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zoom RSS “不戦国家”アメリカの逡巡…瓦解する化学兵器同盟

<<   作成日時 : 2018/04/19 04:21   >>

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金正恩への警告ではなく、大打撃だった。3ヵ国連合の空爆で再注目されるシリアと北朝鮮の化学兵器連携。首脳会談を前に、米朝の中途半端な握手を再び許さない“孤独な国家”があった。
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全体像が浮かび上がっているようでいて、細部は全くの不明…2007年に突如起きたイスラエルのシリア空爆は、当時の報道を含め、奇っ怪でミステリアスなものだった。

地中海からトルコ南部を掠め、シリア東部に到達したイスラエル空軍の戦闘機は、砂漠の中にある建物を空爆した。電撃作戦の成功。破壊した施設は、アサド政権が極秘裏に建設を進めていた原子炉だ。
▽シリア原子炉の空爆前と後’07年(AFP)
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軍事作戦を実行したイスラエルも、領空侵犯されて被害を受けたシリアも沈黙を守る。だが、空爆直後から欧米の通信社を中心に詳細な報道が相次ぐ。

その中でも最も異質だったのが、作戦にイスラエルの特殊部隊サイェレット・マトカルが関与していたとの報道だ。通常、メディアが触れることのない“影の部隊”である。
▽サイェレット・マトカルとされる覆面部隊(file)
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アサド政権が報復攻撃どころか公式な抗議すらしなかったことから、UN安保理でも議題に上らなかった。そして関連報道は一気に下火となり、歴史の1頁からも見事に消し去られた…

「2007年9月5〜6日の夜間、空軍の戦闘機が完成間近のシリアの原子炉を空爆し、破壊。これによりイスラエルと地域全体に対する新たな脅威の除去に成功した」

作戦から10年以上が過ぎた今年3月21日、イスラエルは声明を発表。空爆の事実を公式に認め、同時に精密誘導弾による施設破壊の瞬間を捉えた映像も公開した。なぜ、今になって?



宿敵ヒズボラとの連携を深め、天敵イランからは軍事顧問団を迎え入れるアサド政権軍。危機感を強めるイスラエルが公式表明に踏み切ったという見方が一般的である。しかし、それだけではない。

ここに縦軸と横軸で絡んでくるのが北朝鮮だ。

【蒸発した核のネットワーク】

「不法侵犯したイスラエル軍機がシリア北東部の砂漠地帯に爆弾を落とし、逃走する事件が発生した。これはシリアの主権を侵害し、地域の平和と安全を甚だしく破壊する危険極まりない挑発行為だ」

2007年9月11日、朝鮮中央通信はイスラエルを猛烈に避難する外交部報道官の発言を伝えた。当事国が沈黙し、主要国が言葉を濁す中、北朝鮮が逸早く事実関係を認め、吠えたのだ。

真正のアホだが、理由はあった。アサド政権が密かに建設を進めていた原子炉は、北朝鮮の支援を受けていた。北とシリアを結ぶ「核のネットワーク」である。
▽破壊される前のシリア原子炉(AFP)
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シリアは破壊されたのはミサイル関連施設だと主張したものの、現場入りしたIAEA(国際原子力機関)査察員は微量の非天然ウランを採取。2011年に公表した報告書で「原子炉の可能性大」と指摘した。

そして報告書には、北朝鮮の関与を示唆する文言も盛り込まれた。米国の主張が裏付けられた格好だ。IAEA査察に先立つ2008年4月、ホワイトハウスは北とシリアの核協力を非難していた。

「様々な情報に基づき、北朝鮮が原子炉の空爆前及び空爆後にシリアの秘密核プログラムを支援したと確信している」
▽シリアの原子炉と北・寧辺の原子炉(BBC)
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この時、米政府はシリア原子炉の破壊前の内部写真を公表。古いタイプのガス冷却式黒鉛減速炉で、燃料棒の穴の数などが北朝鮮・寧辺にある原子炉と一致した。

更に、6カ国協議に姿を見せていた北高官とシリア原子力委員会幹部との2ショット写真も公開。この人物は、寧辺にある核燃料製造工場の責任者でもあるという。
▽米政府が公開した北高官の証拠写真(AFP)
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米国が獲得した機密をここまで大胆に公表した例は少ない。米朝融和を推し進める当時のブッシュ政権に対し、強硬派の反発した為とも言われる。丁寧なキャプション付き比較写真の制作者はCIAだ。

ただし、これらの写真がCIAが奪取したものか疑わしい。別の組織から提供された可能性が高い。

【破綻迫る化学兵器ネットワーク】

「化学兵器、少なくとも塩素ガスが先週使われた。それがバッシャール・アサド政権によって使用されたことを示す証拠がある」

フランスのマクロン大統領は4月12日、TV局のインタビューに応じ、そう明言した。翌日の深夜、仏東部サン=ディジエ空軍基地から戦闘機「ラファール」が出撃。シリア限定空爆に参加した。
▽シリアへ向け発進する仏ラファール4月13日(AP)
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昨年4月に続く、第2次シリア・サージカルストライクの特徴は、米軍に加え、英仏軍が参戦したことだ。マクロン大統領は事前にプーチンと電話会談を行うなど慎重に準備を進めた上での空爆決行だった。

英軍はキプロス島のアクロティリ空軍基地から「トルネード」4機を発進させ、巡航ミサイル「ストーム・シャドウ」を打ち込んだ。因みに、キプロス島には大帝国時代の名残りの英領地が存在する。

「何の咎めもなく、化学兵器を使えると思わせてはならない」
▽緊急会見する英メイ首相4月14日(ロイター)
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英国のメイ首相は決然と語った。アサド政権軍の化学兵器使用が最初に表面化した2013年、当時のキャメロン首相が軍事行動の承認を議会に諮った所で否決。米軍による攻撃の直前中止に繋がった。

労働党はメイ首相の決断に反発するが、英南部で3月に起きた亡命ロシア人父娘の暗殺未遂事件で高まる反ロ感情も見逃せない。アサド政権を支えるロシア軍。暗殺未遂事件も化学兵器が絡んでいた。
▽元スパイ暗殺未遂事件の捜査3月8日(ロイター)
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「塩素ガスが使用されたことを強く示しているが、サリンの使用を示唆する情報も多くある」

米政府高官は匿名を条件に、そう明かす。アサド政権軍の猛攻が続くダマスカス近郊・東グータ地区で4月7日、数百人が死傷する惨事が発生。現地からの情報で、直ちに化学兵器使用の疑いが浮上した。
▽治療を受ける東グータ地区の子供4月8日(AFP)
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シリア政府とロシアは疑惑を完全否定する。しかし、同地区では今年1から2月にかけて複数回、塩素ガスによるものと見られる被害者が確認されていた。レッドラインを超えた化学兵器の連続使用である。

報道ではNGOの目撃証言がベースだが、実際に物証を採取しているのは各国のエージェントだ。取り分け、シリア国内に深く根をはるイスラエルの情報機関が精度も量も他を圧倒すると考えられる。
▽アサド政権軍による東グータ空爆2月22日(時事)
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極東情勢とは本来関係のない中東の孤立国家。イスラエルが金正恩体制の命運を握っている。

【薄氷を履む米朝首脳会談】

「シリア爆撃は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長への警告メッセージでもある」(4月16日付け東亜日報)

深みも有り難みもない一般的な解説だ。北朝鮮とシリアは、半世紀以上に渡る友邦である以上に、実質的な軍事同盟として強固な結び付きを保つ間柄だ。
▽東グータ地区視察するアサド2世3月18日(FB)
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そしてアサド大統領は、金正恩と同じ世襲の独裁者。父親から譲り受けた政府と軍隊と巨額の資産…ついでに言えば、同じく友邦のキューバは、兄から弟への権力移譲が行われた世襲の社会主義国である。

昨春に続くシリア限定攻撃は、警告というレベルではなく、金正恩に対する打撃となった。立場の似た2代目アサドが追い詰められる様を3代目キムは目の当たりにした。それだけでも精神的な大打撃だ。
▽米駆逐艦から発射されたトマホーク4月14日(共同)
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更に物理的な打撃も甚だしい。3カ国連合の空爆で破壊されたダマスカス近郊のSSRC(シリア科学研究調査センター)には、北朝鮮技術者が出入りしていた。化学兵器の拠点と断定された研究機関だ。

UN対北制裁委の専門家パネルは最新の報告書で、同センターがダミー企業を通じ、北朝鮮と40件以上の取引を行っていたと指摘。化学兵器製造施設で用いられる特殊タイルも北朝鮮から搬入されたという。
▽空爆で破壊されたSSRC4月14日(AFP)
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米国の単独作戦による限定空爆から1年、シリアと北朝鮮の化学兵器連携は疑惑の段階から確証に変わった。核協力が潰えた後も、両国は大量破壊兵器の実戦使用で手を携えていたのだ。

参照:H29年4月25日エントリ『列島バイオハザードの激甚…北とシリア結ぶBC兵器回廊』

大きく報道されることはなかったが、昨年9月、イスラエル軍機はシリア中部マスヤーフの軍施設を空爆した。そこはSSRCの支局で化学兵器製造の拠点と見られる施設だった。
▽標的となった中部のSSRC拠点’17年9月(アルジャジーラ)
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イスラエルは化学兵器がヒズボラの手に渡るのは時間の問題として、シリア国内の製造拠点を洗い出し、追跡している。北朝鮮は、この網に引っ掛かったのだ。

核燃料から特殊タイルの移送まで、イスラエルはシリア国内における北朝鮮の工作実態を把握している。国家と民族の存亡を賭けたインテリジェンスだ。果たしてイスラエルは北朝鮮を許すのか…
▽シリアの病院慰問する北朝鮮軍幹部’12年(SANA)
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トランプ大統領は首脳会談で核・ミサイルと共に、化学兵器に関しても踏み込むだろう。金正恩がシラを切っても、イスラエルはなし崩し的な米朝妥協を認めない。

ベトナム戦争以降、米国は“戦争が出来ない国”と化した。これは極端を承知の持論だ。実際にアフガンでもイラクでも、米国は度々戦争をしているではないか?
▽空爆で炎上するバグダッド’03年(LA Times)
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確かに米国は中東各地で戦端を開いている。だが、それらはイスラエル防衛の意味合いが濃い戦争だった。80年代から現在に至るまで米国は中米の独裁国家にも南米の反米国家にも正規戦を仕掛けなかった。

対北サージカル・ストライクの鍵を握るのは中共でもロシアでもなく、イスラエルである。玉虫色の妥協策も、再度の問題先送りも認めないだろう。核に次ぐ、化学兵器の拡散で北朝鮮は完全にクロなのだ。
▽バレエ鑑賞中の金正恩4月16日(KCNA)
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米国にとって、例え南鮮が消滅しても、イスラエルが地図から消えることは許されない。金正恩と共に、トランプ大統領もまたギリギリの決断を迫られている。



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参考記事:
□AFP'07年9月23日『イスラエル特殊部隊、シリアの北朝鮮製核物質を奪取か』
□ロイター’08年4月25日『米国、北朝鮮がシリアの核開発を支援したと確信』
□AFP’08年4月25日『米政府とCIA、北朝鮮とシリアの核協力を議会で説明』
□CNN3月22日『イスラエル、シリアの原子炉空爆を初めて肯定』
□ロイター’17年8月22日『北朝鮮からシリア化学兵器関連機関への貨物輸送を阻止=国連報告書』
□ニューズウィーク’17年4月21日『北朝鮮・シリアの化学兵器コネクション』

□産経新聞4月14日『「トマホーク」「ストームシャドー」「B1戦略爆撃機」「ラファール戦闘機」…米英仏、多様な兵器使用』
□AFP4月13日『マクロン氏、シリア化学兵器「政権使用の証拠ある」』
□ZAKZAK4月17日『米シリア攻撃で正恩氏は半狂乱 北「核・化学・生物兵器」放棄しなければ死刑宣告』
□読売新聞4月17日『シリア攻撃、一層遠のいた北朝鮮の「核放棄」』
□東亜日報4月16日『シリア爆撃、非核化会談を控えた金正恩氏に投じる警告だ』

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