八月八日玉音放送の衝撃…斯くして御聖断は下された

一言一句に緊張が走った運命の10分間。斯くして下されたのは、御譲位の御聖断だった。深く係わったと見られる二度の大震災…玉音放送を受け取った日本人が果たすべき努めとは何か。
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暑い昼下がりの出来事だった。大型街頭ヴィジョンの前で人々は立ち止まり、そこに映し出される映像を見入っていた。勅語を賜り、姿勢を正す者も少なくなかった。
▽玉音放送を拝聴する人々8月8日(AFP)
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全国民に告知された8月8日午後3時からの玉音放送。予定時刻に皇居前広場を訪れ、スマホを片手に放送を聴きながら、二重橋を拝む男性の姿もあった。
▽二重橋前で拝聴する男性8月8日(AP)
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業務を一時停止し、放送を拝聴する企業もあったという。昭和20年8月15日、東日本大震災の5日後となる平成23年3月16日、そして今回…これまでに玉音放送は3度しかない。

研ぎ澄まされた約10分の勅語。「歴史的な瞬間」とはまた異なる厳粛で神聖な10分間だった。今上陛下におかれては、努めて平易でお言葉を用いられ、あまねく国民が理解するようご配慮されていた。
▽街頭ヴィジョン見詰める人々8月8日(ロイター)
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「思いやりのにじむ人柄に涙が流れた」「言葉一つ一つが温かく、国民のことをしっかりと考えて下さっている」

8月初旬という時期に鑑み、産経新聞は被爆者の反応を伝えた。他の各紙も今上陛下と対面した人物などを取材し、声を拾っていたが、国民の受け止め方を集約するのは難しい。

多くの日本人が感動した東日本大震災の勅語とも違う。今回の玉音放送は終戦の詔に近い。紛れもなく、御聖断だった。二二六事件対応、ポツダム宣言受諾に続く、御聖断である。
▽皇居前広場で拝聴する男性8月8日(AP)
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今上陛下におかれては、解釈の余地が生まれぬよう仰せられた。八月八日の玉音放送は、御譲位にまつわる御聖断をお下しになられたものだ。

【御聖断は5年前に遡る】

「今年に入って考えを固められて、公表がこの時期になった」

玉音放送後に会見した宮内庁の風岡典之長官は、5~6年ほど前から御譲位について思案されるようになったと語る。正確な時期は不明だが、大震災の前後だ。
▽宮城・女川町ご訪問3月17日(産経)
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東日本大震災は、震源地や巨大津波の被害から貞観11年(869年)に起きた貞観三陸地震の再来とも呼ばれた。推定マグニチュードが8.4を超す巨大地震だった。

時の朝廷は徐々に明らかになる被害の大きさに震撼した。第56代清和天皇は、陸奥国に勅使を送られると共に、勅語を発せられた。その史実が5年前の玉音放送に似ているとも言われる。
▽平成23年3月16日第2回玉音放送
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清和天皇は27歳の若さで突如、御譲位される。貞観三陸地震から7年後のことだった。この御譲位は「応天門の変」に代表される政争が影響しているとも解釈されるが、真実はどこにあったのか…

世界最古の目撃例が残された隕石の落下、文献記録上の最大規模だった富士山の大噴火、そして地震多発の末の三陸大地震。貞観年間は、未曾有の自然災害が多発した。

平成の御代が貞観年間ほど災いに塗れたものとは思えない。しかし、今上陛下が御即位された数年後に阪神・淡路大震災が発生。昭和時代になかった関東大震災クラスの甚大被害である。
▽神戸市長田区の被災地H7年1月(朝日)
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そして、20年を経ずに再び巨大地震に見舞われた。今上陛下が御譲位を御思案されるようになられた契機は、やはり東日本大震災だったのではないか。

地震は天災であって人災ではない。被災した自治体の首長の誰一人、引責辞任することはなく、時の総理大臣に至っては大地震発生で違法献金事件が吹き飛び、ラッキーといった表情だった。

いかにも政治家とは気楽な職業である。天災は天災に過ぎない。しかし、天皇陛下におかれては、清和天皇がそうだったように、痛切に責任を感じられているのではないか…
▽宮城・南三陸町の被災地H23年4月(産経)
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地震も火山の噴火もエネルギーの蓄積・発散という周期的な物理現象だ。「帝の徳」とは何ら関係がない。しかし、歴代天皇は天災を最小限に留めるべく、お勤めを果たされてきた。

最も重要な祈り。大切な宮中祭祀と降り掛かる災いが無関係と断言することも、祭祀を単なるセレモニーに過ぎないとする不敬な見方だ。

【「代拝不可」の宮中祭祀】

「天皇陛下のご公務の在り方については、これまでもご年齢に相応しいものになるよう必要な見直しを図ってきたところだ」

玉音放送を受けて菅官房長官は、そう述べた。国事行為など御公務の負担軽減を検討することは当然だ。天皇陛下・皇后陛下の“過密スケジュール”は、全国民が心配して止まないものである。

年間130人を超す認証官任命式や外国大使の信任状捧呈式、内閣からの書類決裁・御署名は1000件を上回る。そうした御公務がクローズアップされる一方、メディアで殆んど触れられないのが宮中祭祀だ。
▽昨年度のご公務(毎日)
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「天皇皇后両陛下は、宮中の祭祀を大切に受け継がれ、常に国民の幸せを祈っておられ、年間約20件近くの祭儀が行われています」(宮内庁HPより)

毎年11月23日の最重要祭典「新嘗祭」を始め、年に2度の「大祓」など宮中祭祀は、ほぼ毎月執り行われる。「祭祀王」としてのお務めが、他の国王と大きく異なる部分だ。

「ご高齢で公務を果たせないことは重要だが、それ以上に重要である『宮中祭祀』をおろそかにすることはできない。陛下はそうお考えであろうと容易に想像できる。天皇の2000年来のお務めは、“祈る”ことにあるからだ」(西村幸祐さん著『日本人に「憲法」は要らない』)

宮中祭祀の中には「代拝不可」とされるものがある。今上陛下は玉音放送で摂政に関する否定的な大御心を示されたが、この「代拝不可」が大きく関係していると推察できる。
▽祭祀に臨まれる(AFP)
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天皇のみが執り行える「代拝不可」の重要神事として知られるのは、元日未明に始まる「四方拝」だ。初詣で寺社が賑わう頃、陛下は薄明かりの神嘉殿南庭で神事に臨まれる。

「四方拝」は、今上陛下のご高齢に配慮し、平成21年から簡素化されたという。東北地方が大地震に見舞われたのは、その15カ月後だった。

【未来に繋ぐ天壌無窮の神勅】

今上陛下におかれては、今回の勅語で祭祀には直接触れられなかった。その中、大喪に関するくだりで「殯(もがり)」という言葉が含まれたことに注目する。

「殯」は神道の専門用語ではないが、貴人の葬送を意味するもので古事記・日本書紀にも記される。具体的には「殯宮移御の儀」から続く「殯宮祗候」を表す。

「私としては天皇陛下が国民に向けて、ご発言されたということを重く受け止めております」
▽コメントする安倍首相8月8日(産経)
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御聖断が下された後の安倍首相の発言は控えめなものだった。御譲位には皇室典範の改正が必要だ。しかし、勅語に従った法改正は、陛下による“政治的な発言”を受けた取り組みになるという。

実際に政府・与党は次期国会中にも有識者会議などのクッションを置いて、皇室典範改正の準備に入るが、もどかしい。我が国に御聖断以上の決定はない。
▽平成28年8月8日第3回玉音放送(宮内庁)
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占領憲法はもちろん、欽定憲法であっても國體を近代法の概念の枠内に落とし込むことは不可能にして不遜だ。重要なのは「天壌無窮の神勅」であって、これは今も昔も未来も変わらない。

神話の中のエピソードに過ぎないとする見方は傲慢で、神話に収蔵されたからこそ重要なのだ。近・現代人の叡智の結集など、たかが知れたものである。その叡智とらやは「都合」と置き換えても良い。
▽熊本の被災地ご訪問5月19日(代表)
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また「天壌無窮の神勅」を天皇による国家統治の根本原理とする國體観にも誤解がある。天皇と日本は不可分なもので、国境線で厳密に区画される近代国家の概念をも超える。

天皇を喪った日本は存在し得ず、それは単なる極東の島国でしかない。不敬の徒が嘯くような制度や機構といったシステムではなく、人の手によって曇ることはあっても、変えることは出来ない。
▽玉音放送を拝聴する人々(ロイター)
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國體を奉り、尊ぶだけでは、まだ事足りない。天皇が進まれる道を祓い清めることが、豊葦原の瑞穂の国に生きる民に未来永劫課せられた使命だ。



最後まで読んで頂き有り難うございます
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【side story】

本記で一部引用させて頂いた西村幸祐さんの新著『日本人に「憲法」は要らない』(ベスト新書)が、発売されました。今回の玉音放送と時を同じくして発刊されたことに驚きます。

日本に憲法という言葉が初めて現れるのは、養老4年(720)に完成したとされる『日本書紀』の巻第二十二の「推古天皇紀」にある「皇太子親肇作憲法十七條」の一文である(22頁)

十七条憲法に続く、武家製の“憲法”には君主が誰であるか、積極的に明記されたなかったと言います。それが「日本古来の作法だった」とする解説は、実に意外なもので、重要な意味があると思えます。

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日本人に「憲法」は要らない [ 西村幸祐 ]
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本書は「八月革命というプロパガンダ」といった占領憲法にまつわる思想的な混乱や「誤解だらけの立憲主義」など今の政治状況を俯瞰した論考まで網羅。タイトルに違わず、刺激的で示唆に富んだ内容です。



エントリ参照:
□宮内庁HP8月8日『象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば』

□宮内庁HP『宮中祭祀』
□宮内庁HP『主要祭儀一覧』

参考記事:
□NHK8月8日『天皇陛下 お気持ち表明』特設ページ
□産経社説8月9日『天皇陛下お気持ち 国の未来に丁寧な議論を』
□サンスポ8月9日『天皇陛下「生前退位」のご意向は5年前からお考えに 宮内庁長官明かす』
□伊勢新聞8月9日『強い責任感の表れ 天皇陛下お気持ちで県内反応』
□産経新聞8月9日『戦争体験者ら「言葉温かく」「涙が流れた」』

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