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zoom RSS 金正恩の憂鬱な曲芸飛行…“極東のリビア”が泣き喚く

<<   作成日時 : 2018/05/17 01:29   >>

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米国が求めるリビア方式の核放棄は通用しない。北が取引材料とする“体制保証”も荒唐無稽。そして習近平の強制介入、3代目の屈服でシンガポールへの道程に霧が立ち込める。
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「平壌北方の金倉里で、何千人という労働者が地下施設建設工事に従事しており、衛星写真の分析結果などから、原子炉及び再処理施設である疑いが強い」

NYタイムズ紙の特ダネだった。米朝融和が軌道に乗った1998年8月、平安北道・金倉里(クムチャンリ)で、未知の大規模核施設が進んでいるとの疑惑が浮上した。

クリントン・金正日の蜜月関係に水を差す重大な疑惑。核施設建設が事実であれば、米朝枠組み合意は瞬時に吹き飛ぶ。次いで南鮮紙は、既に米側が現地でプルトニウムの痕跡を採取済みだと煽る。
▽核施設疑惑が浮上した金倉里(聯合)
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情報のリーク元はCIAもしくはDIA(米国防情報局)。一連の疑惑報道を受け、議会でも徹底追及すべきとの声が高まる。クリントン政権は渋々、北朝鮮側にお伺いを立てることになった。

本来ならIAEAが動くケースである。しかし、米朝はIAEAによる特別査察を北朝鮮内では例外的に行わないことで合意。北の要求を丸呑みし、最初から強制力を持つ査察が不可能な仕組みになっていたのだ。
▽米朝枠組み合意の文書交換式’94年(file)
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クリントン政権は策に窮した。ところが、金正日は100万トンの食糧支援と引き換えに金倉里の視察を行っても良いと行ってきた。米政府は、食糧を50万トンに値切った末、調査団派遣に漕ぎ着ける。

’99年5月、米国務省の調査団が金倉里を訪問。北朝鮮はこれを「参観」と呼び、一定の制限付きながらも快く受け入れた。だが、地下にあったのは、何の設備もない巨大な空洞だった。
▽米調査団が「参観」した金倉里の施設群(file)
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「世界最大の地下駐車場」

米政府関係者は、そう形容した。リーク情報は不正確だったのだ。その後、脱北した人民武力省幹部が真相を暴露。秘密核施設は金倉里から約30km離れた天摩山の地下にあると供述する。

「金倉里の地下施設は、天摩山地下の核物質抽出工場で発生した排ガスを吐き出す所だ。しかし、排ガスの処理を誤り、金倉里一帯に大量漏洩するという事故を起こした」
▽後にミサイル格納庫の疑惑が浮上’02年(38 north)
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排ガスで黄色く枯れた付近の森林を米国の偵察衛星が誤って感知したのだという。もっとも脱北幹部の供述が真実であるとも限らない。天摩山の秘密施設は今も謎のまま残る。

だが、この世紀末の大チョンボから、ひとつの事実が導き出せる。米国の対北諜報活動には限界があるということだ。

【“極東のリビア”は抜け穴だらけ】

「リビアは我々の疑念を払拭する為に、米英の査察団が全ての核関連施設に立ち入ることを認めた」

米国のボルトン大統領補佐官は4月29日、TV各局のニュース番組に出演し、北朝鮮の核廃棄に関する所見を述べた。想定しているのは「リビア方式」だ。
▽報道番組に出演したボルトン補佐官4月29日(FOX)
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リビアの独裁者カダフィは2003年末、核を含む大量破壊兵器の全面廃棄を表明する。逃亡中のフセインが捕縛された直後という意味深なタイミングだった。

米国はリビア国内にあった核関連施設の完全消滅を確認した後、制裁を解除し、経済支援に踏み切る。リビア方式と呼ばれる核廃棄プログラムの成功例。かくして北アフリカの狂犬はお座敷犬と化した。
▽狂犬時代のカダフィ(file)
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カダフィの核廃棄表明は唐突であったが、背後には米英との秘密交渉があった。CIAとMI6がほぼ全ての核関連施設を洗い出し、証拠として突き付けた結果、カダフィは降参したのだ。

その当時、米国務省で軍備管理問題担当次官だったのがボルトン氏だった。自身の実績を元にリビア方式を掲げることは理解できる。だが、当時のリビアと今の北朝鮮では違いがあり過ぎる。
▽お座敷犬時代のカダフィ’09年(AFP)
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リビアの核関連施設に関しては、米英に加え、イスラエルの情報機関が長年に渡り物証を収集。リビア側が申告した以外の施設にも容赦なく立ち入り、査察を完全なものにした。

秘密交渉に入る前の段階で、リビアは“丸裸”になっていたのだ。対して、北朝鮮の場合はどうか…金倉里の大失敗が示す通り、情報は断片的で、精度は低い。
▽米国内で保管されるリビアからの押収品(wiki)
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更に、金正恩はリビアが全面放棄後に辿った歴史、カダフィの哀れな最期を知っている。反政府デモ弾圧を巡って’11年にカダフィ一族への金融制裁が決議された際、北朝鮮は談話で、こう吠えた。

「リビア方式とは、安全保障や関係改善という甘言で相手を武装解除させた後、軍事的に襲う侵略の手口だということが明らかになった」
▽命乞いをするカダフィ’11年(YouTube)
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元狂犬の末路を目の当たりにした金正恩が、すんなり「リビア方式」を受け入れることは絶対にない。

【“体制保証”は黒魔法の言葉】

「安全の保証を与えなくてはならない」

米国のポンペオ国務長官は5月13日、TV各局のニュース番組に出演し、同じ趣旨の発言を繰り返した。これは、北朝鮮が求める“体制保証”に応じる意思があることを示唆したものだ。
▽報道番組に出演したポンペオ長官5月13日(CBS)
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ポンペオ長官は5月9日、横田基地経由で平壌を再訪。米朝首脳会談に向けた詰めの協議を行った。北の宣伝機関によると、対面した金正恩は「新たな代案を高く評価」「満足」したという。

新たな代案が“体制保証”に関わる内容だった可能性は高い。米国側は詳細を明かしていないが、ポンペオ長官は5月11日、金正恩と“体制保証”について話したことを認めた。
▽米南外相会談後の共同会見5月11日(AFP)
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金正日時代から米国に要求してきた“体制保証”が、俄かに具体性を帯び始めた。一般的には「金王朝の維持・存続」と解釈される。しかし、北が明確な定義を示したことはなく、中身は曖昧だ。

「侵略されるかも知れないというままでは対話は難しい」

朝鮮労働党のトップ・エージェントだった土井高子は以前、“体制保証”の受け入れを呼び掛け、そう解説した。敵視政策の撤回といった生易しい融和策ではなく、正体は不可侵条約に近い。
▽平壌を再訪問したポンペオ長官5月9日(KCNA)
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「米国は体制にとってリスクではないと、北朝鮮の指導者が本気で信じられる域にまで、過去の大統領は至らなかった」

ポンペオ長官の発言は、これまでの米朝妥協劇を強く意識したものだ。前のめりで突進したクリントン政権も、爆破ショーに喝采したブッシュ政権も“体制保証”には踏み込まなかった。
▽2009年に訪朝したクリントン元大統領(AFP)
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理由は恐らく、合意文書の下書きさえ整えることが出来なかった為だろう。不可侵条約は1939年に締結された独ソ不可侵条約が有名だが、第2次大戦前に旧ソ連が主導した極めて特異な2国間合意だ。

ソ連と旧バルト3国の不可侵条約は、衛星国化を前提にした内容だった。また独ソの場合は、大国同士がお互いの勢力範囲を固定する性格が強かった。
▽ポンペオ長官を歓迎する金正恩5月9日(KCNA)
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金正恩の身の安全が確約されれば、北が「リビア方式」を受け入れる余地もある。しかし今の時代、国際条約のプロがテクニックを労しても“体制保証”を明文化することは不可能だ。

金一族、あるいは朝鮮労働党による統治は内政問題で、外国が干渉する事柄ではない。

【躍動する壊し屋=習近平】

5月7日夜、北朝鮮の要人が旧満州の大連に到着したとの情報が飛び交った。大連には空母視察に訪れた習近平がいる…まもなく要人が金正恩であることが判った。前回の初訪支から約40日後の再訪だ。

「米朝首脳会談を控える中、『後ろ盾』となる中国との連携を誇示し、対米交渉を有利に進める思惑があると見られる」(5月8日付け時事通信)
▽ビーチを散歩させる習近平5月8日(新華社)
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異例の短期再訪について多くのメディアは、中朝の連携を強調した。再会談をセットし、大国の威を借りた3代目…しかし実態は逆で、習近平が3代目を行楽先に呼び付けたのである。

2010年夏の胡錦濤・金正日会談と似ている。その年の5月、北京を訪れた金正日は、中共のショボい支援策にブチ切れ、予定をキャンセルして帰国。また6カ国協議復帰に関しても問答無用で突っぱねた。
▽長春に呼び付けられた金正日’10年8月(共同)
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激怒した胡錦濤は3ヵ月後、行楽先の長春に金正日を呼び付ける。恫喝に慌てた金正日は、馳せ参じることで恭順姿勢を示したのだ。今回の大連呼び付けも同様だが、3代目は厳しい綱渡りを強いられた。

米ポンペオ国務長官の平壌再訪は5月9日。殆ど使用していないオンボロ専用機に異常が見つかれば、金正恩は中共にジェット機を借りるか、陸路を車で高速リターンしなければならなかった。
▽大連空港を発つ金正恩専用機5月8日(共同)
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習近平は3代目に曲芸飛行を演じさせたのだ。中朝の連携ではない。3月の初訪問で屈服した必死メモ男は、今回の呼び付け事件で中共指導部の完全なコントロール下に入った。

ただし、習近平は宗主国の親分として踏ん反り返っている場合ではない。北朝鮮は5月16日、この日予定されていた南北閣僚級会談への出席を突如拒否。米朝会談についても警告を発した。
▽メディア大興奮の南北閣僚級会談3月28日(AFP)
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「核兵器の放棄を一方的に強要するのであれば、首脳会議に応じるかどうかを再考せねばならない」

半世紀以上も変わらない北の伝統芸。会談やるやる詐欺とドタキャンのコンボで、相手国に責任を押し付ける手口も全く同じだ。僅か1週間前のポンペオ・正恩会談は何だったのか…
▽大連の第2回近平・正恩会談5月8日(新華社)
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トランプ大統領の決断で平易な道のりに見えた米朝首脳会談だが、中共指導部の介入で雲行きが怪しくなった。会談が破綻すれば、壊し屋の汚名を着るのは、習近平だ。

運命の6・12シンガポール会談まで約1ヵ月。北朝鮮の情報戦・心理戦は、中共の腹黒い思惑を巻き込んで加速する。



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参考記事:
□AFP5月16日『米が核放棄強要なら首脳会談「再考」 北朝鮮外務次官』
□時事通信5月14日『北朝鮮に体制保証提案も=非核化なら制裁緩和−米国務長官』
□産経新聞5月14日『ポンペオ米国務長官、北朝鮮の完全非核化で米企業の対北投資容認を言明』
□読売新聞4月9日『正恩氏「核放棄より体制保証が先」…習氏に発言』
□産経新聞4月30日『北の核放棄「リビア方式を念頭に」 ボルトン米補佐官が言及』
□産経新聞4月4日『北朝鮮の非核化、米国が主張する「リビア方式」 韓国、否定的な声も』
□時事通信5月8日『金正恩氏、習主席と再会談=「後ろ盾」を誇示−米へ段階的な見返り要求』
□産経新聞5月12日『金正恩氏の専用機はシンガポールまで飛べるのか』
□Yahooニュース’16年1月25日『北朝鮮の核実験は「カダフィの末路」からの教訓』

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
ラジオでデイリーNKジャパンの高英起が、
「金正恩は実は在韓米軍の完全撤退を望んでいない」
と言っていました。
何故なら、
「中国への睨みになるから」
だそうです。

望んでいないというより、その手もあるかも〜と方針を決めかねているような気がします。
辻褄度外視で、その時々に利用できそうなことを言っているだけだろうな。
菜々子
2018/05/17 17:23

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