朝シンガポール会談の中止を示唆したのは、5月22日のことだった。米南首脳会談を前にしての唐突なコメント。隣に座る文在寅の引き攣った顔が印象的だ。
▽首脳会談前のトランプ独演会5月22日(AFP)
文在寅の訪米までに米政府の腹は決まっていたのではないか。後は北朝鮮側から挑発的な発言が飛び出すのを待って正式にキャンセルする…そのタイミングは意外にも早くやって来た。
「米国が我々の善意を冒涜し、非道な振る舞いに出れば、朝米首脳会談の再考を最高指導部に提案する」
KCNA(朝鮮中央通信)は5月24日、外務次官・崔善姫名義の談話を発表。米東部時間が朝を迎えると、これを受ける形でトランプ大統領は金正恩宛の書簡を公表する。
▽金正恩に送ったトランプ大統領の書簡(時事)
「最近の声明に示された大きな怒りと明らかな敵意を見る限り、予定された会談の実施は残念ながら不適切であると考える。この書簡をもって、シンガポールにおける首脳会談を取りやめる事を示させて頂く」
北朝鮮側にとっては、まさかのカウンターだった。同じ24日、北京の空港に北高官2人が到着。実務者協議の為にシンガポールへ向かうと見られていた。
高官の1人は、金正恩の執事と囁かれる最側近のキム・チャンソンで、南北会談でもガイド役を務めていた人物。会談中止を示唆した22日のトランプ発言に北が慌てて派遣したのだ。
▽板門店に現れたキム・チャンソン:左端4月27日(代表)
「数週間の約束違反と連絡途絶は北朝鮮の誤った判断で、首脳会談に対する北朝鮮の深刻な誠意不足と捉えられる」
米政府高官は会談中止の大きな要因として、北が実務者協議を一方的にボイコットしたことを挙げた。協議の時期は先週とも5月上旬とも報じられるが、その時から既に北の不可解な動きは始まっていた。
【2週間遅れだった火病爆発】
「少し失望している。なぜなら、金正恩氏の態度に変化があったからだ」
会談中止の可能性に触れた会見で、トランプ大統領は中共を批判した。電撃的に大連で開かれた習近平・金正恩会談の後、北朝鮮は姿勢を転換したという。
▽第2回中朝首脳会談5月8日(KCNA)
順風満帆に見えた米朝トップ会談への流れは、中共の介入で潮目が変わった。対話ムードをスタンド・プレーで断ち切った習近平。壊し屋の面目躍如だ。
ただし、トランプ大統領の習近平批判にも矛盾が潜む。第2回近平・正恩会談は5月8日。翌9日に訪朝したポンペオ国務長官と3代目の接触で溝が広がった形跡はなく、寧ろ米朝関係は良好に映った。
▽ポンペオ長官を歓待する3代目5月9日(KCNA)
北朝鮮が初めて首脳会談に異議を唱えたのは、第1外務次官・金桂寛(キム・ゲグァン)だった。リビア方式の核廃棄に言及した米ボルトン大統領補佐官を痛烈に罵った。
これが5月16日のことである。金桂寛のボルトン中傷は、個人的見解と断った異例の談話だったが、ポンペオ出国からの数日間で、米朝の対立を決定付けるアクシデントがあったとも考えられる。
▽米南会談見守るボルトン補佐官5月22日(EPA)
そもそもボルトン補佐官のリビア方式言及は4月29日だった。2週間以上が何事もなく過ぎ、会談開催地も確定した後に金桂寛が発狂姿勢を見せたことは余りにも不自然だ。
首脳会談を控えた水面下の交渉で、米朝が激突した可能性もある。だが、どこで誰が協議を行っていたのか…第3国に駐在する大使がガキの使いレベルでこなせる内容ではない。
▽オスロ交渉の担当官だった崔善姫:右端’15年(NNN)
過去の米朝交渉ではジュネーブやNYチャンネルが使われ、また例外的に北欧が接触場所に選ばれたケースもあった。ところが今回は、いずれのエリアでも目立った動きは皆無だ。
水面下の米朝交渉が決裂した可能性は低い。だとすれば、北朝鮮内部で首脳会談を先送りせざる得ない問題が生じたのでないか?
【悲惨なまでにショボい発破作業】
世紀の茶番劇だった。高額の“取材費”を払って北朝鮮・豊渓里(プンゲリ)の核実験場跡地を訪れた記者団は、都市部に戻る列車の中で、首脳会談中止の一報を受けたという。
爆破ショーが終わった日本時間5月24日深夜、メディアの北関連報道は「首脳会談中止の発表」一色となった。元からバリューの低いニュースがゴミ同然になったのだ。
「金正恩委員長が完全な非核化と、経済建設への専念を表明した上での行動である」(5月25日付け東京新聞社説)
▽発破作業の説明をする北の担当者5月24日(ロイター)
ヤラセ爆破のショーアップに励んできた朝鮮労働党系メディアのゴリ押し社説は、物笑いのタネですらなくなった。誰の目にも異様に映る金正恩マンセーぶりが哀しい。
3代目が総指揮を執った今回の爆破ショーは、金正日プロデュースの前回と比べて激しく見劣りした。翌25日に公開された現地映像は、別の意味で衝撃的でもあった。
▽爆破で1本の樹が倒れた5月24日(ロイター)
一般の採石場で見られるような小規模の爆破。力無く倒れる1本の樹、そして中央の掘っ建て小屋は全壊せずに形を留める…「爆破ショー」と呼べる域にも達していない。簡潔に形容すれば、ハッパ作業だ。
10年前の寧辺爆破ショーは、解体予定の老朽化冷却塔とは言え、音響面での迫力はあった。現場に親北派の米国務省高官を招いて絶賛させ、CNNに生中継させるなど演出も凝っていた。
▽老朽化冷却塔の爆破ショー’08年(中央日報)
衛星中継は機材の不具合を理由に直前でNGになったが、今回は最初から映像解禁は翌日に指定。一夜のタイムラグが仇となって、会談中止のニュースに席巻される。
それに輪を掛けて無能だったのが、豊渓里ハッパ作業とほぼ同時に北が公表した外務次官談話だ。会談中止の決め手とされる罵倒と虚仮威し。崔善姫は、こう脅し付けた。
「米国が我々との会談に臨むのか、それとも『核対核の対決』で我々に立ち向かうかは、全て米国の決断と行動次第だ」
▽ハッパ作業で半壊する掘っ建て小屋5月24日(ロイター)
TBSなど朝鮮労働党系メディアは、豊渓里の爆破ショーを「非核化への第一歩」と宣伝していたが、そんな必死の親北プロパガンダを自ら積極的に否定するスタイル。核戦争宣言とも受け取れるセリフだ。
「トランプ大統領が勇断を下し、首脳会談に向け努力したことを我々は内心で高く評価してきた」
▽6カ国協議迷走の主犯・金桂寛’08年(ロイター)
一方で金桂寛は5月25日、米国に再考を促す談話を発表。愚痴を並べつつ、トランプ大統領をヨイショする支離滅裂な内容だが、僅か1日で豹変する北外交部の態度にこそ重篤な分裂症の症状が見て取れる。
金正恩の意向とは別に、米朝首脳会談を望む勢力と反対する勢力が平壌で拮抗している可能性もある。
【6月12日、平壌に鬼は居ない】
金王朝の本質は恐怖支配だ。粛清と処刑と政治犯収容所。共産国家特有の独裁政権であるが、金日成から続く一族の北朝鮮統治は、より過酷で、スターリン・毛沢東時代と重なる。
そして恐怖支配の特徴は、耐性で薬の投与量が増加するように、強化に次ぐ強化が必要になることだ。逆行は有り得ない。少しでも手を緩めた瞬間、独裁政権は崩壊する。
▽大型犬に食べられる直前の張成’13年(KCNA)
党の創設以来の宿敵・米国のトップと笑顔で握手した時、金正恩が生き残る余地はあるのか。自国民には米国が屈服したと宣伝しても、党や軍の幹部まで騙し通すことは出来ない。
米国との永続的な融和、朝鮮戦争の終結宣言は、肥大化した軍組織の存在理由を問い直す事態に直結する。末端の兵士が失職して野垂れ死にしようが、そんなことは金正恩の関心外だ。
▽北部国境地帯の警備兵’10年(ロイター)
北朝鮮では高位党員に加え、軍幹部一族が特権階級を形成している。肥えに肥えた軍組織の整理・縮小は、これら一握りの富裕層から既得権益を奪い取ることになる。
金日成も正日も踏み込めなかった禁断の領域。果たして3代目が、建国以来の大規模な構造改革を実行できるのか。しかも朝鮮人民軍は先軍政治のスローガンに従い、昨年末まで増強を続けていた。
▽平壌の大規模反米集会’17年8月(KCNA)
中途半端な改革は、必ず特権軍人の反発を招く。軍部の反発や暴発は、金正日時代から囁かれてきたが、荒唐無稽な作り話でもロマンチックな夢物語でもない。
実際に中朝会談の際、金正恩の支那詣では極秘扱いで、北国内での公表は帰国後だった。首領の平壌不在を広く伝えてはダメな理由…鬼の居ぬ間のクーデターを避ける為の措置と考えるのが妥当だ。
▽平壌パレードに登場した特殊部隊’17年5月(ロイター)
その前例が覆るのが、米朝シンガポール会談だった。6月12日という日付は早くから告知され、当日までに叛乱を組織化することも可能だ。場所も板門店とは比較にならない程遠く、平壌不在の時間は長い。
ポンペオ長官訪朝後の数日間に金正恩が叛乱の前兆を察知した疑いもある。シンガポールで米国から悲願の“体制保証”を得た直後、国を追われてしまったら、ちょっとした笑い話になる。
▽板門店で金正恩歓迎する文在寅4月27日(代表)
それでも6・12シンガポール会談中止により、米軍のサージカル・ストライク決行が決まった訳でも、3代目が敗北した訳でもない。恐らく、金正恩は柔軟姿勢を示し、会談実施に望みをつなぐ。
北朝鮮の目的は核・ミサイル開発の時間稼ぎで、会談の先送りは開発期間の延長とイコールである。年初の“命乞い演説”から、既に金正恩は半年もの時間を稼いだ。これから先、いつまで引き延ばせるか…
▽文在寅を見送るトランプ大統領5月22日(ロイター)
焦点は、トランプ大統領が約6ヵ月のロスタイムをどう認識しているかである。自らの外交上の不手際と捉えるか、それとも北朝鮮に騙されたと捉えるか?
確実なのは、2回目のキャンセル、先送りは通用しないということだ。再設定した会談の日付が最終期限で、再び反故には出来ない。
米国からの事実上の最後通牒。金正恩に残された時間は、そう多くない。
〆
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参考記事:
□時事通信5月25日『トランプ米大統領書簡の全文』
□時事通信5月25日『北朝鮮第1外務次官の談話全文』
□産経新聞5月25日『北の外務次官ひるんだ? 首脳会談は「切実に必要」「ずっと内心で高く評価」…トランプ氏持ち上げ懐柔』
□産経新聞5月24日『北の外務次官「米朝会談再考を最高指導部に提起する」ペンス氏非難の談話』
□ZAKZAK5月24日『トランプ氏、米朝会談開催「来週になれば分かる」』
□FNN5月24日『米朝会談延期示唆の背景 “北”の揺さぶりと中国の影』
□産経新聞5月24日『米、前のめり韓国にクギ刺す 延期示唆 対話打ち切り恐れる文在寅政権』
□中央日報5月25日『米朝会談中止、北朝鮮豊渓里核実験場の人々反応は?』
□東京新聞社説5月25日『米朝首脳会談 中止は双方望まぬはず』
「会談が実現しない可能性も大いにある。6月12日には実現しないかも知れない」
トランプ大統領が米朝シンガポール会談の中止を示唆したのは、5月22日のことだった。米南首脳会談を前にしての唐突なコメント。隣に座る文在寅の引き攣った顔が印象的だ。
▽首脳会談前のトランプ独演会5月22日(AFP)
文在寅の訪米までに米政府の腹は決まっていたのではないか。後は北朝鮮側から挑発的な発言が飛び出すのを待って正式にキャンセルする…そのタイミングは意外にも早くやって来た。
「米国が我々の善意を冒涜し、非道な振る舞いに出れば、朝米首脳会談の再考を最高指導部に提案する」
KCNA(朝鮮中央通信)は5月24日、外務次官・崔善姫名義の談話を発表。米東部時間が朝を迎えると、これを受ける形でトランプ大統領は金正恩宛の書簡を公表する。
▽金正恩に送ったトランプ大統領の書簡(時事)
「最近の声明に示された大きな怒りと明らかな敵意を見る限り、予定された会談の実施は残念ながら不適切であると考える。この書簡をもって、シンガポールにおける首脳会談を取りやめる事を示させて頂く」
北朝鮮側にとっては、まさかのカウンターだった。同じ24日、北京の空港に北高官2人が到着。実務者協議の為にシンガポールへ向かうと見られていた。
高官の1人は、金正恩の執事と囁かれる最側近のキム・チャンソンで、南北会談でもガイド役を務めていた人物。会談中止を示唆した22日のトランプ発言に北が慌てて派遣したのだ。
▽板門店に現れたキム・チャンソン:左端4月27日(代表)
「数週間の約束違反と連絡途絶は北朝鮮の誤った判断で、首脳会談に対する北朝鮮の深刻な誠意不足と捉えられる」
米政府高官は会談中止の大きな要因として、北が実務者協議を一方的にボイコットしたことを挙げた。協議の時期は先週とも5月上旬とも報じられるが、その時から既に北の不可解な動きは始まっていた。
【2週間遅れだった火病爆発】
「少し失望している。なぜなら、金正恩氏の態度に変化があったからだ」
会談中止の可能性に触れた会見で、トランプ大統領は中共を批判した。電撃的に大連で開かれた習近平・金正恩会談の後、北朝鮮は姿勢を転換したという。
▽第2回中朝首脳会談5月8日(KCNA)
順風満帆に見えた米朝トップ会談への流れは、中共の介入で潮目が変わった。対話ムードをスタンド・プレーで断ち切った習近平。壊し屋の面目躍如だ。
ただし、トランプ大統領の習近平批判にも矛盾が潜む。第2回近平・正恩会談は5月8日。翌9日に訪朝したポンペオ国務長官と3代目の接触で溝が広がった形跡はなく、寧ろ米朝関係は良好に映った。
▽ポンペオ長官を歓待する3代目5月9日(KCNA)
北朝鮮が初めて首脳会談に異議を唱えたのは、第1外務次官・金桂寛(キム・ゲグァン)だった。リビア方式の核廃棄に言及した米ボルトン大統領補佐官を痛烈に罵った。
これが5月16日のことである。金桂寛のボルトン中傷は、個人的見解と断った異例の談話だったが、ポンペオ出国からの数日間で、米朝の対立を決定付けるアクシデントがあったとも考えられる。
▽米南会談見守るボルトン補佐官5月22日(EPA)
そもそもボルトン補佐官のリビア方式言及は4月29日だった。2週間以上が何事もなく過ぎ、会談開催地も確定した後に金桂寛が発狂姿勢を見せたことは余りにも不自然だ。
首脳会談を控えた水面下の交渉で、米朝が激突した可能性もある。だが、どこで誰が協議を行っていたのか…第3国に駐在する大使がガキの使いレベルでこなせる内容ではない。
▽オスロ交渉の担当官だった崔善姫:右端’15年(NNN)
過去の米朝交渉ではジュネーブやNYチャンネルが使われ、また例外的に北欧が接触場所に選ばれたケースもあった。ところが今回は、いずれのエリアでも目立った動きは皆無だ。
水面下の米朝交渉が決裂した可能性は低い。だとすれば、北朝鮮内部で首脳会談を先送りせざる得ない問題が生じたのでないか?
【悲惨なまでにショボい発破作業】
世紀の茶番劇だった。高額の“取材費”を払って北朝鮮・豊渓里(プンゲリ)の核実験場跡地を訪れた記者団は、都市部に戻る列車の中で、首脳会談中止の一報を受けたという。
爆破ショーが終わった日本時間5月24日深夜、メディアの北関連報道は「首脳会談中止の発表」一色となった。元からバリューの低いニュースがゴミ同然になったのだ。
「金正恩委員長が完全な非核化と、経済建設への専念を表明した上での行動である」(5月25日付け東京新聞社説)
▽発破作業の説明をする北の担当者5月24日(ロイター)
ヤラセ爆破のショーアップに励んできた朝鮮労働党系メディアのゴリ押し社説は、物笑いのタネですらなくなった。誰の目にも異様に映る金正恩マンセーぶりが哀しい。
3代目が総指揮を執った今回の爆破ショーは、金正日プロデュースの前回と比べて激しく見劣りした。翌25日に公開された現地映像は、別の意味で衝撃的でもあった。
▽爆破で1本の樹が倒れた5月24日(ロイター)
一般の採石場で見られるような小規模の爆破。力無く倒れる1本の樹、そして中央の掘っ建て小屋は全壊せずに形を留める…「爆破ショー」と呼べる域にも達していない。簡潔に形容すれば、ハッパ作業だ。
10年前の寧辺爆破ショーは、解体予定の老朽化冷却塔とは言え、音響面での迫力はあった。現場に親北派の米国務省高官を招いて絶賛させ、CNNに生中継させるなど演出も凝っていた。
▽老朽化冷却塔の爆破ショー’08年(中央日報)
衛星中継は機材の不具合を理由に直前でNGになったが、今回は最初から映像解禁は翌日に指定。一夜のタイムラグが仇となって、会談中止のニュースに席巻される。
それに輪を掛けて無能だったのが、豊渓里ハッパ作業とほぼ同時に北が公表した外務次官談話だ。会談中止の決め手とされる罵倒と虚仮威し。崔善姫は、こう脅し付けた。
「米国が我々との会談に臨むのか、それとも『核対核の対決』で我々に立ち向かうかは、全て米国の決断と行動次第だ」
▽ハッパ作業で半壊する掘っ建て小屋5月24日(ロイター)
TBSなど朝鮮労働党系メディアは、豊渓里の爆破ショーを「非核化への第一歩」と宣伝していたが、そんな必死の親北プロパガンダを自ら積極的に否定するスタイル。核戦争宣言とも受け取れるセリフだ。
「トランプ大統領が勇断を下し、首脳会談に向け努力したことを我々は内心で高く評価してきた」
▽6カ国協議迷走の主犯・金桂寛’08年(ロイター)
一方で金桂寛は5月25日、米国に再考を促す談話を発表。愚痴を並べつつ、トランプ大統領をヨイショする支離滅裂な内容だが、僅か1日で豹変する北外交部の態度にこそ重篤な分裂症の症状が見て取れる。
金正恩の意向とは別に、米朝首脳会談を望む勢力と反対する勢力が平壌で拮抗している可能性もある。
【6月12日、平壌に鬼は居ない】
金王朝の本質は恐怖支配だ。粛清と処刑と政治犯収容所。共産国家特有の独裁政権であるが、金日成から続く一族の北朝鮮統治は、より過酷で、スターリン・毛沢東時代と重なる。
そして恐怖支配の特徴は、耐性で薬の投与量が増加するように、強化に次ぐ強化が必要になることだ。逆行は有り得ない。少しでも手を緩めた瞬間、独裁政権は崩壊する。
▽大型犬に食べられる直前の張成’13年(KCNA)
党の創設以来の宿敵・米国のトップと笑顔で握手した時、金正恩が生き残る余地はあるのか。自国民には米国が屈服したと宣伝しても、党や軍の幹部まで騙し通すことは出来ない。
米国との永続的な融和、朝鮮戦争の終結宣言は、肥大化した軍組織の存在理由を問い直す事態に直結する。末端の兵士が失職して野垂れ死にしようが、そんなことは金正恩の関心外だ。
▽北部国境地帯の警備兵’10年(ロイター)
北朝鮮では高位党員に加え、軍幹部一族が特権階級を形成している。肥えに肥えた軍組織の整理・縮小は、これら一握りの富裕層から既得権益を奪い取ることになる。
金日成も正日も踏み込めなかった禁断の領域。果たして3代目が、建国以来の大規模な構造改革を実行できるのか。しかも朝鮮人民軍は先軍政治のスローガンに従い、昨年末まで増強を続けていた。
▽平壌の大規模反米集会’17年8月(KCNA)
中途半端な改革は、必ず特権軍人の反発を招く。軍部の反発や暴発は、金正日時代から囁かれてきたが、荒唐無稽な作り話でもロマンチックな夢物語でもない。
実際に中朝会談の際、金正恩の支那詣では極秘扱いで、北国内での公表は帰国後だった。首領の平壌不在を広く伝えてはダメな理由…鬼の居ぬ間のクーデターを避ける為の措置と考えるのが妥当だ。
▽平壌パレードに登場した特殊部隊’17年5月(ロイター)
その前例が覆るのが、米朝シンガポール会談だった。6月12日という日付は早くから告知され、当日までに叛乱を組織化することも可能だ。場所も板門店とは比較にならない程遠く、平壌不在の時間は長い。
ポンペオ長官訪朝後の数日間に金正恩が叛乱の前兆を察知した疑いもある。シンガポールで米国から悲願の“体制保証”を得た直後、国を追われてしまったら、ちょっとした笑い話になる。
▽板門店で金正恩歓迎する文在寅4月27日(代表)
それでも6・12シンガポール会談中止により、米軍のサージカル・ストライク決行が決まった訳でも、3代目が敗北した訳でもない。恐らく、金正恩は柔軟姿勢を示し、会談実施に望みをつなぐ。
北朝鮮の目的は核・ミサイル開発の時間稼ぎで、会談の先送りは開発期間の延長とイコールである。年初の“命乞い演説”から、既に金正恩は半年もの時間を稼いだ。これから先、いつまで引き延ばせるか…
▽文在寅を見送るトランプ大統領5月22日(ロイター)
焦点は、トランプ大統領が約6ヵ月のロスタイムをどう認識しているかである。自らの外交上の不手際と捉えるか、それとも北朝鮮に騙されたと捉えるか?
確実なのは、2回目のキャンセル、先送りは通用しないということだ。再設定した会談の日付が最終期限で、再び反故には出来ない。
米国からの事実上の最後通牒。金正恩に残された時間は、そう多くない。
〆
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参考記事:
□時事通信5月25日『トランプ米大統領書簡の全文』
□時事通信5月25日『北朝鮮第1外務次官の談話全文』
□産経新聞5月25日『北の外務次官ひるんだ? 首脳会談は「切実に必要」「ずっと内心で高く評価」…トランプ氏持ち上げ懐柔』
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□FNN5月24日『米朝会談延期示唆の背景 “北”の揺さぶりと中国の影』
□産経新聞5月24日『米、前のめり韓国にクギ刺す 延期示唆 対話打ち切り恐れる文在寅政権』
□中央日報5月25日『米朝会談中止、北朝鮮豊渓里核実験場の人々反応は?』
□東京新聞社説5月25日『米朝首脳会談 中止は双方望まぬはず』
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