金正恩の黄海1時間戦争…敵基地攻撃能力を保有せよ
非戦闘員2人の犠牲も新たに判明。黄海・延坪島の北朝鮮奇襲攻撃は、金正恩の初陣でもあった。関係国にも激震が走った南北1時間戦争。次に北が繰り出すミサイル発射への備えが急務だ。
「民間人に対する無差別攻撃は到底、容赦できない。追加の挑発があれば、何倍もの兵力で北を懲らしめる必要がある」
緊急招集した安保関係閣僚会議後、李明博大統領の口調は激烈だった。当初は、挑発に乗らないよう冷静な対応を求めていたが、姿勢は一変。実態が明らかになるにつれて強硬路線に転じたのだ。
▼砲撃で倒壊・炎上した民家11月24日(ロイター)
半島西部の延坪島は炎と黒煙に包まれた。流れ弾が島南部に着弾したのではなく、北朝鮮が島民居住地を標的にしていたことが軍からの報告で判明。これまでにない北の軍事行動に青瓦台の危機感を強めた。
「家の中にいたが、突然ドーンという音がして、外に出たら火の海になっていた」「着弾後、霧が立ちこめたように周りが暗くなった」
「あちこちに砲弾の大きな破片が散らばっていた。あれが直撃すれば、間違いなく即死するだろうと思うと震えた」
▼砲撃で吹き飛ばされた車両11月24日(ロイター)
難を逃れた島民は口々に恐怖を語る。北朝鮮人民軍が23日午後に放った砲弾の総数は約170発。韓国軍合同参謀本部は、そのうち80発が延坪島に着弾したと発表した。居住地を壊滅させる集中砲火だ。
その惨状を解き明かしたのは、フェリーで脱出した島民が撮影した写真や島内に設置された監視カメラの映像だった。山火事発生の情報も出ていたが、夜間の模様を捉えた画像は僅かだった。
▼居住地近くの山火事23日夜(聯合ニュース)
11月23日、韓国では警戒レベルの引き上げに伴い、報道管制も敷かれた。軒並みTV局が特番を組む一方で、韓国メディアが配信した記事は極端に少なかったのだ。
島の現状はどうなっているのか…「海兵隊員2人死亡、民間人3人負傷」という当局発表に対し、もっと多くの犠牲者が出ているとの憶測も乱れ飛んだ。
▼役場近くに着弾した瞬間(ロイター)
一夜明けて居住地の現状が公開されたが、延焼は激しく、戦禍は予想以上だった。そして被弾した工事現場から建設作業員2人の遺体が発見された。青瓦台が恐れていた非戦闘員の犠牲者である。
【軍暴発説と計画的攻撃説】
砲撃戦が報道された直後に「金正日死亡」という未確認情報がシンガポールから流れ、アジア各国の株価は下落した。これまでもミサイル乱射など事ある度に噴出する人民軍暴発説だ。
一部の北朝鮮ウォッチャーは、軍内部の対立に起因する可能性を指摘する。3代目襲名が確定した金正恩は大将の階級が獲得し、党中央軍事委員会の副委員長にも選出された。金正日に次ぐ高位である。
▼マスゲームに拍手する金正恩11月9日(AP通信)
これに前後して人民軍内の反正恩派は粛清された可能性が高い。軍幹部だけではなく、ライン上の士官・兵員も部隊ごと一斉処分される。大規模な組織改編に恨みを持っている勢力は確実にいるのだ。
11月初めには軍ナンバー2である趙明禄(チョン・ミョンロク)の死亡が公表された。心臓病で表舞台から遠ざかっていたが、訪米経験のある数少ない大幹部だった。趙明禄を後ろ盾にする一派も劣勢だ。
▼閲兵式に登場した趙明禄:左端2005年(共同)
また金正恩と同時に、金正日の実妹である金敬姫も大将に任命された。飾り物とは言え、全く軍経験のないロイヤル・ファミリーの抜擢に反感を抱いている軍幹部も多いだろう。
一方、11月25日には南北赤十字会談が予定されていた。この会談は北朝鮮がコメ50万㌧の支援を要求、韓国側が一部受け入れたことで開催が決定。22日に北朝鮮が代表団リストを提出したばかりだった。
▼コメ5千㌧支援を表明する韓国赤十字9月(共同)
北側が有利に交渉を進める中、突然のように延坪島で砲撃戦が発生した。赤十字会談では金剛山観光再開の協議も行われる見通しだった為、不可解であることは確かだ。
金正恩後継が決まっても、なお北朝鮮指導部は過渡期にある。現時点で暴発説を完全に排除することは出来ない。だが後継固めに向けた「計画的攻撃説」が有力だろう。戦場が、それを証している。
【金正恩の初陣…南北1時間戦争】
「我が領海を0.001ミリでも侵犯すれば、躊躇なく無慈悲な軍事的打撃を加え続ける」
朝鮮中央テレビが延坪島の砲撃戦に関して初めて伝えたのは午後8時過ぎだった。数日間沈黙することも珍しくない北朝鮮にしては素早い報道だ。
▼23日夜の朝鮮中央テレビ(NNN)
しかもアナウンサーが読み上げたのは、朝鮮人民軍最高司令部の声明だった。国防委員長・最高司令官は、金正日である。軍の暴発であれば、逸早く司令部名の声明が出ることは有り得ない。
砲撃から間もなく韓国メディアが公開した延坪島の写真には、ひと際黒々とした煙が確認できた。通常の火災ではない。これは燃料が燃え上がったものだ。
▼延坪島居住地から立ち上る黒煙(AP通信)
北朝鮮が放った砲弾は、島南部にある幅300㍍余りの居住エリアに数多く着弾。軍の石油タンクや通信・発電施設を破壊した。闇雲に砲撃したのではなかった。
民間の建設作業員2人の遺体が発見されたのも海兵隊の兵舎だった。精度が高いのか不明だが、僅か1時間の砲撃で、軍関連施設を破壊した上で、完全にライフラインを寸断させたのだ。
▼被弾した海兵隊の兵舎11月24日(ロイター)
北朝鮮側の砲撃は、午後2時半過ぎから約20分間行われた後、15分の中断を挟んで、午後3時40分頃まで続いた。だが、目的を果たしたかのように沈黙し、砲撃を再開しなかった。
軍の司令系統が生きている証拠だ。軍の暴発であれば、戦闘能力が尽きるまで交戦しただろう。韓国軍は背後にある北ミサイル基地の動向を警戒していたが、シルクワームは発射されなかった。
▼NLL附近の北朝鮮軍基地など(朝鮮日報:資料)
射程100㌔のシルクワームは仁川近郊など本土の一部もレンジ内に収め、全面戦争に発展する恐れもあった。しかし、初めから延坪島に限定した局地戦しか想定していなかったのだ。
砲撃戦の実態は、軍歴の浅い金正恩に「武勇」を授ける為の1時間戦争だった。
【北朝鮮は大敗北を喫したのか…】
北朝鮮は10月末の核実験の兆候に続き、軽水炉の建設、ウラン濃縮施設の“公開”と、立て続けにカードを切ってきた。それらは関係国を揺さぶり、金正恩の権威を高める意図があったと推測される。
▼寧辺の軽水炉建設エリア(ISIS)
今回の砲撃も、その延長線上と位置付けられるが、金正恩の“初陣”が民間人の殺戮であったことは極東の暗い未来を予感させる。だが、金正恩は初陣で勝利したのだろうか…
韓国軍は80発の応戦射撃を行ったと発表している。北の野戦砲に対抗した韓国側の兵器は「K-9 155mm自走砲」がメーンだった。延坪島には6門が配備されていたという。
▼漢江沿いに展開するK-9自走砲(ロイター)
K-9自走砲は15秒間に3発撃つ高速射撃機能も備えているという。6門全てが稼働していたか不明だが、約1時間の交戦で80発しか撃たなかったとは考えられない。
「相当な被害が出ていると予想している」
韓国軍合同参謀本部は、北側が大打撃を受けたことを示唆した。これまでの黄海海戦でも北朝鮮は、自軍の損害を公表していない。それを韓国側も承知で、公表数とは桁違いの報復射撃を行ったと想像する。
▼延坪島対岸の北の海岸砲基地09年(朝鮮日報)
北朝鮮は、延坪島から約10㌔離れたム島やケモリ海岸砲基地から曲射砲を放った。最も近いケモリ海岸にある砲門数は1,000門。しかし、一部は海岸線の岩山中腹に据えた“固定砲”で、一撃で粉砕される。
どのような戦闘でも北朝鮮は常に「圧勝」と宣伝するが、今回の損害規模は小さくないだろう。金正恩は初陣で無惨な大敗北を喫した可能性があるのだ。
▼劇場を視察する金正恩10月9日(ロイター)
そうれであれば、北朝鮮が再度攻撃を仕掛けてくる恐れは高い。
【周辺事態…ミサイル発射に備えよ】
11月24日朝、横須賀港から米原子力空母「ジョージ・ワシントン」がイージス巡洋艦「カウペンス」と共に出港した。沖縄周辺海域の日米合同演習は12月3日からだ。少し早い出港だった。
当初は沖縄演習の為の出港としていたが、午後になってセブンス・フリート側が、黄海での米韓合同演習に派遣することを認めた。空母の参加は米韓首脳の電話会談で決まったという。
▼出港したジョージ・ワシントン11月24日(産経)
北朝鮮を牽制する素早い威圧行動だが、それだけではない。中共へのプレッシャーでもあるのだ。天安艦撃沈事件を受けて今夏に予定されていた米空母参加の大規模黄海演習は中止に終わった。
中共が強く反発した結果、キャンセルになったのだ。それが、23日の延坪島砲撃戦を受けて、いきなり大規模演習が決定、直後の米空母出港となった。軍事的な威圧よりも外交戦術の側面が強い。
▼北京入りしたボズワース米特別代表23日(ロイター)
北朝鮮問題で鍵を握るのは中共だ。米韓ともに、天安艦撃沈事件の安保理対応では中共に煮え湯を呑まされている。中ロの抵抗し、難航の末に出た議長声明は、南北の両論併記に近い無意味な内容だった。
今回の砲撃戦でも日米韓は連携して安保理への提起に向けて動き出した。しかし早くも中ロは慎重姿勢を示し、最終的になし崩しになるのは目に見えている。時間の無駄だ。
▼長春の金正日・胡錦濤会談8月27日(新華社)
軍事独裁国家を抑え込むには軍事的圧力しかない。北朝鮮は非戦闘員攻撃に続き、中距離弾道ミサイル「ムスダン」の発射準備を進めているとの情報も出ている。
プルトニウム型弾頭の核実験には、まだテスト場の準備が追いつかないと見られる。その中で北朝鮮に残された威圧オプションはICBMなどの発射実験だ。次に切るカードは、ミサイル発射だろう。
▼パレードで公開したムスダン10月(共同通信)
菅政権は北を強く非難する姿勢を打ち出したが、安保理提起など不毛な方針をとるのが関の山だ。リスキーな状況であるなら、必要なのは周辺事態法の発動準備である。
そして、麻生政権下でテーマになった自衛隊の「敵基地攻撃能力」獲得を真剣に議論するべき時が来たのだ。
〆
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参考記事:
■産経新聞11月25日『日本全土を射程 北朝鮮がムスダン発射準備』
■産経新聞11月24日『 挑発レベル挙げた北、次は何を』
■毎日新聞11月24日『北朝鮮砲撃:韓国軍が退避命令 脱出島民「集落、火の海」』
■産経新聞11月24日『暴挙、背景に何が…「意図的な挑発」「権力闘争か」』
■日経新聞11月24日『米韓、28日から合同軍事演習 米空母を派遣』
■聯合ニュース11月23日『北朝鮮の砲撃、海岸砲・曲射砲合わせ100発余り』
■時事通信11月23日『突然の砲撃で火の海=上る黒煙、逃げる住民-韓国・延坪島』
「民間人に対する無差別攻撃は到底、容赦できない。追加の挑発があれば、何倍もの兵力で北を懲らしめる必要がある」
緊急招集した安保関係閣僚会議後、李明博大統領の口調は激烈だった。当初は、挑発に乗らないよう冷静な対応を求めていたが、姿勢は一変。実態が明らかになるにつれて強硬路線に転じたのだ。
▼砲撃で倒壊・炎上した民家11月24日(ロイター)
半島西部の延坪島は炎と黒煙に包まれた。流れ弾が島南部に着弾したのではなく、北朝鮮が島民居住地を標的にしていたことが軍からの報告で判明。これまでにない北の軍事行動に青瓦台の危機感を強めた。
「家の中にいたが、突然ドーンという音がして、外に出たら火の海になっていた」「着弾後、霧が立ちこめたように周りが暗くなった」
「あちこちに砲弾の大きな破片が散らばっていた。あれが直撃すれば、間違いなく即死するだろうと思うと震えた」
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難を逃れた島民は口々に恐怖を語る。北朝鮮人民軍が23日午後に放った砲弾の総数は約170発。韓国軍合同参謀本部は、そのうち80発が延坪島に着弾したと発表した。居住地を壊滅させる集中砲火だ。
その惨状を解き明かしたのは、フェリーで脱出した島民が撮影した写真や島内に設置された監視カメラの映像だった。山火事発生の情報も出ていたが、夜間の模様を捉えた画像は僅かだった。
▼居住地近くの山火事23日夜(聯合ニュース)
11月23日、韓国では警戒レベルの引き上げに伴い、報道管制も敷かれた。軒並みTV局が特番を組む一方で、韓国メディアが配信した記事は極端に少なかったのだ。
島の現状はどうなっているのか…「海兵隊員2人死亡、民間人3人負傷」という当局発表に対し、もっと多くの犠牲者が出ているとの憶測も乱れ飛んだ。
▼役場近くに着弾した瞬間(ロイター)
一夜明けて居住地の現状が公開されたが、延焼は激しく、戦禍は予想以上だった。そして被弾した工事現場から建設作業員2人の遺体が発見された。青瓦台が恐れていた非戦闘員の犠牲者である。
【軍暴発説と計画的攻撃説】
砲撃戦が報道された直後に「金正日死亡」という未確認情報がシンガポールから流れ、アジア各国の株価は下落した。これまでもミサイル乱射など事ある度に噴出する人民軍暴発説だ。
一部の北朝鮮ウォッチャーは、軍内部の対立に起因する可能性を指摘する。3代目襲名が確定した金正恩は大将の階級が獲得し、党中央軍事委員会の副委員長にも選出された。金正日に次ぐ高位である。
▼マスゲームに拍手する金正恩11月9日(AP通信)
これに前後して人民軍内の反正恩派は粛清された可能性が高い。軍幹部だけではなく、ライン上の士官・兵員も部隊ごと一斉処分される。大規模な組織改編に恨みを持っている勢力は確実にいるのだ。
11月初めには軍ナンバー2である趙明禄(チョン・ミョンロク)の死亡が公表された。心臓病で表舞台から遠ざかっていたが、訪米経験のある数少ない大幹部だった。趙明禄を後ろ盾にする一派も劣勢だ。
▼閲兵式に登場した趙明禄:左端2005年(共同)
また金正恩と同時に、金正日の実妹である金敬姫も大将に任命された。飾り物とは言え、全く軍経験のないロイヤル・ファミリーの抜擢に反感を抱いている軍幹部も多いだろう。
一方、11月25日には南北赤十字会談が予定されていた。この会談は北朝鮮がコメ50万㌧の支援を要求、韓国側が一部受け入れたことで開催が決定。22日に北朝鮮が代表団リストを提出したばかりだった。
▼コメ5千㌧支援を表明する韓国赤十字9月(共同)
北側が有利に交渉を進める中、突然のように延坪島で砲撃戦が発生した。赤十字会談では金剛山観光再開の協議も行われる見通しだった為、不可解であることは確かだ。
金正恩後継が決まっても、なお北朝鮮指導部は過渡期にある。現時点で暴発説を完全に排除することは出来ない。だが後継固めに向けた「計画的攻撃説」が有力だろう。戦場が、それを証している。
【金正恩の初陣…南北1時間戦争】
「我が領海を0.001ミリでも侵犯すれば、躊躇なく無慈悲な軍事的打撃を加え続ける」
朝鮮中央テレビが延坪島の砲撃戦に関して初めて伝えたのは午後8時過ぎだった。数日間沈黙することも珍しくない北朝鮮にしては素早い報道だ。
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砲撃から間もなく韓国メディアが公開した延坪島の写真には、ひと際黒々とした煙が確認できた。通常の火災ではない。これは燃料が燃え上がったものだ。
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北朝鮮が放った砲弾は、島南部にある幅300㍍余りの居住エリアに数多く着弾。軍の石油タンクや通信・発電施設を破壊した。闇雲に砲撃したのではなかった。
民間の建設作業員2人の遺体が発見されたのも海兵隊の兵舎だった。精度が高いのか不明だが、僅か1時間の砲撃で、軍関連施設を破壊した上で、完全にライフラインを寸断させたのだ。
▼被弾した海兵隊の兵舎11月24日(ロイター)
北朝鮮側の砲撃は、午後2時半過ぎから約20分間行われた後、15分の中断を挟んで、午後3時40分頃まで続いた。だが、目的を果たしたかのように沈黙し、砲撃を再開しなかった。
軍の司令系統が生きている証拠だ。軍の暴発であれば、戦闘能力が尽きるまで交戦しただろう。韓国軍は背後にある北ミサイル基地の動向を警戒していたが、シルクワームは発射されなかった。
▼NLL附近の北朝鮮軍基地など(朝鮮日報:資料)
射程100㌔のシルクワームは仁川近郊など本土の一部もレンジ内に収め、全面戦争に発展する恐れもあった。しかし、初めから延坪島に限定した局地戦しか想定していなかったのだ。
砲撃戦の実態は、軍歴の浅い金正恩に「武勇」を授ける為の1時間戦争だった。
【北朝鮮は大敗北を喫したのか…】
北朝鮮は10月末の核実験の兆候に続き、軽水炉の建設、ウラン濃縮施設の“公開”と、立て続けにカードを切ってきた。それらは関係国を揺さぶり、金正恩の権威を高める意図があったと推測される。
▼寧辺の軽水炉建設エリア(ISIS)
今回の砲撃も、その延長線上と位置付けられるが、金正恩の“初陣”が民間人の殺戮であったことは極東の暗い未来を予感させる。だが、金正恩は初陣で勝利したのだろうか…
韓国軍は80発の応戦射撃を行ったと発表している。北の野戦砲に対抗した韓国側の兵器は「K-9 155mm自走砲」がメーンだった。延坪島には6門が配備されていたという。
▼漢江沿いに展開するK-9自走砲(ロイター)
K-9自走砲は15秒間に3発撃つ高速射撃機能も備えているという。6門全てが稼働していたか不明だが、約1時間の交戦で80発しか撃たなかったとは考えられない。
「相当な被害が出ていると予想している」
韓国軍合同参謀本部は、北側が大打撃を受けたことを示唆した。これまでの黄海海戦でも北朝鮮は、自軍の損害を公表していない。それを韓国側も承知で、公表数とは桁違いの報復射撃を行ったと想像する。
▼延坪島対岸の北の海岸砲基地09年(朝鮮日報)
北朝鮮は、延坪島から約10㌔離れたム島やケモリ海岸砲基地から曲射砲を放った。最も近いケモリ海岸にある砲門数は1,000門。しかし、一部は海岸線の岩山中腹に据えた“固定砲”で、一撃で粉砕される。
どのような戦闘でも北朝鮮は常に「圧勝」と宣伝するが、今回の損害規模は小さくないだろう。金正恩は初陣で無惨な大敗北を喫した可能性があるのだ。
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そうれであれば、北朝鮮が再度攻撃を仕掛けてくる恐れは高い。
【周辺事態…ミサイル発射に備えよ】
11月24日朝、横須賀港から米原子力空母「ジョージ・ワシントン」がイージス巡洋艦「カウペンス」と共に出港した。沖縄周辺海域の日米合同演習は12月3日からだ。少し早い出港だった。
当初は沖縄演習の為の出港としていたが、午後になってセブンス・フリート側が、黄海での米韓合同演習に派遣することを認めた。空母の参加は米韓首脳の電話会談で決まったという。
▼出港したジョージ・ワシントン11月24日(産経)
北朝鮮を牽制する素早い威圧行動だが、それだけではない。中共へのプレッシャーでもあるのだ。天安艦撃沈事件を受けて今夏に予定されていた米空母参加の大規模黄海演習は中止に終わった。
中共が強く反発した結果、キャンセルになったのだ。それが、23日の延坪島砲撃戦を受けて、いきなり大規模演習が決定、直後の米空母出港となった。軍事的な威圧よりも外交戦術の側面が強い。
▼北京入りしたボズワース米特別代表23日(ロイター)
北朝鮮問題で鍵を握るのは中共だ。米韓ともに、天安艦撃沈事件の安保理対応では中共に煮え湯を呑まされている。中ロの抵抗し、難航の末に出た議長声明は、南北の両論併記に近い無意味な内容だった。
今回の砲撃戦でも日米韓は連携して安保理への提起に向けて動き出した。しかし早くも中ロは慎重姿勢を示し、最終的になし崩しになるのは目に見えている。時間の無駄だ。
▼長春の金正日・胡錦濤会談8月27日(新華社)
軍事独裁国家を抑え込むには軍事的圧力しかない。北朝鮮は非戦闘員攻撃に続き、中距離弾道ミサイル「ムスダン」の発射準備を進めているとの情報も出ている。
プルトニウム型弾頭の核実験には、まだテスト場の準備が追いつかないと見られる。その中で北朝鮮に残された威圧オプションはICBMなどの発射実験だ。次に切るカードは、ミサイル発射だろう。
▼パレードで公開したムスダン10月(共同通信)
菅政権は北を強く非難する姿勢を打ち出したが、安保理提起など不毛な方針をとるのが関の山だ。リスキーな状況であるなら、必要なのは周辺事態法の発動準備である。
そして、麻生政権下でテーマになった自衛隊の「敵基地攻撃能力」獲得を真剣に議論するべき時が来たのだ。
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■産経新聞11月25日『日本全土を射程 北朝鮮がムスダン発射準備』
■産経新聞11月24日『 挑発レベル挙げた北、次は何を』
■毎日新聞11月24日『北朝鮮砲撃:韓国軍が退避命令 脱出島民「集落、火の海」』
■産経新聞11月24日『暴挙、背景に何が…「意図的な挑発」「権力闘争か」』
■日経新聞11月24日『米韓、28日から合同軍事演習 米空母を派遣』
■聯合ニュース11月23日『北朝鮮の砲撃、海岸砲・曲射砲合わせ100発余り』
■時事通信11月23日『突然の砲撃で火の海=上る黒煙、逃げる住民-韓国・延坪島』
この記事へのコメント
昨日より、本件に関するアネモネさんの解説のアップを心待ちにしておりました。
早速のエントリを有難うございます。
>麻生政権下でテーマになった自衛隊の「敵基地攻撃能力」獲得を真剣に議論するべき時が来たのだ。
(本文より)
この点をマスコミでも、コメンテイターの発言でも、どのような形でもいいので、是非指摘して報道していただきたいものです。
暫くは様子を見ないと・・・また砲撃の可能性もある。
米空母の出向は嬉しい決定です。
野党の問責も先延ばしになり、センゴクの延命には怒りが爆発しそうです。
この辺りの分析はさすがアネモネさん。我が国のメディアの報道とはレベルが違います。
この日のために防空壕を整備し、素早い報復措置がとれる韓。しかも一旦はキャンセルした米韓合同演習を急遽決定した韓国。
一方、報復措置はおろか、防空壕さえ用意していないのが日本。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」いる限り、「われらの安全と生存」が覚束ないことは火を見るよりも明らかです。
今や我が国は、韓国の足許にも及ばないところまで落ちぶれてしまったようです。
仰る様に朝鮮政府内部には、大きな混乱が有りそうですね、何より金正日のガバナビリティが微塵も感じられないのは、独裁者の存在が亡霊クラスに成っている事を示しては居ないでしょうか。
朝鮮政府が「第二、第三の打撃も行う用意がある」とか云って居ますが、残って居るのはミサイルダケ、殆どの弾道ミサイルは、「ロックオン」されているでしょうから、危険な発射に関しては、米軍側が「阻止」を行うと思います、唯、日本国内への工作員の増加~武装蜂起~放送局占拠と云う流れを考えますと、砲撃が陽動で有った場合を考えてしまいました、そうすれば、日本国民を人質に取れますもの、ウラニウム核弾頭を最大限に利用できる戦術を模索しているのではないかと疑って居ます。
今回の砲撃戦を「神風」と言い放った幹部がいる民主党が与党にいる現状では、わが国の防衛力強化は望めそうにないと悲観しております。
一刻も早く反日・売国の民主党を殲滅しなくては…。