中共海軍侵攻の夜…仕組まれた「太平の眠り」

尖閣“突入”事件に続く、領海侵犯…中共海軍の矛先はロシアやインドにも向けられていた。敵原潜の「抜け道」が房総沖にまで迫る中、国民の目と耳をふさぎ、本当の脅威を隠す勢力があった。
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長い戦後の歴史の中でも、中共海軍が我が国の領海を侵犯したケースは、過去1回しかなかった。平成16年に石垣島沖で起きた中共原潜侵入事件。それが最初だった。

これに平成20年の高知沖“潜望鏡付きクジラ”遭遇事件を加えても僅か2例しかない。実質3回目となる中共海軍の暴挙は、直前の尖閣諸島接続海水域侵入で緊迫が高まる中、発生した。
▽中共艦の侵犯ルート(読売)
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6月15日未明、海自P3Cが鹿児島県・口永良部島沖の領海に侵入した中共海軍ドンディアオ級情報収集艦を確認。中共艦艇は、屋久島沿岸を航行し、約1時間半に渡って領海を侵犯した。

昨年の平和安全法制議論で焦点にもなったグレーゾーン事態である。外国艦が領海に侵入した際は、海上警備行動を素早く発令する為、閣僚間の電話による閣議決定が行われる仕組みが整っていた。
▽中共海軍ドンディアオ級情報収集艦(file)
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しかし、海上警備行動は発令されなかった。平成16年の原潜侵入事件では海上警備行動を出した上、中共側に強く抗議したが今回、政府は「懸念」を伝えるにとどまった。

「洋上をまっすぐ航行しており、直ちに沿岸国の安全を害するとは言えない」

日本政府関係者は、そう説明する。領海を侵犯しても「無害通航」として国際法上認められるケースもある。だが、無害・有害のジャッジよりも先に海上警備行動を発令し、即応すべき事態だった。
▽取材に応じる中谷防衛相6月15日(産経)
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中共側が我が国の対応を「弱腰」と受け取ったことは明らかだ。翌16日午後、中共の情報収集艦は沖縄・北大東島沖の接続水域に侵入した。挑発以外の何ものでもない。

ひと度、領海侵犯が“容認”されてしまったのだ。中共海軍による島嶼沿岸への異常接近は、必ず常態化する。尖閣接続水域をめぐる安倍政権の見事な対応とは対照的だった。

【NATO幹部が青褪めた夜】

「中国側の行為は一方的に緊張を高めるような行為だ。直ちに接続水域から出るように」

6月9日午前2時、斎木昭隆事務次官は外務省に駐日中共大使・程永華を呼び付け、猛抗議を行った。中共海軍フリゲートの久場島沖接続水域侵入から、約1時間後。未明の呼び付けは異例中の異例だ。

その直前には防衛省に自衛隊幹部が緊急招集され、対処方針が決められていた。安倍首相は前夜から公邸に陣取り、情報連絡室を立ち上げるなど不測の事態に対応する準備を整えていた。
▽会見する河野統合幕僚長6月9日(共同)
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一方、新聞社やテレビ報道局の記者はルーティンワークを終えて、帰宅する途中か熟睡している頃合だった。前夜から始まった緊急事態を正確に把握し、リアルタイムで刻々と伝えた報道機関はなかった。

ロシアの艦船3隻に続き、中共海軍フリゲートが尖閣諸島の接続水域に侵入するという非常事態だ。正に一触即発。戦後の我が国が経験したことのない危機の到来だった。
▽尖閣諸島・久場島(読売)
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「ロシア海軍と同時刻に接続水域に入っていることは特異だ」

防衛省幹部は今後、中露同時侵入の意図を分析すると話す。古狸のロシアが背景を仄めかすことはなく、分析結果が公表されることもないが、同時侵入は日本国民にとって余りにもショッキングだ。
▽中露艦の侵犯ルート(読売)
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大手メディアは一切報じていないが、この時、NATOの要人が我が国に滞在していた。ピーター・パベルNATO軍事委員長。パベル委員長と河野統幕長の懇談が行われたのは前日のことだった。
▽パベル委員長と河野統幕長6月7日(防衛省)
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NATO軍事委員長の公式訪問は8年ぶり2回目。このタイミングに合わせ、NATOの仮想敵であるロシアと中共が軍事行動に踏み切ったことは偶然とは思えない。

その一方で、中共海軍フリゲートの接続水域侵入は、ロシア艦隊を牽制するものだったという見方も根強い。

【真相はプロパガンダの逆】

「防衛・外務両省内には、中国が『領海に近づくな』と日露を威嚇し、国際社会に『主権宣言』しているとの分析も浮上している」(6月10日付産経新聞)

ロシア海軍のウダロイ級大型対潜艦が魚釣島南方の接続水域に侵入したのは、6月8日午後9時50分頃だった。補給艦と曳航艇を伴う計3隻の艦隊である。
▽露ウダロイ級大型対潜艦(時事file)
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監視活動に当たっていた海自護衛艦「はたかぜ」が追尾を開始。ロシア艦隊が久場島-大正島間を北東に進む中、中共海軍のジャンカイI級フリゲートが久場島の北から接続水域に侵入した。

侵入時刻は9日午前0時50分頃で、ロシア艦隊に遅れること3時間。中共フリゲートはロシア艦隊に接近する形で侵犯を続け、午前3時過ぎに接続水域から離れる。
▽緊迫した状況は5時間以上続いた(産経)
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中共フリゲートに再三警告を発し、追走していたのは、海自護衛艦「せとぎり」だった。今年4月、ベトナム・カムラン湾に寄港し、南シナ海を横断した護衛艦である。
▽カムラン湾に入った「せとぎり」4月(時事)
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参照:4月20日『南シナ海に開戦前夜の霧…侵略を支援する反日2軍紙』

深夜の大正島北西海域に3カ国の戦闘艦4隻が入り乱れることになった。極度の緊張感に包まれる防衛省や官邸。中露の艦艇による計画的侵入であれば最悪の事態だが、日本政府側はそれに否定的だ。
▽中共ジャンカイI級フリゲート(防衛省file)
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「日本は中露軍艦の『共同行動』を認めようとしないが、これは自らを欺く行為だ」

CCTVなど中共の党宣伝機関は「共同行動」を強調する。プロパガンダ報道の手口から判断すると、真実は逆だ。ロシア艦隊への警告を含んでいたとする防衛省・外務省の分析は恐らく正しい。

ロシアは尖閣諸島の帰属先を中共と認めていないのだ。中共側は侵犯船事件以降、ロシアに対して“尖閣の中共領有”を支持するよう強く働きかけているが、軽々には同調しない。
▽尖閣諸島・大正島(産経file)
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「係争の存在」を認めることがあっても、基本的には2国間の領有権争いには踏み込まない。米国ですら2年前までは、尖閣防衛が安保条約の対象に含まれると明言することを避けていた。

そしてロシアには北方領土を巡る軋轢が残る。中ソ対立が激化する中、中共は北方領土の日本返還を訴え、公式の世界地図でも北方領土を日本本土と同じ色に塗り、「ソ連占領」と明記していた。
▽中共発行の地図:年代不詳(日経新聞)
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日支条約の締結前、我が国の保守派が揺らいだ背景には、こんな要素もあったのだ。北京は近年態度を翻し、「日露2国間の問題」として言及を避けるが、モスクワは過去の恨みを忘れていない。

調子に乗って“中露連携”宣伝を続けると、中共は東シナ海でも孤立を深める結果を招く。

【日米印3カ国艦隊を追う影】

中共艦尖閣侵入の翌日、見慣れない艦影の外国艦船が長崎・佐世保湾に姿を現した。日米の艦船とは違う明るいグレイの塗装。インド海軍のフリゲート「サツプラ」だ。
▽佐世保基地に入る「サツプラ」(インド紙)
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インド海軍東部艦隊司令官らが参列したセレモニーを皮切りに、6月10日から日米印3カ国による共同訓練「マラバール2016」がスタート。佐世保市内のマーチにはインド海軍も加わった。



「マラバール」はベンガル湾などで開かれる米印海軍主催の訓練で、海自は2年前から連続参加。そして6月19日のインド外相会見で、我が国が正式メンバーになることが明らかになった。

6月17日までの8日間、「マラバール2016」は佐世保沖から沖縄東方海域を舞台に行われた。この共同訓練が15日未明に起きた中共情報収集艦の領海侵犯に関係していることは報じられた通りだ。
▽佐世保を出港した「ひゅうが」等(インド紙)
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中共情報収集艦は、口永良部島沖を航行していたインド海軍艦艇2隻を追尾する形で、領海内に侵入した。日米と連携するインドを牽制する意味合いが濃かったとも考えられる。

マラバール開幕の前日、中共軍はチベット占領地からインド北東部に侵入した。武力衝突には至らなかったが、300人近い支那人兵が4カ所の国境から雪崩れ込むという大規模な軍事行動だった。
▽歓迎受ける東部艦隊司令官6月10日(海自)
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インドは全方位外交を伝統とし、決定的な対立を嫌う。その中での習近平指導部による脅しは度を越していて、強硬姿勢というより焦りを感じさせる。

インド艦艇追尾の翌日には、同じ情報収集艦が海自の大型護衛艦「ひゅうが」を追って北大東島沖の接続水域に侵入したが、これも無謀だ。脅しにすらなっていない。
▽陣形整える日米印の艦隊(AP)
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「ひゅうが」は今回の訓練で海自の旗艦に等しい役割を担っていた。もちろん単艦では行動せず、周囲には米印の艦艇が展開。やや離れた海域には米空母「ジョン・C・ステニス」が控えていた。

参照:ロイター6月15日『日米印の共同訓練に中国艦の影、米空母を追尾』

海上警備行動は自動的に発動すべきだったが、新たな艦艇を現場に急派する必要はなかった。海自哨戒機や米艦載機が飛び交う海域に中共艦が突入してきた格好だ。
▽ステニスに着艦したE/A-18G6月15日(AP)
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ステニスの艦長によると中共艦の乱入で所定の海域から移動せざる得なかったという。領海侵犯に続く、妨害・挑発行為に対し、日本政府は強く抗議する必要がある。

そして、単艦で乱入した中共の情報収集艦が、曲者だった。

【房総沖に潜む“黒い船”】

中共海軍のドンディアオ級情報収集艦が異様な動きを見せたのは、昨年12月下旬のことだった。1隻の情報収集艦が房総半島沖に出現、4日間に渡って往復航行を続けた。

接続水域の外側だったが、これだけ長時間、同じ海域を航行したケースはなかった。更に中共情報収集艦は、今年2月にも再び出現。同じ千葉県沖で5日間に渡り往復航行した。
▽中共ドンディアオ級情報収集艦(時事)
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九十九里浜沖、あるいは千葉県沖と表現された海域が、実際にどのあたりだったのか、詳細は不明だ。しかし、情報収集艦の目的はハッキリしている。潜水艦侵入ルートの調査・選定だ。

海中には船からの探知が難しい「シャドーゾーン」と呼ばれる場所が存在するという。潜水艦が隠れる暗闇の中の暗闇。海洋安全保障の専門家・山田吉彦教授は、こう指摘する。

「既に彼らは黒潮の最終点まで調べ上げています。千葉沖まで来ているのは、いつでも東京を取り囲んで、照準を合わせられることを意味します」
▽中共海軍の漢級原潜(file)
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戦慄のシナリオだ。その中で、更に恐ろしいのは、こうした中共海軍の不穏な動きをメディアが殆ど伝えないことだ。昨年から続く房総半島沖の異様な事態を果たして何割の国民が知っているのか?

江戸末期、沿岸に出没する異国船の情報を積極的に集めていたのは水戸藩などごく一部に限られた。余談だが、皇国史観の土台となった水戸学は、目の前に迫る脅威に裏打ちされたものだったのだ。

一方、幕府は異国船との“交流”を禁じ、破った者を厳しく罰した。この為、各地の漁師は沖合に大型の異国船が出没しても、見て見ぬ振りを続けた。
▽ペリー浦賀上陸の巻
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海の守りが最も必要な時、脅威から人々の目と耳を塞ぎ、偽りの太平の世を演出していたのが、江戸幕府だった。その愚かな姿は、中共の武力挑発を懸命に隠す今のメディアと重なる。

鹿児島で領海侵犯した中共情報収集艦は、その後、西に進路を取り、尖閣諸島の南方で活動を続けた。日本政府が繰り返し「懸念」を伝えても効果はなかった。
▽中共海軍の潜水艦隊(file)
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対処を誤れば、中共の原潜が東シナ海、次いで列島各地の沿岸に跋扈する事態になる。“異国船”と裏で通じる一部メディアは捨て置き、政府は現実の脅威をより克明に国民へ伝えるべきだろう。

徳川幕府の轍を踏んではならない。黒船が出現してからでは、何もかも遅いのだ。



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参照:
□海自Facebook6月11日【日米印共同訓練(マラバール2016)】
□統幕監部HP6月7日『ピーター・パベルNATO軍事委員長の訪問』
□週刊新潮2月25日号櫻井よしこ日本ルネッサンス『一見平和な日本、だが千葉沖に中国の脅威』

参考記事:
□Rediff.com『Malabar war games 2016』
□日経新聞12月26日『房総沖に中国の情報艦 23~26日に反復航行』
□産経新聞2月8日『中国軍艦、房総沖を往復 防衛省「特異な動き」』

□読売新聞6月10日『中国艦、尖閣接続水域へ…上がる「現状変更」のステージ』
□産経新聞6月9日『緊迫の一夜、そのとき官邸は…外交儀礼などに構ってられない』
□産経新聞6月10日『中国国営テレビ「中露海軍の連携」アピール 根拠は示さず 日本抗議は「泥棒が他人を泥棒呼ばわり」』
□時事通信6月15日『中国軍艦、計画的侵入=海底図作成が目的か-政府』
□読売新聞6月16日『中国軍艦、今度は沖縄・北大東島の接続水域に』
□時事通信6月20日『情報収集艦、尖閣周辺を往復航行=中国側に懸念伝達-外務省』
□産経新聞6月19日『日本、米印海上共同訓練「マラバール」の正式参加国に 印外相表明』

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