南北“詐欺外交”の開幕ベル…北軍産都市を覆う死の霧

中朝密貿易の“瀬取り”初摘発で、対北制裁の抜け道がまたひとつ塞がった。金正恩が生命線の断絶に震える中、北が放ったエサに飛び付く南のイヌ…そして「対話の為の対話」が始まる。
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「北倉空軍基地近くから発射されたミサイルは、北東に39㎞飛翔し、小さな街である徳川市に墜落。複合施設を破壊した」

米国の外交専門誌「ディプロマット」は1月3日、北朝鮮が過去に行った新型IRBMの試射で重大な事故が発生したと報じた。昨4月29日の「KN-17(火星12号)」の威嚇発射だ。
▽火星12号の発射とする映像’17年4月(朝鮮中央TV)
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このミサイルの打ち上げ失敗については米軍などが把握し、日本政府も北朝鮮内陸部に落下したとの見方を直後に表明。だが、IRBMは無人の山間部ではなく、都市を直撃していた。

ディプロマット誌はミサイル落下地点の衛星写真を掲載、被害の広がりを説明する。米偵察衛星がキャッチしたものではなく、誰でも閲覧できるグーグルアースの画像と同じだ。
▽平安南道・徳川市内の着弾地点(ディプロマット)
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撮影日はミサイル墜落から約3週間後の5月18日。何棟か整列する施設の東側が黒ずみ、近くにあるビニールハウスには焦げたような痕が残る。

同誌は被害を受けた施設は工業団地と推測する。人的被害は不明とするが、発射時刻は午前5時半頃で、出勤前の工員を含め、居住者の多くが巻き込まれた可能性が高い。
▽着弾地点の比較画像(ディプロマット)
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平安南道・徳川市は小さな街だが、平壌から約90㎞に位置する軍需産業の盛んな都市で、軍用車などを生産する「勝利自動車連合企業所」も同市にある。工廠直撃であれば、責任者は漏れなく銃殺刑だ。

「核弾頭を搭載した我々のミサイルの最終目標は米国だ」

奇しくも同日付けの朝鮮労働党機関紙は、そう勇ましく吠えていた。最終目標はともかく、ご自慢の新型IRBMは、平壌近郊の軍需品工場エリアを粉砕した…
▽IRBM発射後と見られる映像’17年(朝鮮中央TV)
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発射直後と見られる金正恩の顔が引き攣るのも当然だ。

【軍需産業都市を覆った死の霧】

弾道ミサイル・運搬ロケットの打ち上げ失敗事故で良く知られるのは、1996年に起きた長征3Bの大惨事だ。流出した支那内陸部の事故現場の映像は世界に衝撃を与えた。



通信衛星インテルサットを積載した長征3Bは、打ち上げ直後に傾き、少数民族が暮らす四川省西昌市の市街地を直撃。住民500人以上が犠牲となる大惨事を引き起こした。

黒焦げの柱だけが残る家屋、窓ガラスが全て吹き飛んだテネメント…まるで巨大隕石が落下したかのような無残な光景に撮影者は悲鳴を上げる。因みに中共が’16年に再発表した公式の死者数は6人だ。
▽グーグル地図で特定した着弾地点(キャプ)
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この大惨事と比較した時、北朝鮮・徳川市のIRBM落下の被害は軽微に見える。直撃現場に近いビニールハウス群は一部が焼けたに留まった。しかし、衛星からは決して把握できない被害が存在する。

KN-17(火星12号)は北極星シリーズとは異なり、液体燃料式だ。その燃料には、高度な管理を必要としない昔ながらの「ジメチルヒドラジン」が用いられていると分析される。
▽IRBM発射を見守る金正恩’17年4月(朝鮮中央TV)
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長征3Bの集落墜落事故、または1960年にソ連バイコヌール基地で起きた「ニェジェーリンの大惨事」。いずれも爆発爆風に続く、ヒドラジン由来の有毒ガスで犠牲者が膨れ上がった。

「仮に燃料タンクやヒドラジンが付着した部品が地上に落ちると、半径数キロに有毒ガスが漂う可能性がある」

元防衛省技官は北弾道ミサイルの危険性について、そう警告する。発射から約1分、満タンの燃料タンクが落ちたとなれば、現場一帯は死の霧に覆われたはずだ。



北朝鮮では、昨11月末のKN-22(火星15号)発射の際にも犠牲者が出たと指摘される。朝鮮中央TVが放映した映像に、炎に呑まれる人影が映り込み、北市民の間に動揺が広がったという。  

また昨9月の核実験後、地下坑道で大規模な崩落が発生。二次被害を含めて200人余りが死亡したとも伝えられた。この事故について、北当局が報道したANNを名指しで糾弾したことから逆に信憑性が高い。
▽ソースは「北朝鮮消息筋」10月31日(ANN)
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米軍打倒宣言の陰で次々に倒される北の軍人・庶民。90年代の半島危機では犠牲となる北国民に同情し、金王朝を批判する声も多かった。一昔前は極左・リベラルなりの北批判があったのだが、今は異なる。

「金正恩第1書記の新しい体制は先民政治、つまり分かりやすい言葉で言えば人民のための政治を行っていく体制に変わりつつある」
参照:H25年7月4日『有田芳生の金正恩マンセー…オウム新広告塔にも大抜擢』

そんな立憲民主党議員の親北発言が胸を打つ。

【塞がれた海上の「抜け道」】

「全ての加盟国船舶が、北朝鮮籍船舶との船舶間の移転に関与することを禁じる」

第6次核実験に伴い、昨年9月に採択されたUN安保理決議2375号には、奇妙な文言が盛り込まれていた。公海上での船舶間の物資移動、いわゆる瀬取りを規制する項目である。

米国は対北制裁の抜け道を塞ぐ布石を打っていたのだ。決議採択から2ヵ月後、米財務省は瀬取りの証拠写真を公開。撮影日は10月21日だという。
▽米財務省公表の北船舶「瀬取り」現場写真
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「制裁回避の為、石油を船から船へ輸送しているのではないか」

公開の時点で米財務省は、疑惑の指摘に留めた。1隻は北朝鮮籍の「レソンガン1号」と実名公表したが、もう1隻のタンカーの正体は不明のままだ。

密輸相手の正体が暴かれたのは、年も押し迫った12月末のことだった。南鮮当局は対北制裁決議に違反したとして“香港船籍”の「ライトハウス・ウィンモア号」を拿捕、乗組員を拘束した。
▽拿捕された“香港船籍”タンカー12月29日(共同)
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乗組員の大半は支那人。「案の定」というべき背景だが、仕掛けは単純なものではなかった。このタンカーをチャーター・運航していたのは台湾企業だったのだ。

「マーシャル諸島で法人登記している企業で台湾とは無関係」

台湾国外交部は当初、関係性を否定したが、高雄の貿易商が経営している実態が判明。そして捜査線には、北朝鮮と裏ルートで取引する支那人の存在が浮かび上がった。
▽摘発容疑は別の北船舶との瀬取り(読売)
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やはり北と通じる支那人が関与していたのだ。事態を重く見た蔡英文政権は国際社会と協調し、事件の全容解明に取り組む姿勢を示した。皮肉な展開である。

UNに排除された台湾国が安保理決議の厳格な履行を宣言する一方、P5の特別席に座る中共が、制裁の抜け道で暗躍…この歪んだ実像が、UN安保理の構造的な欠陥を象徴する。
▽安保理会合の米中ロUN大使9月4日(AFP)
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中朝の瀬取りは黄海を主なエリアに昨年10月以降だけでも30回に及び、複数のロシア船籍タンカーも石油精製品の横流しを続けている。制裁破りの裏支援国は案の定、中露2国なのだ。

米国は瀬取りの現場を偵察衛星などで把握。船舶運航企業への二次的制裁が本格化すれば、決議違反の瀬取りは激減するだろう。主要な裏ルートの封鎖は、金正恩政権の生命線を断つ。

表向きとは異なり、3代目の年末年始は暗く息苦しいものだったのだ。

【再開告げる「対話の為の対話」】

「米本土全域が我々の核攻撃の射程圏内にあり、核のボタンが私の事務室の机の上に置かれている。これは威嚇ではなく、現実だ」

元旦恒例となった3代目の収録TV演説は、お屠蘇気分も手伝ってか、これまでにも増して反米フルスロットルだ。新鮮味の薄い使い古されたフレーズの羅列。だが終盤の発言は、意外で唐突だった。
▽収録日不明の金正恩「新年の辞」(KCNA)
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「代表団派遣を含む必要な措置を取る用意があり、北南当局が緊急に会うことも出来る」

いきなりの冬季五輪参加表明である。元々、文在寅政権が参加を呼びかけていたが、これまで北側は出欠の表明を避けていた。それが一転、このタイミングで参加を宣言したのだ。

金正恩が投げたのはボールではなく、エサである。当然、文在寅はシッポを激しく振ってジャンピング・キャッチした。それが確実な罠と知っても南鮮側の動きは不可逆で、関係国への影響など気にしない。
▽閣議で発言する揚げパン1月2日(聯合)
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イヌが喜んでエサを頬張る姿を見て、3代目は次の矢を放つ。平壌は板門店会談に「祖国平和統一委員会」のトップ李善権(リ・ソングォン)を派遣すると表明した。

我が国の朝鮮労働党系メディアは「高官級から閣僚級に大幅昇格」と讃える。同委員会は2年前に国家機関扱いとなったが、党統一戦線部が指導・管理する対南工作機関であることに変わりはない。
▽対南工作のエリート・李善権(file)
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「他の関係国が出席しておらず、五輪参加の先にある問題を話し合う場ではない」

米国のマティス国防長官は1月5日、記者団に答える形で南鮮政権にクギを刺した。板門店会談のテーマは、北の五輪参加に向けた調整に限定し、安全保障関連で南鮮が先走ることは認めないという姿勢だ。

会談参加者の顔ぶれを見れば、核・ミサイルで踏み込んだ協議は行われない。だが北側は、文在寅が喰らいつくエサを放り投げてくる。それは、南北会談の継続。「対話の為の対話」である。
▽板門店で北側と通話する南連絡官1月3日(聯合)
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「対話の為の対話では意味がない。北朝鮮に検証可能で不可逆的な方法で核・ミサイルの廃棄にコミットさせ、具体的な行動を取らせることが必要だ」

安倍首相は1月7日、南北会談実現を歓迎しつつ、南の独走を牽制した。日米外交当局は、北朝鮮の常套手段「対話の為の対話」がループする事態を懸念する。詐欺外交は南北朝鮮の伝統と言える。
▽山口・長門市で取材に応じる安倍首相1月7日(産経)
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6ヵ国協議も米朝交渉も、金王朝が核・ミサイルを完成させる為の時間稼ぎでしかなかった。繰り返してきた同じ道。ただ過去と違うのは、南側の指導者が、確信犯で時間稼ぎに荷担する気配があることだ。

冬季五輪の期間中は延期しても、米南合同演習「フォール・イーグル」「キー・リゾルブ」は、約2週間遅れで3月中旬から順次始まる。文在寅がそれを止める暴挙に出るのか、否か。
▽半島沖に向かう米空母打撃群’17年3月22日(AFP)
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半島有事勃発のタイミングは、錯乱した3代目のミサイル乱射ではなく、文在寅政権が明確にホワイトハウスを裏切った時だ。




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参照:
□外務省HP平成29年9月12日『安全保障理事会決議第2375号(PDF)』

参考記事:
□The Diplomat1月3日『When a North Korean Missile Accidentally Hit a North Korean City』

□産経新聞1月4日『昨年4月失敗の「火星12」、発射場近くの町に墜落 大爆発で建物被害 日本通過でも同様危機と米誌警告』
□時事通信H29年4月29日『弾道ミサイル発射、失敗か=数分で爆発、内陸に落下-対艦用準中距離の見方・北朝鮮』
□読売新聞H24年4月11日『北ミサイル燃料に強い毒性、大量吸引なら死亡も』
□ANN10月31日『北朝鮮 6回目の核実験後に大規模崩落 200人死亡か』
□時事通信1月4日「石油積み替え、背後捜査=北朝鮮制裁めぐり台湾』
□読売新聞12月30日『中国に二次的制裁も…米大統領、肯定的評価撤回』
□大紀元12月28日『中国と北朝鮮、海上で30回以上も石油を密輸 米国が偵察衛星で現場撮影』
□CNN12月30日『韓国が香港船を拿捕、北朝鮮船に石油積み替えの疑い』
□産経新聞1月1日『金正恩氏が新年の辞で「核のボタンが私の机の上にある」と米国を威嚇 核弾頭の量産も指示』
□時事通信1月6日『南北会談「五輪のみ議題」=韓国との足並み強調-米国防長官』

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