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zoom RSS 米朝ディールの無慈悲な現場…消えたテロ支援国家問題

<<   作成日時 : 2018/06/04 20:41   >>

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金正恩の使いがホワイトハウスに入った時、対北問題のキーマンは姿を見せなかった。米朝の駆け引きが加速する中、乱れるトランプ大統領の歩調。目前にあるのは何時か来た道、同じレールか。
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「圧力が維持されることが、問題の解決につながると考えている」

小野寺五典防衛相の訴えが、トランプ大統領の発言を念頭に置いたものかどうか、詳細は分からない。ただし、場当たり的な“対話路線”に日本側が多少の警戒感を抱いていることは確かである。

「融和ムードを演出しておきながら、直後に何度も平和への努力を踏みにじる歴史を繰り返してきた」
▽シャングリラ対話で演説する小野寺防衛相6月2日(AFP)
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約10年のサイクルでリピートされた米朝の対立と握手。国際社会は、小野寺防衛相の警告に耳を傾け、記憶しておくべきだ。一方、米国のマティス国防長官は、どうだったか?

「我々の目標は、あくまでも完全で検証可能かつ不可逆的な朝鮮半島の非核化だ」

日米の防衛当局に目立った温度差はない。もっとも、シャングリラ・ダイアローグを前に、小野寺防衛相とマティス長官は今後の北朝鮮対応について協議し、共通の認識を確認している。
▽米ヒッカム基地の日米防衛相会談5月29日(共同)
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ハワイを訪問した小野寺防衛相は翌5月30日、米太平洋軍司令官の交代式に出席。南鮮次期大使に選出されたハリス前司令官、デービッドソン新司令官らとも意見を交換した。

3日後の6月2日に日米国防トップはシンガポールで再び顔を合わせたが、状況は変化していた。トランプ・正恩会談の開催が確定したのだ。10日後、米朝の首脳がこの場所で初対面する。
▽シンガポールで演説するマティス長官6月2日(ロイター)
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舞台は発表されていないものの、同じシャングリラ・ホテルが選ばれる可能性が高い。2015年に馬英九・習近平会談が開かれるなどの実績を持ち、警備面も万全だ。

会談そのものに不測の事態は起きない。しかし我が国にとって、安全保障上の不測の事態が発生することはあり得る。

【本陣に迎えられた敵軍の将】

「あなた方も出張することになる。6月12日にシンガポールに行くからだ」

トランプ大統領は車を見送った後、記者団に近寄り、そう語り始めた。米朝首脳会談の開催が確定した瞬間。興奮した様子もなく、落ち着いた話し振りだ。


参照:日経新聞6月2日『「朝鮮戦争終結も協議した」トランプ氏の発言全文』

大統領が見送ったのは、朝鮮労働党の副委員長で、諜報機関のトップだった金英哲。平昌五輪の閉会式で“国際デビュー”を果たした人物。金正恩の軍師でも右腕でもなく、パシリである。
▽NY入りした金英哲とSP軍団5月30日(AFP)
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金英哲は5月30日のNY到着後、2日間にわたってポンペオ国務長官と協議を行った。当初の報道ではトランプ大統領との対面はスケジュールになかったが、6月1日、唐突にホワイトハウスを訪問した。

これは2000年10月、北朝鮮軍次帥の趙明禄(チョ・ミョンロク)が退任間際のクリントンと会談して以来の高位級接触となる。趙明禄訪米は、何の意味もないメモリアル会談だったが、今回は違う。
▽クリントン・趙明禄会談'00年(AP)
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「会談は単なる書簡受け取りの予定だったが、最終的に北朝鮮で2番目の権力者と2時間の会談になった」

トランプ大統領は大幅に時間を延長し、金英哲と協議を重ねたことを明らかにした。経済制裁を含む「多くの事柄について」話し合ったという。
▽会談を終えたトランプ・英哲6月1日(AP)
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「『最大の圧力』という言葉はもう使いたくない」

トランプ大統領が記者に語った一言に、我が国の親北メディアは色めき立つが、興奮するのは早い。金英哲に対し、北が行動するまでの制裁維持を言明した他、続けて記者団に、こう言葉を継いだ。

「最大の圧力に変更はない。現状のままだ。どこかの時点でディールをしたいと思う」
▽ぶら下がりに答えるトランプ大統領6月1日(VOA)
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爆破ショーと引き換えに金融制裁を解除したブッシュ政権とは異なる。だが、ここで注視すべき問題は、トランプ政権が“対話の為の対話”に応じる姿勢を垣間見せたことだ。

【“延長戦”ありきの首脳会談】

「これはプロセスだ。1回の会合で済むとは決して言わない」

トランプ大統領は、会談が複数回に及ぶ可能性を繰り返し示唆した。シンガポールでの会談が2日間に渡るという意味ではなく、関係構築に向けた始まりになると訴えたのだ。

「多くの国の間に長年にわたる敵対心や問題、嫌悪感がある。だが最終的にはとても良い結果をもたらすと思う。1回の会談からではなく、多くの良いことがある」
▽金英哲を見送るトランプ大統領ら6月1日(AP)
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米朝会談における北朝鮮の目的の一つは、時間稼ぎだ。会合の主要テーマは次の会合日程の設定。北朝鮮は硬軟織り交ぜつつ、6カ国協議を足掛け5年に引き伸ばし、その間、核・ミサイル開発を続けた。

いわゆる「対話の為の対話」で、これまで日米が堅持してきた「行動対行動」の原則から大きく逸脱する。米側が複数回に言及した時点で、既に北朝鮮側が勝利しているのではないか。
▽南北会談の金英哲と金正恩5月26日(ロイター)
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金正恩が望むマラソン会談化は同時に、米国やUNによる経済制裁の延長を意味する。北朝鮮が大幅譲歩しても、トランプ大統領が初会談で即時支援を表明することはない。

だが、北朝鮮側は早期の制裁解除を求めていない。首脳会談で3代目が乞食同然の醜態を晒すような下手は打たないだろう。そこで鍵を握るのは中共だ。
▽捕捉された北タンカーの瀬取り現場5月24日(防衛省)
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海自護衛艦「うみぎり」は5月24日、上海沖250kmの公海上で、北船籍タンカーによる瀬取りの現場をキャッチした。金正恩が恭順姿勢を見せながらも、制裁違反の無法ぶりは変わらない。

海自艦艇の弛まない努力に敬意を表するが、最後の抜け穴だった瀬取りが今や補完的な密輸に格下げとなっている可能性もある。中共が陸路での燃料移送再開に踏み切った疑いが濃いのだ。
▽北タンカー(下)による瀬取りの瞬間5月24日(防衛省)
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2回に渡る中朝首脳会談で、習近平はどんなエサを与えたのか…軍事物資でも建設資材の提供でもない。北が喉から手が出るほど欲しい各種の資源と見て間違いないだろう。

金正恩は燃料不足の危機を土下座外交で乗り切った。そして、燃料供給のバルブを開けた中共に対し、米国が強硬策を講じないと見通している。恐らく3代目は強気の姿勢で首脳会談に臨む。

【米の急接近はフェイクなのか?】

2007年2月、米国務省の高官たちは苛立っていた。6カ国協議での原子炉停止宣言を受け、米国は北朝鮮と外交関係の正常化で合意した。しかし、そこには高いハードルがあった。

北朝鮮は「テロ支援国家」のリストに入ったままだったのだ。米国務省は指定解除に向けて取り組むが、作業は遅れ、解除の発表は、翌年の10月にズレ込む。
▽平壌入りした米国務省ヒル次官補’07年6月(EPA)
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政府は無論、民間の通商もテロ支援国家に対しては大幅に制限される。直ぐにも「見返り」が欲しい金正日政権は、その間、即時解除を求めて米国務省に噛み付き続けた。見上げた乞食根性である。

今回の米朝首脳会談に向けた一連の動きの中で、テロ支援国家の指定解除がテーマに浮上しないことは奇妙だ。米朝関係の画期的転換は、指定解除が大前提となる。

「韓国や中国、日本が支援するだろう。米国は支出しない」
▽会談を終えたトランプ・金英哲6月1日(ロイター)
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北朝鮮が非核化に応じた際の経済支援についてトランプ大統領は、そう語った。アメリカン・ジョークか何かなのか…米国が2国間協議で第3国からの巨額援助を確約することは有り得ない。

トランプ政権が北朝鮮をテロ支援国家に再指定したのは、昨年11月。半年余りでの解除となれば、朝令暮改も甚だしく、米国の迷走を象徴する間抜けな政策転換と捉えられるだろう。
▽北のテロ支援国家リスト入りを発表’17年11月(ロイター)
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テロ支援国家の指定・解除に米議会の採決は不必要で、大統領の一存で変更可能だ。しかし、ブッシュ政権が解除作業に難航したように、短期間で覆せるものではない。

「北朝鮮は核開発で世界を脅しているだけでなく、繰り返し国際テロ行為を支援している」

トランプ大統領は昨年11月、そう力説していた。再指定の根拠は、金正男暗殺とワームビア氏拘束などだった。これらのケースについて、金正恩は罪を認め、類似事件の再発防止を約束するのか。
▽北は金正男暗殺を米南の謀略と認定(file)
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金英哲のホワイトハウス訪問劇を見る限り、トランプ大統領は暴走気味だ。米メディアは、中間選挙を睨んだ外交方針の転換と解説するが、インセンティブとしては弱過ぎる。

ブッシュ時代の米朝雪解けも、政権末期に功を急いだ結果と評される。しかし、ボルトンUN大使(当時)ら現実派が遠去けられ、融和派の「ライス=ヒル路線」が台頭した背景は不明だ。
▽会見を見守るボルトン補佐官4月9日(AP)
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「会談に同席しなかったことを深読みし過ぎてはいけない」

米政府高官はそう念を押すが、ボルトン大統領補佐官は到着した金英哲を迎えることもしなかった。ホワイトハウスに控えていた対北問題のスペシャリストは、大きなヤマ場でステージから追われた。

繰り返す歴史、10年毎のON・OFFリセット。何度ループしても事態は同様の結末に収束する…トランプ大統領が金正恩を欺き、国際社会を騙しているのであれば、天晴れだ。
▽親書受け取るトランプ大統領6月1日(Twitter)
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だが大統領は、演技の巧みな元俳優でもなければ、演説の達人でもない。現実的なディールに徹するビジネスマンである。



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参照:
外務省HP平成20年10月12日『中曽根外務大臣談話〜米国による北朝鮮のテロ支援国家指定解除について』

参考記事:
□AFP6月2日『慣例無視のトランプ・金英哲会談、トランプ氏は「賭け」に勝てるか』
□時事通信6月2日『米、非核化へ長期化容認=トランプ氏、事実上の方針転換』
□産経新聞6月2日『トランプ米大統領、金英哲副委員長との友好を演出 独自制裁対象者としっかり握手 だが表情は…』
□ニューズウィーク6月1日『トランプ、北朝鮮非核化の早期合意に懐疑的 金正恩からの書簡を1日受け取り』
□ロイター5月30日『焦点:北朝鮮のキーマンが訪米、金英哲氏とはいかなる人物か』
□時事通信6月2日『非核化完了まで圧力不可欠=対北朝鮮、アジア安保会議で演説−小野寺防衛相』
□毎日新聞(共同)6月2日『「対話のみでは見返り与えず」圧力維持強調』
□産経新聞6月1日『北朝鮮船、東シナ海で「瀬取り」か 国連安保理に通報』
□ニューズウィーク2009年5月25日『北朝鮮「テロ指定解除」の舞台裏』

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